
国や地方自治体のサイトを見ると、自転車を活用したまちづくりだとか、自転車都市への基盤整備、人とクルマと自転車の共存社会の実現と言ったような文言が当たり前のように書かれています。
自転車に乗ることが、環境に優しく地球温暖化ガスの排出抑制になるのは、誰でもわかることです。放置自転車などの問題はありますが、自転車の利用自体を抑制せよ、廃止せよという自治体は、どこにもありません。国土交通省や環境省、あるいは地方自治体などのサイトでも、多くはその利用を促進したい、するべきだと言っています。しかし、そんなただのお題目で、果たしてクルマをやめて多くの人が自転車に乗るようになることを期待できるでしょうか。今の状態では、自転車に乗ろうにも歩道は走りづらいし、車道も危ないとなれば、まさに絵に書いた餅です。

昨日は、
自転車レーンが交通の秩序をもたらすという話を書きましたが、人々の積極的な利用を促すのも自転車レーンがあってこそ、という要素も忘れるわけにはいきません。きちんと整備されて走りやすそうな自転車レーンがあれば、普段自転車を利用しない人達の中にも、自転車に乗ってもいいと考える人が出てくるでしょう。実際に走って爽快と感じる人も増えるはずです。自転車の利用を訴えても、実際には危険だったり不快ならば、お話になりません。
自宅から駅までの交通手段としてなら、現在でも多くの人が自転車を使っていますが限定的です。自転車レーンが都市部に整備されれば、渋滞している都市部の交通手段としては、自転車のほうが安全で快適で便利ということになります。それでこそ、クルマの代替交通手段としての普及が促進されます。都市部でも多くの人が自転車を使うことにより、クルマの利用が減ってこそ温暖化防止や大気汚染、渋滞の解消も期待できるわけです。具体的な社会の変化にもつながるはずです。

自転車レーンが整備されれば、自転車で職場まで通勤する人も増えるでしょう。通勤以外でも、自転車で直接目的地へ行くほうが速くて便利になれば、駅への駐輪の集中も緩和され、駅前の放置自転車も減る可能性があります。また自転車に乗るようになった人の多くが、程度の差こそあれ、健康やダイエット効果を経験します。健康診断の結果が良くなったりするでしょう。実際に生活習慣病などのリスクも低減しているはずです。自転車一台はトラックいっぱいのクスリに勝るというドイツのことわざではありませんが、一人一人が少しずつでも健康になれば、社会全体では大きな効果も生むはずです。
国民医療費の伸びも抑制されるかもしれません。
以前も取り上げましたが、健康な高齢者が増えれば、福祉や介護費用もそのぶん低減しますし、本人の幸せにもつながります。定年以降でも元気で働きたい人は多いです。健康な人が増えれば、そのぶん社会にも活気があふれるはずです。当然レジャーや余暇などの消費支出も増えますから、経済効果もあります。人々の健康の増進は僅かずつでも、国民全体への効果では大きなものになるはずです。これは決して私の単なる妄想や、こじつけや空論でもなく、多くの専門家の指摘するところです。ヨーロッパの先進都市でも実証されていることでもあります。

私も自転車先進国と言われるドイツやオランダをはじめとするヨーロッパの国々に滞在し、自転車にも乗った経験があります。ヨーロッパの先進的な都市では、自転車レーンの設置、自転車の活用はごく当たり前のことです。もちろんそうでない都市も多いのですが、それでも歩道を自転車が走っていることはありません。日本の都市の自転車に関しての無法状態は異常で、欧米人が日本に来て驚くのも、自転車の歩道走行だと言います。自転車のイメージも悪くなるはずです。
もちろんヨーロッパでは、ロードレースなどが伝統的に人気で、もともと自転車に対するイメージがいいというのもあります。しかし自転車通行帯によって、交通の秩序や安全が向上し、不法な自転車の乗り方や迷惑な放置自転車といったマイナスのイメージも改善され、環境や人々の健康に貢献しているとなれば、自転車に対する印象もよくなり、その地位向上につながります。自転車に乗ることはカッコいいこと、と捉えられるようになれば、さらに自転車が見直され、自転車に乗る人が増える良い循環になっていくでしょう。

自転車レーンの整備は、道路の拡幅を必ずしも必要とせず、用地の買収も伴ないません。やろうと思えば、すぐにでも取り組めます。国土交通省のサイトなどを見ても、具体的なモデルが明示されてますし、その効果も全面的に認めています。たかが自転車レーンですが、社会にも大きなインパクトをもたらす可能性があることは、とっくに指摘されていることでもあります。しかし、実際には遅々として設置が進んでいません。国交省ではその利用促進を訴えたり社会実験などを飽きもせず繰り返しているだけです。必要な都市部でなく、地方での公共事業として郊外の自転車道は一部整備していますが、ここでも行政の非効率や、予算の無駄な消化は目を覆いたくなるものがあります。
こうした現状を変えていくためには、やはり多くの市民がその意識を変革していく必要があると思います。環境への関心の高まりとあいまって、自転車を見直す動きや、最近注目される部分があります。自転車レーンのもつポテンシャルについても、多くの人が理解し、その設置を社会的なコンセンサスにしたいものです。たかが自転車レーンですが、都市計画や社会基盤の整備の根幹をクルマ一辺倒から、環境と効率を考えたものに転換する大きな変革になる可能性をも秘めています。お題目やフォーラム、研究やキャンペーン、社会実験やモデルプランではなく、実際の自転車レーンを具体的に形にしていく流れを作りたいものです。
関連のある話なので2日連続で固い話なんですが(笑)、自転車レーンって、もしかしたらスゴイ可能性が秘められているかもしれない、ということを多くの人に知ってもらいたいですね。実は、もっと違う面もあるのですが、日を改めることにします。硬くて長い文章ですが、最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。
Posted by cycleroad at 09:00│
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