April 12, 2006

本当の意味で優しいのは誰か

本文とは関係ありません。最近は地球環境への意識の高まりを受けて、環境に優しいという言葉をよく耳にするようになりました。


むしろ、「地球環境に優しい」とか、「地球温暖化ガスの削減」というフレーズが氾濫し、単なるキャッチコピーになっている場合も見受けられます。全くの嘘では詐欺になってしまいますし、基本的に環境に配慮していることは間違いないでしょう。

しかし、言い方や数字を巧みに使って、上手くイメージアップを狙っているケースも少なくありません。地球に優しいと言われただけで、なんとなく納得してしまうことも多いですが、本当に地球に優しい、環境に負荷をかけないというのは、そう単純な話とは限りません。

例えば、最近ハイブリッドを始めとするエコカーが盛んにアピールされるようになってきました。確かに低燃費でしょうが、必ずしも二酸化炭素の排出が少ないとは限りません。大気汚染物質は従来に比べてクリーンになってきていますし、低燃費は省エネで結構ですが、地球温暖化ガスは変わらず排出しています。

大幅に低減を実現したとするクルマもありますが、いつのどんなクルマに比べて低減しているのか、まず具体的に明らかにされていることはありません。嘘とは言いませんが、家電などで問題になったように、いわゆる「当社比」です。技術の進歩で低減するのが普通ですし、誇大な宣伝文句も含まれている場合も少なくないでしょう。

イメージエコカーと言っても、材料や部品の製造、車両の組立から顧客の手元までの輸送や実際の走行、メンテナンスや廃棄に至るまでのトータルで考えると、必ずしも環境に優しくなっているとは限りません。

デザインを差別化するためのコストや付加価値をつけるために余剰な装備も相変わらず搭載されていますし、全体的に見れば、排気量だって車体の大きさだって必要以上に増やされてきた歴史があります。売るために必要な措置でしょうし、市場経済ですから必ずしも悪いとは言いませんが、地球に優しいと名乗るのは「おこがましい」ものがあります。

低燃費と言っても、燃焼はしますから温暖化ガスを出すことには違いがありません。エコカーなどと言うと環境に優しそうに思えます。ハイブリッド車は地球に優しいと「されて」います。しかし多分にイメージが先行しています。

極端に言えば、本当に環境を考えるならクルマに乗る機会を減らすか、全く地球温暖化ガスを出さない自転車に乗り換えたほうが、よっぽど効果的です。エコカーということで購入の補助金が出るクルマもありますが、本来なら、クルマに乗るのをやめる人に奨励金を出すべきです。

それでもクルマに乗るならエコカーのほうがベターだと考えるのはあるでしょう。最近のアンケートなどを見るとハイブリッド車を買いたいと答える人は過半数にのぼるようです。しかし理由は燃費が良くて経済的だからというのも多いようです。

よく言われるように、ガソリン価格や走行距離にもよりますが、やや高めのハイブリッド車の価格を燃費で元をとるには、補助金を勘案しても7年程度かかるそうです。逆に燃費が良くなったからと、走行距離が増えてしまうケースも多いと言います。

環境を考えてエコカーと思い込んでいますが、本質的にクルマは環境に優しくないわけで、エコカーと言うのは矛盾しています。以前の無神経さから比べればエコになっただけで、決してエコな製品でもありません。もっとエコに出来るのに目をつぶっている部分も多数あります。一旦作ってしまえば長く使えるわけでもなく、走れば走るほど環境負荷は高まるのに、エコと呼べるでしょうか。

環境にいい製品、地球に優しいというふれ込みで売られている商品は、巷に溢れています。しかし、多少環境に良くなったからと言って使用量が増えてしまえば逆効果の場合もありますし、製造や流通まで含めると、必ずしも環境に優しくないものもたくさんあります。

わざわざ無駄なコストをかけて、エコなイメージを作っているものさえあります。エコという付加価値をつけたため、手間やコストが増え、環境への負荷も増えてしまうことだってあります。消費者が言葉やイメージに惑わされることが多いので、本質と違った部分で努力がなされ、本当の意味で地球に優しくする方向に進んでいない場合もあります。

公共事業においても似た例はあります。例えばある道路が開通すると、年間何十万トンのCO2が削減できますと訴える国や自治体の広報がよくあります。東京23区の面積の植林に匹敵するなどとPRして、住民の理解を得ようとします。

確かに道路が開通して渋滞が緩和し、走行速度が上がるという前提において、計算上はそうなるでしょう。でも実際は、迂回していたクルマの流入量が増えたり、クルマの利用が便利になって利用を促進する効果もあるわけで、机上の数字に過ぎません。結局渋滞する場所が移動しただけで解消しなかったり、部分的に悪化した例だってあります。

さまざまな規制を設けたり、小さくないコストをかけて温暖化ガスを減らそうとする試みも増えています。もちろん趣旨として悪いことではありません。しかし、地球にとっては必ずしも良いとは言えない場合も多々あります。日本は、先進国の中でも既に高度な省エネも進み、温暖化ガスを減らすには大きな費用がかかります。日本で高いコストをかけて二酸化炭素を減らすなら、その分「排出権取引」を用いて、途上国での削減を促進すべきという考え方もあるわけです。

例えば、中国などで未だに排出されているフロンガスを回収・分解する事業があります。フロンガス「HFC23」は二酸化炭素の、なんと1万1700倍の温室効果があり、日本での同じ費用の施策と比べたら莫大な効果が得られるわけです。また途上国の養豚場の排泄物から出るメタンガスを燃焼させる事業もあるそうです。

メタンガスもCO2の21倍の温室効果なので、ただ燃やすだけで大きな排出権を得られると言います。地球全体で考えたら、日本での温暖化対策に費用をかけるのは間違っているというわけです。また日本で対策を推進したことにより、輸入が増えるなどして結果として途上国の環境の破壊につながるケースもあるのです。

環境に良さそうだ、地球に優しいなどと、ふだん何気なく判断していますが、実は様々な面から考えると、そう簡単な話ではありません。意図的に演出されたものではないとしても、イメージに惑わされないことも重要です。細かく検証すると常識とは違った結論になる場合も少なくありません。何が正しく、何が効果的か、判断のつきにくいものも多いですが、少なくともイメージに踊らされず、今までの常識を疑ってみるスタンスも必要と言えそうです。



食器を洗った生活排水は環境を汚染するからと、全て使い捨ての紙皿で済ますなんて人もいるそうですが、この手の話は少なくありません。注意深く観察しなくても、「これは環境に優しいからジャンジャン使って!」なんて人、家族や身の回りでも結構見かけませんか。大雑把なだけで悪気はない人も多いんですけどね(笑)。

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この記事へのコメント
そもそも環境に負荷をかけずに楽して遠いところに速くつくという考え方が甘すぎるのだと思います。今では車が定着しすぎて、「何言ってんの?」って感じですけどね・・・皆の感覚が麻痺してるのかな?輸送車はしょうがないでしょうけどせめて通勤くらいはランニングやら自転車やらウォーキングなどほかにいい方法を見つけてほしいものですね。
Posted by 沖縄の人 at April 12, 2006 23:24
 はじめまして。たまたま沖縄からのコメントがあったので私も書き込みます。 ブログランキングでは相前後しながら走っている「奥の坂道」です。
 いつもながら深いご考察に敬服いたします。おっしゃる「イメージに惑わされないことも重要」って、まさにそう。「エコに努めなきゃ」などと心の片隅で反省している一般市民の良心をくすぐって、でも彼ら企業の目指すところは業績アップ、というふうに私も見ます。
 ただ、過渡期と考えれば、メーカーも消費者もエコを考えるきっかけとしては評価しておいていい。大きな船はゆっくりしか曲がれません。その「舵」をえっこらと回す一人にはなりたい。
 いきなり長文コメントをしたお詫びに、ランキング・バナーをピコっ。
Posted by TANDEGA−Y城 at April 13, 2006 02:08
現在CMで大々的にPRしてる「オール電化」「IHクッキングヒーター」ってのも訳が分かりませんよね・・・。

うたい文句として「火を使わずに環境に優しい」とかほざいてますけど、その電気を起こすためのタービン回してるのは火力なんですけど!!残念っ〜!!!

原子力も同じで「発電時にはCO2を発生しない」と○○電力(不特定多数)のHPには載っているが、
ウランなどの原料精製のために大量のCO2を出してることを忘れてはいけない・・・
Posted by えんぴつ at April 13, 2006 02:46
どもぅ。
環境を汚染するからと、全て使い捨ての紙皿で済ますなんて人>>>って(笑)ました。
もひとつ、不思議な感じがするのは
山に行って思うのですが、なんでこんな所にゴミが、空き缶が・・・(絶句)あるの?!って・・・
人は自然を求めるのに、自然を壊しているのも>自分達と気付くのはいつのこと・・・
Posted by kazupon at April 13, 2006 08:10
私も前々から同じような考えを抱いていましたが、生活の中でトータル的に環境への負荷が減るようにとしていくのはなかなか難しい問題ですよね。
極端なことを言えば車を購入するための経済活動そのものがより環境負荷を高くしているとも考えられます。
今のエコが真の意味でエコになっていないというのは簡単ですが、真の意味でのエコの姿と言われると、なかなか答えの出ない問題です。
非現実的なエコでは意味がない訳ですし、持続可能である必要がありますからね。
温暖化はかなり深刻のようで、NHKスペシャルの気候大異変でやっていた、スパコンのシミュレータによると、京都議定書の目標を達成した上で
さらなる対策を推し進めた上でも100年後の環境は大激変するとのことです。
先週、同じテーマでNHKのサイエンスZEROでもやっていましたが、2回目が今週のサイエンスZEROでも放映されますので、興味があればご覧ください。
Posted by あんぱんだ at April 13, 2006 10:13
沖縄の人さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、流通に関しては誰でも恩恵を受けているわけで、一概に非難するものではありませんけど、必要の無い使用を控えるのがエコってもんですよね。
別に目の敵にするわけじゃないんですが、エコカーって名乗るのが、いまいち納得できないんですよね。最近では「大排気量の最速エコ」なんてワケのわからないクルマを出してたりしますし..。
Posted by cycleroad at April 14, 2006 06:50
TANDEGA−Y城さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
なるほど、ランキングのご近所さんでしたか(笑)。
確かに、おっしゃる通りだと思います。ひたすら物質的な豊かさを目指していた時代とは、明らかに人々の意識も変わりつつあります。まさに大量消費文明から持続可能な社会への移行期と言えるわけで、価値観も大きく変わるわけですから、全体としてはユックリとしか曲がっていかないのも、仕方ないですよね。
いえいえ、お詫びだなんて。後ほどお返しにうかがいますね。
Posted by cycleroad at April 14, 2006 07:12
えんぴつさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
電力について勘違いしている人が多いのでは?と私も思います。電車もCO2を排出しないと言うことになっていますが、おっしゃるとおり、発電の場面では温暖化ガスも排出していますよね。
割合的には減っているのかも知れませんが、未だに5割以上火力発電なのも事実ですし、過去に発電所の公害もさんざん問題になったのに、いつの間にか電力はクリーンなイメージになっています。
発電所からの送電ロスの大きさを考えたら、決して電化のほうがクリーンとは言えないでしょう。けっして効率のいいエネルギーとも言えませんよね。
Posted by cycleroad at April 14, 2006 07:35
kazuponさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
いや、笑い話のようですが本当にいるんですよ。特にアメリカ人に多いそうですが..。単なる不精なのを棚に上げて、自分の行為を正当化する言い訳を、罪悪感を感じずに済むよう自分で自分に言い聞かせているみたいです。
自分で出したゴミなのに持って帰らない人もいますね。自分の家の家庭ごみを公共の場所へ持ってきて捨てる人、クルマの灰皿の中身を路上に撒く人、リサイクル料金や廃車費用なんかを出したくないから不法投棄する人、金儲けのために産廃や硫酸ピッチを不法に捨てる人、信じられないような人は多いです。モラルの低さとか感覚の麻痺では済まされませんね。
Posted by cycleroad at April 14, 2006 08:06
あんぱんださん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね。農業だって環境破壊ですし、人間の営みは全て多かれ少なかれ環境を破壊します。そもそも人間の生存そのものが環境破壊なくして成り立たないわけですからね。
環境の破壊を食い止めるために英知を結集することも必要でしょうけど、便利でラクで豊かになった生活を、思いきってやめる部分、我慢して少し減らす部分、退歩や逆行させる部分も必要なのかも知れません。
市場原理にまかせても、また人々のモラルに頼っていても、なかなか実現しませんから、何らかの仕組みが必要になってくるのでしょうね。
番組の情報もありがとうございます。興味あるテーマですから是非見てみようと思います。
Posted by cycleroad at April 14, 2006 08:23
 
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