October 21, 2006

関係者だけが当事者ではない

最近、連日報道されていることもあって、時々考えることがあります。


北海道や福岡で相次いで明らかになった、いじめによる自殺です。残された遺書にショックを受けたり、亡くなった子どもの心情を思って、多くの人が心を痛めていると思います。しかし、いじめによる自殺は今始まった問題ではありません。なぜ相変わらず悲劇が繰り返されるのでしょうか。

学校や教師に対する不信感、教育委員会の対応に対する非難も集まっています。いじめの原因を作ったとされる教師はもちろん、いじめを放置し、その存在を認めない学校や教育委員会の対応や隠蔽体質、責任を逃れようとする姿勢を問題視するのも当然の反応だと思います。

確かに、いじめの存在を把握するのは難しいかも知れません。教師の目に触れない、陰でいじめが進行する事も多いでしょう。しかし、目に見える暴力が確認できないからと言って「いじめ」を疑問視するのは認識不足ですし、遺書まで残されているのに、その存在を認めないのも理解されることではありません。

北海道新聞の記事暴力よりも、ときに無視や仲間はずれ、言葉によるいじめの方が当人にはつらい場合があることは、言うまでもありません。例え大人であっても、周囲から疎外されることほど苦しいことはなく、人間の本質に関わる部分と言えます。教師がいじめを認めず取り合ってくれないとしたら、その絶望感も加わるでしょう。

中には、いじめを受けた子どもが全て自殺するわけではない、いじめくらいで、と考える人もいます。しかし、例えば最近は性的ないじめも多いと言います。暴力ならいくらでも我慢できるが、例えば異性の同級生の前で、性的に晒し者にされる屈辱には耐えられないと言うのも、想像に難くないのではないでしょうか。

子どもにとって学校は社会そのものです。そこでの疎外感や屈辱をずっと負ったまま生きて行くことに耐えるのは容易なことではありません。将来を悲観し絶望したとしても、そして自殺に及んだとしても、幼いゆえの短慮と簡単に片付けられるものではないでしょう。

死ぬくらいなら何でも出来る、生きていればきっといい事があると言う人も多いですが、いじめに苦しみ、思いつめている時にそんな風に考えられれば誰も死にはしません。大人ですら、自殺を考えている人にそんな余裕はなく、かえって追い詰める可能性すらあります。

結局、いじめる子どもや見て見ぬフリをする子どもを悪いとするのも、その通りでしょう。でも、例えば職場で部下をいじめたり、徒党を組んで人を疎外しようとする大人だって少なくありません。自らも疎外されたり職場での立場や給与などのリスクを賭して、疎外されている人の味方を出来る人がどれだけいるでしょうか。

いじめが当たり前のように起きている中で、自分だけ仲間はずれにならないために、他人をいじめてしまう子供もいるはずです。いじめは咎められても、たとえ自分がいじめの対象になろうとも、他の子供を救えと教えることが出来る親が、果たしてどれだけいるでしょうか。

中日新聞の記事子供のいじめに気づかない親に責任があるとする意見もあります。しかし、本人は親を心配させまいとして、あるいは、自分の情けない姿を親にまでは知られたくないとして、必死に隠している子供もいるに違いありません。そんな親子を非難できるでしょうか。

教師が生徒の心の痛みが共感できない、などと非難するのは容易です。しかし現場では、いじめをする大多数の生徒が「えこひいき」などと反発して学級崩壊に至ったり、下手にいじめる子供を罰すると、その親からクレームが殺到しかねません。そんな状況で必死に頑張っている教師もいるはずです。

命の大切さを教え、自殺と言う最後の一線を越えさせないための授業が必要だという指摘もその通りでしょう。しかし、往々にして、そんな授業は生徒にとって退屈でしかありません。大人ですら命の大切さを微塵も感じていないような事件が多発する社会において、しかも子どもに心の底から理解させるのは至難の業です。

いじめる側が悪いことは言うまでもありませんが、いじめる生徒がいることや、教育関係者だけの問題なのでしょうか。それを生む要因や環境もあるはずです。例えば、それはストレスかも知れません。ストレス社会の歪みが弱いところへ集中してしまうということもあり得ます。

会社で上司や周囲からのプレッシャーにさらされてストレスを溜める父親は、家に帰って妻や家族に当り散らします。妻はそのストレスを説教などを通して子どもに向けるでしょう。そのストレスを子どもが学校で、無意識により弱い子どもに対するいじめとして発散しているとする専門家もいます。

折りしも、校長のいじめを苦に自殺した教師の報道もありました。学校の中でもより弱い立場へしわ寄せが行くでしょう。必ずしもそんな単純な構図ではないとしても、子どもは往々にして大人社会を映し出しますし、大人社会の病理が子どもの世界へ影響していることは充分に考えられます。

いじめとは呼ばないまでも、大人の世界にも苛酷な現実や人間関係がありますし、それらを苦にして自殺する人が少なくないのも事実です。子ども達も追い込まれて自殺するという図式を当たり前のように見聞きしている現実もあります。

君を守りたい―いじめゼロを実現した公立中学校の秘密そもそも、日本の自殺率の高さや、切腹などをある意味で肯定するような文化や伝統も問題なのかもしれません。また、自分さえ良ければよいとか、競争社会の中で、他人の痛みや弱い立場の人を斟酌しないような風潮も多分に子どもに影響している現実もありそうです。

そう考えれば、ただ教育関係者を非難しているだけでは問題の解決になりません。社会そのものに由来する根の深い問題とするなら、教育の問題のみならず社会全体、我々全てに関わる問題と捉えない限り、悲劇のくり返しは止まないのかもしれません。

形こそ違え、古今東西、変わらず存在するものであり、弱いものいじめは人間の本質的な部分に由来するという意見もあります。いじめは決してなくならないとする考えの人も、実はかなり多いようです。自らの経験や、職場や地域など、あらゆる人間関係を考えて、これに同意する人は少なくないに違いありません。

いじめの根絶は不可能とする考え方が、一定の説得力を持つのは確かです。しかし、少なくとも学校単位では、いじめを根絶したり、激減させているところもあります。もちろん簡単なことではないでしょうし、人間のやることですから完璧ではないにせよ、学校や親、地域一体となって成果をあげているところもあるわけです。

日本と比べてはるかに自殺率の低い国だって存在します。病気や事故を減らして長寿世界一になったのと同じように、いじめを減らして、自殺者を減らすことだって出来るはずです。いじめはなくならない、自殺は防げない、と考えていることこそが、いじめによる自殺を減らせない原因なのではないでしょうか。



同じく連日報道されている北朝鮮問題については、私達に出来る事は多くありません。ただ、拉致問題も含めて解決に向かうことを切に願いたいですね。

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この記事へのコメント
いじめは、された方も、した側もどちらも被害者だと思います。
何の?って、社会の歪の反映が一番弱いところの出る!
親子・友人・地域・学校&職場、マスコミ・・・何かが確実に狂っています。
お隣の、ならずもの国家のことは、皆悪だ〜!って叫ぶのにど〜してもっと自分たちの国や郷土、地域を大切にしないのでしょうか?
「個人の自由!」って誰もが声高に言うけど、自由の裏には義務や責任が絶対的に存在しているんです。
もっと根本から考え直さないと・・・減らないんでしょうねって悲しい事実・・・(涙)
何とかこの・・・隠れならずもの国家を変えたいですね!
Posted by ちひ〜どん at October 22, 2006 12:12
TBありがとうございます。こちらからもTBさせていただきます。
Posted by VIVA at October 22, 2006 18:45
ちひ〜どんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、決してほめられることではないにせよ、自分が仲間はずれになる恐れが圧力になって、いじめる側になっている子どもも、広い意味では被害者と言えるかもしれません。
完全に撲滅出来るかは別として、こんなにいじめが当たり前のように存在する社会というのは、やはり学校だけの責任とは言えません。
おっしゃるように、もっと自分達の国を大切にする気持ちが大切ですね。いずれにせよ、この国で生きて行くわけですし、自由を主張するだけで、義務や責任を果たさない、あるいは無関心でいる姿勢は、結局自分達に跳ね返ってくることも間違いありません。
自由や権利を主張する人ばかりになっているのは、その意味でも、根本的なところで間違えているということなのでしょうね。
Posted by cycleroad at October 23, 2006 08:06
VIVAさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
的確な書評、参考になりました。
Posted by cycleroad at October 23, 2006 08:12
WH0も「自殺は深刻な、しかし予防可能な公衆衛生上の問題である」と述べています。先進諸国の中で一番自殺率が高い日本に対して対策をとるように勧告も出されています。
自殺の原因が個人にあるとして追求しても、今後の自殺率減少にはつながらないでしょうね。
自殺は当人だけでなく残された家族の心まで殺してしまいます。社会的、経済的な影響も重大です。国として早急に対策すべきです。
Posted by 恵 at October 23, 2006 12:36
恵さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
発展途上の国では、生きることに大変なので自殺率が低いとする説もありますが、先進国の中で比べても、一番日本の自殺率が高いというのは、やはり問題があるということなのでしょう。
そうですね、これだけ豊かになっても、なお年間3万人もの人が自殺するのは、単に個人の問題と片付けられません。交通事故による死者の3倍以上にものぼるわけですし、やはり社会の問題として捉え、対策に取組むべきだと思いますね。
Posted by cycleroad at October 24, 2006 01:03
 
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