September 16, 2007

いざ使う時に悔やんでも遅い

先日、交差点で見た光景に、ふと思ったことがあります。


交差点に救急車が近づいて来ているのに、平気で横断する歩行者や自転車がいたので、救急車のスピーカーから優先通行させるよう呼びかけていました。最近は、どこにでもよくある風景、ありふれた場面です。しかし、昔は歩行者も、もっと救急車の優先走行に配慮し、サイレンが聞こえたら立ち止まっていたような気がします。

救急搬送人々がサイレンにあまり驚かなくなり、救急車がよく、「しゃべる」ようになったのはいつ頃からでしょうか。昔はサイレンは鳴らしても、交差点で、「救急車が直進しますので、歩行者の方も止まって下さい。」などと、救急隊員がいちいちマイクで呼びかけていなかったように思います。

クルマに乗っていても、救急車が接近した時、即座に道路脇に停車せず、充分に近づくまで進路を譲らないクルマが増えてはいないでしょうか。救急車と遭遇すること自体、相対的に少なかった時代に比べると、今は日常的に目にすることもあって、緊急車両の通行という事態に対して緊張感が薄れているのは否めないでしょう。

事実、例えば東京での救急車の出動回数は、ここ10年で1.6倍、高松市では1.7倍に急増していると言います。問題は、この救急出動の急増の背景として、軽症でもタクシー代わりに救急車を呼ぶ人が増えていることです。マスコミ等によって伝えられ、広く知られるようになりました。

適正利用を呼び掛けているテレビなどでも時々話題になっていますが、そのモラルの無さは目を覆うばかりです。「1時間後に救急車を1台」と出前の注文のように119番通報する人もいれば、軽症なのに1日に何度も救急車を要請し、たしなめられると「税金を払っているのになんで救急車を使っちゃいけないのか」と開き直る人もいると言います。

気分が悪いと通報した女性宅が、照明のついたまま閉まっており、救急隊は意識を失っているものと見て、はしご車を出動させベランダから窓を壊して突入しようとしたら、本人は、おなかがすいてコンビニに行っていたという事例もあります。それでも本人の希望で病院に搬送し、医師が下した診断は「気分不快」だったそうです。

駆けつけた救急隊員に保険証を差し出し、「100メートル先に病院があるから、その子を連れてって」と熱のある幼児を指さし、自分は趣味に熱中する母親もいます。「うちの子」が熱を出したと切迫した声の通報に駆けつけてみると、ペットの犬だったという例も実話です。

指を少し切ったくらいでも、優先して診察が受けられるからと救急車を呼んだり、帰りも送ってくれと平気で要求する人もよくいるそうです。通報に駆けつけると、虫刺されや擦り傷、歯痛などなので、タクシーでも行ける状況だと指摘すると、対応が悪いと逆ギレされる救急隊員も気の毒なものです。

検査入院などに完全にタクシー代わりに使われるだけでなく、駆けつけて通報者に話を聞くと、夫婦喧嘩をして家を出た妻の様子見て来て欲しいとか、「寒気がする」との通報で駆けつけると、単にストーブのつけ方が分からないだけだったりもするそうです。何かにつけて通報する、言わば「常連さん」までいると言います。

例えば横浜市では、一年間に搬送された約16万人のうち、およそ6割が軽症と判断されるそうです。東京などでは、軽症の患者を選別する「トリアージ」を試験的に運用開始していますが、通報段階でのトリアージは、選別を誤った場合のリスクがあって、簡単なことではありません。

相談センターも開設ですから、基本的に全部いったん出動し、現場で判別し必要なければ引き返す、現場トリアージに留まっています。でも結局出動すれば時間がとられるのは同じですし、同意が得られなければ搬送するしかありません。こうしたことから、救急通報のパンク状態の緩和に大きな効果は期待できそうにありません。

多く人が指摘していると思いますが、私もやはり、「救急車の有料化」に踏み切るしかないと思います。通報があった時に救急車が出払っていれば、遠くの署から出動せざるを得ません。渋滞など他の要因もあるでしょうが、実際に平均到着時間は遅くなる一方です。このままでは、救える命も救えません。

以前、中国の上海に旅行した時、ふと、ほとんど救急車のサイレンを聞かないことに気づき、現地の人に聞いてみたことがあります。上海では救急車が有料で、しかも通報者が支払う制度なのだそうです。なるほどサイレンが聞こえないわけです。

他の都市でも救急車を有料化しているところは少なくありません。例えばニューヨークでは2万5千円、サンフランシスコでは3万9千円、フランクフルト2万2千円〜7万3千円、シドニー1万1千円くらい、概算でかかります。これらは全て基本料金で、距離などによって加算されます。パリは時間制で、30分で約2万3千円です。

ロンドンやローマなど原則無料の場所もありますが、日本ではこれだけモラルが低下し、実際に弊害が出て来ている以上、手をこまねいているわけにもいかないでしょう。法律で刑事罰を科すことも考えられますが、送検や裁判の手間を考えれば、有料化によって不急不要の通報を防ぐのがいいのではないでしょうか。

実際に、自分や家族が救急搬送を必要とする場面になって、本当に切迫していれば、有料だろうが何だろうが、一刻でも速く到着してくれと祈るような気持ちになると思います。ただ、一方で高齢化社会も進んでいますし、有料化によって本当に必要な人が利用できなくなると心配する意見も理解できます。

民間救急も整備そこで、原則は有料とするが、救急搬送の要請が妥当と思われるものに対しては、今まで通り料金を免除するような仕組みを作れないでしょうか。誰が見ても緊急性や妥当性のない利用以外は、今まで通り無料とするわけです。無料と有料の境にもよりますが、そんなので効果が上がるのだろうか、との反論もあるでしょう。

しかし、あきれるような利用者の心理の多くは、「タダなら使わない手はない」というものだと推察されます。自分さえ良ければいいと考える人でも、軽症で利用する人が増えれば、真に必要な時の到着を遅らせ、自らにも不利益になることくらい、本当は理解出来るでしょう。しかし、自分一人が抑制しても状況は変わるわけではありません。

それなら、やはり使わなくては損だと利己的な考え方をするわけです。損得計算ですから、タクシーを利用するより大幅に高い料金をとられる可能性が高いとなれば、利用しなくなるに違いありません。結果として、料金を徴収するような事例は、あまり発生せずに、不要不急な通報が減ることが期待出来るのではないでしょうか。

あらかじめ料金を徴収されるような事例を充分周知する期間を置く必要はあります。開始当初は多少の混乱があるでしょうが、結果として歯止めになる可能性は高いと考えます。有料と無料の線引きが難しいとの意見もあるでしょうが、例を挙げたように誰が見ても明らかな、非常識な例のみを適用するだけでも違ってくると思います。

中には、悪気がなくても、血を見て動揺するなどして通報してしまう人もいるかも知れません。そんな場合でも、結果として所得の少ない人が、高額の搬送費を負担しなくて済むよう、あらかじめ所得などによって、免除や減免が出来る制度も定めておけばいいでしょう。要は、確信犯を排除するだけでも違うと思うのです。

各種の調査では、搬送の6割ないし8割が医学的には不要と推定するものが多いようです。知人からのまた聞きですが、緊急搬送の9割方は緊急性がないと感じている医療関係者もいると言います。比較的少ない人でも、搬送の過半数は傷病の程度が軽く、タクシーや他の交通機関を使うべきと感じているそうです。

民間救急の利用を救急車は、あくまで緊急時のものとの原則をはっきりさせる意味でも、「原則有料化し、妥当な利用は無料。」にするのは、充分検討の余地があるでしょう。今、苦境に陥っているとされるタクシー業界にとっても、このままでは民業圧迫されているようなものです。

有料化すれば、逆にタクシー化するとの指摘もありますが、中途半端に安い料金にせず、思い切って高くすれば防げると思います。東京都の試算によれば、1回の出動にかかる経費は4万5千円程度と言います。人件費や燃料代などだけでなく、衛生上の措置をはじめ、いろいろかかるのでしょう。

無料と言っても結局は税金として国民が負担しているわけですし、ただでさえ医療費の伸びの抑制が叫ばれる中、こうした大きな税金の無駄遣いを見逃すことは、結局は増税につながるのも間違いありません。せめてモラルにもとる利用者は排除しなければなりません。

急患が搬送されれば、軽症でも病院側は一応対応せざるを得ません。無駄な救急搬送が常態化することで、受け入れる救急病院側も医師の勤務がオーバーワークになるなど、その態勢が破綻しかねません。これもゆゆしき問題です。現に、医師不足などから救急患者の受け入れ先がなかなか見つからず、たらい回しになる事態も起きています。

例え、病院の近くに住んでいる人であっても、実際にはどこで倒れるか分かりませんし、健康に自信のあると言う人でも、いつ事故に遭うか分かりません。普段の生活で救急車を呼ぶことになる確率は低いとは言え、どんな人であっても他人事と片付けられません。

内閣府が実施した調査によれば、出動件数の増加に対応できるよう、救急体制を充実する必要があると答えている人は実に9割を超えています。一方、救急車の有料化について反対する人は約5割、何らかの負担をするべきとする人は約4割にとどまっています。

でも、見方を変えれば、救急車の有料化もやむを得ない、将来的に有料化にならざるを得ないと考えている人も増えているのです。各自治体も頭を悩ませているものの、なかなか議論が盛り上がっていないのが実情ですが、よく説明すれば、有料化に理解を得られるのではないでしょうか。

でも事態は深刻

心肺停止状態から5分以内に救命措置を始めないと、救命率は急激に下がるとされています。しかし東京などでは、すでに平均到着時間が7分半を超えています。モラルと言えば、保育園の利用料や学校給食費を払えるのに払わない親も問題だと思いますが、こちらは直接「命」にかかわる事態です。

もちろん、料金が払えないからと誤解して、緊急の場合に通報を躊躇する人が出ないよう、充分に周知徹底期間を置く必要はありますが、少しでも早く状況を改善する必要があるのも間違いありません。なんとか少しでも早く、事態の是正に着手して欲しいものです。



国会開会中の自民党の総裁選にもかからず、投票日が伸びました。今度の週末の国連総会にも当然首相が出席出来ないわけですが、まだ外相なんですから、町村さんくらいは行ったほうがいいんじゃないでしょうか..。

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この記事へのコメント
こんにちは。突然失礼いたします。
1年ほど前のブログ記事からとんできたのですが、記事にしていらっしゃったcyclowncircusが今日本にやってきています。せっかくの機会なのでできるだけ数多くの方に彼らとであっていただきたいと思い書き込みさせていただきました。。もしご興味あられましたら一度、ご連絡いただけないでしょうか。よろしくお願いいたします。
Posted by Chiho at September 19, 2007 01:39
Chihoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですか、cyclowncircusが来日中とは知りませんでした。メールでも別途返信させていただきましたが、もちろん興味あります。記事を書いたときにも、機会があれば一度見てみたいものだと思っていました。
もしよろしければ、詳しいことをお知らせいただければ幸いです。この欄でもメールでも結構です。こちらこそ、よろしくお願いします。
Posted by cycleroad at September 20, 2007 00:09
 
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