February 22, 2008

無駄に肥大化するスパイラル

電動アシストサイクルが売れているそうです。


自転車ブームと言われる中、環境に優しくメタボリックにきくなどと、自転車がメディアで取り上げられる機会も多くなっています。今まで駅までのアシとして使っていたママチャリを、少しいい自転車、例えば電動アシストサイクルに買い換えようという人も増えているといいます。

産経ニュース量販されているママチャリとはひとケタ違う単価ですから、自転車メーカー各社が力を入れるのも頷けます。大容量で継ぎ足し充電も可能なリチウムイオンバッテリーを採用するなど、性能をアップさせたり、デザイン面などを工夫した新機種も投入されています。

そんな中で、異例の取り上げられ方をしているのがパナソニックの発表したチタンフレームの電動アシスト自転車です。普通、メーカーのプレスリリースが出されても、いちいち新発売の自転車が記事になることは少ないですが、各紙こぞって取り上げています。こんなにも注目を浴びた理由は、その58万円という価格であることは間違いないでしょう。

確かに、58万とは驚きます。売れ筋の電動アシスト自転車とは、またひとケタ違います。特に自転車に興味のあるわけではない大多数の人にとっては、たかが電動アシスト自転車に58万!と目をむくに違いありません。オートバイどころか、軽自動車にも手が届きそうな値段です。

スポーツバイクなら、数十万円のモデルも珍しくありません。その意味でスポーツバイク乗りなら価格自体には驚かないとしても、電動アシストサイクルにつけられた値段としてなら驚く人も多いでしょう。この値段で原付バイクやオートバイでなく電動アシスト自転車を買う人はどんな人だろうと思うのではないでしょうか。

インターネットで注文を受け付け、オーダーメイドで限定販売される自転車ですので、もちろん大量に売ろうというわけではないようです。「こだわりを持つ富裕層」(同社)を狙うとのことなので、一種のステータスとして購入を検討する人もあるのかも知れません。

レスポンスレスポンスのニュース

わざわざ、こうしたモデルを設定した背景には独自のマーケティング戦略があり、それなりの成算もあるのでしょう。今までとは違う商品コンセプト、販売方法、ターゲットなどの開拓に挑戦する姿勢は評価できます。自転車という商品の常識に一石を投じる商品なのかも知れません。

ただ正直言って、個人的にはあまり魅力を感じません。多くのスポーツバイク乗りも同じなのではないでしょうか。もちろん、スポーツバイクに乗る層には売ろうとは思っていないのでしょうが、このような電動アシストサイクルを「高級車」と言うことについて、個人的にはちょっと違和感も感じます。

私も電動アシストサイクルに乗って、そのペダルの軽さを体感したことはあります。駅までの通勤とか買い物、ちょっとした距離の移動にはいいかも知れません。高齢の方とか、ラクに走りたい方、坂の多い土地などの需要もあるでしょうし、電動アシストサイクルそのものを否定するつもりはありません。

ただ、そもそも電動アシストサイクルは、法令で決められた時速24km以上になるとアシスト力はゼロになってしまいます。別に揶揄するつもりはありませんが、時速24km以上では単なる重たい自転車になってしまうのです。この自転車も、いくらチタンフレームで軽くしているとは言え、普通のママチャリほどの重量があります。

時速24km以上の速度では、決して快適とは言えないでしょう。時速24km以上と言うと速いと感じる方もあると思いますが、スポーツバイクに乗る方なら普通に出す(出る)速度です。多くのサイクリストが感じるように、せっかくのチタンフレームなら、重いバッテリーとモーターをおろしたほうが、よっぽど有効でしょう。

毎日新聞レスポンス

性能があがったとは言え、航続距離的に言っても、ちょっとツーリングに出たらバッテリー容量も足りなくなります。帰りは重い自転車をこいで帰らざるを得ません。この58万のアシストサイクルも、片道わずか10kmの距離で乗ることを想定しているようです。当然ながらスポーツバイクとして使うには無理があるのは明らかです。

電動アシストが使い方によっては有効なのは充分認めるとしても、自転車にわざわざバッテリーとかモーターを載せて重くして、それを軽減するために軽いチタンを使って、そのために値段も高くなって、という方向性は、何か違っているのではないかという気がしてならないのです。

例えるなら、無駄なくらいパワーのある大排気量のエンジンを積んだクルマが、その重いエンジンとそれを支える車体、悪い燃費を支えるための大きなガソリンタンクを搭載し、さらにその重さをカバーするためにもっと排気量を大きくするみたいな悪循環、無駄な肥大化のスパイラルです。

結局、ヒト1人を移動させるために、必要以上に重いクルマを使って、そのぶん大量のガソリンを使って走らせるという、見方によっては悪いジョークのような状態に似ていると言ったら言い過ぎでしょうか。メーカーの独善に消費者が乗せられていると言ったら穿った見方でしょうか。

せっかく環境に優しいことに多くの人が共感しはじめているのに、バッテリーやモーターを製造して環境への負荷を増やす必要もないでしょう。チタンフレームの軽い自転車なら、アシスト機構がなくても充分ペダルは軽いし、軽快に走るはずです。シンプルで環境に良くて、健康にもいい。ずっと自転車らしいと思うのは私だけでしょうか。

フジサンケイビジネスi産経ニュース

もちろん、電動アシストが便利な場面では電動アシストを使えばいいと思います。メーカーがいろいろなタイプの自転車を発売することについても異論はありません。ただ、電動アシスト自転車こそ高級なんだ、富裕層向けだ、最高級だと言わんばかりの高額電動アシストという商品設定、方向性には、何か漠然とした疑問を感じるのです。

このブログへ検索サイトからおいでになる方の検索ワードなどを見ますと、これから趣味として自転車に乗ろうかなと思っている方も多くお越しのようなので書いておきたいと思います。もし電動アシストを検討している方がいらっしゃったら、ぜひスポーツバイクという選択肢も考えてみてはいかがでしょうか。

近頃、電動アシストサイクルに目が行く人が多いのは事実なのでしょう。今までのママチャリより素晴らしい商品にも見えます。ペダルも軽いし、坂もラクだし、そんなに遠くへも行かないし、そんなに速いスピードが出なくてもいい、というユーザーも多いに違いありません。

ただ、スポーツバイクは性能もさることながら、個人的には何より「楽しい」と思います。なかなかスポーツバイクを試す機会はないかも知れませんが、そのペダルの軽さにも驚くに違いありません。きっとスポーツバイクに乗れば、速く走りたくなるでしょうし、遠くへ行きたくなるでしょう。坂も上りたくなるかも知れません。

もし、趣味として、スポーツとして自転車に乗ってみようと思っているなら、私はスポーツバイクをお勧めします。もちろん、その中でもロードバイクやMTB、クロスバイクや小径車など、いろいろな選択肢もあります。後になれば、きっと電動アシストより良かったと思うのではないかと思います。

朝日itメディア

別に私は自転車屋でも何でもありません。余計なお世話と言われればそれまでですし、個人的な意見を押し付けるつもりもありません。ただ純粋に、スポーツバイクという本来の自転車に乗ってみて、そのポテンシャルや楽しさに、もっと多くの人が気づくといいなと思うのです。

日本では安価なママチャリが圧倒的に普及して、街に放置自転車が溢れていたり、歩道を暴走している自転車があったりして、どうしても自転車は低く見られがちです。本来の自転車がもっとポテンシャルのあるものだと気づき、もっと活用する人が増えれば、社会として本当の自転車への理解も進むでしょう。

この料理はおいしいよとか、この映画面白いよとか言うのと同じように、スポーツバイクは楽しいよ、と単純に言いたいのもあります。同時に、本当の自転車を知る人が増えることで、サイクリストとしての自覚を促し、走行や駐輪などのマナーが向上し、自転車が走りやすい社会になっていくことも期待出来ると思うのです。



なんだか、電動アシスト自転車に乗るのがいけないみたいな論調になっていますが、電動アシストが人気だけど違う選択肢もありますよ、という話で、電動アシストに乗ってる方、特に電動アシストに悪意があるわけではないので、悪しからずご容赦のほどを。

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この記事へのコメント
強いて言えば、この自転車の役割はパナソニックの広告塔ではないでしょうか?
または、モーターショーのコンセプトカーを実際に売るようなものですかね。
ここには、パナソニックのスポーツ自転車、チタンフレーム製造技術、電動アシスト技術の全てが詰まってる訳ですから。

魅力が無いと否定してしまうのは簡単ですが、パナソニックの様な大手メーカーが、こんな馬鹿やったって良いじゃないですか。
こんな馬鹿な自転車、自転車を愛して、自転車の可能性を信じてる人しか作りませんよ。
オリンピックの「ケイリン」競技で、中野浩一さんが電動アシスト車で先導してましたよね。
現状の速度制限が外れれば、電動アシストスポーツ自転車にだってもっといろんな可能性が出てきます。
例えば、老人だってアシストで車道を速く走れても良いのではないでしょうか。
Posted by questionnaire_racingjersey at February 23, 2008 17:39
わたくしもquestionnaire_racingjerseyさんに同意です。
高級自転車は実用的用途に劣る反面、
(レースに使えると同時に)遊び・趣味的要素が
かなり濃いものでもあると思ったことがあります。
より素晴らしいものがあるから〜ではなく、
また違った遊び方の提案だと受け止めれば、
これはこれでアリかと感じます。

#14,5kgならバッテリー切れてもシティサイクル程度には走れそうな気もします


>現状の速度制限が外れれば〜
そこまでいくと原付と同じ領分じゃないでしょうか;
Posted by pri at February 24, 2008 00:14
questionnaire_racingjerseyさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに広告塔、あるいはコンセプトカーとしてシンボル的な役割を担っている部分はあるでしょうね。電動アシストやフレーム素材などの技術をアピールする意図も十分理解できます。
私もその点は評価しますし、否定するつもりは毛頭ないのです。あくまで『個人的』には、あまり魅力を感じないなという感想です。
大メーカーのチャレンジ精神は自転車の世界を活性化し、面白くする上でも大歓迎ですし、自転車の可能性を広げるという点でも大いに喜ばしいことだと思います。速度制限が外れるかはともかくとしても、電動アシストの有効性は充分に認めます。(続く)
Posted by cycleroad at February 25, 2008 12:51
(続き)
ただ、例えばママチャリに乗っていた人が乗り換える際、電動アシストへ向かうのもいいですが、スポーツバイクにも、もっと目を向けたらいいのでは、という個人的意見を述べたかったのです。
もともと様々な種類があって、いろいろな選択肢があるのも自転車のいいところですし、決して電動アシストを否定したいのではないのです。文章の流れ上、そう読めてしまうのは私の筆力のなさですが、おそらくquestionnaire_racingjerseyさんの考えと、そう大きな相違はないと思います。高齢者でも早く走れるのは魅力的ですし、そうでなくても乗っておられる方は多いと思いますが、けなしたり、否定するつもりがないことは、ご理解いただければ幸いです。
Posted by cycleroad at February 25, 2008 12:51
priさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、スポーツバイクのほうが、よっぽど趣味性が高く、万人向けではないのはおっしゃる通りだと思います。
ただ、そんなに高級でなく、電動アシストもついていないけど、軽くて軽快に走れる自転車はたくさんありますよね。何を選ぼうが本人の勝手なのは充分承知なのですが、意外に自転車より電動アシストのほうがいいと単純に思っている方もいるようなので、ちょっと個人的な意見を言いたかったのです。
スポーツバイクが絶対に「より素晴らしい」と言うつもりはありませんし、「また違った遊び方の提案」という考え方を私もしているつもりなのです。一部で電動アシストばかり注目されている部分があるような気がしたので、ちょっと「電動アシストとは違う提案」を書きたかったのです。(続く)
Posted by cycleroad at February 25, 2008 13:10
(続き)
速度制限もそうですが、いかに力を使わないか、ラクに速く走れるかという方向性を進めていくと、原付などとの領域とオーバーラップしてくるのは確かでしょうね。値段もそうですが、逆に原付やオートバイを選ばない理由が少なくなってきます。
はたしてこの電動アシスト自転車、実際にどれだけ売れるか、ちょっと興味深いですね。
Posted by cycleroad at February 25, 2008 13:14
サイクルロードさんの記事の内容、同感です。いろいろな自転車は、あってもいいし、更にアイデア自転車もどんどん出てきて欲しいです。但し、「富裕層をターゲットに・・・」と言う事に、大メーカーの「おごり」を感じてしまいます。一般庶民と同じ目線で商品開発をしていた精神は・・・?
「自転車」で技術の蓄積を見せるのでしたら、自転車展にしたらいかが?と思ってしまいます。
まぁ、貧乏人のヒガミですが・・・、失礼しました。
Posted by るー at February 26, 2008 10:30
るーさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
たしかに富裕層だから必ずしも価格の高い自転車を買うわけではありませんし、値段なりの「違い」がわかるとは思えませんね。
電動アシストも重量が軽いほうがいいとは言え、一般的な人には僅かと思える重量の差に何十万も出すのは、むしろマニアックな人や同社の熱狂的ファン層などでしょう。
富裕層向けとうたうのは、購買欲や優越感をくすぐる常套手段なのだと思います。ただ、技術や素材の粋を集めたから値段が高くなったのなら、富裕層向けとは言わないでしょうし、ただ単価を高くするために素材や技術を驕っただけだとするなら、自転車メーカーとしての姿勢に嫌悪感を感じる人も少なくないかも知れませんね。
その辺りは好きなメーカーを決める要素にもなるのでしょうけど、それを含めて新たな市場を開拓する挑戦と言えそうです。
Posted by cycleroad at February 27, 2008 12:39
こんにちは、「音」の件ではレスありがとうございました。なんと58万円ですか!それだけあったら結構なロードが買えると思ってしまいますが、それではダメなんですよね。電動の持つコンセプトや価値を理解しようとしなければ…。

電動アシスト車(パナソニック製)は私も、鹿児島の某駅で散歩用にと借りましたが、正直何が軽いのか、良くわかりませんでした。もしかしたら、24kmを超えたらアシストされないのを知らずに暴走していた事が、軽さを感じられなかった原因かも知れません(笑)普段ママチャリ愛用の友人達は快適だったようです。

いずれにせよ、色々な目的で色々な自転車が増えるのは自転車界全体としてみれば良いことですね。
Posted by nori at February 27, 2008 14:02
わざわざチタン製のフレームを使っているのに、あれだけ重そうな電池とモーターユニットをつけていること自体、ボクにはとてももったいなく思えて仕方ありません。
きっとあのチタニウム・エレクトリック・バイクを購入された方は、これ以上の「高級車」はないだろうと思ってそこらじゅうを走られるんだと思いますが、モーターすらついていないロードバイクやMTBにガンガン追い抜かれて「???」と思うのではないでしょうか。
そういう意味では罪なバイクだなぁと思います。
Posted by 木蓮 at February 28, 2008 01:44
noriさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私もそう思います。電動アシストが欲しい方もいらっしゃるのでしょうけど、個人的には、58万円出すなら間違いなくロードを買いますね。
私も数度しか乗ったことがないので詳しく知りませんが、機種によってはスイッチとかがあったのかも知れませんよ。どちらにしても24キロを超えていたら効かないはずですので、散歩にしては速すぎ(笑)ということでしょう。
人それぞれ、いろいろな考え方や使い方がありますので、さまざまな選択肢があっていいことは間違いありませんね。
Posted by cycleroad at February 28, 2008 12:39
木蓮さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
同感です。チタンフレームがもったいない気がしますよね。
チタンフレームで電動アシストは、クルマで言えばレーシングカー用のアルミ鋳造ボディで大衆車をつくるようなものでしょうか。確かに軽くて燃費が良くなることは間違いないとしても、オーバースペックで非常識なほど高価格になるでしょう。まあ、好みですから目くじらを立てることではないのですけど..。
おそらく、このタイプの自転車を選択する人は、速く走ろうとは思っておらず、間違っても時速24キロを超えるつもりはないのでしょう。他車にガンガン追い抜かれても、頑張ってる奴がいるなくらいの感想かも知れませんよ。
でも軽快なら速く走りたくなるのは自然です。特にママチャリしか乗ったことがなければ、買ってからそれに気づいて失敗したと思う可能性も十分ありえますね。
Posted by cycleroad at February 28, 2008 13:00
いつも興味深く拝読させていただいております。

余裕があれば 様々なタイプ の自転車を複数台ほしいですな。
で、その一台にこれ。
今日は向かい風が強いけど海を見に行くかぁとか、
天気がいいからあの山登ってみるかぁ
などという時にこいつを出す。
そんな贅沢をしてみたいものです。
すいません。妄想にふけってしまいました。
Posted by 蹴球芯 at March 03, 2008 12:56
蹴球芯さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も同じタイプです。ロードバイクばかりとかMTBばかり持っている人もいますが、私はどちらかというと、いろいろなタイプの自転車を使い分けたいほうですね。
もちろん、その中に電動アシストがあってもいいと思います。ただ仮に余裕があっても、さすがに電動アシストに58万というのは躊躇しますが..(笑)。
フォールディングからリカンベントまで..と私も妄想することがありますが、金銭的な余裕もさることながら、保管場所の問題から家族の理解まで、現実は厳しいというところです。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
Posted by cycleroad at March 03, 2008 22:32
 
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