April 13, 2008

日本の将来に何が必要なのか

ガソリンが安くなっています。


先月末で暫定税率が失効し、ガソリンが値下げされました。当初地域差のあった値下げ幅も、在庫分がなくなると共に解消されつつあるようです。ちょうど4月に入って食料品などの値上げが相次いでいた折りでもあり、この値下げ、消費者にとって嬉しいことであるのは間違いありません。

給油所の人は苦労されたのでしょうけど、当初懸念されたほどは大きな混乱もなかったようです。ここのところの原油価格高騰で、じわじわガソリン価格が上がっていたところへの大幅な値下げですから、余計にありがたみを感じた人も多いでしょう。しかし、問題は今月末にも予想される再値上げです。

政府与党は暫定税率維持のための租税特別措置法改正案を今月末にも衆院で再議決し税率を復活させる方針です。福田総理は、この税率廃止によって年間2兆6千億円もの歳入に穴があくと述べています。これをどうするのか、赤字国債を発行するのか、未来の世代にツケをまわすのかと、税率復活の正当性をアピールしています。

しかし、よく考えるとこれは筋の通らない話です。少なくとも今は道路だけに使う特定財源です。暫定税率分が入って来なくなるのであれば、そのぶんの道路を造らなければいいだけの話です。そもそも本州四国連絡橋の莫大な債務の返済が終わり、実態としては大幅に余剰が発生しているはずなのです。

ガソリン値下げ道路整備の必要ということで三十年以上、『暫定』的に高い税率が課せられてきたわけです。本四架橋の返済終了で、その必要が薄れてきたのは誰の目にも明らかであり、元に戻すべきであるというのは、きわめて真っ当な主張です。暫定部分なのですから、少なくとも一旦戻すのは当たり前のことでしょう。

余ってくるからこそ一般財源化という話も出てくるわけで、道路特定財源の暫定税率部分は廃止しても、本来は歳入に穴があくはずがありません。暫定税率維持を前提にするから歳入不足に見えますが、これは本末転倒です。当然福田総理も分かっていることで、歳入不足や赤字国債なんて国民を脅かして欺くような言い方です。

国土交通省は、熊か鹿しか通らないような道路や、海峡を越えるようなバカ高くて効果の薄い道路を更に造ろうとしています。暫定税率を維持して最初に予算ありきで、10年で59兆円も道路を造るほうが、よっぽど国を危うくすると思います。福田首相も小泉政権の官房長官ですし、十分わかっているはずです。

道路特定財源が国土交通省やその外郭団体、天下り先の道路関係法人の遊興費や旅行代、社宅建設費や家賃補助といったものに化けていた実態も少しずつ明らかとなり、国交省もあわてて弁明や関係法人の廃止縮小を打ち出しています。どう考えても、道路関係予算は減らせるはずですし、減らすべきです。

道路はもう充分にあると考えている人も少なくないはずです。そう言うと、地方の道路整備は遅れているとか、渋滞解消や踏切対策、都市圏の環状道路の整備、防災対策にバリアフリーなど、いくらでも必要なものは出てくるでしょう。しかし、そろそろペースを緩める選択肢もあるはずです。

プライマリーバランスと国債の残高と利払い負担を考え、またそれが国債の格付けから、海外から日本への投資にまで影響していることを考えれば、いつまでも「道路ばかり」造っていていいというものではありません。日本の人口は減り始め、長期的な視点で考えるなら、道路需要が減っていくのは紛れもない事実です。

知事や県連関係者など、いわゆる地方の関係者は口を揃えて「地方には道路がまだまだ足りない」と言います。生活に必要な道路は造らなければならないと訴えています。確かに必要な道路はあるでしょう。しかし、その一方で地元住民ですら使わないような無駄な道路がたくさん造られている事実については何も言いません。

一般財源化方針を決定道路、道路と言っているのは、地方と言っても一部の人たちだけです。道路が必要と言うより、なんでもいいから「道路工事」が必要な人、及びその人たちに選挙で世話になる人たちだけでしょう。知事や県連関係者などはメディアに露出する機会も多いので、それが地方の意見のように聞こえるだけではないでしょうか。

もちろん住民の中にも、土建業者やそこから恩恵を受ける人たちもいるでしょう。地域経済が活性化することを歓迎する意味から道路を造ってほしいと言う人も多いと思います。しかし、一方で無駄だとか、費用対効果が薄いなどと感じる場合もあるのではないでしょうか。むしろガソリン値下げのほうがいいと思っている人も多いはずです。

所得の再配分は政府の役割ですし、地域への予算争奪をめぐって議論が起きるのも当然の話なので、そのことを非難するわけではありません。しかし、国家財政の現状を鑑み、少子高齢化の進む状況を考えたときに、単に自分の地域のこと、目先のことだけを考え、日本全体の将来を考えてなくていいのかという疑問は残ります。

都会と地方の格差と言うことも言われます。だから地方にもっと道路を造れという考え方です。しかし、その意味で言うなら、暫定税率廃止のほうがよっぽど有効です。総務省の全国消費実態調査によると、例えば東京都区部の世帯当たりのガソリン代の平均は一か月約2千円なのに対し、町村部は約1万円となっています。

つまり、暫定税率廃止によって、公共交通の発達した都市部より、ガソリン消費量の多い町村部は5倍も恩恵を受けるわけです。都会に住む人と比べ、買い物や病院に行くにもクルマを使わざるを得ない地域に住む人にとっては、ガソリン値下げは、よりありがたいはずです。

政府が経済的な需要や雇用を創出する意味で行う公共事業としても、その効果はかなり薄れており、かえってストロー効果などの弊害をもたらす場合もあります。経済政策面から言えば、より広範に恩恵を与える暫定税率廃止、つまり減税のほうが有効であるとの意見も少なくありません。物価の安定にも寄与します。

あらかじめ、暫定税率の失効を見越して予算を組んだ自治体はさすがですが、多くの自治体では予算が執行できなくなると訴えています。これは政府の失政ですので補てんすべきです。道路関係公益法人や道路整備特別会計の支出の無駄を徹底的に省くことは、今般の一般財源化への政府与党合意案にもありますが、そこからまかなうべきです。

道路特定財源一般財源化を決定地方自治体の首長の多くが、将来的な暫定税率維持を訴えるのは地方の財政事情にも理由があります。国の補助を受けて造った過去の道路のため多額の地方債を発行しており、その返済を道路特定財源に頼っているからです。これが減ると、一般財源から補てんせざるを得ません。この心配はよくわかります。

他の福祉や行政サービスに関して赤字地方債を発行することは制度上出来ませんので、一般財源を返済原資にとられてしまえば、住民の生活に直接影響が及ぶと言うわけです。過去の経緯として、国が景気対策から強力に道路建設を推し進めた面もあるので、政府が道路特定財源の非暫定税率部分から優先して地方へ配分すべきだと思います。

道路によって企業を誘致し雇用を創出したり、観光客を引き寄せたいと考える地域も多いでしょう。都市の道路整備が優先されたので、地方の順番だと主張する人もいます。一方、住民一人当たりで考えれば地方のほうがより多くの税金が使われているとか、道路も空いていて恵まれていると言う人もいます。

こうなると地域対地域のエゴの議論となり、少しでも多くの予算を得るために暫定税率の維持を主張するようになり、道路予算の大枠をどうするのかという議論からは外れてしまいます。結局、暫定税率は既得権を死守したい業界と多くの予算を地元に獲得したい族議員と天下り先を確保したい官僚の癒着の構造なのも、多くの人が気づいています。

福田首相は、環境問題を重視すべき時期にガソリン税値下げは適切でないとも述べています。これは、ある面で正論だと思います。しかし、環境を優先するなら、暫定税率を使ってまで道路を造るのは、これ以上ガソリンを消費して温暖化ガスを排出させないという意味では矛盾することになります。

暫定税率の目的も経緯も環境ではありません。それを言うなら、暫定税率の役割の終了を認めた上でこれを廃止し、ガソリンの消費を促進しないため、環境のために使う同額の環境税などを新たに創設するべきです。いずれにせよ、環境を暫定税率維持の理由にするのは議論のすり替えです。

同じことだと言う人もいますが、これは単なる手続き論だけから言っているわけではありません。税金の主旨や用途を勝手に変えたり、あいまいに流用することは、当然ながら法治国家で許されることではありません。環境と言えば許されるだろうと、勝手な解釈をつけて支持を求めるのも間違っています。

暫定税率復活求める日本はヨーロッパ諸国に比べて、ガソリンは充分に安いという主張もあります。アメリカは安すぎだが、欧州各国は日本よりガソリン価格が高いと例示されていたりします。確かにそうですが、為替がここのところ、ずっと円安ユーロ高基調という部分は割り引いて考えるべきでしょう。

それでも日本は安いという主張は正しいように見えます。しかしながら、本当にその議論をするのならば、税制全体で比較しなければなりません。なぜなら、ガソリンは何もないのに消費するものではないからです。つまり、クルマを保有、または使用して初めてガソリンを消費するわけです。

日本の場合は、クルマの所有や取得に係る部分の税金が、欧州各国より高くなっています。つまり、その部分でガソリンの消費を抑制する構造とも言えるわけです。税以外の政策的な諸経費や維持費も含めて考えるべきかも知れません。税体系が違う国を単純にガソリンに対する物品税の額だけをとって比べるのは粗雑な議論です。

私は、何が何でも税率を下げろと言うのではありません。また、国家財政の現状を考え、あるいは目先のことにとらわれることなく日本の将来を考えたとき、道路特定財源は一般財源化すべきだと思います。その点、福田首相が道路特定財源の全額一般財源化を打ち出したことについては大いに評価します。

しかし、言っていることがあちこちで筋が通っていません。政府与党合意文書などを見ても、必要な道路は着実に整備するとの文言が追加されるなど、今は静かにしている道路族の反撃も必至と思われます。国政を担うという心意気より、貧乏くじかも知れないが、なれそうだからと首相になった人に指導力は期待できないのでしょうか。

今後、どういう形になるか分かりませんが、道路特定財源を一般財源化するというような、税金の使途を大幅に変更するような話は、いずれにせよ国民の審判を仰ぐべきです。国家運営において、税制というのはそれくらい重要な論点であることは、古今東西変わりありません。

ねじれ国会のもと、小泉首相下で得た衆議院の3分の2という切り札を失いたくない気持ちはよく分かります。しかし、あの政権投げ出しの無責任首相にしても、福田首相にしても、本来なら自民党の都合(または本人の都合)を理由に党首が交替したら、なるべく速やかに総選挙を行い国民の審判を仰ぐべきです。

暫定税率は維持ましてや、日本の将来にかかわる重大な論点を含む問題、国家にとっても国民にとっても非常に重要な税金とその使い道の転換を、衆議院の再可決だけで強引に進めていいのでしょうか。与野党の政争について云々ではなく、必ずしも早期解散を求める民主党の肩を持つわけではありませんが、その意味で総選挙の先延ばしは疑問が残ります。

この問題については、いろいろな考え方があるでしょう。当然ながら、誰が正解と言う話ではありません。私だって道路建設推進派ではないものの、道路がこれ以上全く必要ないと思っているわけではありません。結局、今まで通り造るか、暫定税率を除いた部分、そして無駄や流用を除いた本来の枠に戻って造るかの違いでしょう。

ただ個人的には、今まで通りの土建国家を続けていて、グローバル化する世界経済の中で生き残っていけるかという危惧も感じます。日本の政治の改革姿勢が継続するかどうか、世界の投資家が注視しており、それが独り負け状態の日本の株価に反映していることも専門家の指摘するところです。

地域エゴに陥ることなく、日本の将来という視点から考えてみるべきだと思いますが、最終的には民主主義の原則に則って選挙で日本の方向を決めることになります。もしかしたら、遠くないかも知れない総選挙に備え、今一度冷静に考えてみるのも悪くないと思います。



バスへタイヤが直撃して運転手がなくなる痛ましい事故が起きました。茨城の8人死傷事件やホームから突き落とした殺人事件もそうですが、この事故も何の落ち度もないのに、突然命を奪われた理不尽な結果に胸が痛みます。

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この記事へのコメント
暫定税率の廃止によるガソリン小売り価格の低下は、ピークオイル論の立場からすると、石油減耗時代にむけた、国民の適応変化を遅らせることになってしまったと言えます。
日本の場合、クルマの私的使用について、必要度があまり高くないというのも事実だと思います。リッター 150円を超えたくらいでガソリンの買い控えが生じたことは、ひとつの証左でしょう。その時、一方では電動自転車の販売が 3, 4割も伸びたそうです。

また税収の穴は、10年でみると小さくはありません。現実問題として道路族の圧力も無視できず、「必要と判断される道路は着実に整備する」の本気度は、決してあなどることはできません。しわ寄せは必ず他の分野に及ぶでしょう。
Posted by Dr. K at April 14, 2008 17:31
Dr. Kさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃることは、よくわかります。私も本文で書いているように、暫定税率廃止がガソリンの使用を促進し、環境面に悪影響を与えるとの意見は正論だと思います。
私は、暫定税率分で無駄な出費をしていることが問題であり、最初から道路建設ありきで進むのが問題だと思うのです。また、税の使途変更を勝手に進めるのも疑問です。
今日も稼働していない取り締まり装置に百億も使っていたことが明らかになりましたが、こうした無駄な出費をせず、本税の範囲で道路を建設するならば、決して税収に穴はあきません。
国家財政の危機を考えて一般財源化に踏み切るならば、暫定税率分を戻してもいいと思います。ただ、その場合は環境税にするなど、当然の手続きをとるべきだと思うのです。
Posted by cycleroad at April 14, 2008 20:28
環境税など新規課税に、なんであれ、国民は残念ながらいい顔はしないでしょうね。それに、環境面に対する悪影響の問題は二の次だと考えています。

ピークオイルを前提にすれば、道路の新規増設など、合理的根拠は全くなきものとなります。

政治家、官僚、財界 ‥‥、ピークオイルは、たとえそれが真実であったとしても、絶対に認めたくないのです。
Posted by Dr. K at April 14, 2008 23:37
Dr. Kさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに新規に課税するとなると反発は大きいとでしょうね。ただ、揮発油税や軽油引取税などを同じ税額のまま、一部を道路建設目的から、広く環境対策にあてる税金とするならば理解が得られるのではないでしょうか。無駄な道路や不明朗な使途に使われるよりましでしょう。
その中には、化石燃料から転換をはかるための代替エネルギーの開発や、環境負荷の小さいエネルギーを普及させるための補助や優遇といった政策も当然含まれてしかるべきです。ただ、おっしゃるように政官財の既得権益を守ろうとする圧力は小さくないでしょうね。
Posted by cycleroad at April 15, 2008 12:53
 
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