April 19, 2008

新しい道路秩序を生みだす力

クルマメーカーの業界団体が「日本自動車工業会」です。


その日本自動車工業会が自転車との共存を打ち出しました。少し長いですが、毎日新聞から引用します。


自工会:自転車との「共存」対策に本腰 専用道整備など

自動車メーカー14社で構成する業界団体「日本自動車工業会」が、春の全国交通安全運動(15日まで)に合わせ「自転車も車道を走る仲間です」と自転車との共存を打ち出している。国も自転車専用道路の整備を進める。自転車を取り巻く状況は今、どうなっているのか。

「私たちが入社したころは、メーカーの競争はいかに車を速く走らせるかで、環境を口にする人はいなかった」。トヨタ自動車幹部は振り返る。「それが最近、入社試験の面接で『環境問題に取り組みたい』という学生が多くなった」

自工会は67年、「自動車工業の健全な発展を図る」ことを目的に設立された。事業内容は自動車の(1)生産、流通などの調査(2)生産の合理化(3)貿易及び国際交流に関する施策−−などで、車が中心だ。

ところが今月、自工会は自転車対策を検討するワーキンググループをつくり、具体的な検討に着手した。自転車が安全通行できる専用道路の整備、車の走行ルールやマナーについて検討する。中山章交通統括部長は「車メーカーは自転車については門外漢だが、車やオートバイを運転する人の視点に立ち、どうすれば対自転車の事故を防げるかということを重点に、検討を進めていきたい」と話す。

日本の交通事故死者を歩行中、自転車乗用中、乗用車乗車中などの状態別で分析すると、他国に比べ自転車乗用中が目立って多い。

警察庁によると、07年に起きた自転車の交通事故は17万1018件(06年比1.9%減)で、交通事故全体の約2割を占める。交通事故死者に占める自転車乗用中の割合は14.9%。欧米では▽ドイツ9.5%▽フランス3.8%▽英国4.5%▽米国1.8%(いずれも06年)で、日本は突出している。

自転車対策は国レベルで始まっている。自転車は車道通行が原則だが、13歳未満の児童・生徒、幼児、70歳以上の高齢者、身体障害者は歩道通行を認める改正道路交通法が6月に施行される。

法案の検討過程で「自転車が安全に車道を走れる道路がほしい」と要望が寄せられ、警察庁と国土交通省は、自転車のみの通行を認める自転車道の整備に取り組み始めた。全国98カ所のモデル地区を整備し、東京、新潟市などでは既に供用を開始。「車を気にしなくて走れて安心」と住民などに好評だ。

禁止するはずだった3人乗りは、子ども2人を乗せざるを得ない母親らからの要望で、警察庁は容認を検討している。自転車の「権利」がにわかに注目された背景には、環境保護がある。自転車は排ガスもなく、今後も利用が増えると予想される一方で、専用の走行空間が不十分など、対策が遅れていた。

自工会の自転車対策について、警察庁交通企画課の池田克史交通安全企画官は「車との共存は自転車対策の大きな柱で大変有意義なこと」と話す。交通評論家の角本良平さんは「やっと車中心社会から日本が脱し始めた。自転車道整備はパリなど欧州で進んでおり、世界的な流れになっている」と評価する。(毎日新聞 2008年4月14日)


タクシーとして使う試みも今までもクルマメーカーが各個に「自転車も車道を走る仲間」として、ドライバーに自転車への注意を呼びかけることはありました。しかし、クルマの生産や流通にしか目を向けてこなかった業界団体が、「自転車の安全」を言い、「自転車との共存」を考えるようになったというのは唐突な感じがします。

何を今さらと感じる人もあるでしょう。それなりに評価できることとは言え、自転車との共存を言い出すのは、なぜなのでしょうか。記事にあるように環境問題と言うなら、普通は排ガスや温暖化ガスの提言、燃費や次世代のエコカー開発などに力を入れそうなものです。

それらの課題への取り組みも重要なのは間違いないとしても、自工会が自転車を意識せざるを得なくなった背景には、環境問題もさることながら、それも含めた日本人の考え方の変化があるような気がします。ここのところの自転車を見直す動きを、自工会も無視できなくなったということではないでしょうか。

放置自転車対策も必要今まで自転車は、クルマに遠慮するものという意識が、どこか一般市民の中にあったように思います。今でも自転車は歩道を通るのものと思っている人が、実は驚くほどたくさんいます。危ないこともありますが、クルマの邪魔にならないよう、歩道を通るのが当然と思われてきたわけです。

今までも何度か取り上げてきましたが、警察の交通行政は、ここ三十年以上一貫して自転車を歩道へ追いやる方向に動いてきました。それによって世界では非常識とされる「自転車は歩道を通る」というルールが日本では常識となってしまいました。

もちろん、高度成長期にクルマの増加に道路整備が追いつかず、自転車とクルマの事故が急増したという事情がありました。やむを得ない措置として、緊急避難的に歩道を通行させるようにしたわけです。ただ、今焦点となっている道路特定財源の暫定税率と同じで、暫定的措置がずっとそのまま放置されてきたわけです。

道路公害にNO国民の考え方としても、経済効率を優先する上で、ある程度の我慢は致し方ないとするのが普通だったのだと思います。道路は最大限クルマの為にあけ、物流や車両交通を優先するのが合理的と考えられてきました。自転車なんて所詮、補助的で、近所の短距離の臨時的な移動手段に過ぎないと考える人が多かったわけです。

しかし、ここへきて、これに疑問を感じる人も増えてきました。要因の一つは環境に対する意識です。ヨーロッパでは、少なくとも都市部ではクルマの使用を控え、温暖化ガスの排出を減らそうというのが当たり前の考え方になってきました。日本でも、なるべく電車や公共交通を使うことが求められています。

日本では、歩道を走るための速度の遅いママチャリが大多数になった結果、自転車は最寄駅までの補助的交通とする考え方が依然として少なくありません。ただ本来の自転車は、多くの日本人が考えているより大きなポテンシャルがあり、欧米では、自転車は都市交通の手段として重要、かつ実用的だと考えられています。

市民のモラルも求められる実際問題としても都市部では、クルマを重視する政策が渋滞や公害を招き、ちっとも効率的ではありません。東京都心部などでは、クルマより自転車の平均速度が勝り、速く移動できることも少なくありません。都市間交通や郊外での利用は別として、都市部で政策的にクルマを優先する必要に疑問が出てきます。

東京から始まり各都市圏に広がった、ディーゼル車の粒子状物質規制や、排気ガスによる喘息など公害病被害救済を求める大気汚染訴訟などもそうですが、公共の利益の名の下に正当化されてきたクルマ優先より、住民の健康を優先すべきだと考える人も増えてきています。

今では当たり前のことのように捉えられていますが、交通事故によって毎年多くの命が奪われている事実にも、改めて目を向ける必要があります。交通事故の死者数は減っているように見えますが、クルマの安全装備や医療の発達により、即死や当日死ぬ人が減っただけで統計に表れなくなったという指摘もあります。

駐輪場も足りないクルマが物流や交通の面で人々の暮らしを支えているのも間違いないのですが、地球温暖化問題を考えても、クルマの通行ばかりを無制限に優先する考え方は、時代に合わなくなってきているのも事実でしょう。自転車と歩行者の事故増加を受け、警察庁の対応が、自転車レーンの充実へとシフトしているのも必然と言えます。

ずっとクルマが政策的に優先されてきた結果、道路の中央を占拠して排ガスをまき散らし、歩行者や自転車は狭い歩道へ押しやられ、事故で命を落とすことに、何かおかしいと人々が考え始めています。自工会としても、クルマ本体の環境対応だけではなく、他者との共存を打ち出さざるを得なくなっているということではないでしょうか。

近年自転車ブームと言われ、趣味としての自転車にもスポットが当たり、いわゆるメタボ検診が始まって健康面からも注目されています。自転車本来の姿を知る人が増え、会社まで自転車通勤する人が増えるなど、交通手段としても見直されてきています。実際に乗ってみれば、意外に速く遠くまで行けることに気づくでしょう。

自転車の活用法を探る温暖化ガスのことを考えても、不要不急のクルマの利用は控え、もっと自転車を活用すべきと考えるのは、もはや少数意見ではなくなろうとしています。ならば、その活用を推進するため、自転車の安全性や利便性を高めるのは正しい道です。道路の構造や事故防止策を見直すのも必然でしょう。

自転車が便利になればクルマの売り上げに響くので、クルマメーカーが自転車に有利なことをするわけがないとする考え方もあります。しかし、もはやそんな姿勢で、世の中の動向に背を向けたままでいることは出来ません。消費者の利益とその考え方に沿った姿勢を見せなければ、自動車メーカーとは言え安泰ではいられないでしょう。

確かに都市部に住む人なら、自転車の便利さに気づいて、クルマを手放すかも知れません。しかし、そうした人は、メーカーがどう対応しようが手放すでしょう。すでに若い世代、都市部に住む人を中心にクルマ離れが言われて久しいです。ならば、クルマメーカーが自転車のことを考えても、すぐ損に結びつくものでもなさそうです。

むしろ、自転車の安全を考えることはクルマメーカーのイメージアップにもつながります。もとより都市の中心部ならともかく、全てを自転車に置き換えられるものでもありません。環境のことも考えながら、互いにすみ分け、補完しあう方向が求められます。

道路の付帯設備も重要自転車に乗る人もまたクルマに乗りますし、クルマを降りれば歩行者にもなるという、当たり前の事実もあります。クルマメーカーも、クルマの販売だけを追求できる時代ではありません。その存在や環境への負荷も大きい分、必ずしもクルマの販売には結びつかないことでも、交通社会への責任を果たすことが求めらます。

クルマメーカーとして、些少な売上への影響より、自転車や歩行者との道路の共有という立場にたって社会正義、社会貢献を追求したほうが良いとの判断でしょう。結果として渋滞が解消し、事故のリスクが減り、保険料が下がって、運転の気疲れが減るならば、相対的にクルマを利用するメリット、魅力もアップします。

渋滞が予想されたり、速いのなら公共交通や自転車を使い、クルマが必要な時はクルマを使うという当たり前の使い分けをすべきです。環境のためにも、健康のためにも、自転車で済むなら自転車を使うほうがいいのは間違いありません。そんな健全な選択ができる道路環境が望まれます。

そう考えると、社会的な影響力の大きい自動車メーカーの業界団体が、自転車との共存を打ち出したことには、大いに期待が持てます。政治や行政への発言力も抜群です。歩行者や自転車が一方的に忍耐を強いられることがない、バランスのとれた新たな道路秩序の実現へ是非尽力してほしいものです。



本文中の写真は、自転車がいろいろな意味で関心を集めている例を、最近の記事から拾ってリンクしてみました。自転車レーンにせよ、NPOなど市民の動きにせよ、ここ2〜3年の間だけでも、ずいぶん話題になることが増えた気がします。ただ、こうした傾向が持続するかという問題もありそうですね。

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