September 10, 2008

ドイツのことわざが教える事

メタボ検診が始まって半年が経ちました。


特定健康診査・特定保健指導制度、いわゆるメタボ検診は、生活習慣病の原因とされる内臓脂肪を減らすことを促し、医療費の削減につなげることを目指して導入されました。厚生労働省は、このメタボ健診によって年間2兆円の医療費を削減できると試算しています。

国民医療費は少子高齢化に伴って増え続けています。一般的に、歳をとれば身体にもガタがきますし、医者にかかることが増えるのも避けられません。しかし、その費用を負担する若い世代が減っていくばかりでは、そのバランスが崩れていくのは自明でしょう。

医療費増大にはさまざまな理由があると思います。平均寿命が延びるのは歓迎すべきことですが、それに伴って医療費が増えるのも確かです。昔と比べて医学が進歩し、医療が高度化して、手の打ちようのない病気が治るようになったのも喜ぶべきことですが、医療費は膨らみます。

職員が「自腹」でメタボ対策啓発このまま医療費が増大していけば、健康保険制度も破たんしかねません。医療費の本人負担が一部で済むのも、健康保険のお陰ですが、自己負担以外の部分は、基本的に健康な人の保険料でまかなわれるわけです。病気になる人が増えて、このバランスが崩れてしまわないよう、検診や病気の予防で病人を減らすのは必須とも言えます。

高血圧や糖尿病などの生活習慣病は脳血管障害や心臓疾患などにつながり、日本人の死亡原因の6割、医療費の3割を占めると言います。医療費の抑制のためだけでなく本人の為にも、健康診断の定期的な受診や日ごろの健康づくりが重要なのは間違いないでしょう。

メタボ検診は世界にも例のない試みと言いますが、このままでは国の社会保障費の増加に税収が追い付きません。厚生労働省や財務省がなんとか医療費を抑制しようとするのもわかります。病気を予防することは、医療費を抑制すると共に、国民にとっても「生活の質」を向上させるわけで、悪い話ではありません。

予防に力をいれることで、医療費高騰の要因とされる入院日数の長さや病床数の多さは改善されるでしょう。特定保健指導制度によって、受診回数や検査の多さ、また何度も重複する検査も減らせると思います。しかし、これも大きな要因とされる薬価の高さ、薬剤使用量の多さの改善については疑問があります。

メタボ検診ある研究によると、平均的な高脂血症の60代男性に薬を投与し、心筋梗塞を1例防ぐために必要な薬剤費は、約2千万から4千万になると言います。驚くほど高価ですが、もちろん一人で、それだけの治療費が必要になるということではありません。

つまり、心筋梗塞を1例防ぐためには、30人から40人が薬を飲んで、やっと一人の命が守れるということなのです。発症確率10%を投薬によって6%から8%に下げられるに過ぎないわけです。薬で病気を防げるのは、それくらいの割合ということです。

しかし、自分が高脂血症で心筋梗塞の恐れがあるなら、多くの人が薬の処方を望むはずです。自分が患者なら、誰も医療費増大など気にしてられません。そして、今の診療報酬制度の下では病院側としても当然処方するに違いありません。実際問題として、こうした薬は、リスクのほとんどない人にまで幅広く処方されていると言います。

メタボ市場もちろん、検査の結果で高脂血症なら投薬は責められません。例えば、ただ気分がすぐれないという不定愁訴で薬を処方するような例が医療費の高騰につながっているという指摘もあり、これはとんでもない話ですが、れっきとした生活習慣病予防での投薬ならば問題ありません。しかし、このことが薬剤費の増加につながります。

せっかくの予防医療や検診が、必ずしも医療費抑制につながらず、むしろ増やす可能性すらあるわけです。ある意味、医療の抱える構造的な問題でもあるわけですが、そう考えると、医療費抑制のためには、検診より前に投薬が不要になるよう、生活習慣病にならないような手を打つしかありません。

それに有効な手段の一つが自転車です。日常的に自転車に乗ることで健康になったと実感する人は少なくないと思います。ある程度、いわゆる有酸素運動になるくらいの運動強度で、生活習慣病の予防になるくらいの頻度で乗っている人なら大きな健康改善効果があるはずです。

実際、健康診断で、検査の数値が大幅に改善したなどという話はよく聞きます。もちろん、有酸素運動ならばいいわけで、必ずしも自転車である必要はありませんが、通勤などに使うのであれば、わざわざ別に運動の時間をとる必要もなく、続けやすいのもメリットでしょう。手軽で楽しく効果的な点で自転車は優れています。

薬の開発以前から、国民が自転車を活用しやすくすることは、温暖化防止や省エネ、交通事故防止だけでなく、国民の健康に寄与し、国民医療費の抑制につながると書いてきました。確かに自転車に乗って有酸素運動をすれば、健康になるだろうなとは思いますが、医療費抑制までは大げさだと感じる方も多いのではないでしょうか。

しかし、自転車の活用が広がるならば、同時に人々に自然と有酸素運動することを促します。予防のための投薬が必要になる人も確実に減らすでしょう。全体として見れば、医療費抑制に大きく貢献するはずです。自転車専用レーンを整備すれば医療費が減るというのも、風が吹けば桶屋が儲かる的な話ではないのです。

欧米では、既にその社会的効果が研究され、注目されています。温暖化対策、都市の渋滞や大気汚染、原油高騰対策としてだけでなく、むしろ医療費の抑制効果の高さから、自転車専用道などの対策がとる国、都市も増えています。しかし、日本ではこうした視点は欠けていると言わざるを得ません。縦割り行政も弊害となっています。

厚生労働省がいくら自転車の医療費抑制に有効だと思っても、国土交通省や警察庁の管轄である道路行政には口出ししません。環境省と連携することも無いでしょう。官僚が国の財政より省益を優先するなら、自分の天下り先を確保するためにも、薬剤費がたくさん使われる方がいいわけです。

これまでにも何回か書いてきましたが、自転車に乗っていると、健康のためには『トラックいっぱいの薬より、1台の自転車』というドイツのことわざを実感する人は多いはずです。しかし、医療費抑制のためにも『トラックいっぱいの薬より、1台の自転車』が必要とされているのではないでしょうか。



おりしも、安倍前総理に続く福田総理の2代続けて1年での政権投げ出しという異例の事態を受けて自民党の総裁選が始まりました。国民の将来不安の解消には、増大する社会保障費の財源を含め、医療や年金、介護など社会保障制度全般をどう立て直していこうとするのかも問われていると思いますね。

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この記事へのコメント
私も自転車通勤始めてから、身体で実感できるような効果はありませんでしたが、血糖値など健康診断の数値は大きく改善しました。

そういえば、欧州のどこかの国では、自転車を買うと補助金が出る制度があると聞きました。
日本も、他国から温室効果ガスの排出権を買うくらいなら、自転車購入の補助金出して欲しいな(笑)
Posted by Mr.ポテトヘッド at September 11, 2008 11:51
『トラックいっぱいの薬より、1台の自転車』というドイツのことわざ の出展を教えていただけませんでしょうか。構成されている単語から考えると20世紀に作られたものと思われますが、添付URLのドイツことわざ集でも見当たりません。 このような健康ことわざは、ドイツよりアメリカかイギリスの方が、盛んかもしれないので、ドイツにも輸入されたものかもしれません。自転車に関連するドイツ語 Rad では、Das Rad, das am lautesten quietscht, bekommt das meiste Fett.(軋む車輪は、潤滑油をもたらす)が、ありましたが、これはちょっと探していることわざとは違うように思いました。
Posted by bajorgasse at September 11, 2008 17:20
Mr.ポテトヘッドさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
体重は減りませんでしたか。元々痩せている人はあまり変わらないと思いますが、多かれ少なかれ、体重が落ちる場合が多いのではないでしょうか。
健康診断の数値も、驚くほど改善する場合がありますね。元々が悪い必要があるのでしょうけど(笑)。
日本でもいわゆるグリーン税制で、より環境に優しいとされるクルマは優遇されたりしますけど、自転車のほうがよっぽど優しいのは間違いないですから、もっと優遇されてもいいはずですね。高い自転車は高いですから..。
Posted by cycleroad at September 11, 2008 23:41
bajorgasseさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
この言葉が、誰か有名な人の言った言葉でなく、「ことわざ」だとすると、特に出典はないんじゃないかと思うのですが..。
おそらく、古くからある言い慣わしとして、ドイツでは誰もが知る言葉といった感じなのではないでしょうか。
私がこの言葉を知ったのは、何かの本だったと記憶しています。私の記憶だと「ことわざ」となっていて、故事成語や偉人の言った格言などではなかったと思います。
何の本だったか、先ほどちょっと本棚を探してみたんですが、わかりませんでした。特に自転車関係の本ではなかったのかも知れません。
原語で知ったわけではないので、元々のフレーズはわかりません。構成されている単語は、日本語訳のせいかも知れませんし、自転車自体200年くらいの歴史なので、それほど古いことわざではなさそうですね。「よく使う例え」といった感じなのかも知れません。
Posted by cycleroad at September 12, 2008 00:06
管理人さま お返事ありがとうございます。 まだ口語段階のことわざなのですね。 戦後ドイツだったら自転車より環境問題に関しても新ことわざが出来ているかも知れません。 関連ドイツ語サイトでも調べてみようと思います。
日本発の「新ことわざ」もあったらまた記事でご紹介下さい。 「総理大臣は毎年9月が交換時期:by 自民党」など。 
Posted by bajorgasse at September 12, 2008 15:10
bajorgasseさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
いえ、ドイツにそういうことわざがあるという話を日本語で読んだだけですので、確かなことは分かりません。ただ、ドイツはオランダと並んで自転車先進国と言われており、都市にもよりますが、その活用は大いに進んでいます。日本と違って自転車のイメージも良く、運動の重要性も広く認識されているようです。もし、この『トラック〜』について何かわかったら、是非教えて下さい。
確かに一年草のようになっていますね(笑)。日本でも、誰が言い出したのか、新しいフレーズが流行することがあります。すぐ消えてしまうものも多いですが、いつの間にやら新しいことわざのようになっているものもありそうですね。
「ロシアの鉛筆」はご存知ですか。ご存知なければ、下のcycleroadからどうぞ。
Posted by cycleroad at September 12, 2008 22:45
 課題は自転車専用道路の財源確保ですね。私は道路特定財源の8割は不必要な道路建設に使われてると考えています。
そこから、整備費が捻出できるはずですが、トヨタとか抵抗勢力が多過ぎて出来ないような気がします。
 
 自転車に限らず有酸素運動は糖尿病、高血圧の予防に有効ですが、医療費を抑制するには不十分と思います。
 糖尿病、高血圧の予防には食事内容も変えないと駄目ですが、メタボ検診で変えるには対象が多すぎて無理。農業政策で強制的に食事を変えた方が効率的と思います。
 農水省は小麦の引渡し価格を500%引き上げて、小麦消費量を激減させる。小麦は血糖値がブドウ糖よりも上がりやすく糖尿病になりやすい。あと、野菜、大豆、米、大麦(最も血糖値が上がり難い穀物)に補助金を出して増産すれば、糖尿病が激減するはず。財源が不足するなら肥満税導入ですね(笑)
Posted by 自転車乗り at September 15, 2008 20:13
自転車乗りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに道路特定財源の、最初に道路整備ありきの考え方では、無駄な道路がつくられるのを防げない部分があるでしょうね。
制度的には難しいですが、考え方としては、無駄に処方される薬剤費の一部でも、自転車走行環境の整備に使われるならば、かえって人々の健康に貢献するのではと思います。
もちろん自転車の活用だけで皆が健康になるとは言いませんが、世界的にもその効果が注目されつつあります。薬にばかり頼らず、効果の薄い人にまで薬が広く処方されるような医療の在り方を変えることこそが国民医療費の抑制につながることは論を待たないと思います。
農業政策で食生活を改善させることについては、個人の嗜好や市場の問題もあり、いろいろ議論があるところだと思います。ただ、それが食生活であれ運動であれ、医療として薬剤の投与より生活習慣の改善が有効な場合に、それが機能するようにしていくべきだとは思いますね。
Posted by cycleroad at September 16, 2008 12:48
管理人様 お返事ありがとうございます。

>個人の嗜好や市場の問題
50年前、糖尿病が少なかった頃は個人の問題で済んでいたと思いますが。今は、糖尿病の激増で食事は個人の嗜好の問題ではなくなっていると思います。

衝撃的なグラフが出てますが、ぜひ読んで見てください。
40歳以上の男性の60%、女性の40%が境界型ないしは糖尿病(2002年)
medicalkaihatu.nikkeibp.co.jp/medicalkaihatu/02cme/pdf/2005/cme200509-1.pdf -
Posted by 自転車乗り at September 18, 2008 05:47
自転車乗りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに衝撃的な数字ですね。私も昨今の食生活の変化がもたらす生活習慣病の増加は、日本人の健康にとって深刻な事態だと思っています。その点については異論ありません。
それが国民医療費の高騰として日本の財政に大きな負担となり、少子高齢化が進む将来の社会保障に対する大きな不安となっているわけです。
ただ、政府の小麦売渡価格を500%引き上げたら、健康な人や家計、また関連産業、流通、小売などにも広く影響が及びます。非関税障壁としてWTO上の問題もあります。そのあたりの市場の問題があります。
野菜や米は別として、血糖値が上がり難い穀物に補助金を出して増産しても、市場に需要がなければ、つまり消費者の嗜好に合わなければ売れ残るだけですし、政策としても支持されないでしょう。
(続く)
Posted by cycleroad at September 18, 2008 23:04
(続き)
例えば砂糖には関税がかかりますが、消費者が嗜好し需要があるならば、「加糖あん」などの半製品の形での輸入が増える(そのほうが安い製品が作れる)といったことが実際に起きています。
そう考えますと、農業政策や市場統制が、そのまま国民の食生活を変えることにつながるとは限りません。日本人の食生活を憂慮する研究者や医療関係者は多いですが、専制国家でもない限り、「強制的に食事を変え」るのは困難ではないでしょうか。
そうした意味から、農業政策で食生活を改善させることについては、個人の嗜好や市場の問題もあり、いろいろ議論があるところだと思うと申し上げたわけです。けして問題が深刻でないと言いたかったわけではありません。
生活習慣病予防と言っても、最終的には本人の自覚と行動にかかってくるわけで、政策担当者にしてみれば、そのあたり歯がゆいでしょうが、民主国家である以上、仕方がありません。食事こそ重要なのはその通りだと思いますが、政策としてはメタボ検診あたりが限界ということでしょうか。
Posted by cycleroad at September 18, 2008 23:05
 確かに小麦売り渡し価格の500%引き上げは無理ですね。しかし、これは小麦消費を減少させる方法の一つで、他にもアメリカの州で一時期実施された肥満税、10年以上かけて小麦を飼料用穀物に転用する等は出来そうな気がします。
 2つ目の政策はWTO上の問題は起こらないと思います。なぜなら、肉1キロの生産には穀物が5〜10キロ必要で、肉で穀物と同じカロリーを摂ると、輸入小麦だけでは飼料が足らずに穀物輸入量(1000万トン増)は増えるからです。食用穀物は米だけで足ります。どうでしょうか?

最近は健康志向で血糖値が上がり難い穀物(太りにくい)の需要は増えてきていますよ。
あと、消費者は嗜好よりも、価格で選んでいるはずです。日経の『小麦製品高騰で消費者のパン離れが加速』と記事が出ていました。魚の消費低迷も肉の方が安いからです、昔は肉が高かった。
Posted by 自転車乗り at September 22, 2008 00:00
自転車乗りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに非関税障壁とならないような方法で食品の流通を調整することは出来るでしょう。価格政策もあるでしょうし、消費者も健康志向になってきています。
最近は食育なども注目されるようになり、健康面からも、もっと日本人の食習慣を考え直すべきという機運も高まっていますね。食糧自給率が低く、世界中から食料を買っている事実、フードマイレージがダントツ世界一であることなども含め、どうやって食料を調達し、また何を食べていくのか、いけるのかという点も含め、重要な課題だと思います。
健康の問題と、食糧安全保障の観点、農業政策、貿易、環境への負荷、あるいは穀物をバイオ燃料生産に使うことからエネルギー問題、そして昨今問題となる食の安全も絡んで複雑な課題です。そうした面も含め、農業政策に、もっと国民的なコンセンサスを高めていく必要がありそうですね。
Posted by cycleroad at September 22, 2008 22:37
 
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