December 15, 2008

本当に必要とされるのは何か

三菱商事、三井物産と言えば、言わずと知れた大手総合商社です。


売上で言えば、両者は日本の商社の1位と2位ですが、その大手商社が貸し自転車事業に取り組んでいると言うと、ちょっと意外に思う人も多いのではないでしょうか。朝日新聞の記事から引用します。


広がる自転車共有サービス 日本でも商社が展開へ

貸自転車シェアリングシステム自転車をみんなでシェアして使いませんか――。街頭に置かれた自転車を好きな時に使って、好きな場所で返す。そんなエコプロジェクトに、日本の商社などが外資とともに取り組んでいる。欧州の主要都市では一般的で、日本の自治体などにも導入の機運があるという。

三井物産と提携する米国の屋外広告大手クリアチャネル・アウトドアは、世界13都市で自転車共有サービスを展開している。そのサービスは、こんな仕組みだ。利用者は年間登録料(20ユーロ程度)を払ってカードを購入する。街頭に置かれた自転車ステーションにカードを入れれば、24時間365日、自転車を借りることができる。返却は別のステーションでもOK。バルセロナの場合、ステーションは市内400カ所、ほぼ200メートルおきに設置され、自転車は6000台あるといい、まさに日常の足代わりに使える感覚だ。

ステーションに屋外広告をつけることで設置費用をまかなうビジネスモデルで、自治体などの財政負担はないのが売り物だ。同社と三井物産は合弁でクリアチャネル・ジャパンを設立。屋外広告事業を展開する中で、この自転車共有サービスを地方都市などに売り込んでいる。

レンタル自転車共有システム一方、三菱商事はフランスの屋外広告大手JCドゥコーとの合弁でMCドゥコーを設立、同様の事業に取り組んでいる。JC社はパリで昨年7月から自転車共有サービスを開始した。市内1400カ所にステーションがあり、計2万台の自転車をどこでも借り受け、返却できる。料金は年間29ユーロ(1週間、1日などの料金設定もあり)で、1年間で2750万回の利用があったという。こちらも、ステーションに屋外広告を募集するビジネスモデルだ。現在、世界19都市でサービス展開しており、来年には62都市に拡大するという。日本法人も、自治体での導入に向けてスポンサー探しに動いている。

自転車の共有には、どんな利点があるのか。利用者は自転車を買わずに低額でレンタルでき、駐輪場所の確保や盗難の心配をしないで済む。放置自転車も減る。限られた資源の共有や、自動車から自転車へのシフトといった点で環境にやさしい。広告モデルなら自治体の財政も痛まない。両社の担当者はそう口をそろえるが、日本での普及はこれからだ。

「日本ではすでに個人所有の自転車が大量にある。一方で自転車専用道路は少なく、きちんとした運転ルールやマナーも整っていない」(MCドゥコーの担当者)というが、大量に消費され、駅前に放置される自転車を見ると、日本でも共有サービスを検討する時代になっているようだ。(2008年12月12日 アサヒコム)


単なる貸し自転車ではなく、都市でレンタル自転車を共有しようというサービスです。私も以前取り上げたことがありますが、パリで導入されて話題となった「ヴェリブ」と同じように、レンタル自転車をシェアし、その車体や貸出ステーションに広告を入れるというものです。(ヴェリブについては、下の関連記事参照。)

スタートから1年余り経ったパリのヴェリブは好評が伝えられており、次第に日本でも一般に知られる存在となってきたようです。パリの街角を自転車でという話題性も手伝ってか、ときどき一般のメディアで取り上げられているのも見ます。

日本でも外資と組んで商社がこの事業の導入に取り組み始めているわけですが、大手商社が目をつけるくらいですから、有望な事業と見られているのは間違いありません。地球環境問題や原油価格高騰、メタボリック検診なども追い風となって、また世界的にも自転車への注目が高まっていることが背景にあるのでしょう。

地方自治体も、環境を意識して自転車の活用を掲げるところが増えてきているので、こうしたシステムの導入を検討するところが出てきても不思議ではありません。ただ、この記事にもあるように、放置自転車対策に焦点を当てるところが多いような気がします。メディアでの論調もそうしたものが多いように見受けられます。

すなわち、それぞれ自転車を買うより皆で共有すれば、街にあふれる放置自転車を減らせるではないかと考えるわけです。確かに、減りそうな気がします。放置自転車の撤去や対策に多額の費用がかかっている自治体にしてみれば、その部分に目がいくのも当然でしょう。

パリのヴェリブしかし、果たして本当に減らせるのでしょうか。私は、放置自転車の減少を目論んで導入しても、なかなか上手くいかないような気がします。せっかくの取組みに水を差したいわけではありませんが、現状ではシェアシステムの導入が、放置自転車の減少につながる環境にない気がするのです。

仮に、いま駅前にとめられている自転車が、個人の所有からレンタル共有自転車に置き換わったとします。それでも多くの人の自転車の使い方は変わらないでしょう。つまり、最寄駅までのアシとしての自転車です。依然として駅前に駐輪する自転車は減らないと思われます。

確かに一部は、その駅前に駐輪された自転車の中から、他の場所への移動に利用されるものが出てくることになるでしょう。しかし、必ずしもその駅に戻ってくると限らないとしたら、その駅から帰りに使おうとする人の需要に足りなくなる可能性があります。それを防ぐには余分に台数を配置する必要も出てきます。

台数が足りなくなって、帰りに利用できないとしたら、レンタルを利用せずに自分の自転車を使う人も出てきます。そう考えると、駅前に駐輪する自転車の台数は減るどころか増える可能性すらあります。共有するという考え方は良いとしても、うまくレンタル自転車が循環しないと、必ずしも駐輪自転車台数の減少に寄与しません。

つまり、自転車の使い方が今と変わらない限り、個人所有か共有かの違いだけで、駅を利用する自転車ユーザーの数は変わらず(あるいは増え)、駐輪する自転車の台数も減らないわけで、放置自転車対策にならない可能性があるわけです。重要なのは今と違う自転車の使い方がされるかという点だと思います。

記事でも指摘されているように、パリと違って、すでに日本では多くの個人所有の自転車が街にあふれています。既に自転車が身近な交通手段として利用されているわけですが、レンタル&シェアシステムができたからと言って、それが自転車の使い方が変える要因になるとは限りません。

むしろ必要なのは、自転車走行環境の整備ではないでしょうか。安全かつ快適に走行できるのであれば、最寄駅より先や、目的地まで直接自転車で行くかも知れませんが、危険で走りにくければ、依然として最寄駅までの移動に用途は限られ、特定の駅前に自転車が集中する状況は変わらないでしょう。

レンタル自転車シェアサービスは、クルマやバス、タクシーなどに代わる新しいスタイルの都市交通として整備するという視点がないと、うまく機能しないと思います。都市交通とするためには、自転車レーンの整備など、自転車の走行環境の整備が欠かせません。誰でも安全に安心して走行出来なければ意味がないわけです。

今のように自転車が歩道を歩行者と混在しているようでは、歩行者との事故も増えるでしょうし、速く遠くまでラクに行ける自転車本来のパフォーマンスを生かせません。当然車道を通るべきですが、今のようなクルマ中心の道路環境では、自転車利用者の安全を確保出来ません。やはり走行レーンなどが必要になるでしょう。

ワシントンのシステムそうした環境が整備され、誰でも自転車での移動が容易になってこそ、レンタル自転車共有システムが威力を発揮します。地下鉄などの交通機関網を補完し、また渋滞している他の道路交通より便利で速く、しかも安全快適に移動できるとなれば、多くの人が利用するようになるでしょう。

自宅と最寄駅までの往復であれば、レンタルでないほうが確実です。しかし、都市交通システムとしてのレンタル自転車なら、都心での移動手段としても使い、行く先で乗り捨てたり、必要な時に借りるといったレンタル&共有システムのメリットが生きてきます。

自宅から直接会社まで自転車通勤するのは大変という人でも、途中に電車をはさんで、電車から降りた先で自転車を使えるなら便利になるでしょう。さらに会社から出かけても、行く先々で電車を降りてから使えるならば、レンタル自転車にする意味が出てきます。

言い換えれば、都市交通や都市全体のあり方を検討し、自転車が有効に使えるようにして初めて、放置自転車、すなわち特定の駅への駐輪の集中も緩和する可能性があるわけです。このことを理解せずに、放置自転車対策だけを目指してレンタル自転車だけ導入しても、思ったような効果は得られない可能性が高いと思います。

貸し出しステーションも、限られた場所にしか作られないのであれば、ドアtoドアの自転車のメリットが減殺されます。パリなどで整備されているように、200m間隔くらいで、街のあちこちに設置する必要があるでしょう。そうなると、走行レーンのほかに、駐輪スペースも多数確保する必要があります。

既存の都市に確保するなら、場合によっては車道を一車線つぶすなどの必要が出てくるでしょう。地球環境を考え、将来にわたって持続可能な都市交通を考えるのであれば、クルマ、特に業務用や流通関係以外のクルマの都市中心部への乗り入れを制限し、車線を減らすくらいの覚悟が必要になるでしょう。

今までの、クルマ中心の道路整備、都市基盤整備とは全く考え方を改めなければなりません。そのくらいやって初めてレンタル自転車共有サービスが定着するのではないでしょうか。現状で8千6百万台も個人所有の自転車があるわけですし、何らかのメリットや必然性が無ければ、誰も乗り換えないと思われます。

電車や地下鉄などの公共交通が発達していない地方の都市では、クルマが交通の主役になっています。環境への配慮を訴えるだけでは、なかなか自転車への乗り換えは進みません。クルマだと不便で、自転車なら便利という理由があってこそ、レンタル自転車も使われるようになるでしょう。

都市交通としての自転車中には、共有自転車なら面倒なメンテナンスを自分でやらずに済むという部分に魅力を感じる人もあるでしょう。でも、そうしたメリットを提供するには、かなりの手間とコストがかかるはずです。自転車が偏らないように移動させるなどの管理も含めて、しっかりとした運営組織が必要となります。

広告収入でどれだけ賄えるか未知数ですが、レンタル自転車が、常に良好に利用できる状態に保たれなければ、逆に利用者から見向きもされなくなるに違いありません。時々各地の自治体が思い出したように始める、撤去された放置自転車を再利用した無料の自転車シェアサービスが上手くいった試しがないことを見ても明らかです。

一方、そのレンタル自転車共有サービスを整備、維持していくコストが、個人所有の場合よりリーズナブルでなければなりません。今でも、自分がよく利用する複数の駅に自分用の自転車を置いている人がいます。そのコストより安くなければシェアすることにメリットが出ない使い方の人もあるはずです。

システムは、海外での実績のある外資と大手商社が提供してくれます。しかし、ただ導入すればいいというものではないわけです。導入に向けて、場合によっては都市のカタチを変える必要があります。都市交通のあり方、コストの負担レベルまで含めて、地域住民のコンセンサスが問われることになります。

そう考えると、日本でのこの事業に対する理解、都市交通としての自転車への理解はまだまだ足りない気がします。バリとは状況も人々の考え方も違います。ただ、日本でもこうした動きが出てきたこと自体は、環境を考えても、また都市交通としての自転車への理解を深める上でも大きな意義があります。

日本では、いかにクルマ中心の都市基盤整備が行われているかに多くの人が気づくきっかけにもなるかも知れません。放置自転車は確かに問題ですが、都心の貴重な道路空間を自転車の何倍も占有している違法駐車や、パーキングメーターなどのほうが、地球環境を考えたら不要なのではないでしょうか。

構造的に都市の中心部にはクルマが集中して渋滞してしまうものです。どうせ渋滞してクルマの機動力が生かせず、中心部の道路を無駄に長時間占有しているだけなら、少なくとも都市部ではクルマの乗り入れを制限してもいいでしょう。そのぶん、自転車の走行や駐輪環境を整備し、歩行者とも分離して事故を防ぐべきです。

もっと、都市をクルマ中心から、歩行者や自転車中心にシフトしてもいいのではないでしょうか。自転車が円滑に流れるようになれば、特定の場所に滞留する放置自転車も解消する可能性があります。地球環境のためにも、まず、もっと自転車に乗りやすい街を実現すべきことに気づくきっかけとなって欲しいものです。



ここのところ、私も付き合いで飲むことが多くなっています。帰宅が遅くなると、時々、飲んで自転車に乗っていると思しき人も見かけますが、危険ですね。絶対にやめるべきです。酔いが冷めた頃には留置所、運が悪ければ天国かも知れません。

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この記事へのコメント
パリは都市が整備されており,ヴェリブの中継基地の配置が300mおきにあるという,とても使いやすい環境にあるために成功を収めました。
日本はママチャリと呼ばれる軽快車が数千円でスーパーなどで購入できますので,それらの自転車との差別化が測れなければ乗る魅力に欠けると思います。
電動アシストがついているとか,サス付きのMTB,そしてロードバイク,荷物が運べるトライサイクルなどのバリエーションがあれば使われることでしょう。


 放置自転車が増える理由は,チョイ借り感覚の盗難にあると考えると,ステーション以外にちょっと停めた貸自転車を盗難に遭って,盗んだ者は,ステーション以外のところに置き捨てるというパターンが横行すると思います。そうすれば,課金されることもなく,自由に自転車が使えるからです。

 これを避けるには,スーパーなどの小売店舗や駅周辺などの自転車を停めたい場所にステーションを作る必要があり,そういった場所にはすでに違法駐輪自転車が溢れかえっている現状では,用地の確保がかなり難しいと思います。

 cycleloadさんのおっしゃるように自転車を交通主体の一つとして明確に定めた都市設計からやらなければできないことでしょうね。

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Posted by nekki5149 at December 17, 2008 00:22
nekki5149さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
パリには私も滞在したことがあるのですが、実は必ずしも自転車で走りやすい街ではありません。
日本のように自転車で移動する人は多くなかったわけですが、そのことが、かえってヴェリブが定着する背景になったと思います。
もちろん、少しずつ導入するのではなく、システムとして一気に整備したことも重要だと思います。必要な時だけ乗って乗り捨てられるというメリットがいかんなく発揮できたわけです。
何より便利で、渋滞するクルマより速いこともあって、一気に広がったということでしょう。当然、ヨーロッパでの人々の地球環境への意識の高まりも大きいと思います。
また、ツールドフランスの人気でもわかるように、自転車競技の人気が高いなど、同国の伝統的な自転車文化も背景にあると思います。
日本で導入する際には、ただ形だけを取り入れるのではなく、盗難防止や課金システムなども含めたトータルなシステムとしての考え方、成功した要因も合わせて取り入れてほしいと思います。
応援ありがとうございます。
Posted by cycleroad at December 17, 2008 23:11
 
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