May 29, 2009

アラブの国の戦略的インフラ

UAE、アラブ首長国連邦は中東ペルシャ湾岸にある国です。


確認されている原油埋蔵量は世界5位を誇り、天然ガスと合わせた輸出がGDPの4割を占めるアラブの産油国です。その最大の輸出先は日本で、UAE大使館の資料によれば、生産される原油の6割、天然ガスの8割を日本へ輸出しています。同時に日本は最大の輸入相手国でもあります。

日本にとってはサウジアラビアに次ぐ2番目の原油輸入国であり、経済的に深いつながりがある国です。その名の通り7つの首長国から成り、首都はアブダビ首長国の中心都市アブダビですが、最大の都市はドバイ首長国の中心都市、ドバイです。最近は、政治の中心アブダビよりも経済の中心ドバイがよく話題にのほります。

Photo by .EVO.,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.The Palm islands. This image is in the public domain.

面積も原油埋蔵量も、その多くを占めるアブダビ首長国と比べ、埋蔵量の僅かなドバイ首長国は石油依存脱却を目指さざるを得ませんでした。そこで戦略的な国づくりを進め、経済特区に欧米やアラブ諸国からの投資を呼び込みました。今や中東の金融センターであり、物流のハブであり、観光の拠点であり、高級リゾートでもあります。

ドバイは、アラビア半島の砂漠にあって、郊外へ出ればラクダに乗ったり砂漠観光もできますが、市街は摩天楼の立ち並ぶ近代的な都市です。戒律の厳しいイスラム教国とは思えないほど開放的で、多くの外国企業が進出しています。ここ数年間だけでも目を見張るくらいの急速な発展を遂げています。

世界最高級と言われるブルジュ・アル・アラブ、今年完成予定の世界一高いビルで地上162階建、818mのブルジュ・ドバイも有名です。世界最大の人工島パーム・ジュメイラや、世界地図を模したザ・ワールドなどの人工島群、世界初の海中ホテル、ハイドロポリスもやはり今年完成予定です。世界最大のテーマパークも建設中です。

ドバイのウォーターフロントブルジュ・アル・アラブ

人口はわずか2百万ほどですが、世界最大規模も含む数十のショッピングモールがあり、世界的に有名なビーチリゾートもあります。さまざまなマリンスポーツも出来ますし、巨大なウォーターパークや、世界で3番目の規模の屋内スキー場まであります。周辺諸国だけでなく、今や世界中から観光客がやって来ます。

そんなドバイも、さすがにこの金融危機の影響で地価が下落し、海外からの投資が引き上げられ、開発が中断しているものもあるようです。しかし、まだまだ世界の度肝を抜くような計画も目白押しです。多少のペースダウンはあっても、中東や北アフリカのハブ、商業の中心都市として益々発展していきそうです。

さて、そんなドバイに、なんと全長900キロにも及ぶ自転車レーンの建設が予定されています。何が出来ても不思議ではないドバイですが、むしろ自転車レーンのほうが驚きます。何しろ夏場の最高気温の平均は40℃を超え、時に50℃を超え湿度100%なんてこともあると言います。自転車に乗る気にはならない暑さです。

Cycle plan on track for Dubaiこれが、例えば冷房完備のチューブ型自転車専用道と言うなら、いかにもドバイ的ですが、ごく普通の自転車レーンです。特に屋根がついているわけでもなさそうです。イメージ的には冷房完備の動く歩道あたりのほうが、相応しい気がしないでもないないですが、自転車レーンです。

最近まで仕事でドバイに駐在していた知人に聞いたことがありますが、やはり実際に、ドバイで自転車に乗っている人はあまり見かけないそうです。たまにインドやパキスタンから働きに来ている人が乗っているくらいで、大人のドバイ人が乗っているのは見たことがないと言います。

ドバイには、中東では稀な芝生のゴルフ場もあって、ゴルフが出来るくらいですから、サイクリングだって楽しめても不思議ではありません。しかし、必ずしも観光客向けではなく、市内の交通手段としても期待されています。ドバイでは公共交通機関の整備が間に合っておらず、激しい交通渋滞に悩まされているのです。

多くのドバイ人が自家用車を利用する関係で、その渋滞は深刻です。日本企業などが受注して、今、無人運行のドバイメトロが建設中ですが、自転車にも渋滞緩和への貢献が期待されているのです。ちなみに、このドバイメトロは、東京の新交通ゆりかもめの技術を活用したアラビア半島初の電車として、今年9月以降順次開通予定です。

Cycling in Dubai炎天下を延々と走るわけではなく、市内の数キロを自転車で行く分には充分実用的ということでしょう。暑いと言っても、歩くより速いわけですし、渋滞を避けることも出来ます。自転車レーンが整備される背景には、近距離の移動に自転車が使われるようになることが期待されているのです。

全長900キロと言ってもドバイでの話です。ドバイの面積は埼玉県と同じくらい、さらに市街地はその3分の1程度です。そこに900キロもの自転車レーンが整備されれば、充分な距離でしょう。近距離の交通手段として使われることは充分期待できます。年間の降水量がきわめて少ない分、自転車に乗るのに適しているとも言えます。

もう一つ、当局は国民の健康増進を狙っています。調査によればドバイ市民の3分の2が全く運動をしていません。市民には肥満が増加し、心臓病なども増えています。幼児肥満の進行も明らかになっています。サイクリングを通して、市民に運動と活動的な生活習慣を促したいと考えているわけです。

当局は、ヨーロッパの都市で導入されている自転車レーンが渋滞を減らし、生活環境を改善すると共に、人々の健康と幸福を増やすのに劇的な影響を及ぼすことが出来ることを学んだと言います。同時に観光資源を結んだサイクリングコースとして、観光産業の振興にも寄与します。

Dubai to build cycling and pedestrian tracks自転車レーン建設と同時に学校で交通安全教育を進め、クルマの利用者に近距離の現実的な代案として利用を啓発していく計画です。既存の道だけでなく、将来の都市計画にも組み込み、全ての住宅や仕事場から自転車道まで1キロ以内でアクセス出来るよう張り巡らす方針です。

また基盤整備と共に、サイクリストの権利を確立し、その安全を確保したいとしています。こうした措置は、ドバイ居住者に、よりアクティブなライフスタイルを促すプログラムの一環です。これらは、ブラジルのサンパウロで実施されたプロジェクトを参考にしています。

サンパウロでは市民の身体活動の70%アップをもたらしました。このプロジェクトは、人々に運動を促すことは医療であるという考えに基づいています。1日平均僅か30分の運動の増加でも、全体では医療費の節減につながると言います。ストレスを減らし、精神的な健康をもたらす点も見逃せません。

ドバイの伝統的な文化とは異なる習慣であることは確かですが、充分適応出来るはずで、また適応していかなければならないと考えています。単に欧米観光客向けのアピールではなく、冷静な分析と長期的な戦略、そして謙虚に異文化の長所を取り入れる柔軟性に富んだ思考の元に計画されているのです。

建設ラッシュThe Burj Dubai

もちろん長期的なトレンドとして、より少ないエネルギー、より少ない汚染も見据えています。また、市民の間のコミュニティ構築にも役立つと期待しています。中にはドバイの開発戦略について、奇をてらったり、何でも世界一を目指すだけと言う人もいますが、このあたりを見ると、どうして緻密で賢い判断です。

自転車レーンの整備なんて、一番縁が遠いように見えるドバイで、真剣に自転車の活用とインフラの整備が計画されているわけです。これまでも世界各国の例を挙げ、世界のすう勢と書いてきましたが、砂漠のイスラム教国にまで広がっています。ひるがえって日本はどうでしょうか。

確かに日本の夏も暑いですが、気温50度、時に湿度100%にもなるアラビア半島の砂漠の国とは比べるべくもありません。日本は、原油や天然ガスだけでなく、ドバイの戦略的な思考や謙虚に学ぶ姿勢、柔軟性といった要素も輸入すべきなのかも知れません。



どうもイメージ的にアラブで自転車というのが結びつかないだけで、他にも多くの西洋文化が取り入れられているわけですから、考えてみれば自転車が普及しても、ちっともおかしくありませんね。

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この記事へのコメント
なんだ今日は自転車と関係ない話題か
と思って見たらびっくりしました!

Posted by 職人気取り at June 02, 2009 09:21
職人気取りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
アラブの産油国と自転車が結びつくとは思わない人がほとんどでしょうね。
Posted by cycleroad at June 03, 2009 22:16
 
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