June 10, 2009

気をつけるだけでは足りない

自転車による死亡ひき逃げ事件が発生しました。


事件が発生したのは先月7日ですが、その後被害者が死亡し、警察が捜査していることが、このたび明らかになったものです。読売新聞から引用します。


自転車でひき逃げ、73歳女性が死亡…5月大阪・柏原で

大阪府柏原市で5月、同市内に住む無職女性(当時73歳)が自転車にひき逃げされて11日後に死亡する事件があり、府警が重過失致死、道路交通法違反(ひき逃げ)両容疑で捜査していることがわかった。警察庁によると、自転車が人をはねるなどして加害者側となる人身事故は昨年7000件を超え、10年前から5倍以上に急増。同庁は全国の警察本部に自転車の危険走行の取り締まり強化を指示しているが、死亡ひき逃げ事件は極めて異例という。

事件は5月7日午後4時25分頃、柏原市今町の市道で発生。買い物から歩いて帰る途中の内山賢子(たかこ)さんが、後ろから来た自転車にはねられて転倒し、頭を強打。内山さんは意識不明の重体となり、その状態のまま同18日に脳挫傷で亡くなった。車で通りかかり、事故を目撃した男性によると、自転車を運転していたのは30歳ぐらいの男で、紺色の上着に黒のズボン姿。男は、内山さんをはねた直後に振り返ったが、止まらずに北へ逃げ去ったという。

自転車でひき逃げ警察庁によると、自転車が歩行者をはねたり、自転車同士が衝突したりする人身事故は近年、増加傾向が著しく、昨年は7264件(うち死亡事故は7件)と10年前の5・4倍にのぼっている。死亡ひき逃げ事件では、愛知県豊田市で昨年5月、自転車同士の衝突で転倒した会社員の男性が翌日に死亡し、同県警が逃げた男子高校生を過失致死と道交法違反容疑で書類送検したケースなどがある。警察庁は自転車のひき逃げ事件については単独で統計をとっていないが、担当者は「被害者が死亡した事例はほとんど聞いたことがない」という。

一方、近所の主婦(77)によると、内山さんは、農園栽培が趣味で、足が悪くて出歩けない主婦宅に、収穫したての野菜をよく届けていたといい、主婦は「あんなに優しい人がなぜ、こんな目に遭うのか。一日も早く解決してほしい」と目を潤ませて話していた。

情報は柏原署(072・970・1234)へ。(2009年6月9日 読売新聞)

詳しい状況はわかりませんが、警察の調べによると、歩いていた被害者に、後ろから避けようともせずにぶつかったと言います。もしかしたら脇見運転か、ケータイなどを使っていたのかも知れません。いずれにせよ、重過失致死の容疑ですが、何よりも、ひき逃げという行為は許されるものではありません。

警察は、自転車が歩行者をはねる事故は年間約3千件も起きているものの、死亡ひき逃げ事件は極めて珍しいと話しています。ただ、大人の乗る自転車が普通の速度で衝突すれば、特にブレーキもかけずにぶつかったとしたら、かなりの衝撃力です。当然死亡にもつながりますし、死亡事故は他にも起きています。

ふだん、クルマに注意し、事故に遭わないよう気をつけている自転車乗りは多いと思いますが、交通事故の被害者だけでなく加害者にもなりうるという事実に、あらためて思いが至ります。そして、もし事故を起こしてしまった時、逃げずにすぐ被害者を救護し、警察や救急へ通報出来るでしょうか。

死亡ひき逃げ事件もし逃げなければ、不幸な事故というだけかも知れません。しかし、逃げれば確実に刑事責任も問われることになります。事故を起こしてしまったのは取り返せない事実としても、逃げれば事態を更に悪化させます。一方すぐに救護すれば、被害者の容体の悪化を防げる可能性があります。

当然の対応だと言えば、その通りです。しかし、往々にして気が動転してしまい冷静な行動がとれないことは、クルマで事故を起こし、ひき逃げする人が後を絶たないのを見ても明らかです。自転車で加害者になるとは考えてもいない人も多いと思いますが、自分は逃げずに対応できるか、今一度、自問してみるべきかも知れません。

亡くなった被害者は本当にお気の毒です。ご冥福をお祈りするのみですが、これで犯人が捕まらなければ、さぞかし無念なことでしょう。遺族の怒りや悲しみは察するに余りあります。犯人はもう1ヶ月以上逃げ続けていることになりますが、今からでも自首してほしいものです。

まことに不幸な出来事ですが、自転車に乗る人は、これを他山の石とし、自転車が凶器となって人の命を奪いかねないことを、あらためて肝に銘じるべきでしょう。そして、被害者だけでなく加害者にもならなくて済むよう、自分の行動を振り返ってみるべきだと思います。

実際、最近乗り始めたのか、安全に対する意識が低いと思わざるを得ない自転車乗りは少なくありません。見ているほうがヒヤリとするような無謀な走行をしている人もいます。怪我をするもさせるも自己責任とするなら、余計なお世話ではありますが、自分の乗り方を顧みるのも無駄ではないと思います。

脇見や、ケータイを使いながら自転車に乗るのは違法です。ヘッドフォンをつけ、音楽を聴きながら乗るのも危険に気づくのが遅れます。車道の右側走行、二人乗り、無灯火、飲酒運転、いずれも違法ですし、過失が大きくなるだけでなく、事故を起こす危険が高くなるのも見過ごすべきではありません。

多摩川沿い自転車事故多発歩道で歩行者の間を縫うように、しかもスピードを出して走行している人もいますが、その行為が重過失致死傷と紙一重ということに気づくべきです。場合によっては交通刑務所です。また刑事責任だけでなく、民事でも責任を問われるのは間違いありません。実際に自転車による致死傷で高額な損害賠償の判例も出ています。

最近、多摩川サイクリングロードなどでも自転車と歩行者の事故が増え、問題になっているという報道が時々あります。サイクリングロードだと思って飛ばしている人は少なくないと思いますが、実は「歩行者・自転車道」であり、そうでなくても歩行者優先であることには変わりません。

このことに納得がいかない人もあるようです。自転車の歩道走行と一緒で、そもそも自転車と歩行者を一緒にするのが問題と言えば、そうでしょう。しかし、そうであっても、いったん歩行者と事故を起こして相手に怪我をさせれば、自転車側の責任は免れません。クルマと歩行者の場合と同じで過失割合も大きくなります。

例えサイクリングロードであっても、歩行者のすぐ脇を猛スピードですり抜けていれば、いつ何どき歩行者に怪我をさせることになるかわかりません。タイミング悪く歩行者が急に動くかも知れません。仮にそれが原因であったとしても、歩行者をはねてしまったら、加害者になるのは避けられないのです。

自分が、今まで無頓着だったことに、背筋が寒くなる人もあるかも知れません。死亡ひき逃げ事件にはならなくても、怪我をさせて多額の賠償責任を負って、楽しいサイクリングどころではなくなる可能性は、常に路上に口を開けて待っていると思うべきでしょう。その無謀さ、危うさに早く気づくべきです。

危険になったもちろん、こうした無謀な走行をしていなくても、事故になる危険は常にあります。初めての道では、誰しもある程度は慎重になるので、慣れ親しんだ近所の道のほうが、かえって事故の芽が隠れているということもありえます。実際、事故は自宅の近くで起こることが多いという研究もあります。

いつも通る、勝手知ったる道にだって、事故のリスクは隠れているかも知れません。例えば、クルマは出て来ない道だからと、スピードを出したまま曲がっている街角はないでしょうか。子供が飛び出す可能性のある場所、見通しの悪いカーブなど、気づかないでいるリスクのあるポイントはないでしょうか。

今までは運よく大丈夫だっただけで、下手をすれば歩行者と出会い頭に衝突してもおかしくない場所の1ケ所や2ケ所、きっと通っているのではないでしょうか。そうした場所を、この際あらためて総点検してみてもいいでしょう。将来起こりえたかも知れない深刻な事態を未然に防げることを思えば、決して無駄ではありません。

通勤や通学に自転車を使っているなら、あえてその経路を、同じ時間帯に徒歩で通ってみるのも一つの手です。歩行者になってみると、自転車のスピードがいかに脅威に感じるか、身をもって体感できるでしょう。自転車の視点からは見えない危険性が見えてくることもあります。

ふだん通い慣れた道にこそ、危険が潜んでいます。遅れそうになって、いつもより急ぐかも知れません。つい慣れた道だと、油断や慢心も出てくるでしょう。可能性は低いと思っていた危険なケースに、ある日突然遭遇するようになることだって、ないとは言えないのです。

その意味から言うと、シアトルに本拠を置く自転車クラブが運営する“bikewise”などは、とても有益と言えるでしょう。このサービスは、地元で事故が起きた場所、危険な個所、そして盗難に遭った場所などの情報を地図上で共有して、安全で楽しい自転車ライフに役立てようというものです。

bikewise現実に発生した事故の4分の3以上は、報告されていないとみられます。そうした小さな事故や、ヒヤリ、ハッとした事例も蓄積出来れば、より有効なデータベースとなります。事故が多発する箇所には、やはり何らかの原因があるはずで、そうした場所を知っておくだけでも、事故発生のリスクは大いに軽減出来るでしょう。

サイクリングマップを作る動きは日本でも各所で広がっているものの、まだユーザー同士が事故や危険を地図データとして共有しようという動きは聞きません。一部、地域によっては、自治体や地元警察などが、事故や犯罪発生箇所のデータを公開している場合があります。中には参考になるものもあるかも知れません。

何しろ自転車が加害者となる人身事故は昨年7千件を超え、10年前から5倍以上に急増しているのです。報道されない中にも、歩行者を怪我させる事例は多数発生しているわけです。いつ自分が加害者になってもおかしくありません。事故を起こしてから後悔しても遅いわけで、用心するに越したことはないでしょう。

事故の報道に接して、自分も気をつけようと思う人は多いと思いますが、それだけでは注意も持続しません。いかにリスク低減につながる行動が取れるか、あるいは、そうした用心を厭わないくらい現実的なリスクとして、自分にも起こりうると感じられるかが、運命の分かれ目になるかも知れません。



ひったくりも多発しているみたいですね。自転車の前かごからひったくられ、はずみで転倒して怪我する場合もあるようですから、ひったくり防止ネットをつけるなど、注意したいものです。

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この記事へのコメント
これから団塊の人たちが高齢化していくとさらに事故が増えますね。

だからと言って自転車レーンを作れるほど幅のある道路ばかりではないですから難しい。

自転車ツーキニストの疋田智さんの言うとおり「自転車は歩道か車道かを問わず左側通行」ってルールを早いうちに導入するべきだと思います。

そうすれば前か後ろかどちらかに注意をすればいいので事故が減るそうです。

Posted by 職人気取り at June 11, 2009 21:30
職人気取りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自転車レーンを全ての道路に設置できないのは、その通りだと思いますが、やはり歩道上を自転車が通っている限り、歩行者との事故は無くならないでしょう。
その意味で、車道走行を徹底させ、物理的に人と自転車を分離すべきだと思います。
私も、左側通行の徹底は必要だと思いますし、普段自転車に乗っていても痛感します。ぜひそうなってほしいものだと思います。
これも、歩道走行を認めているから、歩行者と同じような感覚で、左右どちらでも通ってしまうようになったのでしょう。軽車両として車道走行、そして当然左側通行が徹底されていたなら、こんなに逆走が多い事態にはなっていなかった気がしますね。
Posted by cycleroad at June 12, 2009 00:05
 
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