July 01, 2009

3人乗り専用自転車の育て方

今日から自転車の3人乗りが解禁となりました。


大人が幼児2人を乗せる3人乗りですから、当該年齢の子供が2人同時にいる人以外、あまり関心のない話題だと思います。ところが、昨日今日のテレビなどでは盛んに報じられ、特集が組まれてたりしています。同時にケータイ使用や傘さしの罰則が強化されたところも多いですが、そちらより注目を浴びている感じです。


3人乗り専用自転車の販売開始自転車3人乗り解禁 専用自転車の販売も始まる

自転車の前と後ろの座席に幼児(6歳未満)を乗せる「3人乗り」が1日、3県を除く44都道府県で解禁された。強度やブレーキ性能など一定の要件を満たした自転車に限られ、3人乗り自転車の販売も始まった。山形、熊本、大分の3県も7月中には解禁になる予定だ。

警察庁によると、3人乗りの要件は、前後の座席に幼児2人を乗せても十分な強度やブレーキ性能があり、ハンドル操作に影響が出る振動が出ないなど6項目。要件を満たさない自転車での3人乗りは道路交通法の規定に触れ、2万円以下の罰金または科料。しかし、各警察は「原則として指導にとどめる」としている。

3人乗り自転車は、ヤマハ発動機では、電動アシストタイプで前後座席(別売り)を付けると13万円台から。ブリヂストンサイクルではアシストがないタイプで前後座席(別売り)を付けると5万円台から発売されている。(2009年7月1日 朝日新聞)


3人乗り自転車に試乗事前に試乗会を開くなど、警察も3人乗り専用自転車をアピールしていますが、実際に使う母親たちの評判は、あまり芳しくないようです。3人乗りが解禁され、そのための安全な自転車が開発されたのはいいことですが、いかんせん値段が高いことに不満が集まっています。

子供を2人乗せる必要のある時期は限定されます。子供が成長すれば、すぐに不要になるわけですから、あまり高額だと購入が躊躇されるのは当然でしょう。行政に何らかの支援を求める声もあります。レンタルで、必要な時期だけ低価格で借りられるようになれば、廃棄物を減らすことにもなって理想的です。

警察庁も全国の警察に通達を出し、自治体と協力してレンタル制度などの導入を推進するよう呼び掛けています。群馬県前橋市がいち早く、購入費の半額(上限4万円)を補助する制度をスタートさせ、東京三鷹市もレンタルを始める予定ですが、財政がひっ迫する中、ほとんどの自治体では支援制度を実施する予定はありません。

自転車「3人乗り」解禁価格が高くなるのは、専用に設計し直し、強度や性能を高めたのが理由のようですが、売り上げが見込めず、量産に踏み切れないのも背景にあるのではないでしょうか。事実、大手でもパナソニックサイクルテックなどは発売していません。本当に売れるか疑問だとし、販売するかは需要を見て考えたいと様子を見ています。

売れないと量産もできず、価格も高止まりでしょう。すると消費者も敬遠して買わず、普及が進みません。警察も、要件を満たす専用自転車以外の自転車での3人乗りに対して、検挙せず原則指導にとどめるとしていますので、ますます専用自転車は売れなくなるというスパイラルになりかねません。

専用に開発された自転車に限るとしたのは、幼児の安全を確保したり、歩行者との事故を防ぐためには必要な措置と言えるでしょう。しかし、結局売れなくて普及せず、依然として普通のママチャリに座席を二つ着けたものが走り回るのでは、条件をつけた意味がありません。せっかくの開発も無駄になってしまいます。

自転車よりクルマ?許可要件を満たすための専用車をメーカーに開発させたことが価格を上げ、結果として普及を阻むと言う構図です。警察も、市民の反発を買ってまで、従来型での3人乗りを摘発できないのは仕方のないところでしょう。でも、専用車で安全を確保しようにも、その普及が進まないというジレンマに陥りかねません。

今回の規制は製造物責任法などではなく、警察が道路交通法の施行細則で、自転車の安全性向上を促そうとしたわけです。その理念はわかりますが、安全性を言うなら、安価で粗悪な自転車はたくさん売られています。3人乗りでは幼児の安全が守れても、2人乗りは守れないというおかしなことにもなりかねません。

安全のために、フレーム強度やブレーキ性能、安定性などを改善するのは必要でしょう。3人乗り専用車は、3人乗るぶん全体の重量は増加します。フレームを太くするなど強度を上げてあるので更に重量が重くなっています。歩行者に衝突すれば、通常より大きな衝突エネルギーとなり、事故の深刻度も高まります。

今の自転車のままでも3人乗りが楽なサドル開発しかし、使われないのなら事故の抑止にもなりません。警察は、これまで禁止してきた3人乗りを解禁したことで、重篤な事故が増えたと批難されたのでは困ると考えて規制したのかも知れません。でも、安価で粗悪な自転車の氾濫を許している中では、専用車の価格が高く感じられて普及が進まないのも仕方ありません。

警察には、規制を設けるだけでなく、その実効性を向上させることが求められます。3人乗り専用車の普及を図るため、利用者への支援策をもっと強化すべきでしょう。それこそ、エコポイントをつけてもいいくらいです。クルマを使うより、よっぽどエコなのですから、エコカーより優遇されてもいいはずです。

消費者に戸惑いも同時に、事故を防ぐためには、歩行者との混在を防ぐため、自転車に歩道を走らせるという道路行政を転換するなど、抜本的な対策も求められるでしょう。いくら走行が安定しても、歩道を走らせていれば事故はおきます。自転車の性能を規制するだけではなく、もっと総合的な対策が求められているのではないでしょうか。

ヨーロッパなどでも、前後に幼児用シートを装着したシティサイクルを見ることはあります。しかし、幼児2人を乗せるために専用に設計された自転車は、もっと進化した形になっています(下の関連記事参照)。安定感も、ユーティリティーの面でも、今回日本の専用車として開発されたものとは大きく違います。

欧米のものと比べると、日本の専用車は、従来の前後乗せの形を元に、応急的な対応にとどまっているように見えるのは私だけではないでしょう。例えば、転倒した場合のために幼児用のヘッドガードをつけたぶん、重心が高くなって安定性がそがれますし、親の視界も遮る形になります。設計思想の点であまり優れているとは思えません。

3人乗り自転車試乗欧米の専用の自転車も値段は高いかも知れませんが、魅力やメリットも小さくありません。安定感や乗りやすさも、見るからに日本のものとは違います。今回の日本の専用車は、従来型と見た目がほとんど変わらないにも関わらず、値段ばかり高くなっているのが不満の集まる理由かも知れません。

もちろん、まだまだ改良はこれからであり、熟成にはもっと時間がかかるということでしょう。制度としても始まったばかりですし、評価を下す段階ではありません。ただメーカーにも、今後価格が手頃で、スタイルや機能にも魅力があり、何より売れる3人乗り自転車の開発を期待したいものです。








それにしても、今のスタイルだと、街では従来型と見分けがつきません。今後3人乗り専用自転車が普及してきても、気がつかないかも知れませんね。

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 さてこの7月からの道交法改正で自転車の3人乗りが認可されました。安全性が確保された専用自転車での運用が原則(従来の自転車で3人乗りをすると2万円以下の罰金か科料の対象となる)ですが、高いことが不評のようですね。1年以上の猶予があったのに、購入に向けて...
じてんしゃ3人乗り解禁なるも・・・【masnoko blog】at July 02, 2009 17:17
この記事へのコメント
初めまして。トラックバックさせていただきました。

3人乗り問題は現状ではなかなか解決の難しい問題ですね。
Posted by masnoko at July 03, 2009 13:22
普及するかは分からないですが期待してます

自転車ルール作りがこんなに早く進んだのは自転車の天下り団体が出来たからだという噂もありますが今のでたらめな状況が改善するなら天下りでも何でも構わないって思ってます
Posted by 職人気取り at July 04, 2009 09:25
こんにちは。
解禁されて初の週末ですね。

僕は、自転車やさんでアルバイトしていますが
今日は試乗に来られた方がとても多かったです。

また大手メーカーだとBSしか販売してないので
今、注文しても2週間以上掛かりそうです。

三人乗りの当事者の主婦の方はとてもパワフルです。

きっとエコポイントや助成金なども出てくるんじゃないか!と思うパワーを感じます。
Posted by よっしー at July 04, 2009 21:28
masnokoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃるように、現状ではいろいろな問題点があるのは確かですね。
トラックバックありがとうございました。
Posted by cycleroad at July 05, 2009 23:04
職人気取りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
これが普及するのか、建前だけで、実際にはあまり普及しないのか判断するには、まだもう少し時間がかかるでしょうね。
でたらめな状況に秩序が構築される方向に進むかについては、何らかの形での変革が必要な気がします。
Posted by cycleroad at July 05, 2009 23:14
よっしーさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですか、反響は大きいようですね。ただ、とりあえず商品を確かめる人は多くても、販売はさほど伸びないという可能性もあると思います。
子育て中のお母さんは確かにパワフルな方が多そうです。同時にシビアかも知れません。
まだ商品も出揃っていないでしょうし、結果が明らかになるのは、まだ先のことになりそうですね。
販売の現場からの情報をありがとうございました。
Posted by cycleroad at July 05, 2009 23:27
こんにちは。5歳0才歳の子供がいます。ブリヂストンの3人乗りを購入しました。さすが専用車、安定感は格段によく、乗り心地は快適です!6万円弱と決して安くはない買い物ですが、思い切って買ってよかったです。補助やレンタルがあれば本当にありがたいですね。欲しいけど高いのよね〜という話はよく聞きますので…
Posted by みくりおママ at July 14, 2009 20:51
みくりおママさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
購入されましたか。なるほど大手メーカーが時間をかけて開発しただけのことはあるようですね。確かに、ちょうど買い替え時期だったとしても、価格的に躊躇する人は多いでしょう。
おっしゃるように、子育て支援の面でも、安全の面でも、普及させて価格を安くして、さらに普及を促すためにも、補助はあってもいいと思いますね。
Posted by cycleroad at July 15, 2009 20:44
まもなく解禁から2年ですね。
助成金・リースなどはそれなりに充実してきたように思います。
製品も各社からリリースされ、バリエーションも豊富になりました(ただ、玉石混淆といった状態ですが)。
いずれにしましても、かなりの台数が普及していますので、安全面で一定の効果がでていることは確かだと思います。
Posted by 3人乗り自転車マリールゥ開発部 at May 28, 2011 22:28
3人乗り自転車マリールゥ開発部さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、助成金やリースを取り入れる自治体のニュースはよく聞くようになりました。
地味なニュースなので、あまり注目する人は多くないと思いますが、子育て中のお母さんにとっては、心強い支援だと思います。
街でも、ピカピカなので、おそらく新型の3人乗り自転車なのだろうと思われる自転車を見ることは増えてきた感じがしますね。
Posted by cycleroad at May 29, 2011 23:31
 
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