July 28, 2009

都市空間を有効に利用する形

夏休みに遊園地に出かけようという人も多いと思います。


遊園地と言えば、観覧車とかメリーゴーランド、ジェットコースターやお化け屋敷などの定番も根強い人気ですが、最近は絶叫マシンと呼ばれるような新しい乗り物が大きな呼び物となっています。子供や絶叫マシン好きの女性はもちろん、家族サービスで仕方なくやって来たお父さんまで、夢中になって楽しんでいたりします。

落下したり、回転したり、猛スピードで駆け抜けたりと、なんと言っても、通常味わうことのないスリルやスピードが魅力なのでしょう。空を飛べない人間にとって、空中を上下したり、移動したりする、あまりない感覚を味わえることも大きな要因かも知れません。

目先を変えるため、新しい絶叫マシンに定期的に入れ替える施設も少なくありません。当然、より刺激的で、過激なものが登場してくることになります。そんな日本の遊園地の大型遊戯施設に慣れている人からすると、ニュージーランドのロトルア市の体験型スポーツ施設にある“Shweeb”など、かなり物足りなく感じるかも知れません。

見る限り、レールから吊り下げられた一人乗りのモノレールのような乗り物です。動力は人力、つまり自分でペダルをこいで進む軌道自転車です。透明なカプセル状のキャビンに寝そべるような形で乗り込みます。日本の遊園地にもありそうな、言わば変わり種自転車のような乗り物に見えます。

Shweeb人力モノレール

もちろん、日本で言う絶叫マシンではありません。でも、動画を見ると意外とスピードが出ています。カーブでは車体が遠心力で傾斜しますし、それなりに楽しそうです。並走するようになっている2台を使って友達同士で競争したり、タイムを争ったりして楽しめます。

日本でも修善寺のサイクルスポーツセンターなどに行くと、軌道の上を進むサイクルモノレールと呼ばれる変わり種自転車があります。それはレールの上を進むタイプですが、この“Shweeb”は、レールからぶら下がるタイプのサイクルモノレールと呼べそうな乗り物です。実際、この名前はドイツの懸垂型モノレールから来ているそうです。

日本の変わり種自転車とは出るスピードが違いますので、幼児とその親向けのアトラクションといった趣きではありません。ただ、スピード感があって楽しそうとは言っても距離も短いですし、なにしろ人力ですから、日本人なら遊園地の乗り物としては物足りなく感じる人も多いのではないでしょうか。



ちなみに、自転車にあまり詳しくない方だと、なぜ前を向いて乗らずに、寝そべる姿勢で乗るのか不思議に思われるかも知れません。実は、リカンベントと呼ばれる、同じような姿勢で乗る自転車があるのですが、それと同じで、この姿勢だとスピードが出るという大きなメリットがあるのです。

リカンベントは通常の前傾姿勢で乗るロードバイクよりスピードが出ます。ですから、ロードレースではリカンベントの使用が禁止されているほどです。その寝そべった姿勢により、走行方向への投影面積が圧倒的に小さくなりますから、なんと言っても風の抵抗が小さくなります。

また、ペダルをこぐ力も、通常のスポーツバイクのように上から踏み込むより、大きな力が出せる形と言われています。足でおもりを上げるレッグプレスなどのトレーニング機器を考えてみてもわかるように、背中を固定して足を延ばすほうが力が入るので、そのぶんスピードが出るわけです。

Shweeb吊り下げ型モノレール

さて、この“Shweeb”、遊園地の乗り物と考えてしまうと、ちょっとスピードの出る、単なる変わり種自転車に過ぎないということになってしまいますが、実はそれだけではありません。この“Shweeb”の開発者は、ただの遊園地用ライド施設ではなく、大きなポテンシャルを持った都市交通の手段として考えているのです。

近年世界中で、都市部へ人口が集中する傾向がますます顕著になっています。都市は着実に過密になり、公共交通のラッシュアワーは激しくなっています。当然クルマは渋滞し、中心部では自転車のほうが速いくらいです。それに伴い大気汚染が拡大し、温暖化ガスの排出も増えている状態です。

例え、電気自動車や燃料電池車が走ることになって、大気汚染は解消されたとしても、道路をつくる余地は乏しくなる一方で渋滞の解消は困難です。地下鉄などの建設も考えられますが、もっと新しいアプローチが必要と提案しているのが、この“Shweeb”なのです。ちなみに、開発者は東京でこれを構想したと言います。

“Shweeb”のレールなら比較的狭い空間にも設置出来ます。既存の道路の上でも、建物や障害物を超えてでも設置可能です。過密都市に残された上空の空間を利用して高速に移動出来ることになります。立体交差ですから信号で止まる必要もありません。完全に覆われたフェアリングによって、雨でも問題なく移動できます。



スピード的にも問題はありません。リカンベント型にして空気抵抗を減らす一方、タイヤをレールと車輪にすることで、転がり抵抗もかなり低減されています。誰でも簡単に時速45キロ程度のスピードを出すことが出来ます。長い直線などならもっと出ますが、時速45キロでもママチャリの3倍、充分なスピードです。

アップダウンを少なく設置するなど工夫すれば、実際かなりの速度で走行出来るでしょう。時速45キロでも、直線なら東京から前橋、大阪から津くらいの距離を2時間で行けることになります。平均時速は、もう少し遅くなるでしょうが、都市交通として充分実用的な速度です。

より速い車両が後ろから接近し、一体となるような状況も想定し、車両前後にクッションを備えるなどの安全対策も施されています。また最初から“Shweeb”を電車状に連結して運行させることも出来ます。そうして数珠つなぎで走行する場合、1台で走行するより、一人ひとりは少ない力で同じスピードが出せるそうです。

スーパーのショッピングカートと同じで、一台ずつを個人が所有するわけではありません。したがって放置自転車の問題もおきず、盗難も関係ありません。他の交通とは空間的に分離されるので、歩行者やクルマとの事故もなくなります。足だけ動かしていれば目的地に着けます。

Shweeb連結式軌道自転車

なにしろモノレールですから、転倒する心配もなければ、出会い頭の衝突もないなど、地上を走る自転車にないメリットもあります。カーブでは遠心力で車体が傾斜しますが、脱輪することはありません。この構造を完成させるため6年の歳月がかかったそうですが、そのぶん安全な乗り物となっています。

都市での移動をするための乗り物と言った時、多くの人の頭の中には、電車やクルマなど動力で動く乗り物が浮かぶはずです。でも、なぜ人力ではいけないのでしょうか。都市交通は、動力で動く乗り物、力を使わずに移動出来るものというのは、単なる思いこみ、固定観念ではないでしょうか。

この“Shweeb”なら、充分実用的な輸送能力とスピードを出せること、都市の限られた空間を有効に活用できること、動力が不要なので少ない初期費用で設置でき、維持費用も少なくて済むこと、レールを進むので誰でも(自転車に乗れない人でも)乗れること、雨天でも問題ないこと、どれをとっても不満はありません。

運動にもなるので、人々の健康増進にも役立ちます。もちろん、足の不自由な人や高齢者などの場合は、動力を使ったり、ベロタクシーのように運転手をつけるなどの方法も考えられます。徒歩と人力だけで都市を移動出来るのであれば、これほどクリーンでエコなことはありません。静かで騒音もなく、まさに持続可能な交通手段です。



よく、映画などで描かれる未来の都市では、クルマが空を飛んでいたりします。皆がそれを信じていた時代もありました。ところが、今やそれがナンセンスなことに誰もが気づき始めています。少なくとも近未来においては、空飛ぶクルマが普及するほどのエネルギーを人類が日常的に使うことは非現実的になりつつあると考えられます。

仮に、化石燃料を使わず電気で動くものだったとしても、バッテリーなどを搭載した空飛ぶ車両を普及させるだけでも、製造段階で地球環境に大きな負荷をかけるでしょう。もし、自分の足の力だけで容易に移動出来るのであれば、わざわざ無駄なエネルギーを使うこともないと多くの人が考えつつあります。

むしろ近未来の都市の光景は、“Shweeb”が張り巡らされたものになるかも知れません。もちろん、一つの可能性であり、こんな人力モノレールが都市の上空を行きかうようになるとは思えない人も多いでしょう。確かにそうかも知れません。では全くの夢物語かと言えば、そうとも言い切れないような気がします。

物流の必要性などから、今後も相変わらずクルマなどの輸送手段は必要となるでしょう。もちろん、化石燃料を燃やすスタイルは早晩改められなければならないとしても、都市からクルマを全て排除するわけにはいきません。その需要は増大し、渋滞が悪化することはあっても、解消はなかなか望めません。

未来の都市交通空中散歩?

ならば、それに代わる都市交通手段が模索されるのは必然です。そのオプションとして、“Shweeb”は充分現実的ではないでしょうか。例えば、ビルの上層階から、すぐ目と鼻の先の向かい側のビルでも、地上にいったん降りると、相当の時間がかかります。人力モノレールで結べれば便利な場合も当然あるはずです。

あるいは、リゾート地の交通手段として採用されるかも知れません。道路の除雪の必要がないなど、その特性を生かして街づくりに採用する街が出てきても不思議ではありません。何かのきっかけで“Shweeb”が設置され、そのポテンシャルが認められて多くの都市に普及していかないとも限りません。

果たして、近い将来我々が“Shweeb”で空中散歩する時代がくるかどうかは予断を許しません。でも、渋滞する道路を下に見ながら、優雅にペダリングしながら移動出来たら、きっと爽快だろうと思います。今は突飛な光景に思えても、普通のことになる可能性は充分あると思います。

そして、空中を高速で移動するのが日常になった時、人々は空中体験を求めて相変わらず遊園地に行くのか、遊園地の乗り物が廃れるのか、あるいは、さらに過激になるのか、私にはわかりません。でも、遊園地の乗り物に乗る時にワクワクするのに似て、日常の移動が少し楽しくなりそうな気がします。







麻生首相、また失言ですか。「高齢者は働くしか能がない、60や80過ぎて手習いなんて遅い。」発言の趣旨は違うようですが、こういう言い方は、そう思っていないと出てこないでしょう。以前も高齢者を揶揄するような発言をしていますし、そういう人なんでしょうね。

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この記事へのコメント
“Shweeb”おもしろいですね!
走っておられる方の爽快な表情が印象的でした。
そして後ろを羊がのそりと通過する辺りは流石NZ。^^
私も是非乗ってみたいです。

ロトルア、訪れたのですがここは行っていませんでした。
残念無念です。次こそは・・・

コレを使った都市交通、大いにありだと思います。
渋滞解消にも貢献できそうですし、個人的には何より、苦しいばかりのエコじゃないのが素敵かなと。
『天空の城ラピュタ』に登場する高いところを走る電車みたいでわくわくします。
Posted by 大阪のオバチャン at July 29, 2009 15:51
大阪のオバチャンさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに楽しそうに見えますね。ロトルアへいらっしゃったのですか。それは残念でした。でも、あまり意識していないと、行っても知らずに通り過ぎてしまうかも知れませんね。
他と比べると遊園地のアトラクションとしては地味ですし、他にパンジージャンプやスカイダイビングの疑似体験施設などもあるようですから、そちらへ目が行ってしまうかも知れません。
アリですよね。街全体が遊園地になってしまうような楽しさがあると思います。楽しさと実用性と安全性を兼ね備えているのですから、下手なバカ高い新交通を建設して赤字を垂れ流すより、よっぽどいいと思います。
とりあえず一部でいいですから、導入してみようという自治体、どこかに現れないものでしょうかね。
Posted by cycleroad at July 31, 2009 12:35
昔、人間は空中のチューブのなかの動く歩道で移動するというアイディアがありましたが空中を自転車で移動ってのはなかなか思いつかないですね


僕はどちらかと言うとマスコミの麻生さん叩きに嫌気がさしてたんですが最近はちょっと庇いきれないです・・・
Posted by 職人気取り at July 31, 2009 19:03
職人気取りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
チューブじゃありませんが、都市部ならペデストリアンデッキなど歩行者用の高架通路もありますが、自転車用というのは聞いたことがないですね。
私も、その発言の裏にある考え方とか、感覚に疑問を感じます。
Posted by cycleroad at August 02, 2009 20:39
才倉黄土さん
 
こんにちは。私はシュイーブ の開発者のジェフリー・バーネットです。シュイーブについて取り上げていただいてありがとうございます。

日本でもシュイーブを作ることを考えています。何かいい情報があったらぜひ教えてください。

ジェフリー・バーネット (の妻、代筆)

Posted by Geoffrey Barnett at August 04, 2009 07:24
Geoffrey Barnettさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
これはこれは、シュイーブの発明者自らコメントいただき光栄です。
発明者の方だから言うわけではありませんが、シュイーブには大いに感心しています。先進的で実用的、環境面でも都市交通としても有用で、しかも楽しそうと、未来の交通手段として大きなポテンシャルを秘めているのではないかと感じているのは本文でも述べたとおりです。ぜひ日本にも上陸してほしいと思っています。
拙プログはただの個人サイトに過ぎませんが、都市交通関連も含めたいろいろな関係者の中にも、ご覧下さっている方があるようで、時々連絡をいただいたりします。そうした方に興味をもっていただけたらいいなと思います。
もちろん、私も何かありましたらご連絡しますし、何か応援できたらいいなと思います。陰ながらご活躍をお祈りすると共に大いに期待しております。
奥さまも代筆いただき、ありがとうございました。
Posted by cycleroad at August 04, 2009 12:53
 
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