August 12, 2009

誰もやらないなら自分がやる

cycle2city夏本番、各地で真夏日を記録しています。


今年は冷夏傾向とは言うものの、晴れた日の街中では、やはりちょっと外を歩くだけで汗がふき出すような暑さです。この暑い中でも自転車通勤を続けている方があると思いますが、この時期は汗をかくので、着がえなどの用意も大変なのではないでしょうか。

都市部の職場だとシャワーが浴びられるような恵まれた環境は、そう多くはないと思います。朝着てきた、汗臭いシャツやタオルを、デスクの回りに干して仕事をしている、なんて人もいるかも知れません。自分で自分の匂いは気づきにくいものですから、知らずに周囲のヒンシュクを買っている可能性もあります。

オーストラリアのクイーンズランド州の州都ブリスベンで働く、John Hack さんと Andrew Onley さんも、ちょうどそんな感じでした。1992年当時、彼らのオフィスは、いたる所に干されたシャツやタオルで、まるでモーテルの部屋のようだと不評を買っていました。

仕事場の不十分な設備に我慢しながらも、自転車で通勤するサイクリストだったジョンさんとアンドリューさんが、あるアィディアを持って、ブリスベン市議会にアプローチしたのは、その7年後のことでした。都市まで自転車で通う人のための施設を作ろうというものです。

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名付けて“cycle2city”、自転車通勤をするサイクリストのためのサービスステーションです。都心のオフィス街に設置されたこの施設では、シャワーや更衣室、ロッカーなどが利用できます。自転車も安心して預けられるので、朝、ここでシャワーを浴び、通勤着から仕事着に着替え、さわやかに出勤出来るというわけです。

自宅から持っていかなくても、清潔なタオルが用意されています。衣類のクリーニングも頼めますし、アイロンなども用意されています。自転車のメンテナンス技術者も常駐しており、自転車の修理や整備はおろか、パーツのオーバーホールから洗車まで頼むことが出来ます。仕事をしている間に仕上げてもらえるので効率的です。

もちろん、シャワーなどの設備は男性用と女性用に分かれています。比率を見ると自転車通勤する女性も少なくないようです。ドライヤーなども用意されているので、女性はシャワーを浴びた後、髪を乾かし、メイクを整えて出社できます。歯ブラシから自転車用品まで扱うショップも入っています。

会員のみがカードキーで入館出来るシステムになっており、スタッフも常駐しています。セキュリティが施されているので自転車を預けておいても、仕事中に盗難に遭う心配はありません。屋内保管なので、路上に駐輪するのと違って愛車がいたずらされたり、雨ざらしになることがないのも嬉しいところでしょう。

cycle2cityこれで料金は1日にコーヒー1杯程度とリーズナブルです。会社帰りにスポーツジムなどを利用することを思えば、決して高い値段ではないでしょう。自転車通勤をしていて、汗や着がえの問題、自転車の保管場所などに悩んでいる人ならお得感のある料金設定です。

彼らが提案した当時、すでにブリスベン市は2012年までに、市内で働く人口の8%が“cycle to work”、つまり自転車で通勤する都市を目指し、世界レベルのサイクルネットワークを構築する方針を固めていました。2008年には4年間で1億ドルに上る予算を自転車専用道路に投入すると市長が表明しています。

専用道路が充実しても、“cycle2city”のような施設が不足すれば、自転車通勤者の増加の大きな障害となります。2人のアプローチは、こうした市の方針とも合致するものであり、そのコンセプトは支持されました。ブリスベン市と市交通局の出資により、“C2C project”が推進されることになったのです。

そして2008年に完成した施設の運営を入札で落札したのが、ジョンさんが取締役を務めるfit2work Pty社であり、市の委託を受けて“C2C”の運営に実際にあたっているのがアンドリューさんです。当時2人は世界の他の施設を全く知らなかったので、彼ら独自の構想だったわけですが、16年を経て現実のものとなったわけです。

最近は欧米の都市を中心に、徐々にこうした施設が出来始めています。日本でも今年、似た機能を一部併設した施設がオープンして話題になりました。しかし、まだごくごく一部に過ぎないのが現実です。日本でも“C2C”のような施設が普及すれば、自転車通勤をしている人の悩みの多くを解決してくれるに違いありません。

日本でも最近、自転車と歩行者の事故の増加を背景に、自転車レーンなどの走行空間の整備の必要性が理解されつつあります。でも、事故の防止だけでなく、ブリスベン市のように都市交通の問題、地球温暖化の防止まで考えるならば、自転車レーンの整備だけでは十分とは言えません。



自転車が本当に活用される都市にするためには、駐輪場の整備も必要ですし、“cycle2city”のようなサービスを提供する施設も必要になってきます。私も過去に取り上げましたが、地方公共団体が主導して施設が設置された都市もあるものの、なかなか地方自治体にそこまでは期待できません。

自分たちの構想を市議会に持ち込み、16年かけて実現させたこの二人の行動力は大したものです。日本の自治体では、プリスペンのように理解度が高くないのも事実ですが、一方で、日本でももっと民間からの提案やアプローチが必要と言えるのかも知れません。

もちろん、地方議会や当局に働きかけ、施設をつくらせるだけが方法ではありません。設置から運営まで民間セクターであってもいいわけです。ただ、そうは言っても普通に自転車通勤する一介の都市労働者が、都市の中心部に施設をオープンさせるのは容易なことではありません。

日本も今、不況の中にあるわけですが、不況の時こそ新しいビジネスを仕込むチャンスだと考える人もいます。不況で事業のコストや採算性を見直し、撤退の決断を下すなど事業が真剣に選別される中で、好況時にはなかなか決断できない判断や、新規事業へ転換する選択肢が生まれることもあるでしょう。

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自転車が将来、都市交通として広く利用されるようになり、その市場に将来性があると考えるならば、こうした事業へ転進するという選択肢もあり得ます。個人での挑戦は難しくても、会社として、あるいは家業として既存の店舗や経営資源を利用できるのなら、事業の転換を考えてみる余地はあると思います。

例えば、サウナや温浴施設、駅前旅館やカラオケ、インターネットカフェ、有料パーキング、街中のガソリンスタンド、駐輪場、そのほか空きビル、商店街の貸店舗など、人の流れが変わって採算が悪化した施設の中に、自転車通勤者向け施設に生まれ変わる可能性を秘めた物件もないとは限りません。

もちろん、立地や周囲の状況によりますが、例えばブームで皇居の周りをジョギングする人が増えたことにより、多くの人で賑う銭湯などの例もあります。会社帰りに皇居周回ジョギングをする人が拠点として、着がえなどに利用するわけです。都心の居住者が減り、家に風呂があるのが当たり前になる中、思わぬ転進と言えるでしょう。

銭湯なら、まさにうってつけですが、別の業種、例えばコインランドリーとか、マンガ喫茶とか、ゲームセンターなどでも転業は可能かも知れません。ほかにも周囲の再開発などで客層や人の流れが変わり、客が入らなくなった施設などに、あるいは今後、検討の余地が出てくる可能性があります。

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日本の現状では、まだ時期尚早かも知れません。一般にはなじみがないのも事実です。いくら今ブームだからと言って、そう簡単に自転車通勤が拡大するとは限りません。むしろ、他の多く事業と同じで、最初は人知れず始まった事業が、長い雌伏の時を経て市民権を得、受け入れられていく可能性があると考えるべきでしょう。

将来性があるとするなら、問題はいつ始めるかです。逆に、注目される業態になってからでは遅いということもあるはずです。過去にも突然現れ、短期間で定着したように見える業種でも、大ヒットの陰には、ずっと注目されない時期があったものも少なくないと言います。最初は兼業で始めてみる手もあります。

当然、盛況が保証されているわけではありません。どのくらい潜在的な需要があるのかわかりませんし、実際に顕在化しているとも言えません。しかし、こうした施設が出てこなければ、市場が生まれないのも間違いありません。商圏などの問題もありますが、地価の関係などから仕込むなら不況の今が好機かも知れません。

自転車で通勤するためだけに、わざわざそんな施設を借りるとは思えないと言う人がいたら、それは自転車通勤をしたことのない人のセリフです。ただ交通費を節約したいとか、ダイエットの必要に迫られているとかだけの理由で、人が自転車通勤をしていると思ったら、大きく見誤ります。

cycle2cityもちろん自転車通勤するような人は、基本的に自転車好きというのはあるでしょう。でも仕方なく自転車通勤しているのではなく、自転車通勤が気持ちいいからするのです。朝から爽快ですし、頭もスッキリして仕事もはかどります。こうした効果は脳科学的にも解明されているそうです。

日本で今後、自転車通勤がとのくらい拡大し、またその環境が整えられるのかは予断を許しません。政府や自治体がどのくらい後押しするかも不明です。日本では、まだ海のものとも山のものともわからない業態ではありますが、世界の都市で増えつつあるのは、まぎれもない事実です。

こんな施設があればと思いつつ、職場の不十分な設備に我慢しながらも、暑い中を自転車通勤しているサイクリストも多いでしょう。ジョンさんとアンドリューさんも最初はそうだったように、自分でプロデュースしようとは思わない人が大半だと思いますが、周囲を見回してみれば、案外身近にその可能性は埋もれているかも知れません。







地震に台風と各地で災害が続きました。暑いのは暑いですが、台風や豪雨の心配を考えれば、太平洋高気圧に安定して張り出してもらわないと困りますね。

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この記事へのコメント
いやはや・・・素晴らしい施設ですね。
そして発起人のお二人は見上げた行動力だと思いました。
と感心するだけしていないで自分で行動を起こさないとダメですよね。
タイトルがずしんと響いています。


Posted by 大阪のオバチャン at August 16, 2009 05:20
こんにちは。これはナイスアイデアですね。私の周囲でも多くの人が、シャワーやロッカー等の施設が無いことを理由に、自転車通勤をあきらめていると聞きます。それをクリアー出来れば、例え多少の経済的負担が掛かったとしても、恐らく利用する方は多いのではないでしょうか。また、仮にロッカー等があったとしても、会社の駐輪場というのは意外に盗難が多いものですから、安心して停められるというのは第一のステップになると思いますね。

話題と違って恐縮ですが、TTヘルメットの注意書きには「公道では使用禁止」とありますよね。あの一文には非常に違和感を覚えるのですが…といいますのも、公道走行禁止といっても車連に公認されていないだけで、法律で定められた決まりではないはずです。確かに速さに重きを置いている為、防御力は低いのかも知れませんが、それでもノーヘルで走るよりはつけたほうがいいと思うのは私だけでしょうか。
Posted by nori at August 16, 2009 12:38
大阪のオバチャンさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
こんな施設が各地に出来るといいですよね。
いえ、私も偉そうなことを言えるわけではありません。この二人のような行動を誰でもとれるわけではないでしょう。
ただ、もっと自転車の持つ可能性に気づき、そこにビジネスチャンスを見出す民間企業が、もっと出てきても良さそうな気がしますね。
Posted by cycleroad at August 17, 2009 21:10
noriさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、シャワーの問題がなければ、運動にもなって一石二鳥ということもあって自転車通勤したい人、潜在的な自転車通勤予備軍の人は少なくないかも知れませんね。
こういう施設が出来れば、実際に試してみる気にもなるでしょうし、経験すれば、さらに増えるかも知れません。
タイムトライアル用の、後ろに長くなったヘルメットのことでしょうか。
私も詳しいわけではありませんが、空気抵抗を減らす性能を優先しているため、衝撃吸収ということに関しては、普通のヘルメットに比べ、かなり劣っていると思います。
もちろん、日本では公道でのヘルメット着用さえ義務付けられていないわけですし、無いよりマシと言えばそうでしょう。
公道走行禁止と言うのは、知らない人がデザインだけで買ってしまうような間違いを防ぐため、メーカーや販売者が注意を促すという意味合いが大きいのではないでしょうか。
Posted by cycleroad at August 17, 2009 21:31
素晴らしいですね
こんな施設が全国に広まる日が来る事を願っています
今の有料駐輪場は場所だけ貸して
セキュリティは笊という所がほとんどですので
是非普及してほしいです
Posted by d at June 10, 2010 23:07
dさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
うらやましい環境ですよね。日本でも一部には、類似の施設が出来つつありますが、ランナー向けの施設の一部だったり、スポーツジムの兼業だったりと、まだまだ専業の本格的な施設ではないようです。
事業者のほうも、一時的なブームと見ている部分もあるのでしょう。まだ広く普及する段階とは言えない状態です。今後に期待というところですね。
Posted by cycleroad at June 11, 2010 23:38
 
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