March 10, 2010

雪の上でもサドルにまたがる

昨日から今日にかけて、日本列島は大荒れとなりました。


九州から北海道の広い範囲で雪や暴風による被害が出ています。関東の一部でも雪が積り、転倒するなどして多くのケガ人が出ました。この全国的な大雪により、交通機関などにも大きな影響が出たようです。北日本では、明日にかけても大雪や猛吹雪が予想され、雪と暴風に警戒が必要となっています。

季節外れの大雪ですが、雪が人々の移動にとって、大きな妨げとなるのは古今東西変わりません。特に、現代のような動力による除雪車や圧雪車のない時代、降雪量の多い地域では、雪は行く手を遮る厄介な存在となって、近い距離の移動でも大きな労力が必要だったことでしょう。

スイスのグリンデルワルト地方観光地として人気が高い、スイスのグリンデルワルト地方も、そんな地域の一つです。アイガーの麓でヴェッターホルンにも近く、氷河を望むアルプスの村は、夏のユングフラウ地方の観光拠点として、日本人にも絶大な人気を誇っています。高山植物が絨毯のように咲く美しいところです。

しかし、アルプスの村ですから冬の降雪量は少なくありません。冬は村内を移動するだけでも大変でした。今からおよそ100年前、村に住む Christian Buhlmann という人が、冬の雪の中を歩くことにうんざりして、夏に使っていた自転車にヒントを得て作ったのが、“velogemel”です。

“Velo”は自転車、“gemel”は、この地方の方言で「ソリ」です。木でつくられた自転車型ソリを移動に使おうというわけです。これによって、移動のスピードは上がり、ラクになりました。基本的にラクになるのは下りと、足で蹴って進む平坦な場所だけですが、それだけでも大きな違いです。

ヴェロゲメルvelogemel木製で軽いので、上りは肩に担いでも、さほど苦になりません。この地方では、“velogemel”を郵便配達や医者の往診から、通学に人々の買い物まで広く使われる人気の乗り物となりました。雪上での移動を助ける、冬の自転車というわけです。

ただ、なぜスキーではないのか、という疑問も浮かびます。スキーのほうが身近だし、多少の坂ならスケーティングで上ることも可能です。はるか昔から使われてきましたし、ヨーロッパでは昔からクロスカントリースキーも盛んです。スキーを使わずに、なぜ「ヴェロゲメル」?という気がしないでもありません。

この「ヴェロゲメル」、今で言うスノーバイクです。地域によって、スキーバイクとかスノーボブなどとも呼ばれます。少しずつ形は違ったりしますが、自転車のような形をして、またがって乗るソリという点では、基本的に同じものと言って差し支えないでしょう。

郵便配達も1905年頃のスノーローラー雪と接する面の幅が広いものをスノーバイク、狭いものをスキーバイクと呼ぶ場合もあるようですが、いずれにせよ、これらスノーバイク系は、スキーやスノーボードと比べて一般的ではありません。スキーやスノーボードをやる人であれば、スキー場へ行って、わざわざスノーバイクに乗ることはあまりないでしょう。

しかし、実はこのヴェロゲメルやスノーバイクなど、自転車型のソリには、習得がスキーやスノーボードに比べて、はるかに容易というメリットがあるのです。スキーが出来ない人でも、簡単に雪上を滑れるようになると言います。ヴェロゲメルは、誰もが乗れるという大きな利点があったわけです。

でも自転車に乗れない人には難しいのでは、という疑問を持つ人もあると思いますが、そんなことはありません。ほとんど誰でも、数時間もあればマスター出来ると言います。これは、スキーやスノーボードで滑れるようになるのと比べて、格段に短い時間です。



普通の自転車に乗れるようになるまで、何日もかかったという人には、納得がいかないかも知れません。しかし、最近は、自転車に乗る練習方法も昔と変わってきており、最初から補助輪なしで練習する子供が増えていると言います。(下の関連記事参照。)邪魔になるペダルを外して練習するのです。

ペダルがない自転車にまたがり、足で蹴って進むだけなら、子供でも簡単に出来るようになります。足を地面から離してバランスをとりながら、惰性で進むのもすぐに出来るようになるでしょう。ペダルをこぐのは、また別ですが、またがってバランスをとるだけなら、誰でも比較的簡単に出来るわけです。



ヴェロゲメルやスノーバイクも同じことで、またがってバランスをとるだけです。こちらはペダルも最初からありませんし、雪に足をつけて支えることも出来るサドルの高さです。雪の上ですから、転んでもたいして痛くありません。そう考えると、2〜3時間もすれば、ほとんどの人が何とか滑れるようになりそうです。

私は、スノーバイクに乗ったことはありませんが、実際に現物で滑る人を見たことがあります。スキー場で、リフトの山頂駅にいた年配の女性係員が、交代でスノーバイクに乗って滑って降りて行くのを見ました。もしかしたら、ヒザなどが痛くてスキーが履けないのかなと思いましたが、その時は、深く気にとめませんでした。

今でも人気スポーツ今にして思えば、スキーが出来ない人でも、簡単に滑って降りることが出来る乗り物だったというわけです。あまり見かけないので、一見、なんだか特殊な道具のような気がしますが、実はとても簡単に乗れ、ある意味リーズナブルな移動手段だったわけです。100年近く前、グリンデルワルトでヴェロゲメルが人気となったのも道理です。

今でも同地方では、このヴェロゲメルは冬の遊びとして人気があります。普通のソリはスイスでも各地で見ることが出来ますが、自転車型のソリ「ヴェロゲメル」はグリンデルワルトだけだと言います。1996年からは、「ヴェロゲメル・ワールドチャンピオンシップ」が行われ、海外からも競技者が集まってレースを楽しんでいます。

今では、村の冬の名物イベントとなっています。グリンデルワルトの観光案内所では、日本人にも参加を呼びかけています。もちろん往復の旅費などは全て自分持ちですが、現地にさえ行ければ、誰でも「日本代表」として、「ワールドチャンピオンシップ」に出場出来るわけです。

実際、今年の大会には日本のお笑い芸人が出場し、テレビのバラエティ番組で紹介されていました。もちろん初めてヴェロゲメルに乗ったわけですが、すぐにマスターして、1日練習したくらいでも、出場者中の中盤からやや後ろくらいのタイムでゴールしていました。

Velogemel World-Championship Grindelwaldヴェロゲメル・ワールドチャンピオンシップ

実は、この点もメリットです。つまり、ある程度習熟したもの同士であれば、さほど大きな差がつかないという点です。競技としても白熱して面白いわけです。基本的にソリですから、転ばずに滑ることが出来れば、そう差がつくものでもないでしょう。大人と子供、家族でも同じレベルで楽しめるスポーツというわけです。

ヴェロゲメルはクラシカルで、レトロなスノーバイク、あるいはスキーバイクですが、現在も製造している会社があって、日本人でも購入する人があるそうです。木製ですが、滑走面には金属が張られ、豚の脂をワックスとして使用するなど、独特のスタイルで現在も愛好者の間では人気があるようです。



日本でも、スノーバイク類は、スキーやスノーボードのようにメジャーな存在ではありません。ただ、誰でも簡単に出来るウィンタースポーツとして、もっと注目されてもいいような気がします。やはり、スキーやスノーボードは、習得に時間がかかりますし、費用もかかります。

スキーやスノーボード客は、一時のブーム期から激減してしまい、閉鎖されるスキー場も相次いでいます。スキー場以外の場所でも、移動を阻む厄介な雪を逆手にとって観光客を呼び込む手立てとなるかも知れません。ウィンタースポーツの間口を広げる意味からも、自転車型ソリ、もっと生かす方法があるような気がします。


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高知では桜が咲いたと言うのに、さんざんな目にあった人も多いでしょうね。もうこれで、暖かくなるのでしょうか。

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この記事へのコメント
確かにこれは面白そうな乗り物ですね。僕もやってみたい。
スキー場でレンタルしてくれるといいですね。
これからの雪山スポーツは自分でスキーやスノボーの道具を持ってきて楽しむのではなく、手ぶらで来て午前と午後で道具を変えて遊ぶとか、もっと自由な遊び方ができるといいですね。
そうすれば遊びに行く人も増えるような気がします。
Posted by トンサン at March 12, 2010 10:25
トンサンさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も一度やってみたいものだと思いますが、レンタルしているのは見たことがありません。結局スキーをしてしまって、まともに探したことがないのもありますが..。
あまりメジャーでないのは確かですが、探せばレンタルもあるのかも知れません。
そうですね、下手でも誰でも楽しめるようなメニューがあると、もっと間口が広がって、ウィンタースポーツに目を向ける人も増えそうです。
今だと、スキーやスノボをやらない人は全くスキー場へ行くチャンスがありませんから、スキーやスノボをしない人でも誘えば行く目的になるような遊び方があるといいでしょうね。
Posted by cycleroad at March 13, 2010 23:15
これはすばらしい!

何よりも心魅かれるのはこのデザインとヒストリーです。
スノーバイクには、合理的ではあるけれども無機的な感じがあって関心を持てなかったのです。

スキー人口激減で、僕の住む八ヶ岳山麓でもスキー場は経営が苦しいのです。
近くの入笠山のスキー場はスキーよりも夏場のマウンテンバイクのダウンヒルで有名なくらいです。
自転車乗りのウインタースポーツとしてヴェロゲメルは良いかも知れません。

いろいろ想像が膨らむので近々自分のブログで取り上げようと思います、その際はリンクさせて頂きたく存じます。
Posted by ひろにゃんof風琴屋 at March 14, 2010 01:15
ひろにゃんof風琴屋さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、人々の生活から出てきた素朴でシンプルな魅力がありますね。機能的なスノーバイクに移行することなく、ヴェロゲメルが100年にわたって住民から愛され、乗り続けられているのも、そのあたりに理由があるのかも知れません。
言われてみれば、私も八ヶ岳方面のスキーには、東京から近いこともあって、よく行きましたが、最近はずいぶん行っていません。友人などを見ても、スキーに行かなくなった人は多いですから、スキー客の激減は実感します。
日本でも、ヴェロゲメルの愛好家が増えて、大会などが開かれるようになったら面白いでしょうね。
どうぞ、ご自由にリンクなさって下さい。
Posted by cycleroad at March 15, 2010 22:20
 
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