May 12, 2010

自転車における幾何学の応用

自転車の車輪に疑問をもった人がいます。


中国山東省のチンタオに住む中国人のGuan Baihuaさんは、自転車のタイヤが円形である必要があるのだろうかと考えました。そして、18カ月かかってタイヤが円形でなく多角形の自転車を製作しました。2008年の北京オリンピックのロゴが入っていますが、2009年の5月に発表されました。

Image Multi-angle-wheel bicycle, www.china.org.cn

円形でないばかりか、前後の形も違い、5角形と3角形のような形をしています。この写真を見て、「ああ、よくある変わり種自転車をまた作ったわけね。」と思った人は多いに違いありません。確かに、遊園地などで見かける子供向けのおもしろ自転車のようにも見えます。

車軸がタイヤの中心になく、ピョンピョン跳ねるように進む遊具なんかも連想させます。タイヤを多角形にし、しかも前後バラバラにすることで、乗っている人が上下するような、ぎこちない動き、もしくはガタガタと揺れて滑稽な動きをするんじゃないかと想像した人も多いのではないでしょうか。

しかし、その予想はハズレです。この自転車、走行しても上下にブレず、ガタガタと揺れないと言ったら驚くでしょうか。その秘密は車輪の形にあります。この車輪、普通の多角形ではありません。数学、とくに幾何学に詳しい人はお気づきだと思いますが、ルーローの多角形と呼ばれる形をしているのです。

Image Multi-angle-wheel bicycle, www.china.org.cn

後輪がルーローの三角形、前輪がルーローの五角形ということになります。三角形のほうで説明すると、三角形の辺が膨らんだような形をしています。この曲線は円弧で、円弧の反対側にある頂点を弧の中心とした、半径が各頂点を結ぶ直線と同じ長さの円弧になっています。

つまり、正三角形の各頂点を中心にし、半径がその正三角形の1辺となる円弧を、他の2つの頂点の間に描き、それを結んだ図形ということになります。曲線で構成されていますので、正確に言うと多角形ではありませんが、ルーローの多角形は、必ず奇数角形です。ルーローの4角形や6角形はありません。

Image by George Shuklin,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

そして、このルーローの多角形は定幅図形と呼ばれる図形になっています。定幅図形とは、回転させても、その高さや幅が変わらない図形です。図のルーローの三角形で言うと、回転させても常に外側にある正方形に接しています。つまり、幅や高さが一定なのです。

この面白い図形、フランツ・ルーローという人が開発したので、ルーローの多角形と呼ばれています。ちなみに、円も定幅図形なので、正方形に接して回転する円を考えた時、常に幅や高さは一定です。円の場合は重心、すなわち円の中心も一定ですが、ルーローの多角形の場合、重心の位置は一定ではありません。

Image by Y_tambe,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

ルーローの三角形で有名なのは、図のようなロータリーエンジンでしょう。一般的なピストン型のエンジンと違って、往復運動を回転運動に変換する必要がないので、さまざまなメリットがあります。このロータリーエンジンと同じ、ルーローの三角形が車輪の形に使われているわけです。

ロータリーエンジンの場合、軸が固定されているので三角形が上下動するように見えますが、その前の図を見るとわかるように、軸を固定しなければ、高さは変わらないまま回転します。その代わり、回転に応じて重心が移動するような形になるわけです。

回転させても、常に高さが変わらない図形です。写真をよく見ると、それぞれタイヤの上部が前輪や後輪の上に突き出したフレームのまっすぐな部分に当たっているように見えます。このフレームの直線と地面を、正方形の上辺と下辺と考えるならば、この間の距離は一定で変わらないことになります。

Image Multi-angle-wheel bicycle, www.china.org.cn

つまり、このタイヤを回転させても上下動は無いわけです。ただ、ルーローの三角形の場合、重心は移動します。三角形の車輪の軸は動いてしまうので、後輪のシートステーに当たる部分のフレームがありません。軸が動いてもいいように出来ているので、タイヤの高さは変わらず、上下動しません。

前輪のルーローの五角形のほうもフロントフォークとハブの接続部分に工夫がなされており、軸は動くものの上下動しないようになっています。こうした工夫によって、見るからに歪んだ形のタイヤなのに、意外や意外、上下に振動しないで進むというわけです。

Image Multi-angle-wheel bicycle, www.china.org.cn

報じるサイトには、その辺の言及が全くありませんが、実は単なる変わり種自転車ではなく数学的に考えて作られた自転車だったわけです。ただ、それが何の役に立つのかと言われれば、今のところわかりません。しかし、タイヤは円形なのが当たり前という常識を覆し、自転車を大きく変える可能性だって無いとは言いきれません。

このルーローの三角形型のタイヤ、実は幅(高さでもいい。)の同じ円形のタイヤと、同じ周長になります。数学的に言うと、バルビエの定理により、元になる正三角形の一片の長さDのルーローの三角形の周長は、直径Dの円の円周と等しいことになります。既存のタイヤを流用して、同じ径のルーローの多角形型タイヤが出来ます。

サイクルコンピュータも周長が同じなので、そのままで使えます。一方、面積はブラシュケ・ルベーグの定理より、同じ幅を持つ図形の中ではルーローの三角形が最小です。実際の面積Sは下の式で求められますが、円の9割くらいの大きさとなります。固定でない車軸に加え、このあたりの性質が何かに活かせるかも知れません。



例えが大げさですが、熱機関が登場したのは、実は13世紀頃です。後年、それが蒸気機関や自動車などのイノベーションを通じて産業革命につながりました。半導体の登場そのものではなく、コンピュータやインターネットをはじめとするイノベーションによって、世界が変わったわけです。

発見や発明も、それだけで何かの役に立つとは限りません。イノベーションがあってこそ、社会を大きく変えていきます。ルーローの多角形型タイヤから、果たしてイノベーションが生まれるかわかりませんが、成熟した製品と言える自転車の中にさえ、まだまだイノベーションの種は埋まっているのかも知れません。


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W杯が近付いて来ています。メンバーも発表されましたが、今までと比べて、今イチ盛り上がりませんね。いろいろな要因があるのでしょうけど..。

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この記事へのコメント
こ、これはスゴイですね・・・

> つまり、このタイヤを回転させても上下動は無いわけです。
原理は分かっても、想像つきません (^^;
どんな感じなんでしょう、乗ってみたい。

これ、ブレーキ付いてないですよね。
付けるとしたら、どのブレーキになりますかね…こんなホイールで。
とりあえず、今の日本の公道は走れなそうですね(笑)
Posted by youshookme at May 13, 2010 22:51
人類最大の発明品と言われる車輪ですが、こんな具合に変形させた人ってどんな頭の構造してるんでしょう?

どんな役に立つのか?よりも、とりあえずやってみよう!という気概は見習いたいですね。
Posted by Mr.ポテトヘッド at May 14, 2010 11:02
youshookmeさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
たしかに、頭ではわかっても実感はわきにくいですよね。模型でも作ってみればいいのかも知れませんが、それも難しそうですし..。
ブレーキはついていませんが、フィクシーですね。つまり、ピストバイクやヨーロッパの伝統的なダッヂバイクなどと同じで、ギヤが固定でフリーホイールになっていないのです。
普通の自転車はフリーホイールなので、ペダルを止めたり逆回しをするとペダルが空転しますが、これは空転しません。
ですから、こぐのをやめるか、逆回転させれば、ブレーキがかかります。
オランダあたりに行けば、今でも当たり前に走っていますが、さすがに最近は前輪には普通のブレーキがつけられていたりします。
おっしゃるように、このままでは、日本だと違法ですね。
Posted by cycleroad at May 14, 2010 23:00
Mr.ポテトヘッドさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
この方、退役軍人らしいですが、どうやら、とりあえず、何か普通と違うものを作って、人々を驚かせたかったみたいですね。
おっしゃるように、最初から計算ずくではなく、面白そうだったからとか、出来てしまったというのが、実は後々、何かのブレークスルーになったりするのでしょうね。
Posted by cycleroad at May 14, 2010 23:09
最初は「また変なものを造る人が・・・」と思いながら読んでましたが、「上下にぶれない」のあたりから真剣に読んでいました。

突拍子もないことであっても、結果的には大きな発見に繋がる事もあるのですね。
Posted by SEO対策マニア at May 21, 2010 18:19
SEO対策マニアさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ほとんどの人が、最初はそう思うと思います。見た目から言っても、いかにも奇をてらった感じが満開です(笑)。
見た目とか、第一印象にとらわれずに、本質を見なくてはいけない、と言えるかも知れません。
Posted by cycleroad at May 21, 2010 23:48
こんにちは
面白い自転車ですね。
理屈は分かりませんが
実用性はあるのでしょうか?
日本で乗る場合に法規制に触れないですか。

Posted by troiskanon at June 03, 2010 09:36
troiskanonさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
一応、普通のタイヤの自転車と同じように走れますから、自転車として使えることは使えるでしょう。
日本で乗る場合は、ブレーキがついていないので問題になります。ピストパイクと同じでペダルを逆回転させれば止まりますが、このままだと違法ですね。
Posted by cycleroad at June 04, 2010 22:15
 
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