August 28, 2010

一方通行ではなく循環させる

少し前ですが、東京では清掃工場が軒並み停止する事態が起きました。


東京都内4カ所のごみ焼却施設で、大量の水銀が検出され、焼却炉が停止しました。水銀が付着してしまった焼却施設では部品の交換などが必要となり、被害額は約3億円にのぼると見られています。6月から2基のうち1基の焼却炉が停止している足立清掃工場では、焼却しきれないゴミがあふれる事態に陥っています。

この暑い時期にゴミが滞留し、ハエなどが大量に発生して、職員は殺虫剤の散布に追われる羽目になっています。復旧は9月の見込みです。ほかにも東京23区内では足立工場の1基のほか、7月に板橋で1基、練馬で2基、世田谷でも1基の炉で水銀が検出されて、いずれも停止に追い込まれています。

停止した清掃工場家庭ごみによるものとは考えられず、悪質な産業廃棄物の不法投棄の疑いが強いと見られています。どの程度の量の水銀が混入したのかは不明ですが、少なくとも200グラム以上の水銀が一度に持ち込まれたと推定されます。しかし、200グラムの水銀は、よく見る水銀式血圧計だと、わずか4台の量です。

医療機器として通常は適切に処理されているはずですし、血圧計と断定されているわけではありません。しかし、わずか血圧計4台混入しただけで、清掃工場の焼却炉が停止してしまうとは驚きです。意外な弱点が露呈した感がありますが、ゴミ収集が滞れば、私たちの生活に即、多大な影響が及ぶわけですから、決して他人事ではありません。

そうでなくても、家庭から出るゴミは増え続けています。住民の反対などもあって、急な清掃工場の建設は困難です。埋め立て処分場の許容量にも限りがあります。今回のように、急に停止するリスクも判明し、現代の都市の生活は、脆弱な基盤の上に成り立っている部分のあることが、あらためてわかります。

私たちも、清掃工場の処理に過度に依存しないよう、日頃からゴミの減量化に取り組んだり、リサイクルを進めたりする必要があるでしょう。ただ、東京のような大都市では、ゴミの分別でさえ徹底されなかったりするのが現状です。不法投棄も日常茶飯事のように起きています。



もう少し根本的なところから、私たちの生活を見直していかなければ、ゴミ処理工場の能力に大きく左右される状態からは脱却出来ないでしょう。そのことを考える上で、いい見本が、実は東京自身にあります。正確に言うと、今から150年ほど前の東京、つまり江戸時代の東京、江戸です。

江戸には今のような下水道がなかったので、人糞は集めて肥料にしていました。当時は人糞を集める側が、お金なり野菜なりを支払う形です。これにより、当時の江戸は世界的に見ても清潔な都市だったと言われています。来訪した外国人は少ないですが、当時の他の都市の状況に比べ、その清潔さに非常に驚いたそうです。

焼却が追いつかないごみ庶民の衣類は古着が普通で、その着古しを買い集め、古着の仕立屋が再生して、また売っていました。身の回りのもの、例えば、破れたり壊れた傘も買いとって再生して、また売るといった具合です。傘の破れた油紙は味噌や魚の包装紙にし、折れた骨は燃料として釜にくべるという徹底ぶりですが、それが当たり前のように行われていたと言います。

古い「ほうき」など使い道がないように思いますが、ちゃんと買ってくれます。シュロの部分を分解して縄にしたり、タワシにしてまた売るのです。当時の容器として一般的だった樽も、当然のことながら捨てずに再利用するので、買い取ってくれます。建材や廃材などの木の切れっぱしまで引き取って、薪として売っていました。

その木切れは薄く削って硫黄などを塗り、火を着けやすくして売られていました。ろうそくを使った後に残る溶けた「ろう」も、わざわざ買い集めて再生されます。そればかりか、かまどで火を燃やした後の「灰」まで買い集めて肥料に使っていたと言います。

もちろん、日用品など身の回りのものは、徹底して修理して使います。鍋や釜、樽、かまど、雪駄、下駄、錠前、算盤、提灯、臼、キセルや羽織の紐まで、それぞれ専門の職人がいて、全て直して使うのが当たり前だったそうです。割れた茶碗などの瀬戸物も、当時は焼き継ぎという方法で接着して再生して使いました。

いらなくなった古いお椀も、集めて漆などを塗って再生し、また売ります。江戸八百八町と言いますが、町ごとに、長屋などから出るゴミは、燃やすもの、肥料にするもの、埋め立てに使うものと分別して回収されていたと言います。当時は馬が交通手段でしたから、道端の馬糞まで、拾って燃料として売られていました。

まさに、捨てるものなど何もないのではないかと思えるほどです。当時はこれが当たり前だったわけですが、今から思えば、優れたリサイクル都市です。江戸は18世紀の初頭、既に当時の世界最大か最大規模の大都市だったと見られていますが、そんな大都市で、このようなリサイクルの仕組みが確立していたとは驚くばかりです。

現代とは時代が違うので、当然今やろうとしてもナンセンスなものもあります。しかし、なるべくリサイクルするという考え方は見習いたいものです。最近は古着が人気を集めたり、リサイクルショップを利用する人も増えています。リサイクルの機運が高まっている今こそ、もっと仕組みの確立を進めるべきではないでしょうか。

The Foodcycle, www.newyorkcompost.com

ものによって、例えばゴミの中でも大きな割合を占める、「生ゴミ」は、なかなかリサイクルが進んでいません。コンポスト、堆肥にして肥料として使えばいいのでしょうけど、個人レベルの家庭菜園では、結局処理しきれなくなるケースも多いと言います。生ゴミだけ分別収集して、まとめて処理するのも難しいものがあります。

それはニューヨークも事情は同じです。ニューヨーク公衆衛生局は、人口も多く収集経費がかかること、処理施設がないことなどを理由に、コンポストには否定的です。ニューヨークのゴミのうち、最低でも29%は堆肥に出来る生ごみですが、そのまま埋立地に直行することになります。現代では生ゴミの再利用は容易ではありません。

そんな中、ニューヨークで新しい試みを提案している人たちがいます。市内の中小のレストランから出る生ゴミを、直接郊外の農家に運ぶことで、食品の循環、“Foodcycle”を作ろうという計画です。農家はそれを堆肥として肥料にし、野菜などの栽培に使い、それで出来た作物がまた都市で消費されるという循環です。

The Foodcycle, www.newyorkcompost.com

特徴的なのは、その輸送に自転車を使おうというのです。“Foodcycle”には、その意味も込められています。レストランで出る生ゴミを専用のコンテナに入れ、それをローコストなカーゴ自転車で運びます。小回りもききますし、燃料代もかからず、排ガスを出さない自転車のほうが環境にもいいのは言うまでもありません。

土から得られた栄養分を、作物を通してまた土に戻してやることで、埋め立て地に直行するゴミが減らせるだけではありません。肥料代が節約でき、土質の改善につながるので農家にも大きなメリットがあります。最近ニューヨークでも関心の高まっているオーガニック栽培も追い風でしょう。

The Foodcycle, www.newyorkcompost.comThe Foodcycle, www.newyorkcompost.com

そのぶんニューヨークの街が綺麗になって、害虫やネズミなどの発生も減ります。こうした動きが拡大すれば、公衆衛生に貢献してその経費を節減し、ゴミ処理費用も減らせる可能性があります。もちろんトータルで温暖化ガスの削減にも貢献する、とても有意義な取り組みと言えるでしょう。

New York Compost”と名付けられた、このプロジェクトを推進するため、カーゴ自転車を導入する資金が必要になりますが、当面必要な6千ドルは、市民の投資でまかなわれます。“Kickstarter”という起業家やアーティストと、投資してもいいと考える市民を結ぶサイトで、このプロジェクトへの出資を募っています。

このサイト、お金を必要としている人と、出してもいい人を結ぶサイトです。例えば、CDデビューしたいミュージシャンの卵がレコーディングへの投資を募ります。気に入った人が、少しずつ小額の出資を申し出ます。期日までに目標に達すれば、その金額を手にしますが、達しなければゼロです。

お金を出す人は投資家というより支援者、賛同者に近いかも知れません。投資と引き換えに、初回限定のCDをもらえたり、そのアーティストのコンサートチケットやTシャツがもらえたりするのがインセンティブです。もちろん、ミュージシャンに限らず、賛同を得られそうなクリエィティブな計画であればオーケーです。

“New York Compost”のプロジェクトの場合、15ドルの出資で、1回分の生ゴミを回収してくれます。25ドルなら提携レストランから無料のアイテムが受け取れます。75ドルだと、近郊の農場へのツアーに参加でき、農業とコンポストについて学ぶことが出来ることになります。

150ドルならば、農場へ招待されて、実際にフードサイクルの稼働しているところを見ることが出来ます。そして、250ドルを出資するような熱心な人は、実際のカーゴ自転車で生ゴミを運ぶことが出来ます。自転車で、都市と「土」を結ぶ体験が出来るというわけです。

このインセンティブはともかくとして、近頃こうした問題には多くの人の関心が高まっているのでしょう。この記事を書いている段階で、すでに目標額に達しています。ニューヨーカーも、ゴミやエネルギー問題に無頓着な人ばかりでないのは明らかです。

このプロジェクト、そのコンセプトもプロセスもユニークです。日本の都市近郊農業でも成り立つのかわかりませんが、例えば東京23区内にも畑はあります。十分試す価値はあるように思います。生ゴミを減らす取り組みを人々にアピールし、広く啓発する効果も期待出来るでしょう。

言わば、清掃工場を新たに建設して処理能力を増やす代わりに、そのぶん自転車を走らせようという試みです。自転車でリサイクルを促すわけです。都市の衛生基盤の脆弱性の解消は、ゴミ処理施設の建設に頼ると容易ではありませんが、古来の知恵や、現代のアイディアのように、循環の仕組みを工夫する余地はありそうです。


NEC Direct(NECダイレクト)


とうとう200歳が戸籍上生存ですか。呆れてしまいます。戸籍とか住民登録って何なんでしょう。本当は、日本人って1億2千万もいないんじゃないんですかね(笑)。

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