November 05, 2010

アフリカと人と自転車の肖像

最近は世界経済の中でも、新興国がその存在感を増しています。


新興国と言えば、なんと言っても経済発展の著しい中国、インド、ブラジル、ロシアあたりが挙げられるでしょう。これらの国の頭文字をとって“BRICs”などという言い方をします。それに続くのは、ベトナム、インドネシア、南アフリカ共和国、トルコ、アルゼンチンあたりでしょうか。

こちらの5カ国は、その頭文字で“VISTA”と呼ばれたりしています。その中でも南アフリカは、貴金属やレアメタルを産出する資源大国としての面も大きな注目を集めています。サッカー・ワールドカップ南アフリカ大会が開かれたのも記憶に新しいですが、その経済効果も働きました。

南アフリカ経済は、資源価格の高騰も手伝って年率5%の成長を維持し、海外から多額の投資資金が流入しています。人種隔離政策、アパルトヘイトが撤廃されて十数年、土地の所有を許されるようになった黒人の間にも中間所得層が形成され、経済発展で大きく所得を伸ばし、住宅需要が伸びるなど、内需も拡大しています。

南アフリカ一国でアフリカ大陸の経済の40%を占めるほどです。貧弱だった道路や鉄道などのインフラも、W杯を機会に整備され、今後の投資を呼び込む上で、大きな力になっていくでしょう。最近では、“BRICs”の4カ国に南アフリカを加えて“BRICS”と5カ国に数えることも増えつつあるようです。

Bicycle Portraits, www.bicycleportraits.co.zaBicycle Portraits, www.bicycleportraits.co.za

しかし、一方で問題も山積しています。失業率は25%にも達し、国から生活保護などの援助を受けている人は、就業者の数を上回る勢いと言います。ワールドカップは、建設業やサービス業などを中心に、雇用創出にも大きく貢献しましたが、一時的だったものも多く、大会が終わって失業者は急増しています。

治安はきわめて悪く、凶悪犯罪の発生率は異常な高さです。殺人事件の9割は解決されません。また、国連の調査によれば、エイズの蔓延によって南アフリカの平均寿命は40歳代と推計され、さらに今後も平均寿命は低下を続け、労働力人口の大幅な減少に見舞われるとしています。

世界でも最悪クラスと言われる貧富の格差も問題です。貧困家庭に生まれた子供たちは十分な教育を受けられず、成人しても雇用機会に恵まれません。一方で数百万人単位の不法移民が流入し、民族間の対立も先鋭化、治安の悪化に更に拍車をかける形になっています。経済成長の一方で、深い苦悩もあるのです。

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さて、そんな南アフリカで、自転車に乗る人々の写真を撮っている人たちがいます。Stan Engelbrecht さんと、Nic Grobler さんの2人です。この2人は南アフリカのケープタウンをベースに、これまでにも本を出版してきているカメラマンと出版者です。

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南アフリカの文化に惹かれている2人は、大の自転車好きでもあります。彼らは、南アフリカ中を旅しながら、住民が自転車に乗る写真を撮り、それを“Bicycle Portraits”というハードカバーの写真集にしようとしています。南アフリカの住民の日常と共に、生活と共にある自転車を撮っています。

Bicycle Portraits, www.bicycleportraits.co.za

自転車に乗る人々の写真と言っても、彼らは娯楽や趣味、スポーツで乗っているとは限りません。むしろ仕事に通うためであったり、商売をするためであったり、何かを運ぶためにも自転車を使います。そして、それは彼らの生活にとって、死活的に重要な役割を果たすものである場合も少なくありません。

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南アフリカでは、まだまだ公共交通の整備が遅れています。クルマを持てない人にとって、自転車は唯一の交通手段であったり、生活の糧を稼ぐための重要な手段であったりします。もちろん、乗るのに燃料代がかからず、クルマに比べて価格が高くないことが重要な要素です。

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スタンさんとニックさんは、この自費出版のための資金を、“Kickstarter”で調達しています。以前にも取り上げたことがありますが、このサイトは、活動する人とそれを支援する人とを結ぶサイトです。(下の関連記事を参照。)この出版に出資してもいい、支援しようという人を募っています。

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資金を得た彼らは、この“Bicycle Portraits”を出版し、その売り上げの中から、南アフリカで、自転車を利用する人たちを支援する資金を捻出しようとしています。ヘルメットやタイヤ、チューブ、ロックなどの必需品を供給したり、自転車の整備技術を教えることなども考えています。

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実は、南アフリカの国民の多くにとって、自転車はまだ高価であり、実際、乗る人は多くありません。貧困に苦しむ多くの人には手が届かないのです。そうした人へのサポートも含め、南アフリカの人たちに自転車の利用を奨励し、援助しようというものでもあります。



自転車という手段を得ることで、仕事へ通うことが出来たり、商売が出来たり、農作物などを運べたり出来るようになる人もいます。学校に通えたり、生活に必要な水を運べたりするかも知れません。実際、貧困に苦しむ人の中には水道すら使えず、毎日長い時間をかけて生活用水を徒歩で運ばざるを得ない人もいます。



世界でも最悪と言えるほどに大きな貧富の差があることから言えば、この写真集で自転車に乗っている人たちは、まだ恵まれた境遇と言えるでしょう。自転車にも乗れない人が大勢いるわけで、そうした人々にとって、自転車が貧困から抜け出すための大きな力となりうるのは、多くのアフリカ諸国の例と同じです(関連記事参照)。

私たちは、ふだんどうしても新興国の経済発展の勢いに目が行きがちですが、経済成長の一方で、大きな社会の歪みや経済格差があり、貧困に苦しむ人たちがいます。自転車に乗るのも日々の糧を得るためである人が少なくありません。そんな新興国の現実にも目を向ける必要があるのではないかと思います。


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この記事へのコメント
日本では放置自転車として大量に廃棄される自転車ですが、場所によってはまだまだ必要とするところがありますね。

以前、放置自転車を再生して東南アジアで販売するというビジネスモデルを見ました。防犯登録等の日本語が書かれたシールがあると信頼の証となるのか売り上げはよいそうです。
これはビジネスでの話でしたが、放置自転車をアフリカへ寄付するのもいいかもしれません。しかし、如何せん輸送費が問題ですね。
コンテナ一つで500万円ほどするというのも聞いたことがあります。それならばその現金で現地で仕入れた方が多く渡せるかもしれません。

ですが、アフリカへいくら寄付をしてもそれが末端まで行渡らず、上の人間だけで止まってしまうのか改善があまり見られませんね。
別のHPでは一度全て植民地化して数百年後に変換する形でもしないと、ずっとあのままなのではないのかという記事もありました。

地域によっては発展している箇所もありますが、大部分は貧困地域ですし、あの国はこれからどういう風に発展していくのでしょうね。
Posted by ろい at November 06, 2010 14:35
ろいさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自転車も世界的に見ると偏在しているということでしょうね。
以前は、北朝鮮にも大量の放置自転車が輸出され、北朝鮮国内で使用されたり、修理して、アジア向けに再輸出して、外貨獲得の手段にしていたそうです。
すべて、日本で格安の自転車が流通し、簡単に放置され、使い捨てのようにされ、撤去した自治体は二束三文で売りさばいているのが根本にありますね。
過去にも記事にしましたが、自治体が、放置自転車の処分と途上国支援の一石二鳥だとして、アフリカに送った例はあります。
しかし、品質も悪いですし、状態も悪い、恩着せがましい、しかも送りっぱなしでフォローはないなど、決して評判は良くなかったようです。
欧米のNPOなどの中には、もっと本腰を入れて自転車を援助しているところがあります。現地の人が自分たちで、その後もメンテナンス出来るように研修をしたり、パーツを供給したり、果ては産業として自転車の組立工場を建てて、雇用を創出したりしています。
そうした取り組みと比べたら、下手な寄付はしない方がマシです。そうした状況を調べて知っていたら、恥ずかしくて出来ないでしょう。
しかし、実際には、同じ事をする自治体が時々出て来ます。確かに、途上国の統治機構の腐敗や搾取もありますが、日本の地方自治体も無知で厚顔無恥と言えそうですね。
Posted by cycleroad at November 06, 2010 23:52
途上国における貧困の原因の大きなものに、対外債務の問題があると思います。[世界の貧困をなくすための50の質問]という本によると、途上国は1980年に借りた1ドルに対して7.5ドルの返済をしたのにまだ4ドルの借金が残っていることになっているという状態だそうです。途上国は十分すぎる以上返済をしているのです。日本国も貸し剥がしをやっている主要メンバーです。日本が2000年の段階でアフリカを中心とする重債務貧困国41カ国にもっていた債権は1兆2000億円でダントツ世界一だったそうです。
援助(ODA)といっても金を貸すことが中心ですから私達にも世界の貧困に対する大きな責任があると思います。
先ず変わるべきはずっと収奪をしてきた先進国の側だと思います。

また日本国の貧困問題も忘れてはいけないと思います。
Posted by こいし at November 07, 2010 15:42
こんにちは。
ここに出てくる画像には「ママチャリ」が見当たらない、生活の手段たる実用車に見えるものが多かったです。そんなところへ、「先進国」が使い捨て自転車の扱いに困ったからと、劣悪品を送りつけることには、私も反対です。貧富の格差、知識の格差からさらに不平等が広がらないように、無法なママチャリ文化が芽生えたりしないように、上手な指導、有意義な支援で発展して欲しいものです。
新興国、急速な発展を遂げつつある国からは、猛烈なエネルギーを感じます。それは逞しさであったり、悲しさに思えることや、昨今の中国ような恐さもあります。指導者の影響は恐ろしいものです。現在進行形の新興国もそうですし、ちょっとねじれて熟してしまった日本においても。
先進国はきちんと反省し、学習し、エゴを押し付けるべきではないと思います。
Posted by 七九爺 at November 07, 2010 17:05
こいしさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、対外債務の問題はあるでしょうね。一方で、経済発展が著しいのに、既得権益のある一部の層だけが恩恵に浴している腐敗した権力構造などもあるようです。
債務免除を含む先進国の支援が、一部の層に搾取されるような形になってしまい、必ずしも貧困の解消に結びつかないジレンマもあると聞きます。
新興国のほうが経済成長が著しく、先進国が財政の悪化に苦しんでいるという、足元の経済情勢もあるのかも知れません。
いずれにせよ、難しい問題ですね。
Posted by cycleroad at November 08, 2010 23:19
七九爺さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ママチャリは、格安で、歩道走行に向く日本独特の部分がありますから、適切とは言えませんね。
実際、向こうは悪路が多いので、壊れてしまうことも多いようです。
厳しい言い方になりますが、日本の恥をさらすような援助もあると聞きます。厳に戒めて欲しいものです。
そうですね、独裁のような国もありますから、今後世界のパワーバランスが崩れ、紛争が多発するようなことになるのも心配です。
先進国が、いわゆる南北問題の反省に立つことも必要でしょう。しかし、国際政治の舞台は国家のエゴむき出しの激しいものでもありますから、なかなか協調が難しい部分もあります。
世界における先進国のリーダーシップも弱まっていくのは必至ですから、今後、国際秩序が混沌としていく不安もありますね。
Posted by cycleroad at November 08, 2010 23:29
ネットにいい文章があったので紹介します。

「借金」は植民地支配の道具である
http://tsurumitext.seesaa.net/article/148198083.html
Posted by こいし at November 11, 2010 09:59
こいしさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
実は日本が植民地支配しているということですか。
よく読ませてもらいます。わざわざありがとうございました。
Posted by cycleroad at November 11, 2010 23:47
 
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