November 15, 2010

自転車を併用するという方法

街で、お巡りさんが自転車に乗っているのを見ることがあります。


交番のお巡りさんの移動手段で、俗に「白チャリ」と呼ばれています。警棒ホルダーがあったり、荷台に白い書類ケースがついていたりする専用の自転車です。国産メーカーの実用車がベースになっていますが、装備以外は、とくに他の市販の自転車と性能が違うわけではないようです。

地域によって違うのかも知れませんが、最近は街をパトロールするのもパトカーが多くなっていて、自転車に乗ったお巡りさんを見ることが減った気がします。それは犯罪者にとっても、クルマが入ってこられないような道路では、お巡りさんに出くわす心配が減ることを意味します。

やはり、街をお巡りさんが巡回しているというのは、治安の維持に有効です。その意味では、細い道でも巡回できる機動力を利用して、もっと自転車でパトロールしてもいいのではないかと思います。細い路地でも、お巡りさんに出くわす可能性があることが、犯罪抑止になるのではないでしょうか。

日本だけでなく、海外でも警察官が自転車を利用している国は少なくありません。海外の場合は、頑丈で、そこそこスピードも出るような、特注のスポーツバイクなどが利用されていることもあります。通常の警官とは別に、自転車に乗るのに適した制服を着た自転車警官がいる場合もあります。

警視庁ニューヨーク市警

ところで、同じ緊急自動車に乗る公務員でも、消防隊員が自転車に乗っているというのは、あまり見たことがありません。白チャリはあっても、赤チャリという言葉は聞いたことがありません。さすがにパトロールならば自転車は使えても、消防用には使いようがないということなのでしょう。

でも、自転車に乗る救急隊員ならば、イギリスに存在します。十年ほど前からと言いますから、そんなに古い歴史を持つものではありません。最初は、イギリスの北部にあるヨークという都市で、自転車による救急隊が組織され、実験が始まりました。

ここは中世からの古い街並みが多く残っており、道が狭かったり、そのため渋滞がひどかったりすることも多いところです。道が狭かろうと、渋滞していようと機動力を発揮できる自転車のほうが、クルマの救急車より速く現場に駆け付けられるだろうという発想です。

Ambulance Cycles, www.ukemergency.co.ukAmbulance Cycles, www.ukemergency.co.uk

もちろん、患者を運んだりすることは出来ませんが、AED(自動体外式除細動器)や、酸素吸入器といった救命救急用の機材が搭載されています。駆けつけた救急救命士は、こうした機器を使って、一刻を争うような患者の心肺蘇生をするのです。

とりあえず応急の手当てを行い、必要であれば後から到着した救急車で病院に搬送します。ヨークの都心部では、2001年の夏に16週間実験的に導入されましたが、この街の細くて曲がりくねった石畳の道では、救急車より速く到着でき、有効に機能することが明らかとなり、そのまま常設されることとなりました。

青と白に点滅する緊急車用のライトも装備されています。ボトルホルダーを取り付ける部分にバッテリーが装着され、救急車と同じようなサイレンまでついています。もちろん、連絡をとるために携帯電話だけでなく、無線機も装備されています。通常は日中しか稼働しませんが、一日に50キロほども走行すると言います。

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自転車は、当初企業から寄贈された、折りたたむことも出来る自転車が使われており、救急車に乗せて移動することも想定されていました。その後はMTBをベースにしたものになり、蘇生装置以外にも、応急手当てのための医療機材などを積んでいて重いため、ブレーキ等が強化されています。

ヨークのある東部および北部ヨークシャーの救急搬送体制に自転車救急隊、“Life-Cycle team”は、すっかり定着し、市民の命を守る活動をする救急の自転車隊として親しまれています。その後、女性の救急サイクリストも誕生しているそうです。

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イギリスの緊急自動車、緊急用の乗り物に関するサイト、“UK Emergency Vehicles”には、他にも救急自転車の情報が載せられています。救急自転車隊、「ライフサイクル」、自転車救急救命士など、呼び方はいろいろですが、北部・東部地区のヨークシャーだけでなく、イギリス各地で導入されはじめています。

ロンドンやパースをはじめ、大都市でも救急自転車が導入され、一部の地区で運用され始めています。ロンドンなどでも導入された結果、装備も進化することになりました。パトロールライトはLEDなどを使うことによって軽量化され、長時間使えるようになっています。

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今では、ヒースロー空港やロンドンの金融街、シティなどでも活躍していると言います。ロンドンで救急車を運用する“London Ambulance Service”では、救急救命士が救命活動だけでなく、救急自転車で駆けつけるための本格的な訓練も始まっています。

装備で自転車が重いだけでなく、一刻でも早く現場に到着する為には、階段を走行するような場合もありえます。必要に応じて石段を下ったり、逆に登る必要に迫られることも考えられます。場所によっては、かなりの体力とテクニックが要求されるわけです。

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救急自転車は、建物内を走行することもあります。ヒースロー空港のような巨大な空港では、構内、建物内と言っても、相当に長い距離になります。自転車ならば素早く移動でき、エレベーターに乗ることも可能です。さすがにクルマは建物内を通れませんから、これも、自転車でなくては出来ない芸当と言えるでしょう。

さらに、この救急自転車隊の成功を受け、自転車でも走行が困難な場所のために、なんと救急スケートボード隊まで組織されました。スケボーのほうが、速く到着できる場所が...と書いてありますが、これは2004年に報じられたエイプリルフールのウソです(笑)。

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冗談はともかくとして、救急自転車は、いろいろな場所で役立つことが実証されてきているわけです。もう一つ利点として、救急自転車の設置コストは安く抑えられることが挙げられます。一台何千万円もするような救急車と違って、自転車ならば専用の装備を搭載しても、大幅に安く配置できます。

安い初期費用で、救急体制の増強が出来るわけですから、これは運営する自治体にとって魅力的です。カナダあたりにも一部存在するようですが、今後、世界各国に広がっていっても不思議ではありません。最近、救急車を安易に呼ぶ人が増え、結果として救急車の駆けつける時間が長くなっている日本でも有効かも知れません。



日本の場合、まず自転車で救急隊員が駆けつけ、救急搬送の必要性の判断を行うようなことも考えられます。実際に救急搬送が不要なことも多いと言いますから、その判断のために救急車が向かうようなケースが回避できれば、もっと効率的な救急車の運用が可能になるかも知れません。

もちろん、救急搬送そのものを自転車で置き換えることは出来ないとしても、救急車と救急自転車を併用することで、クルマの入れない場所までカバー出来たり、時間短縮による救命率がアップするなど、さらに救急サービスの質の向上が図れる可能性があります。

こうした例をみると、救急車だけでなく、これまでクルマが当たり前だった分野にも、自転車の導入を検討してみる余地はあるのかも知れません。必ずしもクルマを自転車で置き換えるのではなく、併用したり、使い分けたりすることによって、さらに効果的に運用出来る分野は、まだまだ他にもあるのではないでしょうか。

参考:BBCのサイトに空港内を走行する様子がわかる動画があります。





日本でも、マラソン大会などのイベントの時に、AEDなどを積んだ自転車救護隊が待機していることはあるようです。常設の救急自転車隊があってもいいかも知れませんね。

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この記事へのコメント
最近警視庁では「電動アシスト自転車」を白チャリとして配備し始めています。
池尻大橋の交番では4台の白チャリ中2台が電動アシストつきになっていましたよ。
Posted by 隠居@川崎 at November 15, 2010 15:13
自転車の可能性を知りました。
本当に稼働することができると、救命率も上がるかも知れません。
実現を!
ポチ
Posted by 4288 at November 15, 2010 17:52
カッコイイなと思いました。
自転車に乗ったお巡りさん、大分市でもほとんど見ません。子供のころ関西の実家まわりでは良く出会いました。頑丈そうな自転車でやや強引に生真面目な手信号を出していたことも。そして子供の頃は、警察官や消防士、自衛官などの凛とした制服姿に、意味もわからずあこがれてその動作を真似たものです。
今なら、パトカーや白バイではなく、スピード系バイクがもっと活用されていいはずだと思いますね。緊急出動にもマラソン誘導にも。その格好よくて機能的な現実感が正統派マナーとともに社会に伝われば、よい循環のきっかけのひとつになると思います。行楽シーズンなどパトカーや白バイによく出会いますが、正統派バイクが流していれば、皆の交通意識がきっと変化すると思います。職員のメタボ解消のためであってはなりません。市民の羨望の的となるような公務バイクライダー隊を編成して、地域間で人気を競ってみてはどうでしょう。
Posted by 七九爺 at November 15, 2010 23:08
隠居@川崎さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですか、電動アシストが導入されているとは知りませんでした。注意して見ていないと、気づかないかも知れませんね。
警察官も、そのほうがラクでしょうし、そういう時代なのでしょう。
Posted by cycleroad at November 15, 2010 23:39
4288さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自転車でなければ出来ない役割、果たせない場所もありますからね。
導入を進める国が増えてきてもおかしくないとおもいます。
Posted by cycleroad at November 15, 2010 23:49
七九爺さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
見ませんか。パトカーもいいですが、自転車だと市民との距離も近いですし、何より警察官の顔が見えます。
市民にとっても親近感がわきますし、顔見知りになって、気軽に話しかけたりも出来るでしょう。警察にとっても、ふだんから不審者の情報を得たり、犯罪捜査などの点で有利になることもあるはずです。
交番勤務のお巡りさんにとって、市民に密着するというのは重要なことだと思います。
おっしゃるように、交通ルールの模範となるような、スポーツバイクに乗った自転車警官を編成するというのも、いいかも知れませんね。
Posted by cycleroad at November 15, 2010 23:58
確かに自転車に乗ったお巡りさんは見なくなりましたね。
この間、小用で千葉〜神奈川間を走りましたが、APECの開催されている横浜は別として都内では2人しか自転車に乗ったお巡りさんを見かけませんでした。

ただ、残念ながらそのお巡りさんの1人が横断歩道を自転車で渡っていた(脇の自転車用は無い場所)のが悔やまれます。一応は歩道になるので降りて押さなければいけないはずでは・・・と思います。


しかし、お巡りさんの自転車といえば普通の自転車ですからね。スピードが出るようにスポーツ自転車を取り入れるなどはやはり諸外国は進んでいますね。
自転車の普及とともに必要な整備が整ってくれるのを願うばかりです。
Posted by ろい at November 16, 2010 17:08
ろいさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
やはり少なくなっているようですね。
自転車に乗るお巡りさんの交通ルール違反の行為は、時々目撃されるようで、指摘している方を見ます。私も何度か目撃したことがあります。
やはり、法律をきちんと理解していないのではないかと思いますね。
警察官が曖昧では、なかなかルールが徹底されるのは望めないでしょう。
これまで警察は、自転車を歩道に押し込めようとしてきたぶん、あまり自転車を有効に活用しようという発想は出てこなかったのでしょう。
警察が、もっと自転車のポテンシャルに気づく必要がありますね。
Posted by cycleroad at November 16, 2010 22:08
今日も都内某所で白バイの訓練を見掛けました。白チャリの訓練も有って良さそうです。

日本では自転車救急車って必要無いかもしれません。でも、病人を運べる自転車が欲しいです。駅前の診療所には駐車場は無いし、毎回タクシーは経済的にきついです。
Posted by ジャムおばさん at November 17, 2010 17:59
ジャムおばさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
白チャリの場合は、訓練が必要な乗り物ではないですし、訓練が必要になるような使い方もされていませんからね。警官が白チャリに乗る訓練をしていたら、むしろ不安になるのではないでしょうか。
救急救命士がいち早く駆けつけてくれるなら、イザという時、ありがたい場合もあると思いますけどね。
Posted by cycleroad at November 17, 2010 22:57
こんにちは!
「自転車救急隊」の検索でこのサイトがヒットして来ました!

日本にも自転車救急隊があります!
NPO法人のボランティアで、日本救急メッセンジャーという団体で、東京の世田谷区を中心に自転車に救急資器材を積載して、街中を巡回したり、スポーツ大会の救護や、応急手当の普及活動を行っています。
隊員も現役の救急救命士や、看護師などが活動をしています!

よければHPをご覧ください!

http://99messenger.org/
Posted by なぎさ at February 03, 2011 15:37
なぎささん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ご紹介のHPを拝見しました。
レースなどの際に、やはり突然具合が悪くなる人がいますから、救護の方がいると、参加していても心強いのは確かでしょうね。
日本では、まだNPOの地位が欧米ほど理解されていなかったり、その活動も今ひとつ知られていなかったりというのがあると思いますが、自治体の消防などと連携するなど、活躍の場が広がるといいですね。
Posted by cycleroad at February 04, 2011 22:14
 
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