January 31, 2011

むしろ大きなチャンスとして

国会で自転車の活用が取り上げられました。


1月28日の参議院本会議で、自民党の岩城光英議員が質問したものです。毎日新聞の記事から引用します。


交通基本法案:「自転車を活用」 首相、意向示す

菅直人首相は28日の参院代表質問で、政府が今国会提出に向けて検討を進めている交通基本法案の中に、人と環境に優しい自転車の活用を盛り込む意向を明らかにした。

自転車活用推進議員連盟事務局長の岩城光英参院議員(自民党)が欧米諸国や韓国が自転車を生かした交通政策を推進していることを提示。その上で「我が国も自転車計画を制定すべきだ。自転車活用促進基本法の制定など総合的な交通施策を進めることが重要」と首相の所見を尋ねた。

菅首相は「人と環境に優しい総合交通体系の構築は重要課題で自転車も重要な役割を担うと考えている」と答弁。「交通基本法案や法案で想定している交通基本計画で、自転車の活用の課題にも取り組んでいく」と応じた。

交通基本法案はすべての交通について基本理念や方向性を定め、交通基本計画で具体的施策を決める。政府は3月に国会提出の予定。民主党は昨年参院選のマニフェストで「人々の社会参加の機会確保、環境に優しい交通体系を目指す」と制定を公約していた。

自転車の保有台数は08年3月時点で6910万台に上る一方、自転車専用の通行区間は全国約2800キロで道路総延長の0・2%にとどまるうえ、対歩行者の事故はここ10年で3・7倍に激増するなど、自転車の走行環境の整備が課題となっている。(毎日新聞 2011年1月29日)


岩城光英氏は福島県選出で当選2回の参議院議員で、自民党政権時代には、官房副長官や国土交通大臣政務官などを歴任しました。いわき市議会議員、福島県議会議員、いわき市長を経て国政に転じ、現在の自民党の影の内閣、シャドウ・キャビネットでは総務大臣に指名されています。

元・内閣官房副長官日本トライアスロン連合会長、福島県自転車競技連盟会長を務めるトライアスロン好きとしても知られています。自身も地元のトライアスロン大会に出場するスポーツマンです。数少ないスポーツバイクに乗る国会議員、自転車を知っている国会議員と言えるでしょう。

自民党のスポーツ立国調査会副会長や、トライアスロン議員連盟顧問、自転車活用推進議員連盟事務局次長なども務めています。関連する肩書が並んでいるからと言って、必ずしもその分野に強い思い入れがあるとは限りませんが、同氏のサイトには国会議員として主張する理念・政策の中にも、自転車が出てきます。

同氏のサイトで、「私の思い」として掲載されている政策・政治理念の中の自転車という文字に、PDFの「自転車の活用について」という文書がリンクされています。それを読むと、岩城議員が自転車のことをよく理解し、いかにその活用を推進すべきと考えているかがわかります。

その文書では、まず自転車は誰にでもできる有酸素運動で、健康維持やダイエット効果もあり、排気ガスを出さず、環境に優しく、特に都会では利便性の高い交通手段であると述べています。同氏は、いわき市長に就任してから自転車に関心を持つようになり、自転車を活用した街づくりに取り組むようになったそうです。

いわき市でトライアスロン大会を開催するため、実際に体験しようと自転車を購入し、ひそかに練習を始めところ、道路の不備や危険性について身を持って感じたと言います。また、ドイツなどの自転車先進都市を視察し、自転車を街づくりに生かす取り組みに大いに感銘を受けたのも、そのきっかけとなったようです。

イベント交通政策の面だけでなく、地球温暖化対策としても自転車の活用が重要だと考えるようになり、「21世紀の交通の主役は自転車」と言いきっています。交通渋滞をなくし、環境や人々の健康増進にも役立つ自転車を、交通体系の中での主要な交通手段の一つとして位置づけるべきと考えるようになったと記しています。

自身も、市役所にサイクリングクラブを結成したり、現在もいわき市で続いている自転車イベントを開催し、レースに出場したりしたことも語られています。自転車は、年齢や体力に応じて楽しめる素晴らしい趣味でもあり、日本でもヨーロッパのように、市民が気軽に参加できる自転車のレースが増えて欲しいとも語っています。

英国では96年に国家自転車戦略を定め、自転車を周辺交通手段ではなく公共交通機関と並ぶ中心的機関と位置づけ、自転車交通施策を伴わない新たな交通計画は一切認めないことになったそうです。米・独・仏・蘭・デンマークなどの国も、それぞれが自転車を生かした交通体系、交通政策を進めていることを紹介しています。

日本でもようやく、ここ数年エコサイクルシティーの指定など、自転車に着目した政策の取り組みが始まりましたが、まだまだ遅れています。もちろん、放置自転車問題や、歩道における歩行者との事故の問題など、解決すべき点についても指摘しています。

自転車レーン岩城議員は自転車活用推進議員連盟の事務局次長というだけあって、自転車政策の総合化と一元化に向けた自転車活用推進研究会からの提言についても言及しています。新自転車法の成立を目指し、国レベルの総合計画を策定し、それを受けて地方自治体も総合計画を策定すべきとの内容です。

自転車は、内閣府、国土交通省、経済産業省、環境省、文部科学省、厚生労働省、総務省、警察庁などあらゆる省庁に関わりがあるので、自転車を担当する主務大臣を置いて総合的な自転車政策に当たっていくという内容が柱となっているそうです。

岩城議員は、交通体系の中に自転車をどう組み込んで活用していくかを、国全体のレベルのもとで、大きなヴィジョンとして考えていかなければいけないと述べています。そして、市民の声を入れながら、より良い自転車の活用や、自転車文化の確立を目指して活動を続けていきたいと結んでいます。

日本の自転車環境をもう少し改善してほしい、もっと自転車の活用を推進すべきだと考えている者にとって、心強い代弁者です。新自転車法の設置、国レベルの総合計画、自転車を担当する主務大臣を置いて総合的な自転車政策を推進するという点、自転車文化の確立を目指すという意気込みも素晴らしいと思います。

日本の国会議員の中で、ここまでハッキリと国政レベルでの自転車政策について言及している議員は少ないと思います。日本では、自転車政策について自治体レベルでは議論になっても、国レベルで取り上げられることは、ほとんど無かったと思います。

歩道走行日本では自転車と言うとママチャリのイメージがあって、近所までのアシとしてしか認識していない人が大半です。そうした国民の意識も背景にあるのでしょう。放置自転車や自転車事故の増加の議論ならまだしも、交通政策の中で自転車が重要視されることは考えにくいのが現状です。

しかし、イギリスなどの国では自転車を国家戦略として扱っているのです。アメリカのラフード運輸長官だって自転車について具体的な発言をしています。日本で言えば国土交通大臣にあたる人です。国レベルで交通政策を考える場合、今どき自転車を如何に上手く活用するかという議論は当然あるべきです。

国土交通省が、1都市当たり50キロメートル前後の自転車専用道路を整備する方針を打ち出したり、自転車レーンの整備に向け、自転車重点都市として認定する制度を設けたりということはあります。しかし、国会の場で、交通政策の中での自転車の活用といったビジョンが語られるのは、ほとんど聞いたことがありません。

自転車の活用に積極的に打ち出している自治体はありますが、その力の入れ方はマチマチです。自転車レーンの設置実験なども各地で行われていますが、自転車レーンの体裁自体、各地でバラバラです。結果として市民の関心や認知度も低く、その必要性について理解されず、なかなか進まないというのが実態でしょう。

地方分権に逆行させろと言うのではありません。しかし、自治体が整備を進めやすくするためにも国が土台を用意すべきです。全国一律に自転車レーンを設けよとは言いませんが、市民に認知してもらい、後でルールがバラバラで困ることのないよう、ある程度標準化することも必要でしょう。

放置自転車やはり、国が大きなビジョンとして21世紀の交通のあり方を示すべきではないでしょうか。環境の問題もありますし、そうでなくても台数だけは自転車大国なのですから、そこに自転車が入って来るのは必然です。世界の趨勢を見ても、自転車をうまく活用していこうというのが当たり前になっています。

日本では、自転車本来のポテンシャルを理解していない人が大半ということもあって、国会議員の中でもその可能性を理解している人が少ないのが現状です。しかし、これだけ海外の事例も伝わっていることですし、国レベルの政策として議論し、決断し、実行していくべき時に来ているのではないでしょうか。

その意味でも今回、岩城議員が、我が国も自転車計画を制定すべきだとの問題提起を行ったことについては喝采を送りたいと思います。そして、まがりなりにも菅首相が答弁しました。もちろん官僚の作文ですが、それはこの問題に限ったことではありません。国会で質問がなされたということ自体、歓迎すべきことでしょう。

もちろん、国会質問に取り上げられただけで、大きな進展が見られるわけではありません。国土交通省も、これを踏まえて交通基本法に反映させていくことになると思いますが、人と環境に優しい総合交通体系の構築が、本当に重要課題として政策に盛り込まれ、具体的に整備として実現するかは未知数です。

走行環境菅首相が重要課題として位置付けるTPPや社会保障と税の一体改革、ほかに安全保障や景気や雇用対策などの喫緊の課題が山積しています。交通政策は長期的には考えていくべき問題としても、その優先順位が高いとは見なされていません。金融危機などを背景に、環境問題からの関心、あるいは圧力も低下した観があります。

しかし、大転換、大政策が必要という性質のものではありません。むしろ、これだけ自転車が普及している中、環境整備が追い付いていないという話です。新しく道路を通すため、土地の買収などが必要になるのと違って、大きな予算が必要になるわけでもありません。

一方で、その費用対効果は悪くないはずです。歩行者との事故が減り、自転車はもっと実用的な移動手段となります。歩道を縫って走るのと違って、自転車本来のポテンシャルが発揮されるようになり、自転車に対する見方も変わって来るでしょう。

格安の重くて遅い自転車が淘汰され、使い捨てのような自転車の使い方が変わり、放置自転車が減少する可能性もあります。渋滞が減ることも期待出来、渋滞による現状の莫大な経済損失が減ることになります。通勤列車の混雑緩和などにも貢献するかも知れません。

国民が自転車に乗る機会が増えることで、確実にその健康が増進され、国民医療費は節約されることになります。一人ひとりは僅かな改善でも、全体としては大きな額になります。この効果は、先進諸国では常識であり重視されています。むしろ、そのために自転車活用を推進するという議論もあるくらいです。

スポーツとして国民の運動習慣を増進することで、認知症を予防したり、インナーマッスルを鍛える効果で寝たきりを減らすなど、介護費用の低減につながることも期待されます。こうした効果は国民の幸福に直結するだけでなく、社会保障費の伸びを抑える効果が期待出来ることに注目すべきです。

新たな交通の流れが出来て、地域の活性化や観光などの経済効果をもたらすかも知れません。外国人観光客の利便性につながり、その広範な移動を促すことも考えられます。大規模商業施設の撤退によって、都市部でも買い物弱者と呼ばれる人々が増えていると言われますが、その軽減にもつながるでしょう。

都市の空気がきれいになり、環境が改善します。ヒートアイランドも軽減するでしょう。もちろん温暖化ガス排出を減らし、省エネにもなります。今後、世界の温暖化対策の枠組みがどうなるかわかりませんが、排出枠を買ったりする費用を減らすことにもなるでしょう。

岩城議員も指摘するように、欧米各国が積極的に自転車の活用を展開するのには、それだけのメリットがあるからだということに着目すべきです。全ての移動が自転車になるわけではありません。クルマだって、渋滞が減れば走りやすくなるわけですし、事故の可能性が減るのはドライバーにとってもメリットです。

そもそも、自転車の走行環境の整備は遅れています。高度経済成長の時代に手が回らないという理由で後回しにされ、それが因果で事故の増加など、看過できない状況になっているので、いずれ手をつけなければならないでしょう。それならば、一刻も早く踏み切るべきではないでしょうか。

観光にもまず、自転車の活用に対する理解を広げ、そのコンセンサスを醸成することが課題となるでしょう。後は、いかに早く着手し、効果的に進めていくかという議論になります。欧米各国や韓国と比べても遅れているという話で、やるやらないの議論ではないと思います。

最近、いろいろな背景もあって、市民レベルで自転車環境の整備や自転車の活用の推進を望む声が高まっています。それを受けて、一部の自治体でも動きが出てきています。今回の岩城議員の質問は、ようやく国政レベルにも、その流れが伝わってきたことを予感させるものです。

日本が転換期にあることは誰もが実感しています。何か変えるべきとの考えも、今なら受け入れられやすいに違いありません。こうした閉塞感のある時期こそ、大きなビジョンを打ち出し、新しい日本を再構築していくチャンスでもあります。日本のこれからの交通環境について、今こそ議論されるべき時ではないでしょうか。





ザック・ジャパン、見事な優勝でした。ザッケローニ監督の手腕を高く評価する声も日増しに高まっています。来年、中東のオイルマネーで引き抜かれないよう、今から気を付けたほうがいいかも知れませんね。

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この記事へのコメント
国レベルでの動きの気配にわくわくしますね。
「自転車文化の確立を目指す」とは、何とも頼もしい限りで、スピード感のある具体的な推進につながっていってほしいところですが、「国民の声アイディアボックス」も集計されてからどう活かされているのか、先行きが気がかりです。ネット情報が駆け巡って体制が変わる国もあるほどですから、日本でもよい流れができてほしいです。毎日の馬場直子記者にはこれからも良質な情報提供を期待します。
国策としてハード面整備の大指針が重要なのはもちろん、自転車の楽しさや可能性に気づいていない人に気づいてもらい、正しい有効な運用知識を浸透させる活動との合わせ技展開をぜひ。
Posted by 七九爺 at February 02, 2011 20:39
こんにちは。
国会議員の中に自転車のことをよく理解している人が居るというのは大きいですよね。ママチャリ=自転車という認識の人が自転車の政策を行っても、今の状況は変わらないと思います。

自転車の政策面からも、真の自転車の姿が多くの国民に認識されることを期待したいです。
Posted by さすらいのクラ吹き at February 02, 2011 20:54
七九爺さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、先行きが明るいとまでは言える状態ではないですね。
正直言って、待ってましたとばかりに、まだ小さな芽のうちにちょっと大きく取り上げすぎたかなという感じはあります(笑)。
私も期待するあまり、多少敏感に反応し過ぎた部分があるかも知れません。
客観的に見れば、まだほんの端緒に過ぎず、こうした動きが広がっていくかは予断を許さないところでしょう。
しかし、こうした議員もいることは確かです。数少ないながらも、こうした自転車のポテンシャルを知る議員には、今後も具体的な交通政策について取り上げていってもらい、国民にも身近で、健康や生活にも直結する部分である自転車環境の改善や、その活用推進につなげてもらいたいところです。
Posted by cycleroad at February 02, 2011 23:43
さすらいのクラ吹きさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自転車活用推進議員連盟に名を連ねる議員の中にも、引退してしまった人や、スポーツバイクに乗るような人でない人も少なくないですから、貴重な存在と言えるでしょう。
自転車に理解があっても、本当にポテンシャルを理解している人ばかりとは限りません。
なんとか、広く自転車への理解が広がっていくといいですね。
Posted by cycleroad at February 02, 2011 23:55
 
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