November 24, 2011

自転車の実用性と性能の追求

アメリカには推定1億4千万台もの自転車があります。


単位人口当たりの自転車所有率は日本の3分の2ほどに過ぎませんが、なにしろ人口が3億以上ですから、8千6百万台とされる日本の自転車の台数を大きく上回る数の自転車が所有されていることになります。クルマ社会の印象のあるアメリカですが、意外に多くの自転車があるわけです。

しかし、統計によればアメリカ国民の移動における自転車の占める割合はきわめて小さく、多くはスポーツやレクリエーションとして使われているものと思われます。都市によっては、通勤などに使う人が増えているところもありますが、全体から見ると、その割合は、ごく小さなものに過ぎません。

最近は、アメリカでも自転車が見直されてきていますが、日常的な移動に使っている人は、まだごく一部に限られているということになります。1億4千万台もの自転車があるのに、多くは週末のスポーツやレクリエーションとして使われるだけで、ふだんはあまり活用されていないと推測されるわけです。

その理由はいろいろあるでしょうが、日常で使用するような実用車には魅力が乏しいことを指摘する声があります。近年の自転車の品質向上にはめざましいものがありますが、それはスポーツバイクに限られたことであり、日常で広い用途に使う、いわゆる実用車にはそのイノベーションが及んでいないのが要因です。

実用車実用車と言うと、出前や新聞配達などで使われるような、頑丈で昔ながらのデザインを持った自転車がイメージされますが、それは日本での話です。ここでは荷物の運搬ほか実用的な用途で使われる自転車全般を指します。そうした自転車が、あまり魅力的ではないのも日常的に自転車が使われない理由というわけです。

通勤通学に使ったり、買い物に使ったりする自転車として、ロードバイクをはじめとするスポーツバイクが、必ずしも適しているとは限りません。ちょっとした荷物がある時だとか、よそ行きの服装で出かける時など、スポーツバイクだと不都合なことも多いでしょう。

子供を乗せたり、少しかさばる荷物を運ぶなど、スポーツバイクに向いていない場面も多いと思います。業務用に使う自転車も、スポーツバイクではない自転車が利用されるケースが多いはずです。もちろん日常的にスポーツバイクに乗る人もいますが、それは限られます。

確かに、カーボンやチタン、マグネシウムといった先進的な素材のフレームが採用されているのは、そのほとんどがスポーツバイクです。高い走行性能を発揮したり、変速などに優れた操作感の得られるパーツ類、いわゆるコンポもスポーツバイクの世界で進化して来ました。

一方、実用的な自転車は、相変わらずハイテン鋼などのスチールで、アルミすら使われていなかったりします。パーツも汎用品で、変速機能が無い場合も少なくありません。重くてスピードも出ず、坂などにも苦労し、スポーツバイクに乗ったときのような楽しさや快適な乗り心地とは異なることも少なくありません。

Constructor’s Design Challenge, www.oregonmanifest.comメーカーは、高い性能や品質が求められるのは趣味の自転車であり、実用車に、そうしたニーズはないと考えているのでしょう。結果として実用車には、スポーツバイクの世界のように、素材や部品の加工技術などのイノベーションの恩恵に浴しているモデルが少ないということになります。

事実、アメリカでは実用的な自転車の実に4分の3が、ウォルマートのような量販店で購入されていると言います。価格が大きなポイントであり、場合によっては耐久性すら優先順位が低いのかも知れません。量販店と競合したくない自転車ショップはおのずとスポーツバイク中心となり、実用的な自転車の扱いは小さくなります。

逆に言えば、4分の3が量販店やディスカウントストアで購入するような消費性向があるからこそ、メーカーも実用車の分野に、高性能・高品質なモデルを投入しないのでしょう。当然価格が高くなりますから、それでは売れないという判断になります。

量販店の実用的な自転車は、安い輸入自転車が占めることになり、価格競争となるので、ますます大手のメーカーは敬遠するに違いありません。質の高い実用車を製造するのは、中小の業者やビルダーばかりとなりますが、販売力やブランド力も低いので、購入できる店は限られます。

こうして流通面からも、実用車で、スポーツバイクのような高性能・高品質で魅力的なモデルは手に入りにくいということになります。量販店の安価な実用車は容易に入手できますか、快適性が低いので、台数は多いわりに、日常的にはあまり活用されていないのではないかという推測が成り立つわけです。



さて、自転車の活用を阻害する、そうした状況を打開しようとしている組織があります。実用的な自転車を製作し、そのイノベーションに努力する中小の自転車ビルダー、個人の自転車職人、工房などを応援するオレゴン州の非営利法人、“Oregon Manifest”です。

“Oregon Manifest”は、自転車が世界を、全ての人にとってより良い場所にすると信じています。そのために、自転車ビルダーを応援し、自転車デザインの革新を支援しようという団体なのです。本当の自転車のイノベーションを起こすのは、工房やワークショップ、ガレージ、デザインハウス、あるいは学校だと考えています。

Constructor’s Design Challenge, www.oregonmanifest.comConstructor’s Design Challenge, www.oregonmanifest.com

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オレゴン州のポートランドは、全米サイクリスト連盟もお墨付きを与える、非常に自転車にフレンドリーな都市として知られています。住人の1割近くが自転車通勤をする街でもあります。“Oregon Manifest”は、そんな自転車に深い理解を持つ人の多い都市ならではの組織と言えるでしょう。

オレゴンマニフェストは、現代生活のための究極の自転車デザインに向けたイノベーションを促し、その開発者を支援することを目指しています。そして、自転車が単にスポーツやレクリエーションのためだけのものではなく、日常生活とシームレスに統合されたツールであることを広めようとしているのです。

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自転車が革新的なのは、レースやスポーツに使われるからではなく、実用向きの自転車こそが、世界にとっての、より持続可能な輸送手段であり、人々に健康な生活を送らせることの出来る方法であり、人々のさまざまなニーズを満たすツールであると考えているのです。

“OregonManifest Constructor's Design Challenge”は、こうした目的に沿って行われている、ユーティリティバイクのコンペです。その作品は、自転車を日常的に使うための要求を満たすだけでなく、どれも意欲的な挑戦と創意工夫にあふれています。

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量販店で売られているユーティリティーバイクとは違い、軽量化され、ディレイラーやブレーキなどのパーツも強化されています。実用性だけでなく、使う上での安全性、耐久性、メンテナンス性なども考慮されています。加えて快適性や楽しさも削られてはいません。

ユーティリティ自転車なので、照明(前照と視認)、スタンド、フェンダー、盗難防止、荷物運搬といった要素を満たしていなくてはなりません。でも、例えばフェンダーであれば、従来型の泥除けをつけろというのではなく、その目的のための、何らかの仕組みが備わっていればかまいません。

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中小、個人の自転車ビルダーに加え、独自の創造的コラボレーションとして、グローバルに展開するデザイン会社とアメリカのトップビルダーとの共同チームによる出品もあります。また、地元を中心とした大学生などによるチームも参加しています。

使いやすさ、実用性の追求にこだわった作品、荷台がサイドカーに変化したり、必要なときにフェンダーが出現するなど、ユニークなアイディアを盛り込んだ作品、ロック錠の搭載や大型のスタンドなど、欲しい機能を満載したものなど、いろいろなものがあって、見ていても楽しいものがあります。

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なるほど、こうした自転車が増えていけば、自転車を日常生活や仕事で使う人も、もっと増えるに違いありません。自転車で代替できれば、クルマの利用が減る可能性もあります。そして、荷物を運ぶ自転車だからといって、快適性や楽しさを諦めずにすむようになるでしょう。

日本では、ママチャリという、ある意味特殊な車種が市場を席巻しているという独特の事情があります。自転車イコール、ママチャリと思っている人も少なくありません。アメリカ以上に、こうした実用的な自転車がもたらす効果は大きい可能性があります。自転車市場や街で見かける自転車が変わるかも知れません。

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もちろん、スポーツバイクが悪いというわけではありません。単に移動とその速さを考えるならば、スポーツバイクのほうが断然有利です。荷物を運ぶのにしたって、リュックやメッセンジャーバッグなどを使えば、それなりの荷物も運べますし、必要に応じて使い分ければいいでしょう。

ただ、こうしたユーティリティ自転車なら、仕事を含めた様々なシーンで役立ち、もっともっと自転車の活躍の場が広がる可能性があります。ママチャリばかりが普及し、自転車がまだ本当の意味で活用されてるとは言えない日本でも、もっとこうした自転車に目を向けるべきなのかも知れません。





イタリアやスペインの国債は危険水域、ドイツ国債まで札割れとは、なんだかイヤな感じになってきましたね。どうなるのでしょうか。

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この記事へのコメント
cycleroadさん こんばんは。
色々なアイデアがあって楽しいですね。

以前にも、昔の実用車の事を引き出した事が有りますが...
(子供たちが三角乗りした)

昔のイギリスのロードスターを模したような、
ものすごく重い、日本の実用車が有りました。
でも、内装3段の実用車は、そんなに沢山有ったようには思えません。

ママチャリ(婦人車)のモデルとなったのは、
やはりイギリスのオールド・フェイスフルでしょうか。
古い映画などで見ることが有ります。
むか〜し、私の家にももあのスタイルの5段変速自転車が有り、
子供の頃、初めてそれに乗った時は感激しました。

今こそ、その実用車を...と思います。
ただレトロなだけではなく、形はレトロだけれど、
中身は最先端の技術が...。

使い勝手として、実用第一とした自転車、だけれど快適な。
そんなスタイルが、もっともっとあったらいいのに。


スカートが巻き込まれないように工夫をされた婦人車が、
最近ようやく出てきました。
でも私的には、スカートで自転車に乗るのは賛成できません。
Posted by Fischer at November 25, 2011 20:31
>現代生活のための究極の自転車デザインに向けたイノベーションを促し、その開発者を支援すること
>実用向きの自転車こそが、世界にとっての、より持続可能な輸送手段であり、人々に健康な生活を送らせることの出来る方法であり、人々のさまざまなニーズを満たすツールである

こうした活動を日本でも支援していこうと思います。今、僕が注目しているのはこの工房です。
http://www.ebscycle.com/

「歩行者を傷つけてはならない」という至上命題をクルマ優先社会の日本人の脳は失念している。だから自転車も平気で歩道を走る。「同じ穴のムジナ」同士が議論している様は滑稽そのもの。
Posted by sharetheroad at November 26, 2011 06:14
Fischerさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、レトロなデザインの自転車も、それなりに人気があるのではないかと思いますし、オーソドックスなスタイルとして伝統を大事にするのもいいと思うのですが、フレーム素材やパーツまでそのままでは、乗る気がしないという人も多いでしょう。
フレームの形状は必ずしも変える必要はないですが、実用車にももっと先端の技術を導入して、快適性を高めたモデルが出るようになれば、実用車に乗る人も増えてくると思います。
やはり、格安輸入車による低価格化がネックなのでしょう。多少金額が高くても、いい自転車に乗ったほうが快適で楽しいということに、多くの人が気づくと変わってくると思うのですが..。
Posted by cycleroad at November 26, 2011 23:29
sharetheroadさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
日本では、格安の輸入ママチャリが席巻していて、良質でコンセプトのしっかりした実用車の開発を大きく阻害する市場環境になってしまっているのが、まことに残念であり、不幸な状態だと思います。
そのママチャリという遅い自転車が発達し、日本の自転車の大多数を占めるようになったのも、日本人の脳をクルマ優先社会にしたのも、自転車が平気で歩道を走るようにさせた行政のせいであるとすれば、つくづく罪深いことだと思います。
Posted by cycleroad at November 26, 2011 23:37
幼児2人乗り認可前に購入した子載せ自転車、約3万円位でした。滅茶苦茶重いです。でも重い自転車にしか乗ってないので、苦痛ではありません。子どもが成長し、今はカゴ取り替えてお買い物用にしています。ハンドル回転軸上に荷物カゴがあり、重い物載せても安定しています。勿論、重い物はなるべく後ろに載せています。自分の中で「実用車」のつもりですが、やっぱりままチャリの範囲でしょうか?

ままチャリの取り扱い説明書には「軽快車」となっています。主婦にはトイレットペーパーや5キロのお米が載せられない、高級スポーツ自転車よりもままチャリが便利です。望みは「ままチャリ」タイプで、丈夫で安全な物です。
Posted by 世田谷花子 at November 28, 2011 05:42
>望みは「ままチャリ」タイプで、丈夫で安全な物です。
こんなニュースが、、、。
>重心を普通の自転車より約50センチ下げることでふらつきを解消。チェーンではなくシャフトドライブを使うため雨にぬれてもさびつかない。通常の自転車と違って約60年耐久性がある「一生もの」。2年後には、やや小ぶりの「トランクミニ」も約5万円で売り出す方針。(小谷教授)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111125-00000003-mailo-l14
画像
http://ameblo.jp/kakehi1965/image-11076758553-11607413702.html
Posted by sharetheroad at November 28, 2011 08:49
世田谷花子さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
実用車とか軽快車などど呼び習わされていますが、ママチャリも非常に実用的な面がありますし、ママチャリだからいけないというわけではありません。
むしろ、現状の日本の道路事情を勘案しますと、日本向きのママチャリの実用性は高いと思います。
ただ、歩道をゆっくり通るには適していますが、海外のように車道を通る分には、重くてスピードが出ないという欠点が大きくなってくるでしょう。
ママチャリは軽快車ですが、実は必ずしも軽快とは言えず、トイレットペーパーや5キロのお米を積んでも、ママチャリよりはるかに軽快で、なんてラクなのかと驚くような自転車もあるということです。
Posted by cycleroad at November 29, 2011 23:05
sharetheroadさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
このニュースは私も目にしました。
80キロ積めるというと驚く人も多いでしょうが、自転車の積載能力、運搬能力が日本であまり知られていないだけで、海外にはそのくらいの能力のある自転車は当たり前に使われています。
ただ、こうした自転車が日本でも流通するようになれば、自転車イコールママチャリを連想するような日本人の固定観念も変わるでしょうし、もっと自転車の使い方が広がるかも知れませんね。
Posted by cycleroad at November 29, 2011 23:11
 
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