January 08, 2012

事故をなるべく減らすために

突然の悲劇が日常的に起きています。


年初に発表された昨年の全国の交通事故死者数は4千6百人あまり、11年連続での減少となったそうです。しかし、減っているとは言え、いまだ70万件弱の事故が起きており、85万2千人もの負傷者が出ています。相変わらず多くの人が、突然の悲劇に巻き込まれているわけです。

交通事故死11年連続減少減っているのは喜ばしい傾向ですが、その要因には、救急救命体制の充実や医療技術の進歩なども寄与していると言われています。交通事故死者数は、事故発生から24時間以内に死亡した人数なので、実際にはさらに多くの人が亡くなっていることになります。

クルマの安全性能も向上しているので、即死が減っているという見方も出来るわけです。もちろん負傷者の中には、重傷者や重篤な後遺症が残る人も含まれているはずです。長いリハビリや社会復帰が困難になるなど、事故後の生活や人生設計が大きく変わってしまった人も多いに違いありません。

さらに事故は被害者だけでなく、加害者も不幸にします。多額の賠償責任を負ったり、刑事責任を問われて服役する人もあります。事故の社会的な責任を問われ、失職するなどの代償を払うことになって、やはり大きく生活が変わってしまう人もあるはずです。

クルマ社会家族や関係者を含めれば、さらに多くの人に影響は及びます。そして、ほとんど誰にでも起こりえることでもあります。そもそも、これだけ多くの突然の悲劇が、日常的に起きていることが問題であり、交通事故死者が減っているからと言って、手放しで喜ぶわけにはいきません。

悲劇は、家の近所や職場の近く、ごく身近なところで起きています。いつ何時、自分の身にふりかかるかわかりません。街は人間のためにつくられたもの、人間が住み、生活し、働くための場であるはずなのに、人間の命を奪い、不幸に陥れる場所にもなっています。

しばしば交通事故が起きることが当たり前のようになっており、皆そのことをおかしいと思わなくなっていますが、それでいいのでしょうか。いつの間にか、多くの人が交通事故に遭って死傷するようになってしまいましたが、果たしてそれは仕方がないことなのでしょうか。

そんな疑問を感じている人たちが、クルマ社会と言われるアメリカにもいます。アメリカは誰もが当たり前のようにクルマを運転する国です。日本のようには鉄道網が発達していませんし、国土も広く、多くの場所でクルマ無しでは暮らしていけないと言われる国であるにもかかわらず、です。

ちなみにアメリカは、世界の石油の4分の1、ガソリンに限るとさらに多く、世界の消費量の約4割を占める国です。これは、中国や日本、ロシア、カナダ、ドイツ、イギリス、イタリア、フランス、メキシコ、オーストラリア、ブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビアなど、米国以外の上位20カ国の合計を上回る量です。

Bicycle City, www.bicyclecity.com

そんなアメリカでも、クルマ文明に対する疑問を感じている人たちがいます。街の中でまでクルマを使わなくてもいいのではないか、人間の居住や日常生活の空間にまでクルマが入り込んでいるのが、そもそも事故をひきおこす原因ではないかと考えている人たちがいるのです。

もちろん、アメリカはクルマ社会です。移動や流通にクルマは必要不可欠です。しかし、居住空間、生活空間からはクルマを排除し、クルマに依存しない街を構想しています。それが、“Bicycle City”です。その名の通り、自転車での移動を前提にした街です。

Bicycle City, www.bicyclecity.com

この街では、クルマの通行が許可されません。街の外まではクルマが利用できますが、街の中にはクルマが走っていないので、街の中ではクルマによる事故は起こりません。普通の街でクルマが通る場所に通るのは自転車だけです。現実の自転車天国、自転車のユートピアでもあります。

クルマが使われないことで、不慮の事故だけでなく大気汚染や騒音もありません。誰でも安心して街を歩くことができます。ガソリンに依存せず、人々には健康的な生活を提供します。さらに、太陽光や風力などを利用したクリーンエネルギーが導入され、緑豊かで自然のあふれる街になる予定と言います。



1990年代に構想された、Bicycle City プロジェクトは、この構想に賛同する人に出資を募り、2006年に設立された、Bicycle City LLC によって推進されます。2010年から工事がスタートし、街のインフラ整備が進められています。近く最初のブロックが売り出される予定だそうです。

場所は、サウスカロライナ州コロンビアの郊外、ガストンが選ばれました。一年中温暖でサイクリングに最適な気候です。海と山の中間にあって、湖も近いのでレクリエーションにも事欠きません。ハイウェイだけでなく、空港やアムトラック(鉄道)の駅へのアクセスも容易な便利な場所にあります。

Bicycle City(イメージ), www.bicyclecity.comBicycle City(イメージ), www.bicyclecity.com

よくある不動産開発会社による宅地分譲、新興住宅地ではありません。歩いて職場に行ける街、自転車で買い物に行ける街を目指しています。もちろん、他の都市へ出かけるなど、クルマが必要な人は、街の外周部に設置されるパーキングを利用出来ます。クルマが不要であれば、街の中心部に住むことも出来ます。

そして、このコンセプトに賛同する人、健康で安全な、徒歩と自転車だけの街という考え方を共有する人たちを集め、新たなコミュニティを作っていこうとしているのです。普通のニュータウン開発とは違い、時間もかかり、試行錯誤もあるだろうと思いますが、夢のあるプロジェクトと言えるでしょう。

Bicycle City, www.bicyclecity.com

移民が流入し、今なお人口の増え続けるアメリカとは違い、人口が減少していく日本では、なかなか新しい街を、一からつくるのは現実的ではないかも知れません。新しい街が必要になるどころか、過疎で人口が減って成り立たなくなる、いわゆる限界集落も増えています。

ただ、過疎化と住民の高齢化に悩む自治体では、コンパクトシティを目指す動きもあります。街の再開発を考える中で、この自転車の街という考え方は検討に値するのではないでしょうか。街をダウンサイジングする中で、街の中からクルマを排除してしまう選択肢もあると思います。

Bicycle City(イメージ), www.bicyclecity.comBicycle City, www.bicyclecity.com

税収が減っていく中、なるべく集まって住む、街をコンパクトにすることで、インフラにせよ、住民サービスにせよ、コストの削減が見込めます。集まって住む区画の中からクルマ用の道路を排除しても、コンパクトであれば、徒歩と自転車でもこと足りる可能性は充分あります。

高齢化して、運転しなくなっても住める街、クルマが運転出来ないことで、買い物難民にならないような街というのも重要な要素でしょう。この際、思い切って自転車シティにしてしまおうという市町村が出てきてもよさそうなものです。むしろ、日本の市町村でこそ、自転車シティが増えても不思議ではありません。

Bicycle City(イメージ), www.bicyclecity.comBicycle City(イメージ), www.bicyclecity.com

クルマを全く使わないわけにはいきませんが、大都市であっても、街路でブロックを区切り、そのブロックの中からはクルマを排除するという考え方は出来ると思います。渋滞を迂回しようと生活道路に入り込み、スピードを出して危険なクルマが各地で問題となっています。その解決策にもなるかもしれません。

もちろん、既存の街からクルマを排除するのは簡単なことではないと思います。自転車の街にしてしまうと、不便も出てくるでしょう。当然反対も予想されます。しかし、どんな場所でも、一律にドア・ツー・ドアでクルマが使えるようにする、そんな考え方からは、そろそろ脱却してもいいような気がします。

クルマの否定ではありません。当然ながらクルマにもメリットとデメリットがあります。何より交通事故の悲劇を減らすことを考えるなら、今の街と道路の関係には改善の余地があると思います。日本でもカーフリー、クルマを使わない区域を設定するという選択肢を、もっと考えてみてもいいのではないでしょうか。





クルマや歩行者と自転車が混在して危険だけど、自転車レーンを設置する余地がない道路は多いと思いますが、思い切ってクルマのほうを制限してしまうという手も、あると思うんですけどね..。

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この記事へのコメント
欧州が高齢化に費やした時間の半分以下で急速に
高齢化している日本です。高齢化に伴い認知症やその
他の病気によって車の運転ができなくなる人々も大勢
いることでしょう。又、交通事故の被害者や加害者に
占める高齢者の割合が非常に大きくなっているのが
現状ではないでしょうか?
 コンパクトシティの発想は非常にこれからの日本に
マッチしていると思います。住宅地では自動車を排除
する或いはバンプを20m間隔で設けて時速20km/h以上は
出せないようにするなど人間優先の交通政策こそ必要
ではないでしょうか?
Posted by yoko at January 10, 2012 10:29
クルマを使わないで済む街、出来上がったら一度見に行ってみたいものです。
ああ羨ましい。

正月に長野県に行ったのですが、地方の街は車無しでは生活出来ないという事を体感してきました。

スーパーや病院、役所などの場所が、街中に散らばっているためです。

これでは自転車では効率が悪くて誰も乗らないわけですよね。

街の中心部にある大型書店に行ってみると、なんと自転車雑誌が一冊もありませんでした。

クルマの雑誌は東京の3倍程置いてありました。

寂しい現実でした。
Posted by ぶーちょ at January 10, 2012 12:19
サイクルロードさんの言うとおりクルマを制限するというアイディアもあるとは思いますが、高度成長のクルマ普及の成功体験があるせいか、なかなか受け入れられませせんね

もしかしたら東京都の偉い人たちはオリンピック招致のためには東京オリンピックのときのようにもっとクルマのために道路を作るべきだと思っているのかもしれないですね
Posted by 職人気取 at January 10, 2012 16:49
yokoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
具体的な割合や増加率は知りませんが、高齢者が原因となる事故が増えているという話も聞いたことがあります。地域によっては運転者の平均年齢も上がっているのでしょう。
クルマでの移動を前提にした街づくりは、今後いろいろな問題を露呈しそうです。
私も住宅地にバンプは、もっと積極的に設置してもいいと思います。なかなか簡単には設置できない事情もあるようですが、既存の住宅地には、それも手だと思います。
ただ、クルマの運転が難しくなる高齢者が増えていくのであれば、徒歩や自転車で生活できる街を目指すという考え方もあるのではないかと思います。
Posted by cycleroad at January 10, 2012 23:31
ぶーちょさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
“Bicycle City”として自転車を前面に押し出しているかは別として、似たような考え方を指向している場所は、他にもあります。今後、こうした域内カーフリーというのは、案外増えてくるかも知れません。
確かに、クルマ無しでは生活できないというのは、実際問題としてありますね。私も転勤などで経験したことがあります。
自転車雑誌が一冊も無いんですか。もともと坂が多いとか山がちとか、自転車が使いにくくて人気のない地域もあると思いますが、長野で一冊も無いとは意外です。
東京などでは自転車雑誌のコーナーが拡大しているところも多いですが、地域差が大きいようですね。
Posted by cycleroad at January 10, 2012 23:40
職人気取さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
クルマのほうがラクだと考える人は多いでしょう。事故のリスクや安心して歩ける街より、利便性をとるという考え方のほうが圧倒的に多いのが現状ということだと思います。
全て徒歩と自転車ということではなく、居住地域内をカーフリーにして、利便性と安全な居住環境を両立させるという考え方はあると思いますが、まだまだこれからだと思います。
高齢でクルマが使えない人が増えているところでも、街を造りかえたり、商業施設を誘致したり集積したりというのは、なかなか簡単には出来ませんからね。自治体の財政も逼迫していますし..。
東京圏では、そういう面もあるでしょうし、必要な道路もあると思います。ただ、東京でも、必要とされる幹線道路とは別に、住宅地や市街中心部の域内をブロック化してカーフリーにするという考え方はあると思います。
Posted by cycleroad at January 10, 2012 23:53
こんにちは、ご無沙汰しておりました。
一気に最近の記事を読ませて頂きましたが、いつもの感心させられるアイデア記事と、自転車の車道走行についての記事が多いですね。

私も、8月末に転倒して怪我をしてしまい、3か月乗れませんでした。それでも、対人ではなく対動物(猫)だったのが不幸中の幸いです。もしも、対人で、周囲にたくさんの信号待ちの歩行者がいなければと思うと、水かけ論になったかも知れずゾッとします(以来、再度デジタルレコーダーを購入し、必ず録画しながら走行するようにしています)。

警察庁のPRの甲斐あってか、最近では車道を走る自転車がかなり増えてきたように思います。ただし、残念ながら信号を守るのは未だ1割にも満たないのが現状ですが…。

いつもサイクルロードさんがおっしゃるように、いずれ搭乗者自身が気づいてくれるだろうと願っています。

Posted by nori at January 24, 2012 15:57
noriさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうでしたか、ネコですか。それは大変でしたね。復帰なされたようで何よりです。
記事の内容については、どうしても関心のあることに向かうのと、雑誌などに詳しくあるようなものは扱っても仕方がないかなと思って避けているので、だいぶ偏りがあると思います。
ここのところ、車道走行の原則徹底が一部で話題になっていましたので、それも多かったかもしれません。
なるほど、デジタルレコーダーですか。私はつけていませんが、事故でトラブルになった場合には威力を発揮しそうですね。
警察庁の通達については、あまり関心の無い人も多そうなので、その結果なのかは微妙な気もしますが、確かに車道走行は増えている感があります。
信号無視も多いですが、9割ですか。正確にカウントしたわけではないですが、それは東京より多いような感じがします。
Posted by cycleroad at January 24, 2012 23:20
 
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