May 16, 2012

客観的な評価がもたらすもの

住むところを選ぶとき、何を重視しますか。


仕事の都合などで選択肢が限られる場合は別として、例えば都市に勤める場合、その都市の周辺通勤圏も含めた多くの街が選択肢に挙がることでしょう。通勤に便利とか、土地勘があるなど、ある程度地域を限ったとしても、数多くの物件が候補にあがるかも知れません。

Photo by Revizionist,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.家の間取り、日当たり、交通の便、周囲の環境、もちろん価格や賃料なども含め、いろいろ勘案して決めることになるでしょう。近くに商業施設がある、幼稚園や学校が近い、病院や公共施設が近い、公園や緑が多い、人によって、さまざまな条件があると思います。

その中でも、生活の利便性は重要な要素です。例えば、駅からの所要時間が同じ物件でも、場所が違えば近所、特に徒歩圏にどんな施設があるのかによって、利便性は変わってきます。周辺施設の種類や距離などはバラバラなので、なかなか物件同士で比較するのが難しかったりします。

そんな生活の利便性への評価がアメリカにあります。その名も“Walk Score”、その地域が歩きやすいか、徒歩圏内に施設が揃っているかなど、歩いての暮らしやすさを数字にして提供しているサイトです。多くのデータを使って計算した点数が、客観的かつ中立な立場で公表されています。

アメリカは広いですから、クルマがないと生活出来ない場所はたくさんあります。当然ながら、全米の中でも歩いて暮らせる場所、点数の高い場所は都市部に限られます。実際、このスコアによるランキングでも、ニューヨークやサンフランシスコ、シカゴのような大都市が上位に来ます。

Walk Scoreしかし、このスコアは都市のランキングのためにあるのではありません。例えば、サイトで任意の場所の住所を入力すると、その場所の地図と共に、点数が表示されます。都市ごとではなく、細かい住所ごとに、歩いての暮らしやすさの点数が出るのです。

ですから、例えば同じニューヨークのブルックリンのこの物件と、ブロンクスのこの物件というような比較が簡単に出来ます。同じ地区にある物件でも、場所が違えば、この数字が違ってくる場合も当然あるはずです。この点数を見れば、歩いての暮らしやすさを客観的に比べることが可能なのです。

これは便利な評価と言えるでしょう。クルマ社会のイメージがあるアメリカで、歩いての暮らしやすさというのも意外な気はしますが、アメリカだって、特に都市部の生活の利便性ということを考えれば、徒歩圏に何があるかは重要な要素なのは当然です。

もちろん、アメリカ全体を見渡せば、点数の低い場所はたくさんあります。ただ、この数値をみれば、クルマなしで暮らせる場所だとか、クルマはあまり使わなくても済むとか、クルマを使わなければ何も出来ないとかも容易に判定できるわけです。このサービス、日本にも欲しいくらいです。

Walk Score

すでにこの“Walk Score”というサービスは支持を広げています。個人がサイトを利用するだけでなく、不動産会社などにもプロ用のサービスを提供し、物件情報などに採用されています。不動産会社にとっても、スコアで物件の利便性をアピールできますし、第三者的な評価基準があるのは便利でしょう。

この会社では、歩いて暮らしやすいという価値観は、居住環境という点だけでなく、人々の健康にも貢献し、国の経済という点においても大きな価値があると考えています。歩いて暮らせるような地域を増やすことも、同社のミッションだとしています。



会社としての“Walk Score”は、2007年に設立された若い企業ですが、最近も投資家から200万ドルの資金を調達するなど、その成長が期待されています。部屋数とか面積などと同じように、不動産物件リストの一指標としての地位を確立したいと考えています。

現在サービスは、アメリカとカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの一部ですが、アメリカ全土をカバーし、さらには世界的にサービスを広げていく計画です。ちなみに、グーグルマップのAPIを一部使っているようで、日本の住所を入れても数字は出ますが、正確な使える数字ではありません。

Bike Scoreさて、その“Walk Score”が新しい試みに挑戦しています。その名も“Bike Score”、つまり“Walk Score”の自転車版です。自転車の乗りやすさの指標化を試みています。周辺の施設へのアクセスの利便性という点では、自転車でも徒歩でも変わりないのではないかと考える人もあるでしょうが、両者は違います。

主に徒歩圏内にある施設や距離などを独自のアルゴリズムで判定する“Walk Score”とは違って、自転車向けのインフラの充実度、地域の地形、つまりアップダウンの多さ、自転車レーンがネットワーク化されているか、自転車通勤する人が多いか、といったデータを独自のアルゴリズムで処理しています。

これも面白いサービスと言えるでしょう。特に自転車乗りには興味深いスコアです。もちろん場所によって違ってきますが、このデータに基づく全米の自転車に乗りやすい都市がランキングされています。ちなみに順位は、1位ミネアポリス、2位ポートランド、3位サンフランシスコです。

以下、ボストン、マディソン、ワシントンD.C、シアトル、ツーソン、ニューヨーク、シカゴと続きます。納得できる順位ですが、私が実際に訪れたり、自転車で走ったりした印象とは少し違います。例えば坂が多く、街中をケーブルカーが通るくらいアップダウンのきついサンフランシスコが3位です。

Bike Score確かに自転車に乗る人が多く、独特の自転車文化が根付いているとも言える街ではありますが、さすがにアップダウンがきつく、3位は高評価な気がしないでもありません。やはり、そのあたりは住んでみないとわからない部分などもあるのでしょう。その意味でも貴重な指標となりそうです。

“Bike Score”を計算するにあたっては、自転車乗りのコミュニティから多くのアイディアが寄せられたそうです。大学の研究者などによって、人口密度などの基礎的データも合わせて加重して算出するなどの方法論が編み出されました。この方法は公開されています。

アメリカ人全体では2009年に、2001年に比べて2倍以上も自転車に乗ったことが明らかになっています。自転車も2010年までの10年間で4割増えました。アメリカ人の7割は、今よりも自転車に乗る機会を増やしたいと考えています。“Bike Score”登場の背景には、このような事情もあるわけです。

こうした評価、日本にも是非ほしいサービスだと思います。“Walk Score”社が日本に上陸するか、日本で同様のサービスを提供する事業体が出て来れば、住む所を決める際に便利なだけでなく、日本各地の自転車走行環境の整備に対して影響を与える可能性があると思います。

個人的に、こういうブログを書いているので、普通の人は読まないようなローカルな自転車関連の記事もよく読むのですが、最近は各地で自転車環境の整備や充実に力を入れる自治体が増えていると感じます。市民の安全のため、自転車レーンを整備したといった記事もよく見かけます。

Bike Score

しかし、写真で見たり、何かの用事などで実際にその街に行くと、なんとも残念な自転車レーンである場合も少なくありません。歩道に色を塗っただけだったり、わずかな距離だったり、およそ評価に値しないものもたくさんあります。そんなものが誇らしげな談話と共に報じられていたりします。

自転車に乗らない役人が勝手な都合でつくった自転車レーンが、使い物にならない例は少なくありません。おそらく全国のサイクリストが感じているのではないかと思います。しかし、恥ずかしげもなく自転車の街だとか、自転車都市などと平気で名乗るような自治体もあるわけです。

Bike Score

“Bike Score”のような客観的な評価があれば、そうした自治体の担当者の無知、勘違い、独りよがり、そして何より税金の無駄使いが減らせるでしょう。本当の意味での自転車の乗りやすさや安全を考えなければ、自転車の街などを名乗る資格がないことを、スコアで思い知ることになるに違いありません。

“Walk Score”についても、特に“Walk Safty Score”を算出するようにしたらどうでしょう。最近、悲惨な交通事故のニュースが続いています。幼い子供が、通学や通園などで、ただ歩いていただけなのに命を落としています。歩いて暮らす上での安全性が問われていると思います。

Photo by Zvesoulis,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.徒歩での安全性のスコアによって、地域の安全が評価され、数字として可視化されれば、自治体や警察の交通安全に対する対策にも力が入ることになるでしょう。地域住民からのプレッシャーも増すでしょうし、長期的には住民の流出や居住の敬遠という事態も考えられます。いい意味で行政に影響を与える可能性があります。

日本人はアメリカ人と比べて、土地に対する執着が強いと言われています。アメリカ人は、何かのきっかけがあれば、今までの州から遠く離れた州でも簡単に移住します。それに比べると、日本は「ふるさと」や住み慣れた街への愛着が強く、どうしても必要でなければ、あまり移り住む人は多くないと一般的に言われています。

住宅市場の流動性が促されることで、より住みやすい街になっていくという効果は、アメリカに比べると期待できないわけです。しかし、客観的な評価があれば、他所との比較や、平均との差、全国的なランクなどがわかります。住民が現状認識を深め、もっと住みやすい街へという要望も高まることでしょう。

それは行政に対する様々な形での圧力となって、地域の住みやすさの向上につながるはずです。もちろん、住みやすさは、歩きやすさや自転車の乗りやすさだけではありません。ただ、移動に注目してスコアにし、住みやすさの客観的な評価の一つとするのは、いろいろな意味で有意義なのではないでしょうか。





来週の金環日食の天気が、そろそろ気になるところです。東京で観測できるのは173年ぶりと楽しみにしている人も多いようですし、晴れるといいですね。

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この記事へのコメント
いつもこのブログ楽しく読ませてもらってます。
今回の記事を読んでロサンジェルスのWalkabilityを調べてみました。私の生活実感からして、残念なことに歩きやすいスコアーが高く掲載されていた地域はは7割近くがいわゆる犯罪率が高い物騒な地域です。サンフランやボストン等は歩ける町としてイメージも高く実際そうですが、このスコアーの付け方のガイドラインがどのようなものか解りませんが、
少なくともロスでこの資料を基にして、実情を知らない人がアパートや家を探したとすればちょっとえらいことになりそうな気がします。
Posted by MH at May 18, 2012 14:51
MHさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
別に擁護するわけではないですが、このスコアは“Walk Score”であって、あくまで歩いての利便性や暮らしやすさです。
治安の良し悪しは、全く別の問題だと思います。当然ながら、総合的に住みやすいという評価ではありません。
逆に、治安を考えて評価を低くしていたら、歩いての利便性のスコアの意味がなくなるのではないでしょうか。
間取りや値段や日当たりや、当然治安なども含めて他の要素を考慮せず、このスコアだけを基準にして決める人がいるのなら、そのこと自体が問題でしょう。
つまり優先順位の問題であり、普通ならば、治安や他の要素が先に来るでしょうし、“Walk Score”が良くても..、という話だと思います。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
Posted by cycleroad at May 19, 2012 23:19
http://www.ichiten.com/
日本にも住所を指定して住みやすさを測定するサービスがありますよ。
Posted by F at May 24, 2012 12:09
日本では自転車のポテンシャルを活かせる、安全で円滑な通行など微塵も考えていない、危険で未熟な道路設計の場所も多いですしね。
ああいう道路はどんどん正していくべきでしょう。そもそも、自転車という弱者にとって暮らしにくい地域は、たいてい、歩行者にとっても不便なものです。そんな地域に明るい未来などありません。歩行者や自転車が安全円滑に往来でき諸用を済ませれる魅力的な地域にすれば、光も見えてくるでしょうが。行政担当者の英断が必要です。市民らもそれを後押しするべくメッセージを届けるべきでしょう。

自転車は、健康問題やエネルギー問題の救世主にもなりうる、すばらしいツールです。
安全快適に自転車を活用できる地域をポイント化して、ランキングとして発表すれば、全国が切磋琢磨して自転車のための環境整備に勤しんでくれるのではないか、と期待しています。
自転車で安全快適に往来でき、諸用を済ませられ、そのポテンシャルを活かせる道路、地域の設計が求めれています。
……排ガスも騒音も出さず、振動公害もない、軽量ゆえに路面も荒らさない損壊させないスマートな乗り物である自転車。
自動車移動が前提な設計は、もう時代遅れで愚かとも言えます。英断が、改革が必要でしょう。自転車への乗り換えが進めば、地域はすばらしくクリーンで趣があり、セイフティで、魅力的なものとなるでしょう。自動車という占有面積と重量の乗り物が減れば重大事故は減るのは明白なのですから。
自転車の健康効果で、地域の医療費負担も軽減され、市民らの生活にもハリが出るというものです。
Posted by 佐藤 at May 24, 2012 22:27
Fさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
日本にもこういうサービスがあったんですね。これは知りませんでした。情報ありがとうございます。
Posted by cycleroad at May 25, 2012 23:53
佐藤さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
まだまだ行政にはクルマ優先の道路設計思想があって、住民が求めているものと乖離するような傾向があると思います。
そのあたりが客観的に表れることで、市民の求めるものがわかるだけでなく、政治や行政にも再考を促す可能性があると思います。
特に住宅地の道路の規制や構造の見直しなども含め、都市計画を考え直すような方向へ向かってほしいものですね。
Posted by cycleroad at May 25, 2012 23:57
 
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