August 11, 2012

使い続けるための知識と技術

最近、オランダで話題になっているスポットがあります。


その名も“Repair Café”、身の回りの品を修理して使いたいという人たちが集まる「修理カフェ」です。日本でも近頃いろいろなカフェがありますが、「リペア・カフェ」と言うのは聞いたことがありません。すでにオランダ国内に20箇所あって誰でも利用できます。さらに計画中のものが50箇所以上あると言います。

オランダでも近年、他のヨーロッパ諸国と同様、まだ使えるものをどんどん使い捨てにするような大量消費文化に対する疑問が膨らんでいます。人々の間に資源を大切にしようという意識が広がり始めているのです。原材料の省資源だけでなく、製造や流通段階での省エネや、増え続けるゴミの量を減らすことにもなります。

Repair Café, repaircafe.nlRepair Café, repaircafe.nl

この「リペア・カフェ」は、そうした人々の意識の中から出てきた、オランダ発のムーブメントです。家具でも家電でも、日用品でも趣味のものでも、まだ使えるものを捨てるのはもったいない、修理しながら長く使おうと考える人たちのためのカフェというわけです。

最近は電気製品など、壊れて修理に出すと修理代が高くつくものが少なくありません。修理するより、安売りしている新品に買い換えたほうがおトクで手っ取り早い場合も多いでしょう。修理には手間がかかり、人件費が高いこともあるのでしょうが、メーカー側も修理でなく買い換えさせようとしています。

何でも買い換えるのが当たり前、使い捨てるのが当然になっているため、普通の人は修理のスキルもありません。修理して使おうにも修理できない、世の中が、ものを修理しないスタイルになっていると言えるでしょう。そうした風潮に一石を投じるのが、この「リペア・カフェ」です。

Repair Café, repaircafe.nlRepair Café, repaircafe.nl

足が取れた椅子、動かないトースター、虫食いのあるジャンパー、人々は修理が必要な品々を持って集まります。しかし、ここは「修理ショップ」ではありません。「リペア・カフェ」は、修理してもらうのではなく、やり方を学んで、自分たちで修理する場なのです。

リペア・カフェには、修理するために必要なツールや、知識を得るための資料などが備えてあります。ボランティアの修理技術者が指導してくれたり、的確なアドバイスがもらえます。場合によっては手伝ってもらえますが、基本的には、みんなで一緒に学び、自ら修理をしようというスタンスです。

人々は服、家具、電気器具、瀬戸物、機械、おもちゃ、自転車も含め、さまざまなものを持って集まります。やり方を学んだり工夫しながら、みんなで修理をします。自分でも修理できることに気づいたり、最近しなくなった修理の仕方を思い出す場であり、修理という作業を楽しむ場でもあるのです。



なかには自分の趣味の分野の修理が得意な人もいるでしょう。コーヒーを飲みながら修理やDIYに関する本に目を通したり、集まった人同士で情報交換したり、他の人の手助けをしてあげてもいいわけです。とりあえず修理するものがない人でも、お茶を飲みに来て、他の人に修理の仕方を教えたり、手伝ったりしても構いません。

少し前の時代であれば、誰もが自分で修理しながら使っていたものも少なくありません。定年退職して、時間に余裕のある人の中には、修理の知識や技術を持つ人もいるはずです。修理しなくなったことで失われつつある貴重なノウハウやテクニックを生かす場であり、リタイヤした人が近所づきあいを広げる場にもなるでしょう。

でも、プロの修理屋さん、修理技術者から仕事を奪おうとするものではありません。プロに頼みたい人もいるでしょうし、ものによっては、リペアカフェで近隣の修理業者や、修理専門店を紹介してくれるケースも多いと言います。なかなか得られない修理のスペシャリストの情報を提供したり、仲介する場でもあります。

Repair Café, repaircafe.nlRepair Café, repaircafe.nl

愛用品を修理しながら長く使うという価値観を共有するコミュニティであると同時に、修理するものが同じなら、趣味も共通かも知れません。趣味の分野に関しては、そうでない人に、修理についてアドバイスできるでしょうし、修理という作業自体も楽しいものであるに違いありません。

例えば趣味のサイクリストなら、自転車の修理についてアドバイス出来る人は多いと思います。修理の仕方だけでなく、部材の選び方、安く手に入る店などの情報、費用の目安、道具の使い方、そのほかノウハウを含め、大概の修理ならば、さまざまなことを助言できるでしょう。

そう考えるとこのスタイル、なるほど有効に機能しそうな気がします。注目されているのも頷けます。修理を依頼するのではなく、自分で修理をするわけですから、原則として無料です。もし近くにあったら、フラリとのぞいてみたくなる人も多いのではないでしょうか。

Repair Café, repaircafe.nl

このリペアカフェ、Martine Postma さんという人が始めました。さらにネットワークを広げるべく呼びかけてもいます。地元でリペアカフェを始めてみたいという人には、無料で包括的な情報のパッケージが提供されます。もちろん開設に向けたアドバイスや、ポスター、チラシといったアイテムも含まれます。

日時を決めて、定期的なイベントの形で開けば、徐々に人も集まるでしょう。市民会館や公共の集会施設などばかりでなく、人が集まるのであれば、空き店舗を無料で貸してくれる商店街とか、イベントスペースを使わせてくれるショッピングセンターなども見つかるかも知れません。

リペアカフェの既存のネットワークを通して、宣伝やボランティア、好意で協力してくれる人も集められるでしょう。まだ使えるものを安易に捨てるのではなく、自分たちで修理しながら長く使っていこうというコンセプトが理解されれば、多くの人の賛同や協力が得られるに違いありません。



なかなか興味深いムーブメントだと思います。ただ、あまり修理ばかり推進すると、ものが売れなくなってしまうと心配する人があるかも知れません。デフレが加速し、雇用に対してもマイナスです。しかし、修理して使うスタイルが、必ずしも経済を停滞させるとは限らないような気がします。

修理するより買い替えが安くなるような販売スタイルに対し、支持が得られなくなっているとするならば、メーカーや流通側が考え直すべき時期に来ているのかも知れません。人々の意識やニーズ、ライフスタイルの変化に、むしろ積極的に対応していく方法も考えられます。

例えば、1万円の商品を、平均して1年で買い換える使い方だと10年で10万円です。しかし、修理しながら、いいものを長く使いたい人、壊れにくく品質がいいもので、10年使えるなら20万円出してもいい人のニーズに応えれば、売り上げは倍になるかも知れません。新たな修理用品のニーズが生まれることも考えられます。

Repair Café, repaircafe.nl

実際に日本の自転車市場など、その典型ではないでしょうか。格安だけれど低品質なママチャリに乗っている人がたくさんいます。安いのでぞんざいに扱うこともあって、すぐ錆びたり壊れたりします。修理は割高になりますし、放置して撤去されたり、盗まれたりすることもあり、頻繁に買い換えることになります。

自転車が趣味の人ならご存知の通り、自転車の場合、格安なママチャリほど修理が困難な構造になっています。やってみるとわかりますが、タイヤを外すだけでも相当な手間がかかります。修理しつつ乗ろうとすれば、必然的に価格の高い自転車になるでしょう。

趣味のサイクリストは使い捨てにしない代わり、値段が桁違いに高い自転車に乗っています。自転車本体価格を含めた1年あたりの自転車代は、ずっと大きいだろうと思います。いい自転車を買って修理しながら長く乗る人が増えれば、むしろ自転車市場は拡大する可能性があるでしょう。

Repair Café, repaircafe.nl

でも現実には、格安の自転車が日本の自転車市場を席巻しています。修理まで面倒をみない、もしくは技術の無いディスカウントショップや量販店で自転車を買うため、街の自転車屋さんが減ってしまい、余計に修理を頼みたくても頼む店がないという悪循環が起きています。

自転車が使い捨てのようになっているため、放置自転車やゴミとしての不法投棄を増やす形になっています。通行の邪魔になったり、税金でまかなわれる撤去費用、処分費用も莫大です。修理して使うスタイルが定着すれば、社会的なコストを低減する効果も見込めます。

自転車の場合は、さらにメリットがあります。つい先日も、自転車を点検せずに乗っている人が7割に達するという調査がありました。点検やメンテナンスの知識もなく、使い捨てのように使っているため、点検などしないわけです。修理して使うようになれば、こうした人も減るはずです。

Repair Café, repaircafe.nl修理することで、自転車の構造や特性に対する理解も進みますし、最低限のメンテナンスもするようになるでしょう。例えばブレーキがあまいまま乗って、結果として事故につながるようなケースも減ることになるに違いありません。修理しながら乗るスタイルは、安全にも貢献するでしょう。

日本では、ママチャリしか乗ったことの無い人も多いですが、ふだん格安のママチャリに乗っている人がスポーツバイクなどに乗ると、その快適さ、速さに驚く人が少なくありません。使い捨てでない本来の自転車に乗れば、自転車に乗る楽しさにも気づくはずです。

ほかの品物についても、使い捨てるのではなく、愛用品を修理しながら長く使うスタイルは、その品物に対する愛着が沸き、使う喜びが増し、それを使う生活を豊かにすることでしょう。日本でも、リユースやリサイクルだけでなく、もっとリペアについて考えてみるべきではないでしょうか。





金メダルを獲るだけでも大変なのに3連覇の偉業、国民栄誉賞の声があってもいいくらいな気がします。

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この記事へのコメント
この記事を読んで「風が吹いてきたのかな」と感じています。
僕は定年退職してから、なるべく支出を減らそうと「自分で直せるものは直して使う」ことをしています。
そのことをブログには「今日の修理品」として載せています。

「リペア・カフェ」・・・そうですか。オランダではそんな流れが。
自宅の中で修理をしていても人目には付きませんが、空き店舗で修理していたら、通りがかりの人で興味を持ってくれる人がいるかもしれませんね。
そうすると人が集まってきて、「リペア・カフェ」が成り立つかも。

もう「大量生産・大量消費」の時代は終わりました。
これからは「気に入ったものを修理して長く使う」時代です。
やがて日本にも「リペア・カフェ」ができるかも。
Posted by トンサン at August 13, 2012 09:55
とても興味深い話題です。

もともとオランダはフリーマーケットが盛んで、市のホールなんかで大規模なのが頻繁に開
かれていたり、4月の女王の誕生日にもフリーマーケットが開かれることになっていたりし
ますね。
個人取引が盛んなのは、高い消費税を回避するためでもあるようです。

自転車の価格についても、安くなればなるほど、生産拠点が外国に移って国内産業の空洞化
が進み、デフレも実際進んでいる事実があります。
しかるべきものにしかるべき対価を払うということが出来ないとこの流れは変わらないよう
な気がします。

僕のブログからリンクさせて頂きたくお願いします。
Posted by ひろにゃんof風琴屋 at August 14, 2012 02:04
リペアカフェっていいですねー。経済的に不安定な状況にあっても人が集い助け合い出来るアイデアは素晴らしいです。日本でもフリマやネットオークションなどリユースの仕組みはあるけどそれを一歩二歩先行く仕組みではないでしょうか。物には愛着が湧きますから。日本人にも直して使う文化があったはず経済大国となった時その文化をどこかに忘れてきてしまったのでしょうか?
Posted by タニグチ at August 14, 2012 19:49
トンサンさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
大量に消費して大量に捨て、エネルギーも資源も湯水のように使うというライフスタイルは格好が悪いという考え方が世界的に広がってきているのかも知れませんね。
同じものを使うにしても、使い捨てのものより、長く使えるものを使いたいという人が増えつつあるということもあるのでしょう。
自分で修理出来る人にとっては、ごく当たり前のことだと思いますが、リペア・カフェの人気は、修理するための知識や技術がない人、自分で修理出来るようになりたいと考える人が少なくないことを示しているのだろうと思います。
トンサンさんのブログを見て自分でも修理してみたいと考える人はいるでしょうし、もし、そんな場があるなら、ぜひ教えて欲しいと思う人もいるのではないでしょうか。
日本でもリペアカフェの需要はありそうですね。
Posted by cycleroad at August 14, 2012 22:15
ひろにゃんof風琴屋さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
フリーマーケットなどで、自分には必要なくなったもの、使わなくなったものを他人に譲ることで、なるべくものを捨てないようにしようという意識と、相通じる部分があるのでしょうね。
フリーマーケットでは、絶版などでプレミアがつくものもあるでしょうが、ほとんどタダで譲っても、物が無駄にならない、使ってもらえれば幸いという人も多いと思います。
リペアカフェも、ボランティアで修理方法を伝授することで、ものを無駄にせずに使ってもらえれば幸いというコンセプトがベースにあります。
そういう意識の延長ということで、オランダでは自然な流れなのかもしれませんね。
どうぞ、リンクはご自由になさってください。
Posted by cycleroad at August 14, 2012 23:26
タニグチさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
大量生産大量消費型の社会が、高度経済成長に貢献したのは間違いないでしょう。ただ、低成長の時代に、その価値観も変わってきている気がします。
一時期忘れていたのかも知れませんが、ノーベル平和賞のワンガリマータイさんが紹介して有名になった、「もったいない」という日本の文化は健在なのではないかとも思います。
Posted by cycleroad at August 14, 2012 23:31
良いムーブメントですね!
実は最近、うちに自転車のパンクを修理に来た近所の男の子が「何回も修理しているので自分で覚えようかと思うんです」と。(笑)
私は諸手を挙げて・・・大賛成!
実際にパンク修理をしながら事細かに説明をしました。
なんと彼は「メモしてもいいですか?」と。
私の言う言葉を一字一句漏らさず、ノート3ページに渡ってイラスト付きでびっしりと書き込んでいました。
小学校6年生の男の子です。
お父さんの形見の「パンク修理セット」を使いたい、と言っていました。
最近の子は・・・メンテナンスなんてまるでしませんからね。大した心構えです。(つづく)
Posted by 群馬の自転車屋さん at August 17, 2012 01:22
(つづき)
私はもともと長い事、ホームセンターに勤めていましたが・・・日本ではこうした風潮はどうでしょうかね。
みなさん、DIYするより既製品を求める傾向が強いですね。
それは恐らく日本の文化的な歴史的な背景が強いように思えるのですが。

でも良いものはやっぱり長持ちします。
修理をすれば、また同等の働きをしてくれますから
是非とも「リユース」「リデュース」「リサイクル」の3Rの観点からもわが国でも定着して欲しいものです。

経済性を問うのであれば、原材料から最終処理段階までのコスト面をもっと意識して欲しいですね。
Posted by 群馬の自転車屋さん at August 17, 2012 01:29
こんにちは、はじめまして。
私もちょうどRepair Cafeのことを知って、自分でも始めようかと準備している所でした。
始めるにあたって地元の自治体に協力をお願いしている所なのですが、この記事がすごく端的にまとめられていて、Repair Cafeのことを知ってもらうのに説明し易いので、参考にさせて頂いて良いですか?厚かましいお願いですが。
Posted by イノウエ at August 17, 2012 23:13
群馬の自転車屋さんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
それは感心な小学6年生ですね。私も小6の時に、自分で修理しようとは思わなかったと思います。
でも、小学生でも自転車に乗る以上、パンク修理くらい出来てもいいはずです。
自転車に対する理解も進みますし、それは安全にもつながるに違いありません。

パンク修理くらいならともかく、ママチャリの場合、チューブを交換しよう、タイヤも減ってきた、チェーンも錆びてきたから代えよう..とやっていくと、すぐに新品の自転車を買うより高くなってしまうのも問題でしょうね。
自転車が格安すぎる弊害で、日本では修理しなくなっている面は否めないでしょう。自転車だけに限りませんが..。
いい自転車のほうが長持ちするだけでなく、快適で楽しいという点も大きいと思います。
ただ、いい自転車を知らない、乗ったことがない人が多いというのもあるでしょうね。
Posted by cycleroad at August 17, 2012 23:31
イノウエさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうでしたか。日本では、まだ“Repair Cafe”のことは、あまり知られていませんし、そのコンセプトが一般的と言えるような状況でもありませんから、説明するのは難しい面があるかも知れませんね。
本文には、一部に現地のことそのままではなく、私の意見や考え方も含まれていますが、どうぞ参考になさって下さい。
このページを見ていただくことで、多少でも理解の助けになるのであれば幸いです。
Posted by cycleroad at August 17, 2012 23:45
 
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