December 15, 2012

ガイドラインの次の手が必要

国が、自転車環境整備のガイドラインを出しています。


少し前の記事になりますが、毎日新聞から引用します。


自転車:「レーン」基準を初明示

自転車の安全な走行に向け、国土交通省と警察庁は29日、走行路や交差点の改良、ルールの徹底などに関するガイドラインを公表した。自転車道や自転車レーンを設置すべき道路について、車の速度や走行量の目安を初めて明示し、交差点を直線的に通過できる整備手法を紹介。両省庁は自治体や都道府県警、出先機関にガイドラインを周知し、自転車の利用環境向上を図る。

車道に設けられた自転車レーン両省庁設置の有識者会議が4月、車道での走行路整備を柱とする提言を出しており、ガイドラインはこれを基に作成。自治体などが自転車ネットワーク計画を作り効率的に走行路を整備すべきだとし、その手法は(1)自転車道(2)自転車レーン(3)車と混在−−から選択すると明記した。

選択の参考基準として、車の最高制限速度や交通量も明示。60キロ以上なら自転車道▽40キロ以下で1日4000台以下なら車道で混在させ、道路左端に自転車マークなどを施す▽50キロなどそれ以外の場合は自転車レーン−−とした。

交差点の通過方法では17パターンの整備手法を例示。自転車を横断歩道寄りに誘導せず、直線的に通行させる路面表示や自転車専用信号などを勧めた。

自転車ネットワーク計画を巡っては国交省の8月の調査で、人口密度の高い全国849市区町村の73%が「今後とも検討を考えていない」と回答。国交省と警察庁は今後、自治体などへのガイドライン説明会を開き、周知と実現を図る。

提言をまとめた有識者会議のメンバーでNPO法人「自転車活用推進研究会」の小林成基理事長は「確実な一歩前進。内容をきちんと理解して着実に実行してほしい」と話した。(毎日新聞 2012年11月29日)


これまで、自転車レーンの整備は各自治体が独自に行っており、その規格や体裁はまちまちで、同じ自転車レーンでも場所によって形状が違う状態になっています。今回、国土交通省と警察庁がガイドライン(PDF)を出したことで、それがある程度統一されたものになっていくことが期待されます。

同じ自治体の中だけを走行する人ばかりではないですし、利用者の混乱を避けるためにも、なるべくならスタイルを標準化したほうがいいでしょう。全国的にも同じような形の自転車走行空間が整備されることで、標準的な形として国民に認知され、自転車の車道走行が広がることも期待できます。

その意味でも今回、国土交通省と警察庁が自転車環境の整備について、ガイドラインを示したのは評価できると思います。道幅や交通量などに応じて、自転車道や自転車レーン、道路の共有を促すマークの表示など、対応を分けることも、今の状況を考えれば現実的な対応と言えるでしょう。

安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン

ガイドラインを読んでみると、いかにもお役所的な文書で、最初に語句の定義から入るなど冗長で、一般の人が読むには、少々苦痛の伴う部分があります。しかし、内容的には、従来の道路行政の考え方とは違って、おおむね評価できるように思います。

昨年10月、警察庁が自転車の車道走行の原則を徹底するという、これまでの歩道走行からの転換を図る方針を打ち出しました。今回のガイドラインも、その原則に沿って従来の道路整備のあり方を見直すものであり、遅きに失したとは言え、40年来の問題を正し、本来あるべき姿へ向かう姿勢が示されています。

ガイドラインでは、「道路政策の転換の視点として、『クルマ主役から、歩行者、自転車などクルマ以外の利用者も含めた多様な利用者が安全・安心して共存できる環境の整備』が挙げられている。」と、まずこのように書き、クルマ優先の道路整備からの転換を目指していることに注目すべきでしょう。

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自転車は車両であり、車道走行が大原則であることも最初に明確に書かれています。また、自転車道やレーンを部分的や細切れでなく、ネットワークとして整備すべきとの考え方を強調し、細かい仕様まで提示しています。そして、今後得られる技術的な知見や法制度の改正等を踏まえ、順次見直す余地も残しています。

記事にもあるように、車道と構造的に分離する自転車道と、物理的には分けないがラインや色など視覚的に分離した自転車レーン、そしてクルマと自転車が混在して走行するケースがあります。混在の場合、路肩をカラー化するなどして、クルマに自転車が車道内で混在することへの注意を喚起するとしています。

自転車レーンが設置できない場所では、カラー化された路肩を走行するケースも出てくるわけです。しかし、そうなると事実上、側溝の上などを通るようになって、きわめて走りにくい場所もあります。通行場所がペイントされても、その場所を走行するのは危険ということもありえます。

安全で快適な自転車利用環境創出ガイドラインそこで提言では、「平坦性の確保、通行の妨げとなる段差や溝の解消に努め、滑りにくい構造とするものとする。なお、必要に応じて、側溝、街渠、集水ますやマンホールの蓋について、エプロン幅が狭く、自転車通行空間を広く確保できるものや平坦性の高いものへの置き換えや滑り止め加工等を行うものとする」としています。

自転車の安全性を向上させるため、単にカラー化するだけで済まさないよう配慮しているわけです。実際、現在も通行する人のことを考えているとは思えないような整備も見られますが、こうした細かい部分にまで踏み込んで整備の指針を示していることは、好感が持てます。

実際の自転車レーンの仕様や整備の指針については、バス停とか交差点など、場所やケースに応じ、それぞれ分けて示しています。細かく数字も入れられており、おおむね妥当だと思いますが、個人的にはいくつか、不満に感じる点もないわけではありません。

幅の広い歩道を、歩道と自転車道に再配分することも想定していますが、歩道を削って車道にした上で自転車レーンを設置するようには、なっていません。歩道に色を塗っただけで、相変わらず歩行者も歩き、自転車と混在する自転車通行帯になってしまう懸念があります。

歩道に色分けなどして通行帯にしても、歩行者はいちいち見ていません。歩行者が歩いていれば、自転車は歩行部分のほうへよけます。今までと何ら変わりません。自転車のマークが路面に書かれていることで、駐輪場所のように使われて、より狭い中で歩行者と自転車が混在する結果になっている場所まであります。

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自転車レーンでなく、車道に沿って自転車道を整備する場合、自転車を対面通行させることが想定されています。車道とは物理的にセパレートしているので、幅さえ確保できれば両方向に通行できて良いという考え方なのでしょう。確かに、そのほうが利便性が高いというのもわかります。

しかし、実際問題として、自転車道を整備できる場所は限られます。その区間を過ぎたら、自転車レーンになったり、クルマとの混在になるわけで、そのまま通行しようとする人が逆走する形を誘発しかねません。それを考えれば、あくまで道路全体で見て左側通行となるような整備のほうが望ましいと思います。

細かく見れば、疑問を感じる点もないわけではないですが、全体としては妥当だろうと思います。そして、仕様や形状を示すだけでなく、利用者に通行ルールを遵守してもらうための方策とか、自転車レーンにより駐停車出来なくなるクルマへの対応、駐車違反取締り強化など、多くの内容が盛り込まれています。

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放置自転車対策については、放置禁止区域の指定や撤去だけでなく、駐輪場の整備について具体例をあげて示しています。買い物等の短時間の放置自転車に対し、目的地に近接する路上を活用した駐輪場の整備や、従業員の通勤利用に対し、条例により事務所、商業施設への駐輪場の整備を促すことにもふれています。

観光振興のための自転車ガイドツアーの実施なども提案しています。休憩スペースや簡易シャワールームを備え、修理工具等の提供、観光情報や自転車ネットワーク、サイクリングコースの案内から、レンタサイクルの貸出まで行うサイクルステーションの設置についての項目もあります。

そのほか、走りやすい道路や注意すべき道路等が掲載されている自転車マップの作成・配布、公共交通機関と連携したサイクルアンドライドの推進、サイクルトレインやバスの運行、サイクルイベントの開催から自転車通勤の推進に至るまで、多岐に及んでいます。

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単なる自転車走行空間の整備の指針にとどまらず、自転車利用環境を創出するための総合的な取り組みが示されているわけです。各自治体に、こうした提案が取り入れられていくならば、自転車を利用する環境は、量的だけでなく、質的にも向上していくことが期待されます。

問題は、記事にあるように、調査で人口密度の高い全国849市区町村の73%が「今後とも検討を考えていない」ことであり、こうしたガイドラインが示されても、果たして自転車レーンなどの整備が進むことが期待できるだろうかという点です。

ガイドラインは、あくまで各地域の道路管理者や都道府県警察が、環境整備に取り組む上での指針を示しているに過ぎません。各地域が、それぞれの都市計画や地域開発のマスタープラン、道路整備計画などに基づいて事業を行う際に、自転車環境の整備について盛り込む際のガイドラインというだけです。

安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン

各自治体も、自転車と歩行者の事故の増加、市民の要望、自転車ルールの徹底、買い物難民の対策など諸般の状況から、必ずしもその必要性を認めないことはないとは思いますが、対象となる自治体のうち7割超が、残念ながら、検討する考えすらないわけです。

観光の振興や環境の改善、それぞれの地域の課題の解消など、整備の推進のメリットも挙げています。しかし、自治体の厳しい台所事情などもあって、必ずしも整備が進んでいく状況にありません。このガイドラインだけで、その状況が打開できるでしょうか。

今後、どのくらい前向きに転じるところが出るかわかりませんが、ガイドラインを示しただけでは、絵に描いた餅ということになりかねません。警察庁や国土交通省は、ガイドラインの提示にとどまることなく、各自治体が実際に整備に取り組む姿勢に転換するような方策をとることが必要になると思われます。

安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン

財政的な問題はあると思いますが、上下水道や埋設電線の工事などで道路を掘り返した際に、少しプラスして自転車レーンを整備することは考えられないでしょうか。道路の維持で、ラインをひき直す時に、同時にカラー化すれば、大きな費用もかからなくて済むのではないでしょうか。

物理的に空間が不足しているなら、広い歩道を再配分することも考えられます。車道でも、中央分離帯や安全地帯などの形状を見直したりすることで、自転車走行部分を捻出できる場合もあります。実際に、すぐにでも自転車走行空間がとれる道路は、かなりの割合になるとの調査もあります。

結局は、整備主体の自治体の意識ということになりそうです。単に観光振興などのメリットから整備するのではなく、これだけ自転車利用者がいるのに自転車走行空間がないのは、そもそも道路の欠陥、行政の不作為であり、住民の安全を守る基本的なインフラとして、整備は義務であるくらいの姿勢が求められます。

安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン

本来は、あってしかるべきなのに、長い間欠陥状態を放置してきたため、それが当たり前のようになってしまっています。結果として、自転車が歩道を走行するという、およそ先進国とは思えない、外国人から見たら野蛮で信じられない状態です。早急に是正しなければいけない問題だと考えるべきでしょう。

もちろん、優先順位があって、自治体としても積極的には予算化できない事情もあると思います。しかし、世界を見渡せば、自転車環境の整備が市民の死傷者を減らし、健康増進に寄与し、むしろ医療や介護などの福祉予算の低減につながると考えている都市も少なくありません。

将来、増大一方となる福祉関係の予算の増加を抑止し、財政の健全化を図るためには、いま苦労してでも予算をつける必要があると考える自治体もあります。今から自転車走行環境に取り組んだほうが、長期的にはメリットがあると考えている自治体も少なくないのです。

そのあたりの自治体の意識の転換、理解を進めることで、実際に整備を促すような方策が、今後求められると思います。ガイドラインは第一歩として評価出来ます。しかし、これだけで終わるならば、せっかくの指針も宝の持ち腐れです。今後の実現に向けた、更なる施策を期待したいと思います。





またアメリカで銃乱射事件が起きました。こんなに悲劇が繰り返されても、規制にはならないんでしょうね。

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この記事へのコメント
私が今回のガイドラインで一番気になるのは自歩道は、

「2.3.1 共通事項」に拠らず、設計するものとする。

となっているところです。

要は治外法権になっているので
結局現在のひどい自歩道を造る流れはなにも改善されないのではと危惧しています。
Posted by Lemond at December 17, 2012 18:04
Lemondさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
その部分は私も気になるところです。全体として見れば、あくまで当面の整備形態として書かれていますし、既に自歩道が整備されている場合に活用することを検討する余地を残していると解釈できます。
ただ、確かに読むほうの解釈で、治外法権的にとれなくもありません。当面、整備が困難と判断すれば、相変わらず自歩道を残すことを許容しています。
このガイドラインは、まず最初に、車道を通行することを大原則としていますし、自歩道の問題点を改善するために道路の整備を推進するものであって、その方策が細かく述べられているのですから、全体の意図は誰が見ても明らかです。
これを元に自歩道の正当性を主張するのは、へそ曲がりもいいところで、非難されても仕方ないでしょう。
しかし、当面、整備が困難と判断すれば自歩道を排除していないので、おっしゃる通り、一向に整備の方向性が改善されない可能性はあると思います。
だからこそ、本来の自転車走行環境の整備の意味とその効用を理解させ、整備を促していく次の一手が必要になると思うのです。
Posted by cycleroad at December 18, 2012 23:28
いつも楽しく拝見しています。
当方も“自転車の車道走行に係る交通計画”といった業務に携わる事も増えてきました。

今回のガイドラインで重要なことは、
道路管理者である国土交通省(道路法、道路構造令等)
交通管理者である警察庁(道路交通法、道路交通法施行規則等)
双方の条件をまとめてあることだと思います。
今までは道路法と道路交通法で定義が異なっていて、
どちらを重視すべきか不明な部分が多いという欠点がありました。
今回のガイドラインでこれらをまとめてあるだけでも、
実務者にとってかなり有難いものであると言えます。
Posted by Bosswo at December 19, 2012 13:07
Bosswoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですか、実務に携わってらっしゃるんですか。自転車の車道走行に係る交通計画などが増えているということは、車道走行が拡大する方向に向かっているということなのでしょう。
なるほど、国交省と警察庁の、いわゆる縦割り行政の弊害を防ぐ意味もあるというわけですか。
ガイドラインが実務上も役に立つということは、道路整備の計画に盛り込みやすくなるということでしょうし、実際に自転車走行空間の整備などを促す効果も期待できそうですね。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
Posted by cycleroad at December 20, 2012 23:09
 
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