自転車利用を拡大させる世代
アメリカでも自転車に乗る人が増えています。
最近、世界の多くの都市に見られる傾向ですが、アメリカでも顕著になっています。例えばニューヨークでは、この6年半ほどで自転車環境が大きく充実しました。マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長のイニシアチブで、自転車レーンなどが充実し、通勤などで自転車を使う人が大幅に増えています。
(参考:
道路に対する考え方を変える)
ニューヨークだけではありません。アメリカと言うと、当然クルマ大国なわけですが、実は都市部を中心に自転車に乗る人が増え、一つのムーブメントになっています。例えば下の地図は全米の都市の自転車通勤者の拡大割合を表わしていますが、都市部では大きく増えている様子がわかります。
若い世代を中心に、移動に当たり前のように自転車を使う人が増えていることが背景にあります。例えばシリコンバレーでは、著名なIT企業が、社内の自転車シェアシステムを整備したり、広大な敷地の移動に使えるようにしたり、通勤に自転車を使う人へさまざまなサポートを提供するようになってきています。
グーグル、アップル、フェイスブック、リンクトイン、モジラ、ラックスペース、スクエアなどIT産業をリードする企業が、揃って社員に対する自転車通勤のサポートや社内の自転車環境を充実させています。これは、自転車にフレンドリーな環境を整えた企業でなければ、若くて優秀な人材に嫌われてしまうからなのです。
(参考:
時代のトレンドは自転車通勤)
アメリカにおける各種の調査によれば、最近の若い世代は古い世代と比べて、クルマを運転する割合が明らかに減っていると言います。若者はクルマを所有しなくても生活が出来る都市に集まる傾向があります。アメリカでも、若い世代のクルマ離れとも言える傾向が指摘されているのです。
もちろんアメリカは基本的にクルマ社会ですから、すべての若者とは言いません。しかし、IT企業が欲しがるような人材は、クルマを買う代わりに、多機能携帯やスマートフォン、タブレット、ラップトップ、そして2千ドル以上の自転車を買うことを選択する傾向があると調査の結果が示しています。
アメリカの若い世代の中では、クルマへの興味が薄れ、インターネットやソーシャルネットワークサービスなどに関心が向き、初期費用や維持費の高いクルマを持たなくてすむ生活を選ぶ人が増えています。クルマを持たないとするなら、選ぶ移動手段は自転車です。
著名な経済学者や経済紙なども、この傾向を裏付ける発表をしています。クルマだけでなく、彼らは大きな家にも興味が無く、郊外の広い家より、都市の中心に近いアパートに住んで、徒歩や自転車で通えるような通勤環境を好む傾向があらわれていると言います。
創造性のある若者の思考やスタイルが変化しているのであれば、企業はその欲求を満たすような都市に拠点を設けたほうが人材獲得に有利と考えます。クルマでなければ通えないような場所を拠点にすれば、今どきの若者からソッポを向かれてしまうことになります。
IT関連などの企業が、進出する拠点の選択に自転車環境を重視するならば、今後大きく成長が期待できる企業を誘致したい地方自治体もその傾向を無視できません。自治体としても、単なる道路政策ではなく、自転車環境に力をいれるようになります。
つまり、若い世代を中心に自転車に乗る人が増え、その志向、考え方が都市のインフラ整備にも影響を与えているわけです。事実、全米の多くの都市が競うように自転車レーンなどを充実させ、自転車にフレンドリーな都市をアピールするところが増えているのです。
(参考:
企業に選んでもらう為の条件)
ここまでは、過去の記事にも書いたことですが、実はそれだけではないことが明らかになってきました。アメリカ連邦運輸省の移動動向調査によれば、アメリカにおける、1995年以降の自転車利用者の顕著な増加は、必ずしも若い世代だけではないことがわかります。
1995年から2009年までの統計では、18歳から24歳までの若い世代の自転車に乗る率が一番高いものの、増加率が一番多いのは、なんと75歳から84歳までの層です。60歳から79歳までの層では、この15年間に3・2倍という大きな伸びを示しています。
それまでは、自転車は主に若者が乗ると考えられており、55歳以上で乗る人は少なく、75歳以上の人が自転車に乗るなんて、アメリカではほとんど聞いたことがなかったと言います。しかし、この15年で自転車に乗るようになった人の多くを中高年が占めていると調査は示しています。
これにはいろいろ理由があると分析されています。中高年は、一般的に健康志向という側面があります。そして、自転車は健康を増進する素晴らしい方法であることが広く知られています。その証拠は多数示されており、最も始めやすい運動でもあります。
特に退職者世代は急いで移動する理由がないので、速度は遅くても楽しい移動方法を選ぶことも理由だと考えられています。日本より価格帯は低いものの、アメリカでもガソリン価格が上がりました。燃料費がかからないことも大きな魅力と考えられます。
健康増進や、認知症予防などの効果に加え、気軽に始められる、楽しくてお金もかからないとくれば、自転車に乗る人が増えるのも道理です。まして、各都市で自転車インフラが整備され、安全性が向上し、走りやすくなってきているとするならば、乗らない手はありません。
自転車通勤だ、自転車レーンだ、環境整備だど言うと、若者向けの話のように感じる人もあると思います。でも、実は若い世代だけでなく、中高年を自転車に乗せる誘因として働いていたことになります。そして、このことは今後、中高年の健康増進という結果としてあらわれることが期待されます。
世界各国の研究で、自転車に乗る人が増えると、医療や介護費用が低減されることが示されています。自転車に乗って大きく痩せる人は少なくありません。一人ひとりの健康効果は僅かでも、全体では医療費や介護費用を大きく減らす結果になります。世界各地の都市が自転車環境整備に力を入れる理由でもあります。
もちろん、これはアメリカの話です。しかし、日本でも自転車環境が整備されれば、中高年の自転車の活用が進む可能性があります。日本の場合、すでに現状でも中高年が自転車に乗る率は高いと思います。しかし、そのほとんどは、最寄り駅まで、最寄のスーパーまでの利用でしょう。
自転車レーンなどが整備され、車道を安全快適に走行できるようになれば、中高年が自転車を利用する範囲も広がるはずです。最寄り駅までの短い距離でなく、もっと遠くまでも行けるようになれば、運動としての効果も見込めるようになるに違いありません。
中高年は怖いからと車道走行しない、歩道走行で満足しており、自転車レーンなどのインフラ整備とは関係ないと考える人もあるでしょう。自転車レーンだ車道走行だと騒いでいるのは若い世代が中心で、若者向けにしかアピールしない政策だと考えている自治体関係者、首長も多いかも知れません。
アメリカの例が、そのまま日本にも当てはまるかどうかはわかりません。しかし、自転車インフラの整備は、結果として中高年の利用を促し、その効果・恩恵は若い世代に留まらない可能性が高いと思います。若者だけでなく、広い世代から評価される政策になるのではないでしょうか。
今ごろになってマクドナルドの社長が謝罪、しかも被害者を強調するかの態度、これは責任を感じてませんね。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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中年はともかく、高齢者は足腰が弱ってきますから、自転車レーンの中で、速い自転車と遅い自転車がどう共存するかが問題になりますね。
もはや自動車優先に意地でも拘り続ける方が時代遅れ.今後必要なのは,通勤通学用自転車の高速化,広域化と,それに対応できる専用レーンの確保です.
用地が無いとは言わせません.歩道側で1m,車道側で0.5m程度折半すれば,安全な専用レーンの確保が容易と思われる一般幹線道路は無数にあります.
高齢者や8歳以下の幼児の低速自転車は歩道寄り,高速度自転車は右から車道寄りで追い越すこととすれば良いのではないでしょうか.大きな駅のエスカレーターは追い越したい人のために片側をあける(エスカレーター自体のためには好ましくない)習慣が出来ている位ですから,出来ない事はないでしょう.
尚,当方のYahoo!ブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/cs433485/
でも,ご意見ご感想などお待ち申し上げております.
日本においては、追い越し云々の前に、左側通行の徹底が必要に思います。いくら理想的な自転車レーンを作っても、一台の逆走車がいるだけで順走者は自転車レーンから出なければならず、危険にさらされます。
皇太子と同世代以上なら、少なくとも中学までは、自転車の歩道走行は不可だったはずです。しかしその世代の人が頑固に右側走行する。これを変えてゆくには、まず、自転車の歩道走行も、(並走する)車道の左側に限定することが、自転車も車両であることを認識させるのに少しは効果があるのでは? 法律を改正する必要はなく(現状、「標識が見える側からのみ走行可」)、費用もほとんどかかりません(標識の片面を外すだけ)。
以前は、警察官が市中の交差点に立ち、自転車を指導することも多かったですが、最近は、パトロールカーで巡回するだけ。交通安全週間などで交差点でチラシを配っていても、歩道を爆走する自転車は無視。やる気がないように見えます。
日本の公共交通機関の混雑度では困難かも知れませんが、
サイクルトレイン(自転車をそのまま電車に乗せること)やバスの前後に自転車ラックを設けるなどの政策をアメリカでは取ってます。日本でもたとえば貨車を1両連結するなりできないでしょうか?
ひでさんへ
案外日本では、自動車も左側通行が徹底していないですね。 なぜならば、センターラインをはみ出して、追い抜きをかける自動車が横行していますからね。これから自転車が増えればもっとひどくなりますね。
なななな さんへ
追い越しの際、(標識や黄色い線ターンラインなどで)禁止されていなければ、右側車線にはみ出しての追い越しは合法です。片側1車線の道路では、はみ出さなければ追い越しできないことがほとんどです(安全確認・確保が必要なことはもちろんです)。
問題なのは、道路右端を常態的に通行する自転車です。正面からくる車が怖いので、道路中心側へ避けようとはしません。結果、左側通行している自転車が道路中心側へ避けざるを得なくなり、法律を守っている者が危険な状態になります。
ななななさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
人によって、あるいはその時々で、速さが違うのは高齢者に限らないと思います。それは自転車に限らず、徒歩でもクルマでもあることです。
自転車レーンであっても、場所やタイミングを見計らって追い越せばいいことでしょう。
マイロネフさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
クルマ優先は見直すべきだと思いますが、自転車レーンを通勤通学専用に限る必要はないと思います。誰もが使える自転車レーンを街全体にネットワーク化することが大事ではないでしょうか。
歩道走行させるために、歩行者が少ないところでも、無駄に幅の広い歩道はありますから、場合によっては歩道を削るべきだとは私も思います。
自転車レーン内、あるいは状況によっては、それをはみ出しての追い越しも当然あるでしょうね。
ひでさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自転車の逆走が問題なのはその通りだと思います。ただ、歩道の通行方法を一方に制限することについては、それ自体が、なかなか上手くいかないような気がします。
標識を外したくらいでは、ほとんど守る人はいないでしょうし、自転車利用者、そして違反者があまりに多すぎて、取締りや注意も効果があがらないのは、現状を見ても容易に想像がつきます。
その場では警察官の言うことをきいても、すぐまた元通りです。
そもそも逆走は、歩道を歩行者の感覚で、方向を考えずに走ることから生まれると思います。
と、するならば、自転車は車輌、車道走行の原則に立ち返り、歩道走行を禁止することから始めるべきだと思います。その上で、逆走を取り締まるべきではないでしょうか。
yokoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
サイクルトレイン、実は日本でも以前より増えてきています。ただ、それは郊外のローカル線での話で、通勤で込み合うような路線では難しいでしょう。
駅の構造的にも、混み合う中へ自転車を持ち込むのは困難と思われます。
バスのラックも一部で導入したところがあります。しかし、これも郊外での話で、都市部の路線では難しそうですね。
ひでさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、逆走する人の中には、確信犯で右側通行する人があるようですね。
クルマを前方に見たほうが安全だからという勝手な理屈で、あえて右側通行する、そのほうが安心という人たちです。
こういう人たちは取り締まると共に、よく教育する必要があると思いますね。
cycleroadさん,ご返信有難うございます.やや誤解を招いたようで申し訳なく思います.
私の意図したところは地域間交通における自転車の位置づけの明確化であり,極論すれば,ロードバイク(私の言う“特急自転車”)等のような軽量高機能の自転車を一度に何十台でも何百台でもスムーズに流せる自転車専用若しくは優先のレーンの確保,ネットワーク化が必要であると考えるものであります.
例えば修学旅行の一部に高速度自転車を使用するサイクリングを採り入れられる環境整備もあって良いのではないでしょうか.
マイロネフさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自転車は都市交通、地域内交通としては有力な選択肢となりうると思いますが、都市間や地域を結ぶ交通ということになると、必ずしもニーズが高いとは限らないように思います。
場所にもよるでしょうが、整備にコンセンサスが得られにくいでしょう。
高規格な自転車専用道のネットワークがつくれるなら理想的ですが、現実問題としては、河川沿いにサイクリングロードをつくるくらいがいいところでしょう。
現状のサイクリングロードを見ても、沿道の住民から親子連れまで、いろいろな人が利用しますから、車種やスピードを想定するようなわけにはいかないと思います。
cycleroadさん,ご返信有難うございます.
自転車通学でも,高校以上では10km単位で広域化することもあります.
地域間といっても,5km,10km,20km・・・・・・・・の段階的な延長の積み重ねで行けば,あながちあり得ない話でもないと私は思います.
本気で自転車を環境浄化,省エネルギーに活用しようという気が自治体等にあるなら,自転車そのものに対する発想の根本的な転換が必要です.
マイロネフさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
高校なら10キロ以上になることがあるのは、もちろんわかっています。自転車通学する学生がいるので、その安全性に配慮すべき場所もあるかも知れません。
ただ、一部の高校生が通学するからという理由で、都市間の交通としての専用道やレーンが必要ということになると、果たして一般的にコンセンサスが得られるかどうかと考えるだけです。
もちろん、個人的には出来たらいいと思いますし、過去にもそのような記事も書いています。
ドイツやイギリスなど、海外には、広域にサイクリングロードのネットワークを整備しているところもあります。
高校生の通学や地域間交通としてと言うより、国民のレクリエーションとして整備されている現在のサイクリングロードの整備を発展させてネットワーク化する、自転車で旅行できるようにするという考え方のほうが受け入れられやすいような気がします。
自治体に『環境浄化,省エネルギーに活用しようという』というリーダーシップを期待するのは、現状の日本では難しいですし、過去の行政を否定するのを何より嫌う役所に、発想の転換を期待するのはナンセンスだと思います。
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