August 04, 2014

次世代の市民の為のサービス

フランスのパリが、また一歩先を行っています。


都市部で自転車を共有するシステム、いわゆる自転車シェアリングは、ロンドンやニューヨークをはじめとする世界中の都市で導入され、その数は増える一方です。どんどん拡大しているため、正確な数は把握していませんが、いまや世界500以上の都市に広がっていると言われています。

世界中で都市化が進み、人口は都市部へ集中しています。20世紀の初めに世界の人口の13%だった都市人口は、20世紀の半ばには29%、そして今世紀の初めには49%、32億人が都市部に住んでいます。これに伴い、さまざまな問題が起こります。

交通の面においては、慢性的な酷い渋滞、それに伴う大気汚染、増える交通事故などが挙げられるでしょう。これらの対策として、クルマの流入を抑制する必要に迫られ、クルマの代わりとして自転車に注目し、その活用を広げようという都市が増えているのです。

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人々の移動の利便性の向上や、交通渋滞や大気汚染の減少に加え、市民の健康増進効果によって医療や介護予算の節減も見込めます。自転車にフレンドリーな都市にすることで、若い世代の居住者を増やして先進的な企業を誘致するなど、都市間の競争も含め、自転車への注目が広がっています。

少し気の利いた首長なら自転車の活用を考えるのが当たり前のようになる中、自転車シェアリングを導入する都市が増えているのです。一説には、この自転車シェアリングシステム、これまでの人類の歴史で、どんな交通機関よりも速いスピードで成長しているとも言われています。

この先駆けになったのがパリのヴェリブです。フランスでは、もっと早くからレンヌやリヨンで先行して導入されており、パリのヴェリブが始まったのは2007年ですが、このパリという大都市でのヴェリブの成功を見て、世界中の都市が競って自転車シェアリングを導入するようになりました。

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自転車シェアリング自体は、それ以前からありましたが、近年の急速な自転車シェアリングの広がりは、パリのヴェリブが起点となったと言って差し支えないでしょう。パリは路上駐車も多く、必ずしも自転車で走りやすいとは言えないものの、世界有数の自転車都市となっています。

さて、このヴェリブの新しく始まったサービスが、“P'tit Velib'”、なんと子供向けのヴェリブです。このプチ・ヴェリブ、2歳から8歳くらい向けです。ペダルのないキックバイク、あるいはランニングバイクなどと呼ばれる自転車も用意されています。

キックバイクは最近、子どもたちが最初に乗る自転車として人気になっているものです。ペダルはなく、サドルにまたがり、足で蹴って進みます。これによってバランス感覚が身につき、普通の自転車に早く乗れるようになると言います。補助輪付き自転車を省いて、すぐ自転車に乗れるようになると人気なのです。

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もちろん補助輪のついた幼児用の自転車も用意されています。ほかに16インチや20インチほどの子供用の自転車も用意されています。年齢や習熟度にあわせて、それぞれに合った自転車が選べるようになっているのです。もちろんヘルメットも貸し出します。

この子供用自転車シェアリング、世界初です。ただし、大人と同じようにパリを自由に移動するのが目的ではありません。週末などに、親と一緒に出かけて自転車の練習をしたり、自転車に乗って遊んでもらおう、親しんでもらおうというのが目的です。

ですから大人用のヴェリブが借りられるスタシオンはパリ市内に1千5百箇所以上ありますが、プチ・ヴェリブは数箇所しかありません。その場所は、どこも近くに大きな公園やサイクリングロードなど、こどもが安心して自転車に乗れる場所のあるところに限られており、同じ場所に返却しなくてはなりません。

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このプチ・ヴェリブが始まったのは、ある調査がきっかけでした。パリの子どもたちの約半分が、パリの外で自転車の練習をしているというのです。そして、パリ当局は、小さな子供を持つ親の9割近くが子供用の自転車のレンタルに関心を寄せていることも知りました。

家の近くに子どもの自転車の練習が出来る場所がない場合、わざわざクルマなどに子供用の自転車を載せて出かけなくてはなりません。もし、大きな公園など安心して練習が出来るような場所の近くで、子供用の自転車が借りられれば便利です。パリ市の外まで出かける必要もなくなります。

キックバイクは、自転車に乗れるようになるまでは役に立ちますが、ペダルもチェーンもないので、乗れるようになったら飽きてしまいます。子どもの成長は早いので、乗る自転車のサイズもどんどん変わってしまいます。共有することで、いちいち自転車を買い替えなくてすむのはリーズナブルですし、親も助かります。

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でも、単なる子どもの自転車練習用のサービスかと思えば、そうではありません。もっと深い戦略があります。パリ市は、子どもに早くから自転車、そしてヴェリブに親しんでもらい、将来、自然にヴェリブを使ってもらおう、パリでの移動を低炭素でクリーンなものにしてもらおうと考えているのです。

単なる子供の練習用自転車の貸し出しサービスであれば、わざわざパリ市当局がやる必要はありません。むしろ民業圧迫とか、税金の無駄遣いと言われかねません。子供用の自転車なのに子供の喜ぶような色ではなく、大人のヴェリブと同じ色になっているのも、そうした意図が隠れているのでしょう。

パリ当局は、これを次世代のパリ市民へのサービスと言っています。もちろん子供も既にパリに住んでいるのですが、将来のパリジャン・パリジェンヌに親しんでもらい、よりクリーンなパリにすることへの理解を深めてもらうことで、長期的な視点でヴェリブの利用を拡大させ、パリを変えていこうとしているのです。

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パリではクルマの渋滞が深刻です。その排気ガスによる大気汚染もひどいため、パリ市内へのクルマの流入を抑制する必要が叫ばれてきました。そのため、駐車違反を厳重に取り締まったり、駐車料金を値上げしたりしてきましたが、なかなか成果は現れてきませんでした。

そこで、ヴェリブ導入時のパリ市長、ベルトラン・ドラノエ氏は、“Paris respire!”(息ができるパリ)というスローガンを掲げ、パリ市内のクルマの交通量を4割減らすべく、いろいろ大胆な政策を打ち出しました。その一つがヴェリブだったのです。

ベルトラン・ドラノエ氏は当時の市長として、「この時代、もはや大都市にクルマの居場所はない。」とまで言っています。ヴェリブは、酷い渋滞や大気汚染を軽減するため、パリ市内での自家用のクルマの利用をやめ、公共交通と自転車を組み合わせて移動してもらおうという意図があったわけです。

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ヴェリブは多くの市民に支持されました。開始後、パリを走る自転車は4割以上増加し、3台に1台はヴェリブの自転車になりました。しかし、それでも全ての交通に占める自転車の割合は数パーセントに過ぎません。クルマの交通量も減りはしたものの、大きく減ったわけではありません。

市民の足としてだけでなく、観光客の移動手段としても好評なヴェリブですが、だからと言って強制的に利用させるわけにはいきません。パリ市民の中で、ヴェリブの意義は理解しているのに、そして、渋滞が依然として酷いのに、相変わらずクルマで移動している人は多いということになります。

でも、このプチ・ヴェリブで育った世代は、これで育たなかった世代より、ヴェリブを使う率が高くなると思われます。小さいときからヴェリブを使うことで、ヴェリブを身近なものにし、ヴェリブを使うことに抵抗感のない人が増えることが期待されます。

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一度使えば、その利便性を実感し、使うようになる人も少なくないと思いますが、使ってみようと思わず、その機会がない人も多いに違いありません。なかなか人間の習慣、好み、考え方というのは変わらないという面もあるでしょう。そう考えると、子供にプチ・ヴェリブ、遠回りのようで有力な手段かも知れません。

このような意図を読み取るならば、プチ・ヴェリブが次世代のパリ市民へのサービスと言うのも、単に次世代を担う子供のためのサービスという意味でないことがわかってきます。このプチ・ヴェリブのおかげでヴェリブの利用が拡大し、将来パリの環境が良くなれば、文字通り次世代のパリ市民への贈り物となるかも知れません。

まだ日は浅いものの、利用者には好評のようです。プチ・ヴェリブが単なる子供を持つ親向けのサービスでないことを理解した都市の中には、追随するところも出てきそうです。子供版自転車シェアリングとは意表を突く展開ですが、パリは自転車シェアリングの先駆者として、一歩先を見ているようです。




四国では、観測史上最多雨量になっている場所も報じられています。続いて来る11号の進路も気になりますね。

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この記事へのコメント
子ども用自転車にかかる保護者の経済的負担軽減のため,レンタル自転車の拡充は評価出来るでしょう.

しかしこの「ヴェリブ」なる共用自転車のシステム,私自身としては現地へ行ったとしても喜んで利用したいという気になれません.その自転車自体,見たところ如何にもヤボったくてスポーティさに欠けるからです.

さらにその自転車の点検整備は誰がいつどこで行う仕組みになっているのでしょうか.絶えずそれが行き届いていなければ安心して使えません.何しろ日本の場合,サイクルモードインターナショナルの会場では高価格な試乗用車でさえ,不心得な試乗者に壊されることがあるという位ですから.
Posted by マイロネフ at August 05, 2014 21:12
マイロネフさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
見た目も含め、好き嫌いはあるでしょうね。フランス人のセンスということもあるでしょう。ただ、これは公共交通ですから、好き嫌いで地下鉄を利用するわけでないのと同じで、移動の利便性などで判断して使うものでしょう。
見た目のデザインへの意見はいろいろでしょうが、実際には便利で早く移動できて観光客にも好評のようです。
点検整備の仕組みが疑問なら調べればいいことですし、自分の目で確かめればいいことでしょう。
不信感があるなら使わなければいいだけで、強制されているわけではありません。他にも方法はいくらでもあります。
自転車シェアリングではありませんし、日本のサイクルモードの試乗車との比較は意味がないと思いますが、デザインより壊されにくさ、頑丈さを優先しているのかも知れませんね。

Posted by cycleroad at August 06, 2014 23:52
 
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