November 05, 2014

いつも水があるとは限らない

自転車にボトルケージを取り付けている人もあると思います。


ツーリングなどに出かけた時、途中でどこかに立ち寄って何かを飲んでもいいですが、専用のボトルやペットボトルに入った飲料などをボトルケージ、ボトルホルダーに入れて携行する人も多いのではないでしょうか。よほど人里から離れた場所でもない限り、途中で飲料を買って補充することも出来ます。

特に日本の場合は、コンビニや店がなかったとしても、多くの場合、自動販売機が見つかります。飲料の購入に困ることは少ないでしょう。仮に、財布を忘れてきたとしても、水道の蛇口が屋外にあったり、沿道の何かの施設に入れば、水道水は飲めるはずです。冷水機が置いてあるかも知れません。

Modula CageModula Cageボトルケージ

ちなみに、近年は水道の水を直接飲まない人が増えましたが、実は水道の水が飲める国は世界でたった13カ国しかありません。日本以外には、ニュージーランド、フィンランド、ドイツ、アイスランド、アイルランド、オーストリア、スロベニア、クロアチア、モザンビーク、レソト、南アフリカ、アラブ首長国連邦だけです。

水道水が飲めるのは世界的に見ても恵まれた国なのです。水道が直接飲めない先進国も多いわけですが、いずれにせよ、日本の場合は100%、先進国全体でも99%が安全な飲料水を利用出来ます。それが当たり前のように思っていますが、発展途上国の場合はそうではありません。

いまだ世界で8億人近い人が安全な飲料水を利用できません。世界では年間180万人もの子供が、不衛生な水などによる疾病で命を落としています。粗末な井戸や、濁った河川や湖沼などの汚染のおそれのある水源に飲料用の水を頼らざるを得ないからです。

先進国の援助などにより、安全な井戸や、不衛生な水を浄化するプラントが稼動するようになったところもありますが、まだその恩恵にあずかない人も大勢います。アジアやアフリカの熱帯地域などでは、年間降水量が多いにもかかわらず、毎日何時間も歩いて水くみに行かなければならない人がたくさんいます。

安全な水が利用できない安全な水が利用できない

近年、国際的なNPOなどの活躍により、途上国の貧困層に自転車を供与する事業が広がっています。先進国の中古品をリサイクルした自転車でも、途上国では貴重な移動・輸送手段となります。収穫した農産物を市場へ運んだり、鉱山などで働くための通勤手段だったり、学校へ行くための通学手段になります。

移動や輸送に徒歩や人力に頼るしかない人々にとって、自転車の威力は絶大です。舗装されていない道であっても、移動・輸送能力が飛躍的に高まり、貧困からの脱却、自立に向けた大きな力となるのです。途上国で欠かせない、水汲み作業にも大きな助けとなっています。

毎日、多くの子供が水汲み作業に時間をとられており、そのために学校に行けず、教育を受けられないことを思えば、大きな効果があります。しかし、自転車が水の運搬には貢献できたとしても、それが安全な飲料水とは限りません。水質の悪い水を運ばざるを得ない人も少なくありません。

その部分も、自転車を使って何とか出来ないものかと考えた人がいます。オーストリアにあるウィーン応用芸術大学の工業デザイン課程( Industrial Design, University of Applied Arts Vienna )のKristof Retezar さんです。“Fontus”と名づけた装置を開発しました。

Fontus

見た目は、トップチューブに取り付けたボトルホルダーのように見えますが、実はこれ、空中から水を取り出す装置です。空気から水と聞くと驚きますが、実は空気中の水蒸気を水にします。装置に取り込まれた空気を急速に冷却することで、空気に含まれる水蒸気を凝結させて水にする仕組みです。

冷えたビール瓶を冷蔵庫から取り出し、しばらく置くと表面に水滴がつきます。これが凝結です。この原理を利用して水をつくります。空気中から水を取り出すと言うと、なにか凄い装置のように聞こえますが、中学の理科で習う原理の応用です。言ってみれば結露を利用するわけです。

水蒸気を冷やすため、ペルティエ素子という半導体を使っています。これはパソコンのCPUの冷却などにも使われているものです。電源は太陽電池でまかないます。ラジエーターのような熱交換器の部分を空気が通る時に冷却されて凝結した水が、下のペットボトルに溜まるようになっています。

Fontus

仕組み的には、水を沸騰させて水蒸気にし、それを冷やして蒸留水にするのと同じです。水から不純物を取り除くために一旦、水蒸気にするのと同じことですから、原理的に非常に衛生的な水ということになります。出来た水は蒸留水と同じです。

もちろん、出来た水に空気中の粉塵とか砂埃などが混ざったりすれば別ですが、空気の取り込み口にはフィルターが取り付けられており、その点は考慮されています。雨水などをフィルターで濾過するのとは違って、原理的に不純物の含まれない蒸留水に近い、衛生的で安全な飲める水になるわけです。

空気中の水蒸気量、つまり湿度などの条件が良ければ、1時間で500mlのペットボトルが満杯になると言います。本体に取り付けられたソーラーパネルの限られた電力で稼動させているにもかかわらず、これだけの量が精製できるのであれば、かなり実用的と言えるのではないでしょうか。

Fontus

1時間に500mlのボトル1本程度水分補給する人なら、上手くいけば飲料を補充せずに走り続けられることになります。先進国での自転車用品としての需要も見込めるかも知れません。ですが、Kristof Retezar さんが主張するように、より重要な意味を持つのは、途上国における価値です。

当然ながら、衛生的な飲料水が飲めない途上国では、貴重な飲料水の確保手段になるでしょう。走行して空気を取り込んでいく必要があるのでしょうから、必要な飲料水を全量まかなうのは難しいかも知れません。でも、これさえあれば、途上国でも簡単に安全な水が得られることになります。

安全な飲料水が利用できない人は8億人ですが、国連の統計によると、世界の人口の約3割にあたる20億人が水不足の地域に住んでいると言います。2030年には世界人口の5割近くが水不足に苦しむことになると予想されています。それを考えれば、こうした技術は、さらに意味を増すでしょう。

Fontus

「21世紀は水の世紀」と言われています。水資源の重要性は日増しに高まっていて、「20世紀の戦争が石油をめぐって戦われたとすれば、21世紀は水をめぐる争いの世紀になるだろう」と予見する専門家もいます。世界の水資源は、危機的状況にあるとされているのです。

ちなみに、より大きな量が必要になるのは、農業用水や工業用水です。旱魃によって水が得られなくなったり、国境を越えて流れる川からの取水権を巡って、すでに国際紛争も起きています。肥沃な穀倉地帯のイメージがある北米も、利用している地下水の水位が下がる一方という話も聞きます。

日本では、豪雨や洪水などの水害が多発しています。渇水になることもありますが、基本的に温帯モンスーン気候なので、降水量は世界平均の2倍もあります。日本にいると、世界的に水資源が危機的状況という実感が沸きません。水不足を実感することもありません。日本は、水資源に恵まれた国のように思えます。

降水量は多いが一人当たりは少ない

ところが、実はそうではありません。日本は降水量は多いものの、水資源には恵まれておらず、利用できる水の量、1人あたりの水資源量では世界平均の半分以下です。一人当たりの降水量は世界平均の3分の1です。地域で多少差がありますが、例えば関東地方は、エジプトと同じくくらい一人当たりの水資源が少ないのです。

それでも水不足を感じないのは、日本は世界最大の水の輸入国だからです。意外に思えますが、多くは水の形で輸入しているのではありません。輸入する穀物を育てるために必要な水、牛や豚などの家畜を育てるのに必要な水、その餌の飼料を育てるのに必要な水も含めて換算すると、膨大な量の水を輸入しているのです。

世界で水不足になれば、日本にこれらの食料が入ってこなくなる可能性があります。日本で、そのぶん食料を増産しようすれば、日本でも水不足が顕在化することになるでしょう。世界の水不足は、決して他人事ではなく、日本でも水不足、食糧不足に直結する可能性があります。

関東はエジプトと同じくらい人口当たりの水資源が少ない日本は降水量は多いものの水資源には恵まれていない

ただでさえ、途上国などの人口爆発で、世界の人口は増え続けています。豊かになった中国やインドなどの国が、先進国のような食生活になっていけば、食糧需給はさらに逼迫します。食料生産の問題に加えて水不足も加われば、日本の将来の食糧輸入が、さらに危うくなるのは間違いありません。

この“Fontus”、単に自動で衛生的な飲料水を補充してくれる、夢のようなボトルケージというだけではありません。安全な飲料水へのアクセス手段の一つ、途上国における水不足問題に対するアイディアという点で、とても興味深いものがあります。

一方で、こうした水問題への取り組みは、どこか遠い途上国の話だと思いがちです。しかし、実は私たち日本人も、水不足なんて関係ない、などと言ってはいられません。世界の食糧需給が逼迫すれば、今のように水が、それこそ湯水のように使えない時代が来る可能性が高いことは知っておくべきでしょう。




オバマ民主党が大敗しましたが、TPPをはじめ、日本にもいろいろ影響が及ぶんでしょうね。

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この記事へのコメント
 「ベ」じゃなくて「ペルティエ素子」でございますね?

 自転車のダイナモを使うのかと思ったら、太陽電池ですか。たいした性能ですね。長距離を行く飛行機とか列車とか船とかにも設置したら、水の使用量の制限がなくなりそうですね。見た目もかっこいいし、本当に商品力高そうです。
Posted by hyrax at November 09, 2014 11:47
hyraxさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃるように、自転車に限らず、応用範囲は広いと思います。家に取り付けて、風が吹いたぶんだけ水を精製するようなことも考えられそうです。
ペルティエ素子ですね、ご指摘ありがとうございました。
Posted by cycleroad at November 10, 2014 23:07
 
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