February 24, 2015

肥大化傾向を転換する考え方

世の中には、いつの間にか当たり前と考えられているものがあります。


その一つがクルマではないでしょうか。日本でも全国すみずみにまで普及しています。おかげで便利ですし、私たちの生活を支えています。移動だけでなく物流もトラックなしには成り立ちません。警察や消防もクルマの機動力によるところが大きいですし、建設からゴミの回収まで多くの用途に不可欠です。

また、クルマ産業は日本の経済のけん引役であり、その関連産業のすそ野はとても広く、多くの雇用を生んでいます。クルマは現代社会において、欠くべからざる役割を果たしていることは間違いありません。ただ、クルマが当たり前になっている中で、そのデメリットが見過ごされている面もあります。

Photo by Swirliehead,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.まず思い浮かぶのは公害です。近年は低減されたとは言え、いまだにその排気ガスによる喘息などで苦しむ人もいます。粉塵も含めた大気汚染だけでなく、騒音や排熱によるヒートアイランド現象、温暖化ガスの排出など、依然として社会的な問題となっています。

いまだに9割以上が化石燃料を動力源にしており、資源の浪費を指摘する声もあります。日本を代表する経済学者で、昨年亡くなられた宇沢弘文さんは、その有名な著書、『自動車の社会的費用』の中で、さまざまな社会的費用が発生し、私たちの社会全体が、そのコストを負担させられていると述べています。

今や交通事故は日常茶飯事ですが、人間を死傷させるという、何よりのデメリットがあります。これは大きな社会的損失です。それを減らすための対策にも莫大なコストがかかっています。信号や標識から、交通警察官の人件費、さらには裁判や交通刑務所の運営にいたるまで、全て社会的な費用です。

子供は小さな頃から、クルマに気をつけるよう言われて育ちます。本来、気をつけるべきはドライバーですが、被害が圧倒的で、回復困難な場合も多いため、被害者が注意せざるを得ません。安全を脅かし、市民にストレスを与えています。当たり前のことのように思っていますが、これも社会全体が負担するコストです。

Photo by 663highland,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.ドライバーが歩行者を生命の危険に晒ようなすスピードを出す自由に対し、歩行者の負わされる不自由は大きな不平等です。歩行者や自転車利用者に対し、自ら安全や防護をとらせること自体が負担の押し付けであり、不平等であり、他者の権利侵害であり、社会的コストであると指摘しています。

公道における私的空間で自由にふるまうことが、周囲に対する迷惑や、脇見などの危険を誘発しかねません。都市の貴重な公共の空間を駐車して占有することもそうです。また、道路による生活空間の遮断や歩行の不便など、あまり意識していないものも他者への侵害であり、社会的コストになっているのです。

ドライバーの便宜を図るため、莫大な道路整備の費用がかかっていることも、当然社会的な費用ですが、例えばクルマそのものや舗装道路による景観の破壊も、社会的損失だと言います。クルマの通行が優先され、クルマがたくさん走る社会が市民の幸福をもたらすのか、根本的な疑問をなげかけています。

私は、ここでクルマ対歩行者や自転車という対立の構図を煽りたいのではありません。誰でもクルマの恩恵を受けていますし、どちらかの立場からだけ主張しても不毛です。社会全体として、気がつかないうちにクルマ優先の思想が当たり前のようになっていないか、そこに考え直す部分はないかと言いたいのです。

Photo by 松岡明芳,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.宇沢氏は、クルマの運転者に認められている過度の自由が、権利の逸脱と他者への侵害を生んでいると指摘しています。例えばスピードです。クルマの速さを半分に抑えれば、その運動エネルギーは4分の1になります。それだけ事故が起きたときの衝撃を減らすことが出来ます。

最近、世界では都市部のクルマを制限する方向にあります。中心部への流入を抑制したり、スピードを制限したり、必ずしもクルマの通行を優先したり、そのための整備を進めるという考え方ではなくなってきています。なかには今後の都市計画で、都市部からクルマを完全にシャットアウトしようと考えている都市もあります。

例えばパリでは、市内の大部分の制限速度を時速30キロにすることを検討しています。さらに場所によっては20キロに制限する計画です。すでに、約3分の1の道路では30キロ制限に移行しているそうです。制限速度の引き下げが、重大な交通事故の削減につながると考えているのです。

そもそも渋滞で、速いスピードは出せないということもあります。場合によっては自転車のほうが速いのも多くの大都市と同じです。都市間を結ぶ道路や高速道路など以外の都市部の移動には、仮に渋滞がなかったとしても速いスピードは必要ないとの考え方なのです。

運よく渋滞がなくても時速30キロしか出せないのであれば、今のクルマの何十馬力、何百馬力というパワーが必要なのか疑問に思えてきます。何百キロのスピードが出せても、そんなスピードを出す場面があるでしょうか。元々、今のクルマは性能が過剰ではと、あらためて思えてきます。



こちらは、“Cyclone”、最大2人の脚力で更に2人が乗れて合計4人乗りです。さらに荷物も詰めます。郊外へ行く場合はともかく、都市部の移動だけなら、エンジンのついたクルマは不要と考える人が出てきても不思議ではありません。自転車やカーゴバイクだけでなく、新しい自転車の形を考える人たちが増えています。

自転車は雨が降った場合が問題です。濡れたくない人も多いと思いますが、これならば濡れずにすみます。都市を移動したり荷物を運ぶために、屋根のついた自転車、いわゆるベロモービルという手があります。エンジンを積まなければ大幅に軽くできるので、脚力だけでも十分実用になるとの考え方です。

CycloneCyclone

CycloneCyclone

CycloneCyclone

確かにクルマだとラクですが、欧米人をはじめ現代人は肥満傾向にあります。化石エネルギーを消費するのではなく、自分のお腹にたまったエネルギーを使えば、健康のためにもなります。環境への意識の高まりに加え、健康へのメリットを考える人が増えていることも背景にあるのは間違いないでしょう。



2人乗りの典型的なベロモービル、“Zeppelin”です。動画で見ると、十分実用的に見えます。荷物を運んでも充分な速さが出ています。そもそもクルマのドライバーに認められているスピードの過度の自由が、権利の逸脱と他者への侵害を生んでいるとするならば、人力で出せる速度にあわせるほうが正しく思えてきます。

都市部でなら、クルマと変わらない速さで移動できそうです。そして、同じスピードを出しても、重さは圧倒的に軽く、人と衝突した時のエネルギーも大きく違ってきます。絶対死傷させないとは言いませんが、相対的に被害が軽減されるのは間違いないでしょう。

ZeppelinZeppelin

ZeppelinZeppelin

ZeppelinZeppelin

最初の“Cyclone”も、こちらの“Zeppelin”もアメリカ・ミシガン州の同じデザイナーのチームによるものです。こうした人力のクルマ、ベロモービルが、クルマの見本市、オートショーで発表・展示されています。このあたりが、クルマ社会と思われがちなアメリカの懐の深さという気がします。




Pickup Truck BikingPickup Truck Biking

こちらはアメリカ人の好きなピックアップトラック型です。もちろん積載能力は限られますし、アメリカ人好みの大きなボディではありません。ただ、広大な農場ではなく、都市部でのみの移動ならば、これでも十分と考える人も増えつつあるようです。クルマ社会アメリカでも意識が変わりつつあります。







こちらは、実際に販売されている“ELF”です。アメリカ、ノースカロライナ州にある企業が販売しており、すでに現実的な選択肢となっています。一般的にクルマ社会と考えられているアメリカでも、ベロモービルと使い分ける人が出てきているのです。

前後に2人乗れます。ソーラーパネルも備えており、電動だけでも走行できる、人力とのハイブリッドです。荷物も運べるし、スピード的に十分実用的と考える人も少なくないようです。環境負荷への意識の高まりから、イメージがいいこともあります。

ELFELF

ELFELF

ELFELF

ガソリン代が不要なだけでなく、初期費用も安く、登録や免許も必要ありません。エクササイズを兼ねて使えば、一石二鳥です。そして汗をかきたくない場合には切り替えて、電動だけで走ることも可能です。95歳でも容易に乗れるとしています。

渋滞する都市部で、いずれにせよ最高時速は30キロ程度とするならば、これでも充分な気がしてきます。クルマの世界でも最近はEV、電気自動車が注目されていますが、たくさんの電池を載せて重量のある、今のようなEVはオーバースペックに見えてこないでしょうか。

T-VeloT-Velo

スピードは30キロ程度に抑え、車重を軽くすれば、載せるバッテリーも小さなものですみます。スピードや性能を上げ、バッテリーも重くなり、値段も高くなるEVとは逆の方向です。そう考えると、ここで取り上げたような各種のベロモービルという方向性は、リーズナブルなものに見えてきます。

もちろん、全てを置き換えることは出来ません。しかし、従来型のクルマやトラックなどが必要な部分と、自転車やベロモービルで充分な部分と使い分けるようなことも考えられるのではないでしょうか。また、全ての人にペダルをこげと言うつもりもありません。必要に応じてフル電動のベロモービルも考えられます。

T-VeloT-Velo

次世代のクルマ、EVや燃料電池車などの開発を否定するものではありません。依然として従来型のクルマも必要なのは言うまでもありません。ただ、都市部においては、今までのようなクルマを使うのとは違う選択肢があると考える人、あるいは考える都市が増えてきている気がします。

従来型の重量のあるクルマと、軽量のベロモービルが並存すると、衝突事故が起きた際が懸念されます。都市部や住宅街での移動と、郊外や都市間の移動と分離することも考えられるでしょう。物理的な分離が難しければ、時間で分離するようなことも考えられるかも知れません。

どんどん肥大化する一方だった性能や車重、そしてスピードを思い切って減らせば、人力をもっと活用することが出来ます。今まで当たり前のように思っていた、クルマでの移動、クルマが優先という常識を考え直してみる時期に来ているのではないでしょうか。




中国の春節も終わり、爆買いが報じられています。直接関係ないですが、日本としては、ありがたいことですね。

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この記事へのコメント
「クルマに気を付けて」という言葉は普通に子供に対して使われます。
しかし、冷静に考えると子供が外を出歩くだけで命がけっておかしいですよね。
そういったおかしい状況を変えるために、このブログで紹介されたようなアイディアが使えるかもしれませんね。
Posted by ぶらいんどけーぶ at February 25, 2015 18:53
ベロモービルのような屋根がついた自転車は雨の多い日本でこそ役に立つと思うのですが、全く見かけませんね。
私は購入を検討しましたが、軽自動車並の価格と巨大な物を個人輸入しなければならない手間で諦めました。

値段が高いから普及しない、普及しないから値段が下がらないという次世代交通手段にありがちな問題を抱えているように思います。
国内に大量生産で参入するメーカーが1社でもあればいいのですが。
Posted by NuE at February 27, 2015 09:25
ぶらいんどけーぶさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
本当におかしいと思います。高度経済成長の時期に「クルマ優先」だったのは正しい判断だったのかも知れませんが、もうそろそろ本来あるべき、「人間優先」に戻していくべきではないかと思いますね。
Posted by cycleroad at February 27, 2015 23:49
NuEさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
やはり今のところ、日本の交通体系にあっていないということもあるのでしょう。クルマの流入制限とか速度制限を見直したりなどすれば、変わってくる可能性はあると思います。
何かのきっかけで、移動手段を考え直すような流れが出来れば、当然供給しようとするメーカーや輸入元も出てくるでしょうし、安くなると思うんですけどね。
Posted by cycleroad at February 27, 2015 23:53
ベロモービルを屋根の付いた自転車と観るか、人力自動車と観るかで大きく変わるでしょうね。
Posted by なななな at March 02, 2015 18:37
ななななさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
規制や免許の問題などがあるので、自転車としておいたほうがメリットは大きいと思いますね。
Posted by cycleroad at March 03, 2015 23:26
 
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