February 27, 2015

高度なのがいいとは限らない

トヨタが燃料電池車の生産を本格化させています。


24日にトヨタの燃料電池車「ミライ」の本格的な生産開始を記念する式典が、愛知・豊田市の工場で行われたと報じられています。ただ、大量生産用のラインではなく、技能に秀でた13人の社員がクルマを床に並べて作業しており、1日あたりの生産は、わずか3台、今注文しても、納車は2018年以降になるそうです。

社長は、えり抜きの職人が丁寧に組み立てていると強調していますが、1日たった3台では、まさに職人による工芸品のレベルです。700万以上の価格が政府の補助金で500万円台で買えるといいますが、果たして今後量産化出来るようになって、普及価格になるのかと思ってしまいます。

「ミライ」と名づけられた燃料電池車ですが、その名のとおり未来の技術のように思えます。走行しても水しか排出しない究極のエコカーなどと宣伝されていますが、果たして次世代のクルマとなるのでしょうか。実は、技術者や専門家の間では懐疑的に見る声が少なくないようです。


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水素は空気や水から無限に取り出せるため、枯渇しない究極のエネルギーのように思えますが、空気や水から取り出すためには莫大なエネルギーがかかります。手っ取り早いのは石油や天然ガスから取り出す方法ですが、それなら、そのまま使ったほうが効率的です。

ガソリンスタンドにあたる水素ステーションの整備は、従来の5倍以上のコストがかかるため、その建設は遅々として進んでいません。現状でガソリンがいくらでもあるのに、新興国も含めた世界で整備が進んでいくとは思えないので、いわゆるガラパゴス的な技術になってしまう可能性は否定できないでしょう。

燃料電池車になったら空が飛べるとか、何か根本的に変わる、いずれ世界的に水素になるというなら別ですが、今のガソリン車と違う魅力は、特に見出せません。温暖化ガスを出さないと言いますが、水素を生産するエネルギーが温暖化ガスを出すことになるのであれば、それもメリットにはなりません。

環境的には、化石燃料を燃やす今のガソリン車より好ましいかも知れません。しかし、そうは言っても、いまだに9割以上が化石燃料を燃やすクルマなのは、経済的に合理性があるからです。それをあえて変えるメリットや魅力がなければ、今後世界的に普及していくことに楽観的にはなれないでしょう。

水素は腐食性が強く、きわめて爆発しやすく、爆発力も強力な気体です。耐腐食性や機密性、強度の高い専用貯蔵設備が必要になります。水素の生産、輸送、販売は、既存の自動車用燃料と比べ、はるかに難しく、コストも大きいことが根本的に普及を阻む可能性は高いでしょう。

トヨタの関係者は、「水素は200年以上前に街灯の燃料として使われ、今はロケットの液体燃料から工業原料まで幅広く利用されている身近な物質」と、利便性をアピールしています。でも、そんなに身近な物質ならば、今日燃料としてもっと普及していてもいいはずだという指摘のほうが説得力があります。

実際にそうなっていないのは、水素がそれだけ取り扱いの難しいエネルギーだからというのは、素人にも容易に想像のつくところです。水素を大量に運ぶため、液体水素にすればマイナス260度が必要になり、圧縮して運ぶにしても数百気圧が必要となるなど、いずれにしても輸送に膨大なエネルギーが必要になります。

最近はガソリン車やハイブリッド車などの燃費性能が向上した結果、エコカーとしての性能は平凡なものだと言います。鉄鋼生産などの副産物として発生する水素がうまく運べればともかく、水素自体の値段が高くなってしまうため、電気などと比べて、コスト的に魅力がないのも問題です。

つまり、未来の技術の主流となるか懐疑的にならざるを得ない状況なのです。日本政府も水素社会を切り開くとして積極的に応援していますが、果たして正しい政策なのでしょうか。クルマ以外にも水素を燃料とすれば、エネルギーが自給できない日本に大きなメリットがあるというのも疑問です。

太陽電池や風力発電で電気を作り、その電気で水を電気分解するというのも、ダムを使った揚水発電にも劣る効率しかなく、現実的ではないと言います。それをするなら、そのまま電気として使うほうがいいですし、わざわざ扱いにくい水素にする意味がありません。

ミライ身近に豊富にあると言っても、それを取り出すのにも、運ぶにも、貯蔵するにも大きなエネルギーが必要なのでは、水素社会というコンセプト自体、疑わしくなってきます。少なくとも現状で、近い将来燃料電池車が走り、水素社会が実現するのは怪しいと言わざるを得ないようです。

私は、決してトヨタをけなしたいわけではありません。新しい技術を開発し、エネルギーの革命的な転換をも視野に入れ、クルマの動力に革新を起こそうと挑戦することは素晴らしいと思います。日本の屋台骨を支えるクルマ産業をリードする会社であり、ぜひその成功を願いたいと思います。

しかし、いくら新しい技術と言っても、正しい方向への挑戦でなければ、日本のクルマ産業の衰退を招く危険性が否めません。それは携帯電話で、日本の家電メーカーの先進技術が、ガラケーと呼ばれるに至ったことを例として挙げるまでもないでしょう。日本を代表する大企業群が進路を誤り、世界と差がついてしまいました。

既存の市場を変えうる、今までの常識や生活スタイルが変わるという革新であれば、そこまでのハードルが高くても挑戦すべきケースはあるでしょう。しかし、ガソリンをわざわざ水素にしても、何のメリットがあるのかというのでは、燃料電池車への挑戦自体が危うく見えてこないでしょうか。

前回、ベロモービルを取り上げました。都市部での近距離の移動については、十分実用的ではないかと書きました。クルマのデメリット、交通事故や公害、渋滞、都市の居住環境などを考えれば、既存のクルマを抑制し、ベロモービルを使うのも、十分にありえる選択肢ではないかと指摘しました。

前回は、都市部における近距離の移動で、時速30キロ程度以下ならば、ベロモービルがむしろリーズナブルと考える人も出てきていると指摘しました。郊外や都市間の移動の場合は、自転車、ペダリングによる人力は向かないという前提で、使い分けるという考え方でした。

RAHT RACER

しかし、この“RAHT RACER”を見ると、その前提も崩れてくるかも知れません。ペダルの力を増幅して、時速約50キロというクルマと変わらない巡航速度を出すことが出来る3輪のベロモービルです。電動アシスト自転車ですが、電動だけで走ることも出来ます。

日本の電動アシスト自転車は、法令でそのアシスト力に制限がありますが、制約をなくせば、ここまでスピードが出せるのでしょう。普通の人の脚力でも時速50キロくらいまで加速できます。電動だけでも走行でき、なんと、最高時速は160キロまで出るといいます。

最近の例にたがわず、ハイテクも搭載されています。GPSで現在地を把握し、その場所のデータから傾斜度を勘案して適切なアシスト力に自動で切り替わると言います。これによって、快適なペダリングを保つ仕組みです。クラウドファンディングサイト、“kickstarter”で資金調達中です。



時速50キロ程度まで出せる、フルカウルの電動アシスト自転車ですが、電気と人力のハイブリッドカーと見ることも出来ます。電動だけでも走行できますが、それだと航続距離が短くなるので、一番身近で手っ取り早い人力を使えるようにしている形とも言えます。

乗り手の脚力を使うのであれば、エンジンも燃料電池システムも必要ありません。重量が圧倒的に軽くなりますので、人力でも十分速度が出ます。そう考えると、人力と電動のハイブリッドというのは、とてもリーズナブルな組み合わせに見えてきます。

もちろん、クルマのようなボディではないので、衝突安全性などの点では劣るでしょう。しかし、シートベルトなども備え、オートバイに乗るよりは十分に安全だとしています。資金調達に成功すれば、3万5千ドル程度で売り出されることになりそうです。日本円で420万円程度ということになります。



高いですが、そこはベンチャーなので仕方がないでしょう。ただ、自転車メーカーや、バッテリーカーを製造するような生産設備を持つ大手メーカーが製造すれば、もっと大幅に安く出来るはずです。クルマメーカーも、EV、電気自動車の車体を軽量化する方向性を出してこないとは限りません。

燃料電池車と比べると、いかにもローテクです。しかし、燃料代もかからず、充電したとしても、エコカーとしてのパフォーマンスは抜群でしょう。水素インフラも必要ありません。難しい技術開発も不要、すぐにでも商品化できる会社も多いに違いありません。

ペダルなんかこぎたくないという人もいますから、全ての移動が、この“RAHT RACER”のような乗り物になるとは言いません。しかし、今のようなクルマの代替としても十分役に立つ、むしろこれで十分だと考える人も出てくるのではないでしょうか。

RAHT RACER

クルマの進化から考えると、退化するような方向であり、こうしたベロモービルが移動手段の主流になると考えるのは無理があります。依然として従来型のクルマが必要なのは間違いありません。しかし、シンプルで、リーズナブルという点では、燃料電池車と好対照をなしています。経済的にも魅力的な選択肢だと思います。

クルマの進化は現代文明の象徴でもあり、経済面も含めて考えれば、不断の技術革新は不可欠でしょう。しかし、わざわざ難しい水素を使うこと、水素にするメリットが乏しいことを考えれば、燃料電池車という選択肢は、必ずしも目指すべき方向性ではないような気もします。

この対比で思い出したのは、以前流行ったジョークです。覚えておられる方もあると思いますが、次のようなものです。


NASAアメリカのNASAは、宇宙飛行士を最初に宇宙に送り込んだとき、無重力状態ではボールペンが書けないことを発見した。これではボールペンを持って行っても役に立たない。NASAの科学者たちはこの問題に立ち向かうべく、10年の歳月と120億ドルの開発費をかけて研究を重ねた。
その結果ついに、無重力でも上下逆にしても、水の中でも、氷点下でも、摂氏300度でも、どんな状況下でも、どんな表面にでも書けるボールペンを開発した!!

一方ロシアは鉛筆を使った。


これは笑い話ですが、実際の社会でも似たような話はあると思います。これを、私なりにアレンジしてみたのが、こちらです。


アメリカ商事のナス事業部では、社員のスケジュール管理がうまくいっていないため、時間が無駄になったり、互いの連携が上手くいかないなどの問題が発生していることが明らかになった。これでは生産性も上がらない。ナス事業部のエンジニアたちはこの問題に立ち向かうべく、10ヶ月の歳月と12億円の開発費をかけて研究を重ねた。
その結果ついに、事業部長からパート社員まで24時間365日、どんな状況でも入力できる、全ての社員のスケジュールを管理するコンピューターシステムを開発した!!

一方ロシア物産は黒板を使った。


最新のシステムを導入したものの使いこなせず、かえって面倒なので、結局ホワイトボードに戻したなんて話も実際にあるのではないでしょうか。もう一つアレンジしたのがこちらです。


アメリカ工業のナス支店では、ここのところの原油高で、社員が通勤に使う乗用車のガソリン代が高騰しているのが問題になっていた。そこで、社員は自衛手段として、燃費の良い小型車などに買い換えたり、燃費向上グッズを購入したり、アイドリングストップや省エネ運転を心がけるなど必死になっている。
その結果ついに、支店全体では、燃料代を5パーセント節約することに成功した!!

一方ロシア製作所は自転車通勤にした。


イノベーションとか技術革新に躍起になるあまり、後から考えると滑稽な努力をして、笑うに笑えない事態を招いてしまうということは、往々にしてあると思います。私が見たくないと思うのは、次のようなシナリオです。


日本では水素社会を目指して官民共同で燃料電池車の普及に取り組んだ。世界に普及を促すため、特許の公開や技術支援を行い、国内でも精力的に水素ステーションの整備をした。量産化や安全性、水素価格や燃費性能など問題は山積していたが、もはや後戻りは出来なかった。
その結果、世界から見るとガラパゴスになっていた!!

一方、アメリカやヨーロッパでは、電動アシストのベロモービルが増えた。


ミライ果敢な挑戦であることは認めます。究極のエコカーを目指して開発するのが間違っているとは言いません。しかし、それが素人目にも大変そうな水素でしょうか。むしろ電動ベロモービルのほうが、よっぽどエコで、シンプルで、必要十分で、インフラも不要、経済性も高く、リーズナブルということはないでしょうか。

今のところ、水素の貯蔵や運搬などには課題が多いようです。仮にそれがクリアされても、世界が雪崩を打って変わるような魅力的なものでもないとするなら、官民を上げて猪突猛進するのは危険ではないでしょうか。技術開発そのものが目的になってしまっていないでしょうか。

未来は、より技術も高度になっていくとは限りません。大きなパラダイムシフトとは言わないまでも、トレンドが変わり、健康志向からも、もっとシンプルな方向に進む可能性もあるでしょう。高度な技術への挑戦に酔ってしまって、周囲が見えなくなり、将来、日本の企業群が大ゴケすることがないよう願いたいものです。




ようやく容疑者が逮捕されました。それにしても、なぜ殺害にまで至ってしまったのかという思いは強いですね。

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この記事へのコメント
水素カーにそれだけの開発コストや
技術者をつぎ込むなら
その分で高性能バッテリー開発した方が良さそうに思えます
Posted by あるふぁ at February 28, 2015 15:34
あるふぁさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、水素しかないということはないと思います。すでに莫大な研究費を使って後戻りが出来ない面があるのかも知れませんが、もっとほかの可能性、もっと普及しやすい方法も考えたほうがいいような気がします。
Posted by cycleroad at February 28, 2015 23:30
恐らく、トヨタの燃料電池開発の本命は、トヨタホームのプロパンガスボンベ替わりでしょうね。
Posted by なななな at March 02, 2015 18:34
ガソリン・軽油には、必要なだけ、短時間で、追加出来る・劣化しないと言う特性があります。
電池の場合、充電するたび劣化しますし、反応した物質が拡散する時間が必要ですので、どうしても時間がかかります。
アルコール等のバイオ燃料は、今のところ、食料と競合してしまいます。
こんな事を考えると、水素燃料電池は、当初、よい選択だったのではなかったでしょうか。
ただ、直近の動きは、アベノミクスで祭り上げられているだけなので、異常事態だと思います。
私としては、そう類による合成石油辺りが本命のように思います。
Posted by ひでさん at March 03, 2015 10:02
ななななさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
家庭用燃料電池は、各家庭に都市ガスが供給されているわけで、クルマ用の核心の技術とは違うようですよ。
Posted by cycleroad at March 03, 2015 23:23
ひでさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
もちろん、当初はよい選択として開発が始まったのだろうと思います。
ただ、どうも当初の見込みほど有望とは思えなくなってきている面があるということなのではないでしょうか。
すでにインフラもあり、技術も確立している燃料を燃やす方式の優位は、なかななか揺るがないかもしれませんね。
Posted by cycleroad at March 03, 2015 23:32
やはり自転車が一番身近で、一番最良の選択肢だということが多いんですよね。
Posted by サトウ at March 04, 2015 13:39
サトウさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
何でもかんでも自転車が一番と言うつもりはありませんが、乗り物が進化する中で、人力プラスアルファでも充分なところに、肥大化しすぎの部分はあると思いますね。
Posted by cycleroad at March 04, 2015 23:12
 
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