March 26, 2015

自転車に乗れることの喜びを

ふだん、当たり前のように自転車に乗っています。


暑いとか、寒いとか言いながら、あるいはインフラの不備や赤信号にイライラしながら乗っているかも知れません。雨に降られたり、トラブルや、何か不愉快なことがあったりもするでしょう。ただ、自転車に乗れることについては当たり前のように思っています。

でも、なかには天気や愛車のコンディション、信号やインフラにかかわらず、自転車に乗ること自体が困難な人、大きなハンデを背負っている人がいます。ニューヨークで自転車を使ってメッセンジャーの仕事をしている、Dexter Benjamin さんもその一人です。

ご存知の方もあるかもしれません。私も記録映画で見て、ずいぶん前から知っていますが、彼は片足のメッセンジャーです。事故で片足を失ったのですが、毎日自転車に乗り、メッセンジャーとして仕事をしています。自転車を降りれば松葉杖が必要なので、いつもフレームに松葉杖を挿して走行しています。



彼は、もう何十年もニューヨークで自転車便の仕事をしていますが、ほかに片足のメッセンジャーには会ったことがないと言います。少なくともニューヨークで唯一なのは間違いないでしょう。そして、ニューヨークで一番有名なメッセンジャーと言われています。

動画を見ると、何でもないように見えますが、そう簡単なことではないはずです。片足だけでは力が入りにくいでしょうし、バランスをとるのも大変です。下手をすれば、サドルから滑り落ちてしまうでしょう。そして、荷物を届けるためには、自転車を降りて階段を上ったりもしなくてはなりません。

メッセンジャーとして、大きなハンデを負っているのは間違いありませんが、それでも決して他の人より遅いことはありません。むしろ、他のメッセンジャー仲間より届けるのが速いことで知られています。その陰には相当の努力が隠されているのだろうと思います。

Dexter BenjaminDexter Benjamin

彼はトリニダード・トバゴの出身です。小さい時からスポーツが好きで、アスリートでした。21歳のとき、叔父の家へ行くため、自転車を走らせていました。その途中、幼い子供がトラックにはねられそうになる瞬間に、偶然出くわしたのです。

瞬間的に子供を助けようと動いた結果、子供は助かりましたが、彼の右足がトラックに押しつぶされてしまいました。その瞬間、得意だったボクシング、または砲丸投げでオリンピックに出るという夢も打ち砕かれました。アスリートだった彼にとって、自分の潰れた足を見るのは辛くショックな出来事だったに違いありません。

しかし、ベンジャミンさんは、くじけることはありませんでした。絶望したり、運命を呪ったり、悲観的になることもなく、何と事故から1年後には、松葉杖によるハーフマラソンにエントリーしていました。この前向きさやメンタリティーの強さは、常人にマネの出来ないところではないでしょうか。

Dexter BenjaminDexter Benjamin

その後、障害者スポーツを支援するプログラムからの援助を受け、各地の大会に出るようになりました。渡航費用を出してもらい、ニューヨークへも遠征しました。障害者スポーツのアスリートとして、米国のほうが活動しやすいと考えていたところ、突然その支援が打ち切られてしまいます。

不法滞在になった外国人、しかも障害のある身で仕事を見つけろというのは困難です。グランド・セントラル駅で物乞いをしてしのぐ経験までしています。そんな時に彼が選んだのがメッセンジャーの仕事です。例え片足が無くても、同じように荷物が届けられるのであれば、仕事が出来るからです。

もちろん、人一倍困難な道なのは間違いありません。最初はいろいろ苦労もしたようです。しかし、彼は自立のために立ち上がり、自分で稼ぐことにこだわりました。自転車に乗ると、体の中からアドレナリンが沸いてくるような気がしたことも理由だと言います。

Dexter Benjaminその後も、独立して自分の自転車便の会社を持ったこともありましたが、倒産の憂き目にあったり、結婚して子供が出来ましたが離婚したりと、数々の挫折もあったようです。それでもベンジャミンさんは、自転車に乗ります。死ぬまで乗り続け、決して乗るのをやめることはないと言い切っています。

ただでさえ競争が激しいメッセンジャーの仕事です。続かずにやめていく人も少なくありません。仕事が減って競争が厳しくなる中でも、自転車に乗っている時の彼はいつも笑顔です。自転車に乗るのを愛していると彼は語っています。だからこそ、困難があっても乗り続けたいと考えているのです。

片足を失って不便なことは多いと思います。自転車に乗っていても、意のままにならないことがあるでしょう。多くの人はハンデを考えて、メッセンジャーの仕事は選択しないのではないでしょうか。それでも、あえて挑戦し、克服し、さらに挑戦し続ける姿に敬服します。

仕事ですから時間的制約もありますし、天候やコンディションが悪いこともあるでしょう。それでも自転車に乗れていることに喜びを感じ、走っていれば笑みが浮かび、アドレナリンがわいてくるというのです。自転車の仕事を選び、それを愛し、愛しているからこそ乗り続けると語っています。

ふだん、自転車に乗れること自体は当たり前のことと意識もせず、何かと不満を感じたりしている者とすれば、自らが恥ずかしくなるような話です。その不屈の闘志はなかなか真似できませんが、細かいことに不満を感じて心を煩わせるより、自転車に乗れることの喜びをかみしめるべきだと気づかせてくれます。





お花見の季節になってきました。自転車だと、郊外の混んでいない、無名のスポットにも行けるのがいいですね。

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この記事へのコメント
自転車競技のパラリンピックを目指す「片足の女子選手」の事を最近知りました。
自転車の場合、サポート機材の差(購入不可能なハイテク機材)が出にくいと思われるので、かなり気になっています。
Posted by かぁぶ at March 27, 2015 13:07
かぁぶさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
藤井美穂選手ですね。凡人がすごいと思ってしまうのは正直なところですが、彼女のハンデをハンデとも思っていないような発言を聞くと、そう思ってしまうのは見ている人だけなのかも知れません。

Posted by cycleroad at March 28, 2015 23:18
 
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