September 25, 2015

全体で考えれば効果も大きい

コロラド州はアメリカ西部の州です。


内陸部にあって、南北にロッキー山脈が連なっています。山岳や高原の多い、全米で一番平均標高の高い州です。州都はデンバー、人口のほとんどは山脈の東側の都市部に住んでいますが、州内には4つの国立公園があり、その多くは豊かな大自然に恵まれています。

Photo by Wayne L. Bart,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.Photo by Matt Wright,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

そのコロラド州の知事、John Hickenlooper 氏が、ラスベガスで開催された北米最大の自転車トレードイベント、“Interbike”で、州の政策を発表しました。コロラド州を、全米で一番のサイクリング州にするため、今後4年間で1億ドル以上を投じるというものです。

コロラド州を全米でベストの自転車州にすることが、観光収入を増やし、州の経済成長にも資すると考えています。同時に、環境面においても、よりクリーンな州となるだけでなく、アメリカでも屈指の健康的な州にすることになると主張しています。

自転車に乗りやすい基盤を整えること、それによって自転車の活用を推進し、サイクリングを盛んにすることは、大きな経済効果を期待できる、州の積極的な経済政策になると考えています。4年間で1億ドル以上を投入するに十分値する投資だとしています。

その中には、サイクリングロードやトレイルコースの改善プログラムなども含まれます。従来の交通インフラの整備方針を見直し、若い世代にもアピールする内容を盛り込み、コロラド州の経済成長につなげるような広く波及力のある整備を推進する構想です。

州政府だけでなく、民間を取り込んで進めたいと考えています。そのため、コロラド州運輸局による交通政策や従来の方針を一部変更します。自転車だけでなくクルマや歩行者も含めた交通規制を緩和するとともに、地元住民のコミュニティーに、規制の権限委譲なども進めると言います。

The best state for bikingThe best state for biking

州運輸局の予算だけでなく、連邦政府の交通・輸送改善プログラムや、混雑緩和、大気汚染などの改善プログラムからの予算も含め、トータルで6千万ドルを投入して、自転車と歩行者用のインフラ整備プログラムを策定し、実施する計画です。

また、すでにあるトレイルコースやサイクリングロードを連結するなどの改善を進めるための、自転車および歩行者用インフラ整備にも、補助金などから3千万ドルが投じられます。さらに1千万ドルが、通学路の安全なルートの整備、改善などに使われる予定になっています。

これまでにも、アメリカ各地の都市では、自転車インフラの整備が進んでいることを取り上げてきました。それはニューヨークなどの大都市や、これまでも自転車にフレンドリーとされてきた都市だけでなく、全米の都市に広がりつつあります。

クルマ王国であるアメリカでも、若者世代に、一部クルマ離れの傾向が見られます。クルマよりもコンピュータやモバイル端末にお金を使い、SNSを使いこなす世代の、特にIT企業がほしがるような人材は、郊外の広い家よりも便利な都市部に住んで、自転車で通勤したいと考える割合が高いことが明らかになっています。

世界的に有名なアメリカのIT企業の間でも、そのような人材の取り合いになっています。そのため、若者が多く集まる都市、なかでも自転車にフレンドリーで若者に人気のある都市に進出します。すると、勢いのあるIT企業を誘致するため、各都市が自転車インフラの整備を競うという構図です。

The best state for bikingPedalThePlains

ただ、それらは都市単位の話でした。コロラド州は州単位でサイクリング州を標榜している点で、これまでにない動きと言えるでしょう。州が持つ大自然や景観といった観光資源に、サイクリングという要素を加えることで、観光地としての魅力をアップさせることを狙っています。

もちろん、こうした政策に反対する意見も少なくありません。交通政策については、クルマ用の道路の整備や混雑の緩和などのほうが優先されるべきとの主張もあります。サイクリングなどに予算を使うより、クルマ関連のほうが、よっぽど市民の生活に直結する課題だとする反発もあります。

郊外の自転車トレイルコースに補助金を投入したり、潜在的に高額な投資になりかねない、トレイルコース同士の連結に予算を投入することは、政治的にも難しい面があります。そして、そのような投資が、思ったような成果をあげるとは限らないとの批判も小さくないのです。

さらに、トレイルコースだけでなく、自転車インフラは、場所によってクルマの車線を削って整備されることになります。場合によってはクルマの混雑を激化させることになりかねません。クルマの利用者にとっては、敵対的とも思える政策ということになるわけです。

こうした点について、知事は、これまでのクルマ中心の交通基盤整備を変えていく必要があると考えています。従来のクルマ文化を守るのではなく、変えていくべきだと言うのです。時代の変化や人々の考え方の変化により、それらは変わっていくものであると考えているのです。

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サイクリングロードやトレイルコース、道路に整備される自転車レーン、その他の自転車インフラも含め、コロラド州の交通網の「標準」にしていく方針です。それらは例外なく、将来のコロラドの交通網の標準的なインフラになっていくと、John Hickenlooper 知事は明言しています。

コロラド・ペダル・プロジェクトの計画の最初は、大自然の中のトレイルコースや、舗装された自転車道、自転車レーンや既存のサイクリングロードなどをつなげていくことから始まります。そして、それは州全体を網羅するものとなります。

知事は、都会の人が豊かな自然に触れ、本来の生命力を取り戻したり、自然の中でリフレッシュするような体験、ツアーを売り込んでいくことも想定しています。サイクリングの愛好者だけでなく、旅行客が自転車を使って移動したり、楽しむニーズを取り込み、拡大させたいと狙っています。

まずは、“Interbike”の場で発信することで、全米の自転車愛好者にアピールすることを狙いました。国外からのサイクリング客も意識しています。しかし、そのニーズは自転車愛好者だけではないと言います。アメリカでは、まだまだサイクリングの潜在的に大きなニーズが眠っていると考えているのです。

Bicycle and Pedestrian Program Photo by TRAILSOURCE.COM,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

これは、なかなか興味深い取り組みだと思います。日本でも、John Hickenlooper 知事のような政治的リーダーシップがとれるかどうかは別にしても、学ぶべき部分があるでしょう。街の単位でなく、都道府県単位で、自転車インフラの整備を成長戦略にするという政策です。

例えば、栃木県の宇都宮市などは、自転車を前面に押し出して観光客の誘致に取り組んでいます。レースを誘致したり、イベントを行なうなど、自転車の街としてアピールすることで、サイクリストが多く訪れるような街にしようとしています。

もちろん、都市単位の努力を否定するつもりはありません。しかし、もし栃木県全体のレベルで、自転車インフラの整備を進め、サイクリング県としてアピールしたらどうでしょう。宇都宮だけでなく、同じ県内の鬼怒川温泉や那須高原、日光などの有名な観光スポットをつなげれば、その魅力は何倍にもなるはずです。

単なる足し算ではない相乗効果が見込めるだけでなく、観光地を巡るサイクリングそのもの、自然の中を巡るサイクリングも有力な観光資源として観光客を引き寄せる力があります。国内だけでなく、今注目されるインバウンド、海外からの旅行客にもアピールするものになる可能性があります。

Photo by TRAILSOURCE.COM,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.Photo by TRAILSOURCE.COM,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

日本人にとって、日本の自然はありふれています。国土の4分の3は山地で、どこの都市でも、ちょっと移動すれば山の中、自然の中です。見慣れていますし、特に珍しくもありません。しかし、海外からの旅行客にとって、日本の自然というのも大きな魅力なのです。そのことに日本人の多くは気づいていません。

雨が多く、緑が多く、地形の変化も豊か、四季もあります。そして動植物の多様性という点でも、世界的に珍しいホットスポットでもあります。寺社仏閣や温泉だけでなく、自然の中をサイクリングして、美しい景色を見て、日本の自然を堪能することそのものが、大きな観光資源になると考えられます。

外国人が、アニメや家電や和食、日本の文化だけでなく、日本の自然そのものに大きな魅力を感じているのは、各種の調査でも明らかになっており、専門家の指摘するところです。しかし、多くの自治体は、自然そのものが集客力を持つとは考えておらず、「おもてなしの心」こそが重要などと考えています。

東京と大阪を結んだ、いわゆるゴールデンルートだけでなく、いかに違う地域へも外国人観光客を呼ぶか、各地が腐心しています。しかし、日本人が考えるような観光スポットしか、外国人にも魅力がないというのは思い込みだと気づいている地域がどれだけあるでしょうか。

The best state for bikingPhoto by TRAILSOURCE.COM,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

寺社仏閣や遺跡、遺構などを観光スポットとして整備したり、爆買いを期待してショッピングセンターを免税対応にするだけが集客策ではないはずです。どこでもある、似たような部分で競うのではなく、もっと他と違うことを考えるべきでしょう。

コロラド州の人には、コロラドの景色や素晴らしい大自然は、毎日見ている、ありふれたものかも知れません。しかし、それこそが観光資源であり、コロラドの魅力です。コロラドの大自然を観光資源として、もっと活かすためのサイクリング州構想です。

一つの街や一つの温泉地では小さい力も、県全体でアピールすれば、大きな力になる可能性があります。通過ではなく、県内を周遊したり滞在してもらうことも期待できます。地域の自然そのものを活かし、その魅力を味わってもらうために、日本でもサイクリング県を目指すところがあってもいいような気がします。




各国の政府を騙し、世界何千万人もの顧客を平気で欺くとは、フォルクスワーゲン、信じられない悪どさですね。

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この記事へのコメント
「日本がこれからの国の発展を成し遂げてゆくには「観光」を産業として育成するしか方策はない」とのこと。いろいろと考えさせられますね。

http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/8c078c1c52cddb8f900813124e338282?fm=entry_awp
Posted by sharetheroad at September 27, 2015 09:21
sharetheroadさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
多くの人が感じているより、ずっと重視すべきで、可能性のある産業であることは間違いないでしょう。
一方で、観光客の誘致について、誤解が多いのも確かでしょうね。

Posted by cycleroad at September 28, 2015 23:50
 
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