April 19, 2016

常識にとらわれないデザイン

街には自転車があふれています。


日常的に自転車に乗っている人は大勢いますし、よほど人口の少ない場所でもなければ、自転車に乗っている人を普通に見かけるはずです。とても身近で、ありふれた存在と言えるでしょう。乗らない人もあると思いますが、自転車を知らないという人は、幼い子供を除けば、まずいないはずです。

では、その自転車の絵を描いてみてと言われたらどうでしょう。実物を見ないで描けるでしょうか。乗っている人でなくても、日常的に見ているわけですし、描けて当然のような気がします。しかし、実際に描こうとすると、意外に難しいことに気づくのではないでしょうか。

もちろん、自転車が趣味で、自分でメンテナンスするような人なら描けるでしょう。でも、日常的に見ているはずなのに、いざ描いてみると、描けない人は少なくないと思います。車輪が二つでハンドルとサドルとペダルがあることくらいはわかりますが、細部となると怪しくなります。

自転車のフレームの多くは、ダイヤモンドフレームと呼ばれる三角形をつなげた構造になっています。これまでの長い試行錯誤の末に収束してきたデザインであり、構造的に強度が保て、耐久性が高く、非常にシンプルで生産性も高い、オーソドックスな自転車のフレームの形態です。しかし、普通の人はそんなことは知りません。

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実際に描かせると、おかしな絵を描く人が少なくありません。これは、意外ですが事実です。身近かな人に試してみても面白いかもしれません。イタリアのデザイナー、Gianluca Gimini さんは、友人や出会った人に、自転車の絵を描いてもらうことを続けてきました。

素人の下手な絵をよく集めたものだと思いますが、とてもユニークなコレクションになっています。ネット上では世界各国で話題となっており、いろいろなメディアが取り上げています。すでにご覧になった方も多いかと思いますが、とても面白いので取り上げておこうと思います。(比較のため一部反転しています。)

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2009年から始めた、普通の人に描いてもらった自転車の絵、その数376枚です。普通だったら、「けっこう自転車の絵って描けないものだよね。」で笑って終わりでしょう。ただでさえ素人の下手な絵ですし、一つひとつは子供の落書きの域を出ないようなものもたくさんあります。

ところが、Gianluca Gimini さん、この素人のナンセンスな自転車の絵をコンピュータグラフィックで現実に近い形で再現してみたのです。実にユニークな試みです。自転車の基本や現実を無視した絵ですが、なかには斬新なデザインに見えるものもあります。

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一見、あっているように見えるものもありますが、よく見るとチェーンステーやダウンチューブがなかったりなど、実際にはない形ばかりです。ハンドルが切れないものとか、構造的にナンセンスで、自転車として機能しないと思われるものも少なくありません。

描いた人は、7カ国の3歳から88歳です。そのうち自転車を左向きに描いた人が75%右向きに描いた人が25%だったそうです。チェーンは後輪につながっているのが当たり前ですが、前輪、または前と後ろの両方につなげて描いた人のうち、90%は女性だったと言います。

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一方、男性はチェーンこそ正しくつなぐ傾向があったものの、フレームを過度に難しく描く傾向があったそうです。いずれにせよ、本職の工業デザイナーには決して描けない自転車です。プロには、これほどバラエティに富んだ新型自転車は発明できないでしょう(笑)。

自転車のフレームを、機能や製造面での効率、設計上の合理性、強度や耐久性、シンプルさや軽量性、といった常識的な側面から描いていったら、決してこのようなデザインは生まれないのは間違いありません。全くのナンセンスで、実際には実現性ゼロのものも少なくありません。

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ただ、それだけに、なぜか斬新なデザインに見えてくるのが面白いところです。普通だったら、ありえない形の面白さもあります。しかし、もしかしたらこの中、あるいはこの中の形状の一部に、新しい自転車のデザインのヒントが埋もれていないとは言い切れないでしょう。

自転車の機能や性能、乗りやすさ、風の抵抗、疲れにくさなど、求められる要素からデザインをしていったら、理想的な形として、今あるようなスポーツバイクの形になっていくのは間違いないでしょう。しかし、それではみな似たようなデザインになってしまって、変わり映えしないのも事実です。

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乗車姿勢をアップライトにしたいとか、スピードは出なくていいとか、足つき性を良くしたいなど、個々の条件を外していけば、もっと自由度も上がるでしょう。最近は、製造技術も向上していますから、昔のように、必ずしも金属パイプを使う必要もありません、溶接で製造しなくても構いません。

これまで常識と考えられてきた自転車の形状でも、必ずしもこだわらなくていいものもあるに違いありません。そう考えれば、このような素人の、固定観念に囚われていないスケッチは、かえって今までにないデザインのヒントになる可能性を秘めていそうです。

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自転車に限らず、いろいろな製品、例えばクルマなどもそうだと思いますが、どのメーカーのモデルも、似たり寄ったりになってしまっている製品は少なくないでしょう。極端に言えば、ライトやフロントグリルの形状をいじるくらいしか、デザインの差別化の手段がなく、そのアイディアも出尽くしてしまっている感があります。

それがメーカーのイメージや高級感などにつながると言えばそうなのかも知れません。素人ですから、そのあたりは何とも言えません。ただ、商品としての面白み、驚き、新しさ、楽しさ、意外感、個性、思わず欲しくなる魅力などに欠ける要因となってはいないでしょうか。

最近の、特に若い世代のクルマ離れについては、いろいろな背景や要因があると思います。でも、もしかしたら、デザイン的な意外性や面白さ、ユニークさの欠如も災いしている可能性は否めないような気がします。常識に囚われない発想、子供のように自由奔放なデザインセンス、素人を使ってみるのも面白いかも知れません。




大きな地震が近い場所で繰り返し発生したり、震源域が広がるなど、これまでにない地震のようです。心配です。

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この記事へのコメント
こんにちは。いつも拝見しています。
ここで使われている画像ですが、左右が全て反転されているのは問題がないでしょうか?
Posted by 一介の自転車乗り at April 20, 2016 18:30
一介の自転車乗りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
全てではなく一部ですが、元になった素人の絵と、コンピュータグラフィックが左右逆になっているものについて、比較する上でわかりにくいため、便宜的に反転したものを使っています。
断りを入れたほうがよかったですね。ご指摘ありがとうございました。

Posted by cycleroad at April 20, 2016 23:18
 
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