June 06, 2016

共有型経済の波と行政の役割

世界でシェアリングエコノミーが広がっています。


前回、ウーバーを取り上げましたが、これはクルマでの移動をシェアしようというものでした。最近日本でも耳にする、エアビーアンドビー、いわゆる民泊ですが、自宅の空き室などを旅行者に提供することで、部屋をシェアしようというものです。どちらもシェアリングエコノミーの流れです。

Buzzbike自転車の分野にもあります。近年、世界的にも広がりを見せている自転車シェアリングです。都市部にたくさんの貸し出しステーションを設け、都市における移動手段としての自転車をシェアするものです。いまや世界500以上の都市に広がっていると言われています。

ここでも再三取り上げてきましたが、パリやロンドン、ニューヨークなどの世界的な大都市でも、大規模なものが展開されています。貸し出しや返却できる場所が数百箇所以上、台数も数万台という単位です。街角で借りて、目的地のすぐ近くで返せるために利便性が高く、多くの人が利用する交通手段となっています。

もちろん、自分の自転車で都市を移動する人もいます。しかし、自転車シェアリングならば、その都市への訪問者や観光客でも自転車が使えます。文字通りシェアするので、街に存在する自転車を有効活用することにもなり、放置自転車などを増やさないことにもつながります。

ロンドンにも、通称ボリスバイクと呼ばれる都市型の自転車シェアシステムがあります。ロンドンの前市長であるボリス・ジョンソン氏が、ロンドン・オリンピックに向けて行なった自転車革命の一つとして、世界的にも高く評価されたものであることは、何回も取り上げました。

Buzzbike

そのロンドンで、新しい自転車シェアリングサービスを立ち上げようという動きがあります。“Buzzbike”と名づけられた、この新しいサービス、なんと無料で自転車シェアリングを提供しようというものです。これは、今までの都市型の自転車シェアリングとは一線を画すスタイルです。

日本でも、時々「無料の貸し自転車」を始める自治体があります。突然思いついたように行なわれますが、ほぼ同じようなスタイルです。街に放置され、撤去されたママチャリの中で、一定期間、所有者が取りに来なかったものを、廃棄する代わりに無料で貸し出そうというものです。

通常、撤去移送して引き取り手のないママチャリは、費用をかけて処分しています。しかし、それを無料で貸し出して、市民や訪れた人に使ってもらえば、自転車を共有することになります。そうすれば放置自転車も減るだろうし、撤去・移送や処分費用も節約できて一石三鳥だと考えるわけです。

Buzzbike

これまでも幾多の自治体が導入し、サービス開始を喧伝するものの、私の知る限り、ことごとく失敗しています。最初こそ、ニュースになりますが、だいたいどこも1〜2年後くらいには、ひっそり人知れず姿を消しています。判で押したように同じパターンをたどっています。

そもそもが放置自転車です。多くは所有を放棄されるような格安のもの、メンテナンスも不十分で経年劣化の進んだものです。料金をとるようなものではないわけですが、無料ならば、利用者もぞんざいに扱います。無料だと管理にも費用をかけられず、整備も不十分、乗り心地もよくなく、評判も良くなるわけがありません。

同じところへ返却するのは面倒ですから、どこかに放置されたり、ゴミのように投棄されたりします。すぐに自転車が散逸してしまい、自治体職員や委託先の作業員が発見・回収するのに多額の費用がかかります。結局、そのコスト負担に耐えられなくなって廃止、あるいは自然消滅してしまうのです。

Buzzbike

思いついた自治体の職員は、名案を閃いたと思うのでしょうが、全くの浅知恵、浅はかと言わざるを得ません。そして、同じ過ちを、過去に多くの自治体が犯して失敗している事例が山ほどあるのに、全く調べないのか、学ぼうとしないのか、同じ轍を踏んでいます。

縦割り行政の弊害なのか、わかっていて市民向けをアピールするのか、予算消化なのか、天下り先の確保なのか、それとも単に無考えなのかはわかりません。しかし、これまでに再三、忘れた頃にまた同じような無料の貸し自転車を打ち出すところが出てきて、同じ過ちが繰り返されています。

つまり、無料の貸し自転車は成功しないのです。少なくとも、日本の自治体が引き取り手のない放置自転車を使ってやるものはそうでした。安かろう悪かろうの典型であり、どこかに投棄されるか、多少マシなものは、一人の人に占有されてしまうなどして、散逸して続かないのが常でした。

Buzzbike

しかし、この“Buzzbike”は違います。使う自転車は、日本のように格安粗悪なものではありません。ミニクーパーなどでも有名な会社がデザインし、ノーパンクタイヤを装備し、有名な、Brooks のサドルを使うなど、利用者の立場に立って、使い勝手や快適性が考えられています。

利用料金は無料ですが、100ポンド、およそ1万5千円くらいのデポジット、保証金を支払う必要があります。もちろん、会員登録もしますし、勝手に投棄したりされないようになっています。盗難に備えて保険にも加入しており、自転車が散逸して無くならないよう考慮されています。

利用料を無料に出来るのは、自転車の車体に広告を入れるからです。しかも、原則として自転車通勤など、毎日乗るような人に貸し出します。広告を出稿するスポンサーにとっては、それだけ露出度が高くなるわけで、広告媒体としての価値を上げることで、利用料を無料に出来るわけです。

Buzzbike

借りる人は、専用のアプリをスマートフォンにダウンロードして使うことを求められます。そのアプリと、提供する車体はブルートゥースで無線通信し、自転車がどのくらい移動しているかわかる仕組みになっています。借りている人でなく、自転車そのものが、どのくらい移動しているかわかるわけです。

もし、当初に定められたように使われておらず、あまり乗られていないようなら、返却・契約解除を求められることになります。単に占有されていても、実際に走っていなかったら、広告効果が上がらないことになるからです。このあたりは、IT技術で上手く管理されます。

一方で、利用者にとっては、無料で品質のいい自転車が使えるわけですから、これはメリットがあります。広告が入っているわけですが、それさえ割り切れば悪い話ではないでしょう。日本の自治体のやる粗悪な放置自転車を使ったものではないので、快適度が違います。

Buzzbike

広告を出稿するスポンサーにとっても、従来の交通広告、例えばバスの車体やタクシーの車内広告、バス停の看板などと比べて露出が高く、最近は自転車への注目が高まっていることや、公害を出さない良いイメージとも相まって、高い効果が期待できます。

これは、なかなか上手い仕組みと言えるのではないでしょうか。現在、“Crowdcube”というクラウドファンディングサイトで資金調達を目指しています。すでに、ロンドンではボリスバイクという従来型の成功した自転車シェアリングがあるにもかかわらず、十分共存していけると踏んでいるのです。

これまでの都市型自転車シェアリングは、自治体が主体となり、業者に管理を委託するなどの形が主でした。しかし、この“Buzzbike”は広告を使ったビジネスモデルで、ウーバーやエアビーアンドビーのような、新しいシェアリングビジネスのスタイルを生み出そうとしているのです。

Buzzbike

クルマの乗り合いやタクシーの配車、レンタカー、民泊、もしくは民宿のようなサービス、貸し自転車などは、昔からある形態であり、特に珍しいサービスではありません。しかし、それにIT技術を加えることで、新しいシェアリングビジネスにしていこうという流れが起きています。

民間によるシェアリングサービス、シェアリングエコノミーの波は、日本にも確実に押し寄せてきています。日本の政府や自治体は、その邪魔をせず、イノベーションを阻害することのないよう規制改革を進め、そして、下手なことはしないで、道路整備など公共にしか出来ない部分に徹したほうが賢明だと思います。




信なくば立たず、違法か否かではなく政治家たる資格が問われているわけであり、見苦しいの一言に尽きます。

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