September 01, 2016

今後の都市では住宅も変わる

都市に対する考え方が変化してきています。


モータリゼーションでクルマが爆発的に増えた時代には、都市もクルマでの移動を中心に改造され、道路が拡幅され、歩行者などは隅に追いやられました。クルマを使って生活し、クルマの利便性、恩恵を十分に受けられるようにするのが当然のようになりました。

効率を重視し、それが経済的にも寄与し、都市化や経済成長を支えてきたのは確かでしょう。しかし、そのことは同時に厄災ももたらしました。大気汚染やなどの公害によって、人々の健康を損ない、交通事故の増加によって、多くの人命が失われるようになりました。

都市部の道路は渋滞し、路上へは違反駐車があふれ、移動効率は悪くなっています。その解消のために、道路を拡幅しても、すぐに交通量が増えて元の木阿弥です。都市での仕事や生活の中で、交通事故は大きなリスク要因であり、渋滞は市民生活のストレスとなり、大きな経済損失となっています。

Cykelhuset OhboyCykelhuset Ohboy

モータリゼーションと共に変化してきた都市の歪み、そして、それに対する市民の懐疑は、世界的に見られる傾向です。もちろん、都市によって地形や周辺環境、歴史的な経緯ほか、個々の事情によって、違う部分もありますが、クルマ中心の都市に対する疑問、反省、転換が見られ始めていると言えるでしょう。

世界では、都市の中心部へのクルマの流入を抑制し、車線を制限するような都市も出てきました。代わりに、自転車レーンを整備したり、歩行者専用の道路を増やしています。市民が安心して歩いて生活し、都市を楽しむことが出来るようにするという方向にシフトしてきたところも見られます。

特に地球環境への負荷の軽減、温暖化ガスの削減といった観点から、クルマ利用の反省、抑制に共感が増しているヨーロッパでは、都市でのクルマでの移動を極力減らし、なるべく自転車などを使おうという考え方は、きわめてポピュラーになりつつあります。

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自転車先進都市と言われるような街だけでなく、パリやロンドンのような大都市でも、大規模な自転車シェアリングシステムが整備され、自転車レーンなどのインフラ整備が進んでいます。渋滞するクルマより速いこともあって、市民も自転車での移動を増やしています。

このような傾向は、一時の流行ではなく、時代のトレンドと考える人も増えてきました。もちろん、物流など、クルマが必要な部分は依然としてありますし、クルマが全く不要になるわけではありません。しかし、少なくとも都市部では、さまざまな観点から、クルマ中心の弊害が意識されつつあります。

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都市での生活スタイルが変われば、住居も変わっていくはずです。北欧・スウェーデンのマルメという街では、これからの生活スタイルを先取りした共同住宅が建設されています。革新的なコンセプトと環境への配慮を前面に打ち出した、自転車にフレンドリーな集合住宅です。

まず、自家用のクルマの駐車場の代わりに、各世帯に十分な量の駐輪スペースが用意されています。自転車を洗ったり、メンテナンスをするスペース、電動アシスト自転車を充電する装置も設けられています。さらに、建物には、自転車がラクラク載せられるような大型のエレベーターが設置されています。

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各戸へ通じる通路の幅も広く取られ、住戸の前に自転車をとめられるスペースがあります。エレベーターを使って、各住戸の前までアクセスできるわけです。それだけではありません。各戸の入り口の間口が大きく取られており、カーゴバイクのような大型の自転車でも、そのまま室内に入ることが可能になっています。

室内保管が容易なだけでなく、買い物の荷物をカーゴバイクに載せたまま、部屋の中まで持ってこられるわけです。これは、なかなか便利なのではないでしょうか。自転車の使い方や保管は、人によって違うでしょうが、それぞれのスタイルに対応し、なるべく利便性が高まるように設計されています。

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駐車場はありません。でも、クルマを使いたい場合もあるでしょう。そのため、カーシェアリングへのアクセスが容易になるように配慮されています。クルマは所有からシェアに変わっていくことを見越しているわけです。そのぶん、自転車での来客があっても、十分に駐輪できるスペースがあります。

さらに、ここはサイクリスト向けのホテルが隣接しています。自転車での旅行者だけでなく、通常の観光客も、これからは街に滞在して、自転車を使って周遊する人が増えると目されています。ホテルの宿泊者向けのサービスステーションには、自転車シェアリングサービスも用意されています。

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このシェアリングは、集合住宅の住民も利用できるようになっており、必要に応じて、折り畳み自転車とか、カーゴバイクなど、違う自転車を借りて使うことも可能にしているのです。あらゆる場面を想定して、自転車を使いやすくし、それによって生活しやすくすることが考えられています。

自転車関係以外の部分についても、部屋の間取りが工夫されていたり、ガーデニングを楽しむ住民のためには自動の灌漑設備があったりするなど、魅力的な特徴や設備が用意されています。建物の内装には、地元産の木材をふんだんに使うといった、環境面にも配慮した設計になっています。

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2017年早々にも入居が始まる予定ですが、これは、なかなか魅力的ではないでしょうか。カーゴバイクで室内にまで入れなくていいと考える人も多いと思いますが、そのことは同時に、車イスの利用が容易であることを示しています。加齢やアクシデントなどにより、車イスでの移動が必要になる可能性は十分あります。

ふだん、なかなかその可能性は考えません。しかし、いざ利用するとなると、入り口が一段高くなっているだけで、出入りが困難になります。カーゴバイクで買い物の荷物が運べて便利なだけでなく、車イスで移動することになっても、移動が非常に便利なのです。

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日本の住宅地でも、郊外型の大型商業施設の利用が中心で、クルマの利用が前提になっているところも少なくありません。そのため、高齢化などでクルマを使えなくなると、著しく不便になる例も見られます。いわゆる買い物難民や、医療機関に通うのが困難になったり、公共の住民サービスを受けられない人も出ています。

クルマでの移動を前提に市街地が拡大したため、基本的な生活インフラの整備が必要な面積が広がり、自治体の財政を圧迫するようもなっています。人口が流出する自治体では、財政の健全性が損なわれるばかりか、将来にわたっての持続性が懸念される状態です。

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その対策として、コンパクトシティ、街の中心街へ住居や必要な施設を集中させようという考え方が広がっています。その場合でも、このような住居は参考になるのではないでしょうか。徒歩や自転車で、十分に生活できる都市には、バリアフリーも含めて、こうした住居のニーズは高まっていくと思われます。

コンパクトシティ以外でも、中心部へのクルマの流入を抑制し、歩いて安心して生活できる街、交通事故や渋滞の少ない街が求められていく可能性があります。住民が高齢化すれば、クルマの利用は困難になります。自転車があれば、移動や買い物なども十分に足りる街、それに適した住居が必要とされていくのではないでしょうか。



日本では、自転車にフレンドリーな住宅という観点はなく、あっても、ごく一部にマニア向けのものがあるだけです。まだまだ都市の自転車インフラは貧弱ですし、自転車に対する考え方もヨーロッパとは違います。しかし、自転車を多くの人が利用し、生活に密着しているのも確かです。

高齢者の運転の問題もありますし、カーシェアなど、クルマを所有しないスタイルが、少なくとも都市部では広がっていく可能性は高いと思われます。住宅のバリアフリーということも意識されはじめています。そう考えると、自転車にフレンドリーな住宅は、日本でも注目すべきスタイルと言えるのではないでしょうか。




台風十号の被害が明らかになりつつあります。これまでない被害を想像する困難さが災いしたのは否めません。

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この記事へのコメント
こんにちは、トシカズと申します。
さすがスウェーデン、国自体の考え方が違うのですね。
日本も見習わなくてはいけませんね。応援していきます。
Posted by トシカズ at September 05, 2016 05:24
トシカズさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
スウェーデンは、福祉政策だけでなく、環境や自転車の活用の面でも参考になる点がありそうですね。
Posted by cycleroad at September 06, 2016 23:35
 
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