October 16, 2016

連鎖を断ち切るための自転車

一台の自転車が話題になっています。


その自転車は、ヨルダン川西岸にあるヘブロンという都市に住む、Anwar Burqan ちゃんという8歳のパレスチナ人の少女に贈られた真新しいピンク色の自転車です。贈ったのは、Sami Jolles さんというイスラエル人です。イスラエルの新聞、“The Times of Israel”などが報じています。

最近でこそシリアの内戦やISの動向などに注目が集まっており、相対的にパレスチナ問題から世界の目がそれている面はありますが、イスラエルとパレスチナの和平交渉は全く進展しておらず、イスラエル軍とハマスなどのイスラム原理主義組織との間では断続的に武力衝突が繰り返されています。

HebronPhoto by CPT-Hebron,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.
(左:ヘブロン市街。右:ヘブロンの旧市街で子供に銃を向けるイスラエル国防軍兵士、Photo by CPT-Hebron,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.)

何しろ、4千年もの昔に端を発した土地の領有権や宗教、聖地の帰属などを巡って対立してきたイスラエルとパレスチナです。二つの市民の間の憎しみの連鎖や感情的な軋轢は深く、好転する兆しは見えません。ヨルダン川西岸地区の中でもフェンスで隔てられ、パレスチナ人居住区とイスラエルの入植地は分断されています。

昨年秋以降は、パレスチナ人がイスラエルの治安当局を襲撃する事件が相次いでいます。テロなどを警戒して、両地区の境界を警戒する警察が、神経を尖らせるのも当然の成り行きでしょう。そんな中で、ちょっとした事件が起きました。その時の動画が残っています。

Hebron, July 2016Hebron, July 2016

自転車に乗っていた、Burqan ちゃんに境界をパトロールしていた警察の2人の隊員が近づき、自転車を取り上げました。泣き叫ぶ少女に構わず、彼女の自転車は壊され、藪の中に投棄されました。警察の隊員は、イスラエルの入植地に侵入させないための措置だったとしています。

わずか8歳の少女にする仕打ちとしては酷な気がしますが、それは現地の情勢を知らず、平和な日本に住む者の感覚なのでしょう。自分の身内や友人を砲撃やテロなどによって失っている人も多く、長年の怨讐も積み重なっています。少女でも油断できないという意識もあるに違いありません。



この事件を新聞で読んだのが、イスラエル人の、Sami Jolles さんです。警察のしたことは別として、悲しんで困っているであろう少女を助けたいと思ったのです。知人を通してイスラエル人平和活動家に連絡をとり、さらにその人を通して、パレスチナの活動家に連絡をとってもらいました。

その活動家によって、新しい自転車が、Burqan ちゃんに届けられました。家族によれば、事件によって、前の自転車はひどく損傷を受け、もはや使えない状態だったそうです。彼女は内気な女の子ですが、とても喜んでおり、その目は輝いたと言います。思わぬプレゼントをもらって、さぞかし嬉しかったことでしょう。

Palestinian girl

自転車を贈った、Sami Jolles さんは、もし壊されたのが自転車ではなく、例えばオーブンだったら新しいオーブンを買うことはしなかっただろうと話しています。壊されたのが自転車であったことが、彼にこのような行動をとらせたのだと言います。

実は、Sami Jolles さんの父親は、1920年頃にヨーロッパに住んでいました。その当時、ユダヤ人である彼の父親は、反ユダヤ主義者の嫌がらせを受けていたのです。自転車を取り上げられ、川に捨てられてしまった経験があり、それを、Sami Jolles さんに何度も話していたと言います。

Palestinian girl

そんな父親の話、父親の思いが記憶にあった、Sami Jolles さんだからこそ、この話を知って自転車を贈りたいと考えたのです。およそ100年の時を超えて、憎しみの連鎖を断ち切りたいと思ったのです。彼の父親は、彼のことを誇りに思ってくれると思うと話しています。

第一次大戦後のヨーロッパです。まだナチスドイツによる迫害より前の時代ですが、それでも、いろいろと嫌な思いをしたのだろうと思います。その中でも自転車を取り上げられたことを何度も話していたのは、それだけ心に残る、悔しく、屈辱的な出来事だったのでしょう。

Palestinian girl

それだけでなく、当時の貴重な移動手段としての自転車を取り上げられ、破棄されてしまったことで、いろいろと困ったのかも知れません。今とは違い、仕事に行く手段を失うことになるなど、大きな困難に直面した可能性もあります。今の自転車とは、事情が違います。

一方の、Burqan ちゃんは、それまで乗っていた自転車がそうだったように、新しい自転車も、彼女の9人の兄弟と共有して大切に乗ると話したそうです。Burqan ちゃんの一家も、多くのパレスチナ人の家族と同様、とても苦しい状況に置かれているのです。

Palestinian girl

Burqan ちゃんの父親は、事故で足を切断し、働くことが出来なくなり、慈善の寄付などを頼って生活しています。兄弟たちは、父親の車イスを買うお金を集めたいと願っています。収入の途絶えたパレスチナ人家庭の貧しい兄弟たちにとって、自転車は重要な移動や輸送の手段となるに違いありません。

そして何より、イスラエル人からパレスチナ人に贈られたというのは、象徴的な意味があります。20世紀初頭に迫害されたユダヤ人の息子が、苦境におかれているパレスチナ人に対して示した思いやりであり、助けたいという気持ちであり、憎しみの連鎖を断ち切りたいという意思です。

HebronHebron

そう考えると、警察によって自転車を壊されてしまった少女に、親切な人が新しい自転車をプレゼントしたという、単なるいい話以上の重みがあります。現地では大きく報じられています。小さな出来事に過ぎませんが、将来の和平に向け、人々の気持ちの変化を促すような希望の一歩となってほしいものです。




エジプトのギザの大ピラミッドに、新たに2つ空洞がある可能性が判明しました。中に何があるのか気になります。

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