November 24, 2016

希望をもたらすための使い方

自転車には、いろいろな用途があります。


移動や運搬の手段としてはもちろん、スポーツやトレーニング、レジャーといった用途にも使われます。中には、店舗として使ったり、看板などを取り付けて巡回させ広告メディアとして使うようなケースもあります。しかし、自転車の使い道は、それだけではありません。

こちら、“CERO e-tricycle”は、リハビリに使われる、いわば医療用の自転車です。見たところ、リカンベント・スタイルに近いトライク(3輪車)で、よくある形にも見えます。でもこれは身体の機能回復のためを考えて設計された自転車で、単なるトライクではありません。

CERO e-tricycleCERO e-tricycle

何らかの理由によって、手足が不自由になる場合があります。例えば脊髄損傷であったり、多発性硬化症であったり、脳梗塞などの後遺症による脳損傷といった理由です。そうした場合、急性期の治療を終えた後、例えば片半身が自由に動かせないといった後遺症がある場合は、リハビリに入るケースが多いと思います。

症状によっては歩行が困難であり、掴まって立ち上がるのも難しいかも知れません。そうなると車椅子を押してもらっての移動を強いられるでしょうし、自転車に乗るなんて論外でしょう。しかし、そんな状態の時にこそ使う、リハビリのための電動アシスト付きトライクなのです。

動く片方の足だけを使って移動するためのものではありません。障害が残ってしまった人のための自転車とは違います。もちろん、そうした用途にも使えますが、足腰の弱ったお年寄り用や、障碍者用というのではなく、リハビリ目的で、その効果を上げることを考えて設計されています。

片半身の自由がきかず、歩行はもちろん、独立して立つこと自体も困難な人に、いきなり自転車に乗れというのも酷な気がします。しかし、実はそうでもないようです。むしろ、歩行は困難でも、座って足を投げ出すような姿勢で乗れるので、歩くより容易であり、動かせる方の足を使って移動することが出来ます。

そして、動かせる方の足を使ってペダルをこぐと、動かない方の足も同時に動かされることになります。これが、リハビリの目的に有効ということが、最近の研究でわかってきているのです。日本でも、その効果を利用してリハビリが行える、足漕ぎ式の車イスというのも開発されています。

CERO e-tricycleCERO e-tricycleCERO e-tricycle

以前、そのような新しい理論を取り入れたリハビリの様子をテレビで見たことがあります。最近のリハビリでは、動かない足の機能回復に、原始歩行の原理を使うことが注目されています。通常、足が動かないのは、脳から足への神経を通した指令が届かないことが原因です。

神経経路が断裂してしまっていたり、脳の該当部位が損傷しているような場合、いくら足を動かそうと思っても動きません。そのような状態であれば、元のように足を動かすのは無理と思われてきました。ところが、最近の研究では、必ずしもそうとは限らないことが明らかになってきました。

原始歩行というのは、原始反射とか新生児反射と呼ばれるものの一つで、脊髄や脳幹にある反射中枢による赤ちゃんの反応です。新生児を抱いて、床に足をつけてやると、まだ歩いたこともないのに、左右交互に足を出すような仕草を見せます。これが原始歩行です。

この、生まれてまだ歩くことも出来ない赤ん坊に現われる反射から、人間は反射的に左右の足を出す機能を持っていることがわかります。ほかにも、把握反射、吸てつ反射、モロー反射、ルーティング反射などの新生児反射があります。成人だと、ヒザの下を叩くと膝関節が伸びる膝蓋腱反射が有名ですが、それと同じ反射です。

ただ、原始歩行は生まれた直後からみられますが、2か月前後で消えてしまう反射です。この原始歩行によってペダルを回しているわけではありません。でも、歩行のために、左右交互に足を出すという動きは、人間の原始的な部分に備わっているらしいことは想像できます。

CERO e-tricycleCERO e-tricycle

自転車に乗るとき、自転車に初めて乗った子供ならいざ知らず、常に右、左、右などと考えながら足を動かしている人はいません。べダルによって、自然と左右の足が交互に上下するようになっていることもありますが、いちいち、どちらの足に力を入れようと考えなくても自然に足が動いています。

ペダリングに限らず、歩くにせよ、走るにせよ、いちいち出す足を考えていたら大変です。こうした基本的な動作は、何も考えなくても身体が動くようになっています。動物でも同じだと思いますが、考えて足を出していたら、速く走ることは出来ないでしょうし、速くなったら足がもつれて倒れてしまうに違いありません。

一度乗れるようになると、例え何十年も乗らなくても自転車に乗れるのは、身体が覚えているからと言われます。こうした「身体が覚える」運動や動作は小脳の働きと言われていますが、歩行のような基本的な動きは、さらにもっと根幹的な部分が関与していると考えられるのだそうです。

ペダルを使ったリハビリによって、そうした根幹部分に働きかける効果が期待できることがわかってきました。つまり、通常のリハビリで、一生懸命動かそうと頭で思って動かすのではなく、考えてなくても自然と足が動く状態を、少しでも再現させようということのようです。

通常、動かない足には、筋肉を動かせという脳からの指令は届きません。当然、筋電図にも反応は現われません。ところがペダルをこぐと、単に動かないほうの足も動かされるだけでなく、少しずつ力が入り、筋電図にも反応が現われると言います。どこからか指令が来ていることになります。

これは、脳よりも手前、脊髄に歩行するためのパターンを生み出す部分があるからではないかと見られています。脊髄内に歩行パターンを生み出すような神経の回路が存在しているという見方です。この回路が歩行にどれだけ関与しているかは専門家でも意見がわかれており、まだ解明されていない部分です。

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しかし、現実に理学療法士や患者自身が驚くような成果が出ているケースがあります。脳からの指令以外に、何らかの仕組みがあるだろうことは、私たちが何も考えずにいてもペダルをこげるという実体験からも類推できます。また、原始歩行なども、その存在を示唆しています。

実際に、動かないほうの足の筋電図にも、動かせという指令が届いているような反応が現れると言います。ほかにも、動かないほうの足を動かしてやることで、筋肉のこわばりがほぐれたり、血行が良くなったり、左右で差がついてしまった筋肉のバランスを戻したり、といった効果もあります。

通常、麻痺が起きてから、ある一定の期間を過ぎると、リハビリの効果、機能の回復は頭打ちになると言われています。しかし、こうしたペダルによるリハビリは、通常のリハビリの効果が頭打ちになった後に使用しても、めざましい効果が得られる場合があるというから驚きです。

さらに、従来のリハビリのように辛くないことも長所と言えるでしょう。座ってペダルをこぐだけなので、辛いどころか楽しい、ずっと乗っていたいと話す人もいるそうです。少し移動するにも、もどかしい思いだったのが、ラクに速く移動できるという点も嬉しい部分に違いありません。

このトライクでリハビリしたことで、歩行も可能になるかはわかりません。座ってペダルをこぐのと、左右のバランスをとって立って歩行するのとでは、やはり違いがあります。しかし、動かない足が動いて、自分の足で移動できるようになるとするならば、それは大きな福音となるに違いありません。

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今まで述べてきたことは、私がたまたま、リハビリ用の足こぎ式の車イスについて持っていた知識を元に書いたものです。この“CERO e-tricycle”について、そこまで詳しく触れられているわけではありません。ただ、脊髄損傷や多発性硬化症、脳損傷等のためのリハビリに使えるとなっています。

医療関係者ではなく、工業デザイナーによるものなので、リハビリ専用機器というわけではありませんが、多かれ少なかれ、そうした効果を念頭においているものと思われます。少なくとも、上記のような効果が期待できる電動アシストトライクということになると思います。

サドルではなく、座席や専用のペダルが装備され、席の高さや背もたれの高さ、角度やクランクの位置など、すべて細かく調節可能です。体格の違う一人ひとりに応じ、最適の姿勢にセットできます。必要に応じて、電動アシストや速度のレベルも調整できるようになっています。

日本では、法改正によって、入院の日数が制限されるなどした結果、リハビリが続けられなくなり、せっかく改善しつつあった身体機能が退歩してしまう人も出る、いわゆる「リハビリ難民」が問題となっています。しかし、これなら自分で続けられるという点、普段の移動にも使えるという点でも注目すべきではないでしょうか。

リハビリといった時、普通はまず手すりにつかまって立ち上がり、歩行し、車イスを使ったりと考えます。いきなり自転車なんて考えもしないでしょう。しかし、自転車は移動や運搬といった一般的な用途だけでなく、リハビリにも有効だということは、知っておいてもいいかも知れません。




東京都心で54年ぶりの11月の初雪、明治8年の統計開始以降初の積雪です。明朝、凍らないといいのですが。

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