January 05, 2017

集まって走れば何かが変わる

デトロイトは、アメリカ・ミシガン州にある都市です。


Photo by Shakil Mustafa,under the GNU Free License.アメリカ中西部有数の大都市であり、州都ではありませんが、ミシガン州最大の都市です。かつてはビッグ3と呼ばれた、GM、フォード、クライスラーという世界的なクルマメーカーが本拠地としていたモーターシティ、クルマの都市としても有名です。

しかし、その後多くの製造拠点が海外に移り、リーマンショックでGMやクライスラーは破たん、税収の激減したデトロイト市は破産し、全米で最悪の負債を抱える都市となりました。失業率や貧困率も悪化、犯罪発生率は全米で最悪、世界でも十指に入る治安の悪い都市と言われています。

2016年のアメリカ大統領選を制したドナルド・トランプ氏は、米国の製造業を復活させると公約して勝利しました。斜陽化するアメリカの製造業を象徴するのが、ラストベルト、さびついた工業地帯と呼ばれる地域ですが、デトロイトは、ラストベルトを代表するような都市でもあります。

さて、そんなデトロイトに住む、Jason Hall さんと Mike MacKool さんという2人の自転車乗りが始めたのが、“Slow Roll”です。2010年、毎週月曜日の夜に友人と集まって、自転車に乗ったのが始まりです。それが今では、少ない時でも2千人が集まるライドイベントとなりました。

DetroitDetroit

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ミシガン州最大規模を誇る、自転車クラブでもあります。ただ、クラブと言っても厳格な資格があるような会員組織ではありません。自転車に乗る人であれば、誰でもメンバーになれ、参加できます。何かの理由でメンバーになるのを断られることはありません。

年齢や性別、人種や宗教、国籍や思想信条などを問わず、誰でも歓迎なのが“Slow Roll”です。一緒に隣を走っているのは大富豪かも知れませんし、ホームレスかも知れません。どんな人かは全く関係ありません。実際に、さまざまな人が大勢集まって、毎週自転車に乗っています。

DetroitDetroit

ただ、何千人も集まるようになったので、安全のために多少の決まり事はあります。“Slow Roll”、ゆっくり走るのがコンセプトです。どんな自転車でもOKですが、集団の中でトリックをしたり、ジャンプをするなど、技を誇示するような乗り方は禁止です。周囲の一緒に走っている人を危険にする恐れがあるからです。

交通ルールを守ることや、危険がないようにメンテナンスをしておく、ゴミを捨てない、周囲に気を付け必要な場合は合図をするといった最低限のマナーも求められます。これだけの規模で一緒に走るわけですから、最低限守るべきルールが出来るのは仕方のないところでしょう。

Slow Roll

Slow Roll

特に決まった目的があるわけではありません。自転車に乗るのは、例えば笑うのと一緒で普遍的なものと考えており、楽しくサイクリングするのが目的です。地域の人が大勢集まりますから、自然と知りあったり、友達を作ったり、楽しむ場になるでしょう。言ってみれば、みんなで集まるのが目的です。

中には改造したオリジナルの自転車で参加する人もいますし、音楽を鳴らしながら走る人もいます。それぞれがそれぞれのスタイルで楽しんでいます。そして同時に、デトロイト都市圏に住む人たち、地域のコミュニティーとなっています。治安的に、一人では怖いような場所でも大勢なら問題ありません。



始めた二人も、最初は友人たちと自転車に乗っているだけでした。だんだん人数が増えてきて、荒廃したデトロイトの現状を、何か変えるものになればいいなとは思いましたが、特にそのために組織しようと考えたわけではありません。でも、それが逆に参加者がどんどん増えていった理由かも知れません。

結果として多くの人が集まるライドイベントとなり、地域のコミュニティーとなっています。デトロイトの街を自転車で走ることで、新たなデトロイトを発見する機会にもなっています。多くの人とつながりが出来、ポジティブな雰囲気が生まれてきています。

Slow Roll

Slow Roll

もちろん、社会活動をしたり、何かの使命を帯びた組織というわけではありません。デトロイト都市圏という共通項で、ゆるくつながっていますが、参加する人はそれぞれです。乗っている自転車のタイプも違えば、人種や考え方から、参加する理由までさまざまです。

参加者の中には、こうしたコミュニティが、何かデトロイトを変えるきっかけになるかも知れないと感じている人もいるようです。みんなで集まって、自転車に乗って、楽しんで、友達になっているだけですが、その中から連帯感や、ポジティブな気持ち、何かを変える力が生まれてくる可能性を感じているようです。



デトロイトだからと言ってクルマではなく、自転車というところもポイントかも知れません。自転車なら参加者間の距離も近いですし、目と目を合わせ、会話をし、顔見知りになれます。クルマだったら、そういったコミュニケーションは難しく、渋滞が起きて、数千人規模で移動するのは困難でしょう。

ちなみに、この“Slow Roll”、デトロイトだけでなく、全米の他の都市にも広がっています。みんなで集まって、ゆっくり走る。言ってみれば、それだけです。自転車に乗るのは、例えば笑うのと一緒で普遍的なもの、楽しくサイクリングしようというスタンスです。

Slow Roll

Slow Roll

なかなか興味深いムーブメントです。何か社会的な目的とか、理念を掲げて集めようとすると難しいですが、意図せず、自然体でいると、大きなコミュニティに発展するのかも知れません。何かの同好の集まりというのは、たくさんあると思いますが、それが自転車ライドだからこそ生まれるものもありそうです。

どこか公民館の一室に集まるのとは違い、市街の各所を巡ります。街の新しい発見もあるでしょうし、沿道の人たちにも見えます。デトロイトでは、この“Slow Roll”の参加者だけでなく、一般の市民が家から出てきて一緒に写真を撮ったりするなど、さまざまな広がりが出てきているようです。



鬱屈して退廃的で、沈んだ雰囲気だった街を、部分的にですが活性化したり、より人間的な雰囲気にしているという指摘もあります。もちろん、参加者の中にも、住民の間にもいろいろな見方があるでしょう。単に楽しいから参加しているだけの人も多いに違いありません。

ただ、毎週一緒に自転車に乗るというだけの集まりが、地域の友だちを作り、コミュニティを生み、拡大し、その中から何かが生まれる可能性があります。これがデトロイトを変えていくのかどうかはわかりません。しかし、何らかの化学反応を起こすベースになる可能性は秘めているような気がします。




もう2週間もすれば、トランプ新大統領の誕生です。世界経済や安全保障など大きな変化が起こるのでしょうか。

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