March 24, 2017

勘違いを招きかねないお願い

ドライバーは安全に運転をする義務があります。


クルマに限らず自転車もそうですが、道路交通法第七十条には、『車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。』と書かれています。

愛媛県前回、自転車の横をクルマで追い抜く際に安全な間隔(1・5メートル)を取るようドライバーに呼びかける「思いやり1.5m運動」を愛媛県が展開していることを取り上げました。それ以前にも何度か取り上げましたが、これが伊豆半島でも採用されるなど、広がりを見せつつあるという話でした。

その中で、「あまりに近くを通って、万一事故になれば、ドライバーは責任を免れないわけですから、安全に配慮するのは当たり前の行動です。少なくとも交通先進国ではそう考えます。」と書きました。安全に側方を通過することも法律上の義務なのですから、欧米だけでなく日本でも当然のことであるわけです。

現実には、必ずしもそれが守られていない状況があるのは確かです。それを考えれば、大いに意味のある啓発活動だと言えます。ただ、それを、「思いやり」という形で表現すること、言ってみれば上から目線になっていることが、気にならないでもないと書きました。

では、諸外国ではどうなっているのでしょう。ここでは、イギリスの事例を取り上げてみたいと思います。イギリスに、バーミンガム市などを含むウェスト・ミッドランズ州というところがあります。そこを管轄するウェスト・ミッドランズ警察は、昨年9月、ある取締りを開始しました。

まず警察官が、制服でなく普通の服を着て、自転車に乗って道路を走行します。それを追い抜いていくクルマやトラックなどが1.5m以上の間隔をあけずに危険だと判断された場合、前方で別の警察官が停止させるというものです。停止させ、注意を与えたり、場合によっては法律違反として訴追します。

West Midlands PoliceWest Midlands Police

ちなみに、愛媛の運動でもそうですが、世界的に見ても、側方間隔は1.5m前後とされることが多いようです。一部、条文で距離を定めている国や地域もありますが、日本も含め、具体的に定められていない場合には、解釈上、あるいは慣習的に1.5mが採用されるケースが多くなっています。

イギリスでは、自転車にもクルマと同程度の走行スペースを与えるべきという考え方がベースにあります。道路の左端から、75cm程度は離れる必要があります。自転車の右側と併せ、クルマの幅と同じくらいのスペースと考えて、側方間隔を1.5m程度とらせるという考え方のようです。

West Midlands Police

実際には、イギリスでも安全な間隔をあけずに追い抜くドライバーが少なくありません。そこで取締りとなったわけですが、必ずしも安全に配慮しない悪質なドライバーばかりとは限りません。安全と考える間隔にバラつきがあったり、その目測に、人によってバラつきがあるのも確かでしょう。

つまり、安全な間隔と思っていても、あるいは1.5m程度と知っていても、ドライバー目線からの目測と、実際の間隔との乖離が大きい人もあったはずです。そこで、ただ単に口頭で注意するだけでなく、その場で1.5m程度の側方間隔がどの程度のものなのか示そうと考えました。

matmat

そのために、ウェスト・ミッドランズ警察では、写真のようなマットを使いました。取締りで停止させた車両を脇道などに誘導し、尋問や注意を与えます。その際に、このマットで具体的な幅を示し、それだけの幅を確保していなかったことを明確に認識させたわけです。

このマットを使えば、1.5mの側方間隔は一目瞭然です。自分があけていた間隔が、意外に狭かったことに気づいた人もいたはずです。言葉で1.5mと言うより、具体的にイメージさせれば、次から追い越す際の間隔を確実に広げさせる効果も期待できるでしょう。

West Midlands Police

この取締りは効果を発揮し、地域での危険な側方通過をするドライバーの減少に大いに貢献したと言います。もちろん、取締りによって、地域のドライバーが側方通過について気をつけるようになったのでしょう。さらに、この取締りの際の工夫が、大きな効果を上げたとされています。

ちなみに、この1.5mのマットを、イギリスのサイクリスト団体が、イギリス全土の他の警察にも使ってもらうために製作しています。そのための資金を、一人10ポンド以上としてネットで寄付を募ったところ、多くのサイクリストが応じ、あっという間に目標額に達したようです。

Cycling UKWest Midlands Police

ウェスト・ミッドランズ警察が、事故の増加やサイクリストの安全が脅かされていることを憂慮し、このような取り組みを行ったことはイギリスでも高く評価されています。単なる口頭の注意にとどまらず、マットを使って実感させ、側方間隔を広げさせた工夫も素晴らしいと思います。

日本のように、ポスターなどで啓発するというような迂遠な方法ではありません。私服の警察官を走らせ、違反するドライバーを停止させ、場合によって検挙するという直接的な方法です。追越しの際の側方間隔という見逃されがちな部分について、取締りをしていることに注目すべきでしょう。

West Midlands PoliceWest Midlands Police

これを見ると、愛媛の「思いやり1.5m運動」が生ぬるく、色あせて見えてしまうのも確かです。決して愛媛の取り組みを揶揄するものではありませんが、安全な側方間隔をとらせるためには、やはり、取締りなど直接的な方法のほうが効果的なのは明らかです。

そもそも、安全な側方間隔をとるのは、思いやりではなく、法律上の義務です。日本では、この根本的な部分が曖昧になっています。クルマのドライバーの思いやりに頼る、お願いするというスタンスは間違いでしょう。そして、その根底には、車道ではクルマ優先という考え方、思い込みがあるのではないでしょうか。

例えば、前方に制限速度を守って走っているクルマがあるとします。前方が詰まっていないのに遅いと、イライラして追い越す人もあるでしょう。追い越すのは勝手ですが、そのクルマにも法定速度の範囲で走る権利があります。それを邪魔だとか、走るな、などと考えるのは筋違いでしょう。



自転車も車道走行が本来の姿です。自転車にも車道を走行する権利があり、原則車道走行する義務があります。それを、自転車に対しては、遅くて邪魔だとか、車道を走るな、などと考えるドライバーが少なくありません。これは、よく考えるとクルマが優先だという思い込みであり、勘違いしていると言わざるを得ません。

道路上での弱者保護も法律で定められています。自転車についても追い抜くのは勝手ですが、自転車が邪魔だとするのは筋違いでしょう。そして、追い抜く際には、安全な方法、安全な側方間隔をとって追い抜く義務があります。それは他人に危害を及ぼさないため、法律に定められた安全運転の義務であるわけです。

現状の日本において、ドライバーの思いやりを喚起する、啓発を行うという手法を否定するつもりはありません。しかし、それはクルマのドライバーのクルマが優先なんだという間違った思い込みを助長し、思いやりではなく、安全に運転する義務があるということを忘れさせる、勘違いさせる面もあるのではないでしょうか。




証人喚問が大きな注目を集め、報道は森友学園の問題で持ち切りですが、真相はますます謎という感じですね。

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この記事へのコメント
これ日本でも徹底してほしいですね。
免許持ちは教習所で、歩道のない道路で歩行者や二輪車を追い抜く際に1m以上開けるようにと学んだはず。(法的には『安全な距離』となってるだけだがほとんどの教習所で1m以上を推奨していたと記憶)

ただ問題は自転車通行可の歩道で自転車が歩行者を追い越す、あるいはすり抜ける場合です。大阪市内だと平気で20cmも開けずにすり抜けていくヤカラが老若男女問わずわんさかいます。歩行者が気づかずに欠伸でもしようものなら余裕でウェスタンラリアート喰らう距離です。歩行者のみならず自転車乗りの安全のためにも充分な間合いを維持してほしいものです。
Posted by ドライバーであり、ライダーでもありサイクリストでも歩行者でもある人。 at March 28, 2017 04:36
ドライバーであり、ライダーでもありサイクリストでも歩行者でもある人。さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
やはり、自転車を歩道走行させること自体が間違いと言わざるを得ないでしょう。歩行者と自転車の事故も多発しています。
警察に報告されない小さなトラブルも含めれば相当の数になるはずです。
歩道で1メートル間隔をあけて追い抜くのは難しいことも多いでしょうし、スピードを落とさない人がたくさんいるのも残念ながら現実です。
結局、自転車は車道走行させるか、場所によって自転車レーンを設置する方向にするしかないと思います。
世界的にはごく当たり前のことであり、長年間違った道路行政をしてきてしまった日本でも、ようやく車道走行の原則へとシフトしつつあります。
その中で、自転車利用者とクルマの関係、安全を向上させるということではないでしょうか。
Posted by cycleroad at March 29, 2017 22:39
自動車による歩行者や自転車へのスレスレ追い抜きは厳罰化してほしいですね。
歩行者のそばを自転車がすれ違うのとはまったく別次元ですから。重量や速度を考えればわかることですが。
自転車はせいぜい15圓曚匹任垢、自動車は800坩幣紊多く、1トンを超えるものも多い。
自転車は危険危険と言われますが、実際はランナーに15圓曚匹僚杜未鯊したほどの危険性しかなく、15圓箸いΔ里話暴の体重差ほどです。
これは豆知識ですが、自転車利用者は自動車依存者よりも長生き、長寿という調査結果がオランダやフランスにおいて発表されています。自転車はランニングと比べてヒザにもやさしいですしね。自転車の健康増進効果によって医療費減も狙える。


Posted by GreenTopTube at April 16, 2017 08:13
だからこそ各国は重大事故を減らすためにも自動車を減らして自転車を増やす政策を推進している。ロンドンもオスロも、パリもニューヨークも、それ以外の多数の先進諸国の特に都市部で。
人々の移動が徒歩、自転車、公共交通の時代、今より遥かに重大事故も公害も渋滞も少なかったのですから。
自動車原理主義からの脱却こそが公益を高めるという考えに現代は行きついたと言えます。

また、日本は自転車の歩道走行が盛んな国としてありますが、人口あたりの交通死亡事故発生割合からすると先進諸国と比較して安全な部類に入ります。
私は歩道通行についてはさほど反対していません。歩行者と自転車がぶつかっての死亡者数は年間2〜5人と、餅などが喉につまって人が死亡している数よりも遥かに少ないためです。
自転車と自動車がぶつかれば、現在のスレスレ追い抜きや速度超過の交通犯罪等を繰り返している自動車運転手らの劣悪なモラルを考えると、全体の死者数は増えてしまう懸念が強い。
実際、自転車を歩道にあげてから交通死者数は減り続けています。
Posted by GreenTopTube at April 16, 2017 08:14
しかし歩道通行は歩行者の存在からして排ガスも騒音も出さない自転車のポテンシャルを活かす高速度通行が難しいので、自転車の良さを最大化するためには自転車専用の通行空間、つまり車道とは構造分離した、自動車の侵入ができない自転車道の整備を私達は要請し続けたいものです。
着色だけの自転車レーンが、自動車の運転手らの身勝手で劣悪なモラルによる路上駐停車、違法駐車により機能不全に陥ってしまっている惨状からすれば、自動車の侵入を物理的に阻止する施策が必要である現実を痛感します。


歩行者の死亡原因の元凶のほぼ100%は自動車が占め、たとえ歩道であっても、自転車より自動車のほうが遥かに歩行者を殺めているという事実を私達は周知したいものです。自動車が急に店舗駐車場や車道から歩道に一時停止、弱者保護せずに侵入して歩行者と衝突し、歩行者が死亡するパターンがいかに多いか。昨今の暴走自動車が歩道に進入して一気に歩行者を殺める惨事も思い出して、クルマ自体を減らせば、いかに重大事故が根本的に防げるかに思いを馳せていきたいですね。
自動車という重量も幅も大きい乗り物が、自転車より速い速度で移動してしまっている……これを考えれば、歩行者にとっても自動車を減らして自転車を増やすことのメリット、意義がわかりやすいと思います。
自動車が減れば排ガス大気汚染公害も減り、騒音も減り、渋滞が減ることによって救急車の到着も早まりますからね。
Posted by GreenTopTube at April 16, 2017 08:21
GreenTopTubeさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
歩行者と自転車との事故での死者数が相対的に少ないから、歩道走行に反対しないという点には同意しかねます。

道交法でも定められている通り、歩道は歩行者のためのものであり、いまの状態を平気に感じられるのは、自転車の歩道走行という異常な道路行政が数十年にわたって行われてきたからです。
死者は少なくてもトラブルは相当程度起きているはずです。子どもや高齢者などにも大きな脅威となっています。

本来、車道走行が当たり前の自転車を歩道走行させるのは、クルマが車道をスムースに走れるようにしようという考えの元に行われた政策であり、これは、道路交通においてクルマを優先するのが当然だという思想です。

本当は人間の安全が優先されるべきで、当然ながら自転車は車道走行、そしてその安全の確保はその第一歩だと思います。
Posted by cycleroad at April 17, 2017 22:46
 
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