November 16, 2017

自転車の使い方で見える世界

自転車の用途はいろいろあります。


通勤通学など移動の足として使う人もいれば、商売の道具として使う人、スポーツや娯楽として乗る人、トレーニングや運動不足解消のためという人もいるでしょう。住んでいる地域の交通事情、環境、生活スタイルなどによっても、どんな自転車に乗るか変わってくると思います。

実用的、一般的な用途だけとは限りません。世代によっては、自転車は自己表現の道具だったり、主義主張、ある種のステイタスの象徴として用いられる場合もあります。趣味と言うより、青春の一時期のエネルギーを注ぎ込む対象、あるいは仲間との連帯感、それを共有する手段だったりすることもあります。

BICI TUNING PALERMOBICI TUNING PALERMO

イタリアのシチリアの州都、パレルモに住むティーンエージャーたちのグループ、“BICI TUNING PALERMO”の若者たちにとって、自転車は一種の自己主張の道具となっているようです。彼らは、日本では、まず見たことのないような改造を施した自転車に乗っています。

自転車のフレームと一体化し、左右に向けられたスピーカーが特徴的です。アンプやプレーヤー、もちろんバッテリーも搭載しており、実際に音が出ます。いや、出るなどというものではありません。見た目から想像する以上の、雷のような爆音が出ます。いかに大音量を響かせられるか、改造を競っているのです。

BICI TUNING PALERMOBICI TUNING PALERMO

機材は相応の重量があり、全体の重心が高くなって安定性も損なわれると思いますが、そんなことはお構いなしです。いかに見た目が派手で、大音量かが評価軸です。そもそも速く走る必要はなく、重量とか、自転車としての使い勝手といった面は考慮していないのでしょう。大人たちが見て、どう思うかも関係ありません。

なかには、1千3百ユーロもの改造費を注ぎ込んでいる若者もいます。個人的な好みによって違ってきますが、多くの若者は、“neo-melodico”と呼ばれる現代的な歌詞と伝統的なメロディーを融合した、南イタリア独特のジャンルの音楽を流します。

BICI TUNING PALERMOBICI TUNING PALERMO

当然のように、同じような改造をした仲間たちと、ショッピングモールなどの広場に集まります。ただでさえパワフルな音響機器を搭載しているのに、それが大勢集まるわけですから、地域の住人の迷惑さは、容易に想像がつきます。ただ、若者の一部が迷惑なのは、イタリアだけの話ではないでしょう。

自転車に載せたサウンドシステムと言っても、なんと1,250ワットもの出力があり、沿道のお店やクルマの窓を振動させるほどの爆音を轟かせるそうです。当然ながら、住民の苦情を受けて出動した警察とトラブルになるようなことも少なくないと言います。

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ただ、集まっているだけで、交通違反をしているわけではなく、うるさいだけですから、警察も手を焼いているようです。場合によっては没収するなどと警告しているようですが、なかなか上手く取り締まることの出来る法令がないのでしょう。せいぜい、集団を解散させるくらいしか手がないようです。

一旦、解散させられても、また別の場所で合流することになります。「誰も我々を止めることは出来ない、さらに音量を上げるだけ。」とうそぶく者もいます。後になれば、若気の至りということになるのでしょうが、渦中では周囲が見えていないのも若者に共通する特徴であり、イタリアに限ったことではないでしょう。

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日本のサイクリストは、イタリアと言うと、PINARELLO、DE ROSA、BIANCHI、COLNAGO、GIOS、CARRERA、といった世界的に有名な自転車メーカー、ブランドが思い浮かぶのではないでしょうか。もちろん、イタリアにもいろいろな自転車乗りがいるわけですが、イタリアのイメージとは違うと感じられるかも知れません。

以前、このブログで、アメリカ・ニューヨークのクィーンズ地区に住むトリニダード・トバゴ出身の10代の若者たちを取り上げました。やはり大きなスピーカーを自転車に積み、仲間と一緒に集まって、音楽を浴び、踊って、路上で楽しむ若者たちでした。少し改造のスタイルは違いますが、とてもよく似ています。

BICI TUNING PALERMOBICI TUNING PALERMO

日本でも、かつて、スピーカーではないですが、派手な電飾を自転車に取り付け、いわゆるデコトラ風の自転車にして楽しむ若者たちがいました。菅原文太主演の映画、「トラック野郎」シリーズに影響されたものの、まだクルマの免許のとれない少年たちでした。

最近は、いわゆる「痛車」にインスパイアされ、ホイールなどにアニメキャラをあしらった派手な自転車、「痛チャリ」を制作するのが趣味の若者たちもいるようです。アニメのキャラに萌える、オタク文化の一種として捉えられていますが、これも、自転車を趣味の表現の対象とする点で共通していると言えるかも知れません。

BICI TUNING PALERMOBICI TUNING PALERMO

もちろん自転車ですから、どれもそのまま移動出来ます。しかし、彼らの自転車は移動が目的ではなく、自己表現の手段であり、若い情熱を注ぎ込む趣味であり、仲間との連帯という点で共通しています。あるいは、社会や大人への反発といった感情も含まれているのかも知れません。

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このシチリアの若者たちを撮影したのは、イタリアの写真家、Matteo de Mayda さんです。主に環境問題、持続可能性、社会的なプロジェクトなどをテーマに作品を発表し、各地の賞もとっています。例えば、アフリカのアンゴラで進む開発と拡大する貧富の差に焦点を当てるといった仕事をしています。

Maya PedalMaya Pedal

同時に、Mayda さんは、“Worldwide Cycling Atlas”という活動にアートディレクターとしても参加しており、各地で特徴的な自転車に乗った人々を写真や動画に収めています。このブログでも過去に取り上げましたが、グァテマラの「マヤ・ペダル」も、その一つです。



これは、電気や内燃機関などのエネルギーが使えないグァテマラの農村地帯で、自転車を改造して作った人力の農機具を提供する活動です。これによって、水をくみ上げたり、農作業の効率を飛躍的に上げたりして、環境を汚すことなく、貧困に苦しむ農村への支援をしているNPOの活動です。



中国では最近、大都市に、色とりどりのシェア自転車が溢れる様子が注目されています。しかし、都市の開発が進む一方で、北京のような大都市でも、まだまだ古い自転車が商売に使われています。そんな北京での自転車の使われ方にも目を向け、記録しています。

Beijing, ChinaBeijing, China

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ニューヨークでは、街で出会うサイクリストの顔と題したポートレートも撮っています。貧困問題や環境といった社会的な面に関心を寄せる一方で、世界各地での自転車に関連したドキュメントも手掛けており、シチリアの若者たちもその一つということのようです。

NYC, U.S.A.NYC, U.S.A.NYC, U.S.A.

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世界には、いろいろな自転車の使い方をする人がいて、グァテマラの農村や北京の裏通りには、自転車を生活の道具とする人々がいる一方で、シチリアでは自転車を表現の道具として楽しむ若者たちもいます。自転車という切り口で、世界の人々の暮らしや、思わぬ若者の共通点が見えてくるのも面白いところです。




また大相撲で暴行事件のようです。横綱の品格の前に、傷害致傷は犯罪であり、論外でしょう。残念なことです。

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