January 15, 2018

自転車インフラの隠れた効用

世界で、自転車インフラの整備を進める都市が増えています。


これまで、多くの国でモータリゼーションの進展に伴い、渋滞や大気汚染、交通事故死者の増加など、社会的な問題が起きました。中国やインドばかりではでなく、ヨーロッパの都市でも排気ガスによる大気汚染は市民の健康の面で大きな問題となっています。その反省や対策として、自転車の効用が見直される傾向にあります。

当然ながら、自転車は化石燃料を使わないのでエコです。排気ガスによる大気汚染もひきおこしませんし、温暖化ガスも出さず、環境負荷の低減にも貢献します。省エネルギーにもなりますし、渋滞対策にも有効です。渋滞が慢性化している都市部では、かえってクルマより速かったりするでしょう。

小回りが効いて便利ですし、運動不足を解消し、乗る人の健康増進にも貢献します。都市全体で見ると、市民の健康状態を改善させ、医療費など社会福祉予算を低減する効果も期待出来ます。また、近年は欧米でも、若者のクルマ離れが指摘されていますが、自転車インフラの充実が若者を引きつける効果も注目されています。

最近の若い世代は、クルマに興味がなく、コンピュータやモバイル端末、通信費などにお金を使います。郊外からのクルマ通勤よりも、都市部に住んでの自転車通勤を好む傾向があります。このため、若い人材を集めたいIT企業などは、若者の好む、自転車インフラの整った都市に進出する傾向が顕著になっています。

必然的に、企業を誘致したい自治体は、自転車インフラの整備に力を入れ、自転車通勤しやすい街を目指します。若い人口が増えて、企業の進出につながり、一石二鳥です。こうした、さまざまな面から、世界の都市では、もっと自転車を活用しよう、インフラを整備しようという機運が高まっているわけです。

Wheels for WellbeingWheels for Wellbeing

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でも、それだけではありません。あまり注目されていない効用もあります。それは、障害者福祉の面です。自転車が障害者の福祉に貢献すると言うと、訝る人もあるかも知れません。しかし、実は自転車に乗りやすい街は、障害のある人にとっても、住みやすいという面があるのです。

例えば、イギリスのケンブリッジシャー州の州都、ケンブリッジは大学都市として有名ですが、自転車インフラが整備されて自転車に乗りやすい街、自転車の活用が進んでいる都市でもあります。この街の障害者の通勤の4分の1が自転車によるものです。

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ケンブリッジでは、通勤者が使う移動手段のうち自転車の占める割合は32%と、全英の都市のトップ級ですが、障害のある通勤者のうち自転車を利用している人の割合も26%と高くなっています。都市によっては、1%にも満たないので、それだけ自転車インフラ充実の恩恵に浴していると言えるでしょう。

街ではトライクなども見かけますが、それだけではありません。障害があって、自転車を使っている人の約40%は、普通の自転車を使っています。障害があるからと言って、トライクやハンドサイクル(手でこぐ自転車)などに乗っているとは限らないのです。

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四肢の障害などによって、移動が困難な障害者の3人に2人は、徒歩よりも自転車に乗るほうが簡単なのだそうです。歩行より、ペダルを回すほうが容易なのです。実際に通勤などに使っていなくても、そうした障害者のある人の78%が自転車に乗ることが出来て、15%がしばしば利用すると言います。

意外に思えるかも知れませんが、自転車での移動、そしてインフラは、障害者にとって大きな助けとなっているのです。手足に障害があると自転車に乗れないどころか、自転車の恩恵は大きいのです。当然ながら車イスよりも速く、健常者と遜色ないスピード、距離を移動出来たりするわけです。



イギリス南部を中心に展開している“Wheels for Wellbeing”は、トライクやハンドサイクルを貸し出すなど、障害者の自転車利用や自由な移動を実現するための支援を進めています。同時に、国や自治体へに対しては、税金の控除といった面の配慮を働きかけています。

まだまだ、障害者福祉の観点から自転車インフラの整備を進めようという認識が、各地の自治体に広く行きわたっているとは言えません。そこで、その観点での自転車インフラ整備の推進や改善、例えば充分な幅をとるとか、段差を少なくする、トライクが駐輪しやすくするといった要望も出しています。

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もちろん、イギリスでもケンブリッジのような事例はまだ限られており、自転車インフラが充実していたからと言って、障害者の自転車通勤者が多いとは限りません。雇用する企業も必要です。ただ、障害者の自転車利用率の高さは、それだけ障害者福祉に貢献していると言えるでしょう。

ちなみに、ロンドンでの調査では、障害のある人の15%が自転車に乗ることがあり、健常者は18%です。障害者で自転車に乗る人のうち、ハンドサイクルを所有している人は25%、リカンベントは19%、トライクは13%でした。多くの人が、障害者は自転車に乗らない、乗れないと思っていますが、事実は違います。

Adaptive BIKETOWNAdaptive BIKETOWN

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アメリカ・オレゴン州のポートランドも自転車先進都市として有名です。ここでは、“Adaptive BIKETOWN”というプログラムが始まっています。このプログラムは、障害のある人に向けて、障害に応じた自転車の貸出しやシェアリングを通して、自転車の利用を支援するプロジェクトです。

もちろん、ポートランドが全米有数の自転車に乗りやすい街であることがベースにありますが、障害のある人の中にも、いろいろな人がいます。積極的に自転車で移動している人がいる一方で、自転車での移動など無理だと、最初からあきらめている人も少なくないからです。

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ポートランドでは少なくとも1万7千人以上の人が通勤に自転車を使っており、通勤者全体の7.2%を占めています。一方、オレゴン州全体の数字ですが、最新の調査によれば55万人の障害者がいます。しかし、これまで障害者に対する配慮や支援が行われてきませんでした。

現ポートランド市長の、Chloe Eudaly さんは、自身にも障害のある子どもがいます。彼女は、ポートランドの自転車シェアリングは素晴らしいが、このシェア自転車には、移動に支障のある人々には排他的であることを、市長自らが訴えたのです。

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メキシコの首都、メキシコシティでは、視覚障害者のための自転車シェアリングプログラムが開始されています。目が不自由な人のためにタンデムバイク(2人乗り自転車)を貸し出し、ガイドをするボランティアを紹介するなど、自転車での移動を支援するプログラムです。

いずれの都市も、自転車インフラ整備を進めていて、比較的自転車に乗りやすいことが背景にありますが、障害者にとっても、自転車は大きな力になるという事実が認識され始めています。もちろん、クルマでの移動などもありますが、自転車は障害のある人にとって、移動の自由や可能性を広げる効用が大きいと見ています。



障害者だけではありません。世界に先駆けて高齢化が進む日本では、高齢者にとっても、自分で移動できる手段、選択肢を増やすことになるでしょう。近年、高齢者によるクルマの事故が多発しています。その防止のため、免許の返上を促していますが、代替となる移動手段があることは、自立のために非常に重要になります。

日本の自治体では、高齢者の健康増進のため、いろいろな取り組みを進めています。高齢者が健康になれば、全体として、医療や介護費用などの費用の低減が見込めるからです。自転車インフラの整備は、高齢者の自転車利用を促すことで、その面でも貢献する可能性があるでしょう。

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自転車インフラの整備は、交通事故を防ぐといった効用に限りません。慢性的な渋滞に悩んでいない都市でも、障害者や高齢者の福祉という点において、大きな意味があるわけです。果たして、日本の自治体は、どれだけこのことを認識しているでしょうか。

日本における障害者の自転車利用の実態や、その意志を調査した資料がないのでよくわかりませんが、日本でもイギリスなどと大きな違いはないと考えるのが妥当でしょう。自転車インフラの整備は、たくさんの人をハッピーにします。日本でも、もっと優先してもいいのではないでしょうか。




アメリカが核攻撃の基準を緩和するようです。中長期の戦略ですが何かを見据えた準備かと勘繰りたくなります。

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