September 24, 2018

共有型経済と都市交通の進化

シェア自転車は集約が進みつつあるようです。


世界では、自転車シェアリングが急速に増えており、すでに世界1千以上の都市で稼働しています。地方公共団体や公益団体が運営するものから、民間や民間委託など、運営形態はいろいろですが、小規模なもの、地域単体の運営主体の中には採算的に苦しく、撤退したり、運営者が変わるところもあります。

場所によっては、破損や紛失が多かったり、広告スポンサーがとれなかったりなど、条件の悪いところもあるでしょう。運営者の交代や再委託、運営権の譲渡、より大きな資本への吸収合併などを通して、都市型自転車シェアリングの運営主体は、徐々に集約されていきつつあるようです。

例えば、アメリカ・ニューヨークの“CitiBike”、ワシントンDCの“Capital Bikeshare”、 サンフランシスコの“Ford GoBike”はそれぞれ別のサービスですが、すべて、“Motivate”という北米最大かつ一番古くからある自転車シェアリング会社が運営しています。

MotivateMotivate

今年7月、この“Motivate”を配車サービス大手、“Lyft”が買収しました。“Lyft”は、クルマのシェアリング、いわゆるライドシェアの会社です。“Uber”などと競合しており、中国の“滴滴出行”、インドの“Ola Cabs”、東南アジアの“Grab”、“ゴジェック”と提携するなどライドシェアの世界も合従連衡が激しくなっています。

ライバル“Uber”が今年4月に、“Motivate”の最大のライバルである“Jump”を2億ドルで買収していただけに、多くの関係者が予想する買収だったようです。競争上、当然の布石ということなのでしょう。ちなみに、この“Jump”、以前は“Social Bicycles/SoBi”として運営していた会社です。

“Lyft”にとって、“Uber”との対抗というだけでなく、自社のサービスの向上にもつながります。アメリカのようなクルマでの移動が中心の国では、ライドシェアは便利です。通勤などで複数での乗り合いに使う人も増えています。しかし、都市に近づくにつれ渋滞は避けられません。

例えば東京のような鉄道網の発達している都市ならば、周辺部に駐車して電車に乗り換える手もありますが、地下鉄などの公共交通が充実していない都市では出来ません。しかし、シェア自転車があれば、そのような時にも役立ちます。自転車シェアは、ライドシェアと連携させて使うと便利なケースもあるわけです。

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ライドシェアの“Lyft”が、自社の顧客を、ライバルの“Uber”の“Jump”に乗り換えさせるのではなく、自社のサービスで完結させたいと考えるのは当然です。ライドシェアを自転車シェアと連携させる利便性、あるいは、必要に応じて、クルマも自転車も選べるようにするのは、自然な成り行きということなのでしょう。

それだけではありません。同社はカーボンニュートラル、すなわち二酸化炭素の排出と吸収が釣り合うこと、自社では温暖化ガスを増やさないことを打ち出しています。自転車を使うことは、この方針にも合致し、温暖化ガス削減に貢献する姿勢をアピールできるわけです。

もともと、ライドシェアはクルマの利用を効率化したり、所有する人を減らすことで温暖化ガス削減に貢献するわけですが、さらに自転車を使うことで、温暖化ガスを減らすことになります。気候変動の問題に関心が高まる中、これは会社の経営にとっても重要な戦略でもあります。

アメリカのトランプ政権は、地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」から離脱を表明し、環境保護局の予算も激減させました。しかし、連邦政府がそのような方針を打ち出しても、全部がそうではありません。州政府や企業の間では、温暖化ガス削減に積極的に取り組むところが増えています。

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例えばカリフォルニア州は、2045年までに同州の電力をCO2排出量ゼロのエネルギー源のみで供給することを義務付けました。さらにカリフォルニア州の経済全体でカーボンニュートラルにする方針を打ち出しています。企業も真剣に取り組まないと、同州でビジネスが出来なくなる可能性があるわけです。

自転車を使うことで、エコでクリーンなイメージをアピール出来る点もプラスですが、もはやイメージ戦略の問題ではありません。シリコンバレーのIT企業が、軒並み自社の使用電力を再生可能エネルギー100%に変えているのも同じ理由で、もはや経営上の問題なのです。

都市のモビリティについては、近年急速に、地球規模の気候変動対策という観点からの議論が進んでいます。州や都市のレベルでも、自転車の活用を進めることが課題となっています。ライドシェア会社がシェア自転車を取り込むのは、そのようなトレンドに合致するものでもあります。

自転車シェアの、それ自体での収益性は高くありません。安い料金でないと使ってもらえない一方、初期費用は大きいですし、貸出拠点の設置などで市当局などとの折衝も必要です。どうしても偏っていく分布を再配置したり、メンテナンスなどの費用もかかります。うまく車体広告のスポンサーがとれるとは限りません。

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それでも中国の新興企業などが、争って自転車シェアに参入したのは、ビッグデータの可能性です。人々の移動のデータを独占出来れば、マーケティングに利用したり、スマホなどを通してメディアとして展開するなど、将来的に大きな収益が見込めると考えるわけです。

ライドシェアの会社が、その点の可能性も考えているのは間違いありません。一つの都市での自転車シェアでは、ビッグデータの魅力も小さいですが、たくさんの都市に展開していけば、単なるデータ量の合計が増える以上に価値が出て来るのも明らかです。

運営する都市を増やしていた“Motivate”を買収するのは、その点でも理にかなっているわけです。もちろん、今後“Lyft Bikes”を展開していく上でのベースにもなります。ノウハウごと手に入れられます。“Motivate”の買収金額は公表されていませんが、充分に勘定があうのでしょう。

今後、クルマは自動運転になっていくと見られています。運転する必要がなくなり、目的地さえ決めれば、AIが自動的に最適なルートを選んでくれます。寝ていても着くのであれば、通勤もラクになるに違いありません。しかし、自動運転が当たり前になったとしても、渋滞がなくなるわけではありません。


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より空いている道は選んでくれるでしょうが、都市部へ向かって交通量が集中すれば、依然として渋滞はします。渋滞するクルマより、シェア自転車のほうが便利なケースは、なくならないでしょう。自動運転の時代になったからといって、シェア自転車の需要がなくなるわけではありません。

通勤がなくなるのでは、と考える人もあるでしょう。必ずしも会社で仕事をする必要はなく、サテライトオフィスやテレワークなどで、都市部へ行く必要がなくなる可能性はあります。ただ、依然として都市への人口集中は続いていますし、今後も続いて行くと見られています。

今でも、テレビ会議は出来ますし、ネット回線があれば、どこでも仕事が出来る人は多いはずです。もちろん、そうした働き方も広がるとは思います。しかし、一方で企業が都市部や、特定の場所に集まる傾向は変わっていません。例えばIT企業なら、どこにあってもよさそうなものですが、相変わらずシリコンバレーなど都市に集まります。

連絡や会議、デスクワークで可能な部分はあっても、やはり会って仕事をしたり、コミュニケーションをとる部分は欠かせないということなのでしょう。アメリカに限らず、世界的に都市部への人口集中は続いており、結果として都市部や周辺部での渋滞の解消は、簡単には見込めないということになりそうです。

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もちろん、仕事や観光などで、その都市を訪れた訪問客にとっても、シェア自転車は便利です。レンタサイクルだと、ずっと自転車で移動しなければなりませんが、シェア自転車ならどこでも乗り捨て可能、途中で別の交通機関をはさむなど、フレキシブルな移動が可能です。

渋滞しがちな都市部では、タクシーやバスより速いのも魅力です。小回りもききます。レンタカーだと、いちいち駐車場を探したりするのも面倒ですが、シェア自転車なら、最寄りの貸出ステーションに返せばいいだけです。シェア自転車のアドバンテージは少なくありません。

一部では、電動キックボードのシェアも広がる勢いを見せています。自転車より場所をとらない利点があり、便利に使えそうです。ただ、東京で例えるなら、渋谷と原宿や表参道を巡るにはいいですが、新宿と品川や上野を行き来するには、自転車のほうが速く、便利だと思います。

都市の周辺部でクルマを乗り捨て、シェア自転車に乗り換えて中心部へ通勤するようなケースも含め、自転車のほうに分があるケースもあります。このへんは、すみ分け、使い分けということになっていくかも知れません。自転車の種類や、他の形態が登場する可能性もありそうです。

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先日、中国・上海ではシェア自転車ブームが終わっているというレポートについて取り上げました。爆発的に普及した反動や、あまりに競争が激しかったこともあり、結果として街角に自転車があふれ、大きな社会問題となるなど世間の反発もあり、歪みが極端な形で出たのは間違いないでしょう。

ただ、中国の大手も、依然として世界展開を進めています。合従連衡や集約が進み、淘汰される会社も出て来るでしょうが、シェア自転車の有用性は変わりません。社会問題は解決する必要がありますが、運営者は変わっても、自転車シェア自体は今後も広がっていくものと思われます。

日本では、まだ小規模なものが多く、世界と比べると遅れています。貸出拠点が少なかったり、利用できるエリアが分かれていて小さいなど、使い勝手の点でも難があります。歩道走行という日本独特の問題もあり、インフラの貧弱さもあって、シェア自転車が順調に普及しいてくかは、予断を許さない部分があります。

そんな日本でこそ、運営主体が集約され、貸出拠点が増え、共通で使えるエリアが広がり便利になってほしいところです。その利便性が広く理解されるようになれば定着し、インフラの整備の必要性も認識され、走行環境も改善していくかも知れません。ニワトリと卵の部分がありますが、良い循環を期待したいものです。




大坂なおみ選手は準優勝でした。決勝までいったのに残念でしたが、まだ二十歳、今後の活躍が楽しみですね。

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