September 30, 2018

自分たちの意思を反映させる

スイスはヨーロッパの中央にあります。


Photo by Marcel Wiesweg,under the GNU Free License.周りは全てEU加盟国ですが、スイスはEUに属していない永世中立国です。国土は九州ほどの大きさで、人口は780万人ほどの小さな国です。連邦議会もありますが、国民投票によって、国民が直接政治に参加する直接民主制の国としても知られています。

日本では安倍首相が憲法改正に意欲を見せていますが、出来てから70年以上、一度も改正されたことのない日本国憲法とは違い、スイス連邦憲法は、国民投票で頻繁に改正されています。つい先日、2018年の9月23日にも憲法改正の国民投票が行われました。

今回の憲法改正案で問われたのは、なんと自転車の利用の促進です。スイス連邦憲法第88条の「歩行者専用道および遊歩道に関する条項」に自転車専用道の整備を追加するよう求める内容です。連邦政府は国内の自転車インフラ構築を促進し、また各自治体の取り組みを支援するというものになっています。

同時に投票にかけられた、「動物や地球環境に配慮した倫理的で持続可能な食品に関する2つの提案」、つまり持続可能な農業の促進については、圧倒的多数で否決されましたが、自転車専用道の整備・管理を連邦憲法に盛り込む案は賛成多数で可決されました。

直近の世論調査でも、自転車のほうは有権者の7割近くが賛成しており、可決はほぼ確実と見られていました。結果は、賛成が73.6%、反対が26.4%。すべての州が賛成しました。これで、 スイスでは自転車インフラの整備が、憲法に基づいて進められることになります。

これは、2015年に一部政党と業界団体が立ち上げた「自転車イニシアチブ」に対する政府の対案です。当初の案を一部を修正したもので、議会とイニシアチブの発起人もその後、政府対案を支持しました。つまり推進派や業界団体だけでなく、政府も議会も支持する案に、国民がお墨付きを与えた形です。

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政府は、自転車専用道を拡充することで、自転車が絡む事故の抑止、電車やバスなどの公共交通機関の混雑緩和のほか、観光促進にもつながるとして支持を訴えていました。可決には、州の過半数の賛成も必要ですが、全ての州が賛成しており、スイス国民のコンセンサスと見ていいでしょう。

スイスの26の州は、歴史的に違う主権国家だったこともあり、考え方は違っています。なかでもフランス語圏やイタリア語圏の州は、伝統的にクルマ社会であり、自転車の走行環境を整備するより、もっと出来ることがあると考えている人も少なくないと言います。

ドイツ語圏の州は推進派が多いですが、それでも温度差はあるでしょう。これだけ自転車が日常的に乗られている日本でも、自転車に対する考え方には相当の幅があり、批判的な人、クルマの邪魔だと嫌う人も多いことを考えれば、なかなか画期的なのではないかと思います。

スイスは山も多く、平地は国土の3分の1しかないため、必ずしも自転車向きとは限りません。国民の自転車に対する考え方にも差はありますが、それでも徐々に変わり、特に平地にある都市部では、もっと自転車の利用拡大は可能であり、必要だとの考え方が一般的になってきているようです。

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例えば、スイスの首都ベルンでは近年、自転車シェアリングが導入され、自転車の利用者が劇的に増えています。タクシーの初乗り料金が世界一高いと言われていることもあって、ベルン市民に支持されたのもあるのでしょう。今後もその規模を拡大させていく計画になっています。

しかし、シェア自転車が導入されたからと言って、それだけでは足りません。関係者は、単にシェア自転車を導入して市民に使ってもらうだけではなく、自転車の利用者、特に使い始めて間もない人に、安全だと感じてもらわなければならないと考えています。

自転車の利用を促進するためには、安全で質の高い専用レーンを整備することが不可欠だと言うのです。専用レーンは、車道や歩道から明確に区切られたスペースに作る必要があり、十分な駐輪スペースも必要でしょう。クルマを時速30キロメートル以下の速度に制限するゾーンも整備すべきとしています。

高速と低速の車線システムを備え、途中の信号を削減することも考えています。都市計画において、自転車による交通を組み込もうという構想です。そうしたトータルの環境を整備していくための憲法改正なのです。その是非を問う国民投票、そのために必要な発議、それに必要な署名集めから始めて、ようやくたどり着きました。

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もちろん、背景にはデンマークやオランダなど他のヨーロッパの国の影響もあるでしょう。環境への意識の高まり、坂道でもラクな電動アシストの普及も大きな要素です。道路渋滞や公共交通機関の混雑緩和、省エネや大気汚染の抑制、観光客の利便性向上、市民の健康増進なと、いろいろなメリットもあります。

しかし、その基本にあるのは、スイスの国民が、公共財や公共空間とは何か、それをどう扱うのかを自分たちで考えるという姿勢です。大切なのは、公共スペースの利用について、あらゆる市民が関わりを持つことなのです。有権者が自らの考えを政治や行政に反映させていこうという意思があるわけです。

さすが、国民投票で何百回も憲法改正を行ってきた国です。むしろ、これまでスイス連邦憲法に、歩行者専用道や遊歩道はあるのに、自転車の文字が一切なかったのが不思議なくらいです。スイスでも自転車は移動手段として広く普及しており、利用者はおよそ400万人と推定されています。

子どもを除く有権者が530万人の国です。一部ではありません。国民が実際に自転車を使っているのに、その環境が整っていないのは大いなる不備です。もっと使いやすく安全に、公共スペースと、「生活の質」の向上を図るのは、主権者たる国民の意思であり、国がそれに従うのは当然という考え方なのです。

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イギリスのEU離脱の国民投票の例を持ち出すまでもなく、必ずしも国民投票がいいとは言いません。デメリットもあります。国民が、その決定のもたらす結果を、充分理解しているとは限りません。直接、国民の意思が示される利点はありますが、いわゆる数の暴力が起きやすいのも事実です。

日本とは政治の仕組みが違うので単純な比較は出来ません。ただ、日本人は、江戸時代から戦前、戦後を通して、お上、すなわち政府によって与えられるという意識が強いと、よく指摘されます。でも、今や主権は国民にあります。公共の空間や道路は、お上に与えられるものではありません。

私たちが、もっと安全を求めたい、交通事故で罪もない人が突然亡くなるような理不尽な状態はおかしい、クルマ優先はもう止めて、歩行者、生活者が中心の環境を構築したいといった意思を積極的に反映させてもいいはずです。政府任せではなく、自分たちで決めるという意識の高さはスイスを見習うべきかも知れません。




台風24号が列島を縦断し始めています。自分は大丈夫だろうというような根拠のない楽観は避けるべきですね。

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