June 15, 2019

簡単そうに見えて実は難しい

世界で自転車シェアリングが広がっています。


正確な数はわかりませんが、世界1000都市以上で運営されています。これは2016年末の数字ですから、さらに増えているのは間違いありません。欧米に限らず、アジアや南米、オセアニアなどにも広がっています。毎日、おびただしい数の人がシェア自転車に乗っていることになります。

ただ、シェア自転車と言っても、都市によって規模も、運営主体も、システムも、料金体系も違います。その都市が自転車で走りやすい街か、市民は自転車に馴染みがあるか、他の公共交通は発達しているかなど、都市の成り立ちや環境によっても変わってくるでしょう。

市民に好評で、広く使われ定着している街もあれば、運営主体が破たんして新しい運営先に交代したところもあります。中国の各都市で急激に広がり、街に大量の自転車があふれ、社会問題になり、多くの事業者が淘汰され、大手も危機に陥ったのは記憶に新しいところでしょう。

Citi BikeCiti Bike

中国の事業者の場合は、自転車シェアリングをIT産業と結びつけて考えていました。自転車の使用料で稼ぐのではなく、人々の移動データを取得し、それを活用する事業と見ていたわけです。そのためには、まず圧倒的なシェアを獲得し、データを独占する必要がありました。

当然のように過当競争となり、大量の自転車があふれることになりました。当時は投資資金も集まりましたが、激しい競争で疲弊し、資金繰りも続かなくなったのでしょう。今もシェア自転車は使われていますが、当時のような勢いではなくなっています。

たしかに、今の時代はデータを握ることがカギになります。GAFAの例を持ち出すまでもなく、人々の移動データを握れば、いわゆるプラットフォーム企業として大きな力を発揮するでしょう。移動や顧客のデータはマーケティングなど、各方面で利益を生むはずです。

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ただ、シェア自転車事業は思うほど簡単ではありません。単に自転車を並べればいいわけではありません。自治体と組んで独占事業のように始めても、黒字化せずに続かない事例もあります。ましてや激しいシェア争いや、使う側のマナーも問題となれば、立ち行かなくなるのも当然かも知れません。

相応の資金力も必要になります。自転車の価格は比較的安いとは言え、相当の台数を揃える必要があります。貸出拠点も設置しなければなりません。ドックレスというやり方もありますが、街中にシェア自転車があふれて、社会問題となったり、禁止される事例も少なくありません。

少ない台数、限られた貸出拠点数では、利便性に劣ります。利用者が増えず、じり貧となるのは目に見えています。東京のように、区ごとに分かれていたり、使える区域が狭い範囲に限られていれば、大きく利便性が損なわれるのは明らかです。せっかくのシェア自転車の意味がありません。

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貸出拠点数もたくさん必要です。目的地の近くまで行けるのが自転車の利点なのに、離れた場所にしか返せなかったり、借りられないのでは不便です。わざわざ余計な時間をかけ、歩いて貸出ステーションまで行くでしょうか。たまたま便利な人はいいですが、利用が広がらないでしょう。

また、他の公共交通と有機的につながってこそ、便利になります。いわゆるラストワンマイルを埋める移動手段となりえます。鉄道の駅やバス停なども含め、街のあちこちに貸出拠点があり、全域で乗り捨てのように使える必要があります。そうなると、貸出拠点の整備にも相当の資金が必要になるでしょう。

そして多く問題となるのは、人々が利用するにつれ、自転車がどんどん偏在してしまうことです。ニーズの多い場所は自転車がなくなってしまい、そうでない場所に自転車が溜まってしまうわけです。この偏りを是正するために自転車の輸送が必要となり、多くの輸送費、人件費がかかります。この再配置が大変なのです。

Citi BikeCiti Bike

再配置は、どこでも頭の痛い問題のようですが、面白い取り組みを始めたところがあります。ニューヨークのシェア自転車、シティバイクです。マンハッタンを中心に、その対岸も含めて750箇所ものステーションがあり、1万2千台の自転車が配置され、ニューヨーカーや来訪客にも親しまれています。

ちなみに、ニューヨーク・シティだからシティバイクではありません。“City”ではなく、“Citi Bike”です。シティバンクで知られるシティグループがメインのスポンサーだからのネーミングです。アメリカでも最大規模の自転車シェアリングとなっています。

Photo by Jim.henderson,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.Photo by Jim.henderson,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

このニューヨークのシティバイクでも、自転車の再配置は当然必要です。自転車で引っ張るトレイラーで数台ずつ運ぶほか、それでは足りずバンやトラックなどで輸送しています。せっかく自転車でエコなのに、トラックを使わざるを得ないのが残念なところです。

そこで考え出されたのが、“Bike Angels”プログラムです。これは、シティバイクの会員のうちの有志に、再配置に協力してもらおうというものです。「バイクエンジェル」に登録して、他の利用者のために再配置に協力してくれる人の募集を始めたのです。

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このバイクエンジェルに登録した人が、自転車があふれているステーションから、自転車が足りないステーションに運ぶと、ポイントが与えられます。どの拠点に自転車が集まり過ぎか、どこが足りないかは、リアルタイムに把握され15分ごとに更新されます。これは、エンジェルたちがアプリで確認できます。

どこの拠点から、どこの拠点に運ぶと何ポイントがもらえるかは、その時々で変わります。もちろん、ポイントがもらえない移動もありますし、高得点が得られる移動もあります。何ポイントかは、その時点での自転車の配置状況や、その後の使用状況の予測によって決まります。

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当然ながら、多くの人の移動、ニーズのある移動とは逆になるでしょう。言ってみれば、ボランティアのようなものですが、この移動をしてくれた人にポイントを差し上げるという仕組みです。ポイントは月ごとに集計され、例えば10ポイントたまれば、1日無料パスが進呈されます。

エンジェルは定期券で利用しているでしょうから、これは友人などにプレゼントされることになるでしょう。シティバイクにとっては、新たな利用者を増やす機会になるかも知れません。20から80ポイント獲得すると、20ポイントごとに、自分の定期券の期限を無料で1週間ずつ延長することが出来ます。

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さらに80ポイント以上だと、ギフトカードがメールで届き、80ポイント以上の10ポイントにつき1ドルが提供されます。さらに、年間のトータルポイントに応じて、バイクエンジェルのみ利用可能な会員特典が獲得できるようになっています。これは毎年4月1日にリセットされます。

なるほど、上手い仕組みを考えたものです。どんな人が、わざわざ登録してエンジェルになるのか、具体的には明らかではありませんが、いろいろ考えられます。ニューヨーカーの中には、環境問題に対する意識の高い人も多いですから、自転車シェアリングの意義に賛同し、その継続に協力しようという人もいるに違いありません。

毎日、散歩が日課の人なら、ポイントを見てルートを変え、散歩の間にエンジェルとしての移動を組み込むことも出来るでしょう。散歩のついでに協力可能です。持ち運び用ケージに入れて運べるような小型犬の飼い主ならば、犬の散歩にエンジェルの移動を組み込めるかも知れません。

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フィットネスジムへ通う代わりに、エンジェルをすることも考えられます。ポイント間を走ったり、エアロバイクをこぐ代わりに、シティバイクで移動するわけです。ポイントは獲得できるし、ジム代は節約できるし、自転車シェアの継続を通して、環境負荷の軽減にも貢献できます。

サイクリストの中には、自分の自転車でのサイクリングの代わりに、一部をシティバイクの移動にしてもいいという人もいるでしょう。そして、中にはゲーム感覚で積極的に参加する人もいます。アプリとにらめっこで、どう移動すれば高得点か考えるのは、たしかにゲーム性があります。

シティバイクのサイトでは、エンジェルの月間の得点ランキングが発表されます。上位に入るとボーナスがもらえます。1位は100ドルなどです。さらに、一日、月間、年間の獲得ポイントのレコードホルダーも掲載されます。これらは、参加者を呼び込み、競争心やゲーム感覚を高める上手い仕組みと言えるでしょう。

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さらに、毎月の特典や年間のギフト獲得とは別に、累積の点数は生涯獲得ポイントとしてリセットされずに積み重なります。この累積獲得点によって、シティバイク特製の記念品などが贈られます。このあたりも、ゲーム感覚や点数を競う上でのモチベーションにつながっているのでしょう。

正確な人数はアナウンスされていませんが、2千人以上が参加しているそうです。もちろん、全体の利用者から見ればわずかですが、再配置に少なからず寄与していると思われます。いろいろな特典をつける費用も、再配置要員の人件費と比べれば、シティバイクにとってプラスになっているのは間違いありません。

言われてみれば、なるほどと思いますが、利用者の中から参加者を募り、ゲーム感覚で再配置をさせてしまうとは上手い方法を考えたものです。自転車シェアリングの運営状況や課題は、各地でいろいろだと思いますが、まだまだ工夫の余地はあるということかも知れません。

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世界では自転車シェアリングが広がっていますが、日本の都市では広く使われるに至っていません。つい先日も、メルカリがシェアサイクルからの撤退を発表しました。大手企業が関与しても、小規模なものばかりで利便性は低く、ニューヨークのように都市交通として機能としているとはとても言えません。

ある程度の規模がなければ、シェア自転車として機能せず、利用も広がりません。それなのに、小さな区域限定や少ない台数では、単なる無人の貸し自転車であり、自転車シェアリングとは似て非なるものです。再配置以前の問題です。そのあたりがわかっているのか、首を傾げざるを得ません。

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自転車?、シェアリング?、それなら簡単だと侮って参入しているとしか思えず、案の定、撤退となる事例も少なくありません。小さく始めて育てるような事業ではありません。今回取り上げたシティバイクも含め、見た目とは裏腹に、海外の運営車体もいろいろと苦労を重ねています。

もちろん、日本には独特の事情があり、簡単ではないでしょう。海外には成功例も多いので、それをよく研究して、せめて自転車シェアリングと、単なる貸し自転車の決定的な違いを理解してから参入して欲しいと思います。日本でも、本当の意味での自転車シェアリングの成功例が出てくることを期待したいものです。




久保建英選手のレアル・マドリード移籍、やはり日本では成長も限られるでしょう。代表での活躍が楽しみです。

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