June 24, 2019

自転車通勤により変わるもの

国土交通省が資料を公表しています。


自転車通勤導入に関する手引き」という資料です。これは平成30年6月に閣議決定された自転車活用推進計画に基づき、自転車活用推進官民連携協議会が策定したものです。企業や団体の活動において、自転車通勤や業務利用を拡大するという目的で公表されました。

企業、団体が自転車通勤制度の導入を検討をする際や、すでにある自転車通勤制度の見直しを行う際の参考にしてもらおうという意図があります。すぐ使える「自転車通勤規定」や「自転車通勤許可申請書」のひな形まで提供しており、政府が自転車通勤を推奨し、広げて行こうとする姿勢を示すものと言えるでしょう。

最近は、職場まで直接自転車で行く『自転車通勤』をする人が増え、メディアなどでも取り上げられるなど、一般の認知度も上がりました。しかし、十数年前までは、職場まで自転車で通うなんて、よほどの変わり者か、自転車オタクと思われていました。それを思えば隔世の感があります。

政府がお墨付きを与え、自転車通勤や業務利用の拡大を目指そうというのですから、変われば変わるものです。自転車は、環境負荷の低減、災害時における交通機能の維持、国民の健康増進、交通の安全確保、渋滞緩和などの公益増進、交通費削減などに資するものとして、その活用推進が求められると明記しています。

自転車通勤導入自転車通勤導入

読んでみると、自転車通勤制度導入のメリットとして、通勤手当や固定経費などの削減、生産性の向上、事業所のイメージアップ、雇用の拡大などの利点があり、従業員にも通勤時間の短縮、身体面や精神面での健康増進などのメリットがあると、各種調査などの根拠を示して解説しています。

導入事業者の従業員一人当たりの通勤費削減額は年間約5.7万円との統計を示したり、自転車通勤により労働生産性が向上することが明らかになったと紹介しています。制度の導入で自転車通勤者が7年間で約8%増えた例とか、大手外資系IT企業の多くが自転車通勤を推奨しているなどの動向についても具体例を挙げています。

自転車通勤の導入で、一番懸念されるのが事故だろうと思いますが、事故死者数はクルマの約3分の1であり、自転車を使うと多くなるわけではないことも明言しています。そのほか導入時に検討すべき事項を整理するなど、企業や団体に、自転車通勤制度の導入を促す内容となっています。

導入に際しては、通勤途中での立ち寄りなどの目的外使用を承認し、可能な限り柔軟な移動が出来るようにすべきと、自転車通勤する側に寄り添った内容を、わざわざ示しています。公共交通機関との乗り継ぎを認めたり、天気などによって交通手段の変更を認めることも重要だとしています。

自転車通勤導入

また、日によって違う交通手段を利用できるようにするため、自転車通勤手当の支給額設定を求めています。従業員が自転車通勤することによって生じる、駐輪場代や自転車保険等の保険料、自転車のメンテナンス費などの、一定の費用負担の必要についても言及しています。

支給額の具体例を示し、事業者が導入しやすくなるよう配慮もしています。そのほか、交通ルール厳守の徹底、事故時の対応、保険加入、駐輪場の確保、労災との関係、更衣室・ロッカー・シャワールームなどにまで言及しており、導入に際しての必要事項や課題を網羅した手引きとなっています。

自転車通勤のメリットについては、このブログでもいろいろ書いてきましたが、それらを積極的に認めているどころか、その根拠となる研究や調査、統計まで揃えています。元は官民の連携協議会が策定したものとは言え、政府の姿勢としても、文句のないところです。

果たして、この手引きによって、どのくらいの事業所が導入するかはわかりません。しかし、これまで自転車通勤なんて論外とか、前例がないなどと頭ごなしに否定してきた企業や団体でも、国土交通省が手引きを出しているのですから、考え直したり、少なくとも検討する余地は出てくるでしょう。

自転車通勤導入

従業員にとって、要望を出しても認めてくれなかった会社に、制度導入を迫る大きな拠り所となります。今まで自転車通勤が出来なかった人たちに、一定の恩恵が及ぶ可能性があります。これが、自転車通勤の拡大に拍車をかけるかどうかは別としても、少なくとも自転車を活用する社会に資することは間違いありません。

もちろん、自転車がもっと活用される社会になるには、安全に通行するためのインフラ整備も欠かせません。しかし、一方で、自転車通勤など、自転車活用のニーズがあってこそ、インフラ整備の必要性が認識されるわけですから、一方が進展してこそ、他方も拡大するという関係と言えるでしょう。

日本では、自転車の走行空間が乏しく、欧米などと比べて自転車インフラが貧弱なのは、長らく自転車の歩道走行という特殊な道路政策が行われてきたせいです。昔は、日本でも自転車は車道走行が義務付けられ、歩道走行など許されないことでした。世界の常識であり、当たり前のことです。

ところが、戦後のモータリゼーションの進行に伴う交通事故死者数の急増という事態を受け、昭和45年(1970年)に例外中の例外として自転車が歩道を通れるようにしたのです。これが始まりです。さらに本格的に歩道を通らせるようにしたのが昭和53年(1978年)の道交法改正です。

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当時、この非常識な政策に対する非難は多く、再三にわたって「これは緊急避難的政策である」との答弁がなされたと記録にあります。道路整備を急ぎ、すぐに本来の状態、すなわち車道走行に戻すはずでした。ところが、政府はそれを怠り、緊急避難を40年以上にわたって続けてきたのです。

人々も、歩道走行が当たり前のようになってしまい、政府や自治体も、歩道上に自転車通行帯を整備するという非常識なことを行ってきました。ようやく、平成23年(2011年)になって、国土交通省や警察庁が、車道走行の原則に戻し、自転車レーンも車道に設置していくと方針を大転換したわけです。

そして令和元年(2019年)になって、今回の手引きが出されたわけで、遅々とした歩みではありますが、政府としても、自転車の活用ということを具体的に示し始めたことになります。ロンドンの事例を見ても、2020年の東京五輪の渋滞対策に、もっと自転車の活用を推進すべきでしたが、その点では多少遅すぎた感もあります。

私は時々、遅くて重いママチャリと、ママチャリを馬鹿にするかのようなことを書いていますが、必ずしもママチャリを嫌っているわけではありません。汎用性は高いですし、価格も安く、足つき性が良い、タイヤが太くて安定する、歩道走行するには向いた、良くも悪くも現状の日本に合った自転車だと思っています。

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問題は、40年以上にわたる歩道走行で、日本人の大多数が自転車と言えばママチャリだと思っていることです。ママチャリは、自転車の一つの種類に過ぎません。遅いママチャリで歩道走行が当たり前だと思っていると、自転車本来のポテンシャルが理解できず、誤った認識を持つことになります。

日本では、多くの人がママチャリで歩道走行するため、自転車は車両ではなく、歩きの延長のような感覚になってしまいました。だから、左側通行もしませんし、一時不停止、安全不確認、並走、逆走、無灯火など、交通ルールが守られない状態になっています。自転車に関しては、まったく混沌とした無秩序状態です。

逆走で歩道から飛び出して来たり、一時停止や安全確認もせずに交差点に侵入するなど、きちんと車道走行している自転車にとっても、大きな脅威です。こうした危険な無秩序状態の元凶が歩道走行であり、それを是正しなければ、安全な通行も、自転車の活用も困難だと思っています。

自転車通勤などをきっかけに、歩道走行では時間がかかり過ぎるので、実際に車道走行するようになれば、自転車の本来のポテンシャルも理解できるはずです。現状の無秩序状態の危険さも認識するでしょうし、インフラ整備の必要性も痛感するようになるでしょう。多くの人の認識が変われば、秩序も確立されていくはずです。

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自転車活用のニーズが高まり、当たり前に車道走行するようになり、インフラの整備が進み、自転車への理解や認識も改まれば、誰にとっても不利益な、今のような無秩序状態も解消されていくに違いありません。少なくとも欧米の都市のような、一定程度の秩序は出来てくるはずです。

当然ながら、私は自転車の活用と言っても、自転車に乗りたくない人まで乗れと言うつもりはありません。ただ、渋滞する都市部では、むしろ速かったり、便利だったりします。公共交通やクルマを補完するものであり、自転車の活用が進めば、社会的にもさまざまなメリットがあります。

自転車が歩行者を死傷させるような事故の多くは歩道上で起きています。車道走行になれば、歩行者も安全になります。歩行者がほとんどいないような場所まで無駄に広い歩道が改善され、車道に自転車の走行空間が確保されれば、自転車の通行は安全になるでしょう。

私は、自転車に安全に、普通に乗りたいだけです。そのために、40年以上前から続く呪縛が解けてほしいと願っています。今回の政府の出した手引きもその一助として、自転車の活用や自転車インフラの充実を促し、人々の自転車に対する認識を変え、せめて欧米並みの秩序が確立することを期待したいものです。




神奈川の逃走男は捕まってよかったですが、市民への通報や緊急配備が遅れたことなど不信感は残りますね。

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