October 31, 2019

自転車の人気名所のつくり方

自転車での観光振興を狙う自治体が増えています。


このブログでもたびたび取り上げていますが、各地の自治体でサイクリング客を誘致しようと、サイクリングロードを整備したり、レンタサイクルを用意したり、ガイドツアーを始めたりなど、さまざまな取り組みが行われています。今まで、自転車に何の関心もなかったのに突然、自転車のまちを名乗る自治体もあります。

実際に、サイクリングを前面に押し出すことで訪日外国人、インバウンドを増やしているところもあります。悪く言えば横並び思考ですが、こうした他の地区の成功を見て、やらない手はない、あるいはトレンドに遅れたくないと考える自治体関係者も多いに違いありません。

Bokrijk,Photo by Bokrijkbart,under the GNU Free License.背景には、インバウンドが、東京・大坂間のいわゆるゴールデンルートだけでなく、日本各地を訪れる例が増えていることもありそうです。国内の観光客にも、自転車なら観光地の渋滞も関係なく効率的に周遊できたり、バスで回るのとは違う体験が出来るとして、人気が出ているからでしょう。

ただ、各地でこぞってサイクリングを打ち出しているため、どこも似たような感じとなり、差別化が難しく埋没しかねない点が、多くの自治体の悩みなのではないでしょうか。しまなみ海道や、淡路島一周、琵琶湖一周といったアピール度の大きな観光資源のあるところは限られています。

最近はSNSなどで拡散し、全く無名の場所にインバウンドが押し寄せたりすることもありますが、それも、アニメの聖地巡礼や、何か独自のものがないと期待出来ません。手つかずの豊かな自然が魅力といっても、裏返せば何もないということになりかねません。豊かな自然の中のサイクリングも、それだけでは訴求力に欠けます。

サイクリングを打ち出すところが、これだけ増えてくると、選んでもらうのも容易ではないでしょう。実際に来てみれば素晴らしい体験が出来る場所でも、まず来てもらえなければ始まりません。特別な景色や立地の良さ、知名度もない地域の場合、なかなかアピールするのは難しいと思います。

さて、そんな地域にとって、もしかしたらヒントになるかも知れない場所があります。ベルギーの東部にあるリンブルフ州の、Bokrijk(ボクレイク、もしくはボクリク、上の写真)という村の郊外です。典型的なベルギーの農村風景の広がる場所ですが、近くに野外博物館があるくらいで、とくに有名な場所ではありません。

実は、リンブルフという州はオランダにも同名の州があって、そちらのほうが、やや有名だと思います。両州は国境を挟んで隣接しているわけですが、いずれにせよ観光地としては、特に有名な地域ではありません。このベルギーのリンブルフ州のボクレイク郊外に、あるサイクリングの名所が出来ました。

Cycling Through Water

Cycling Through Water

Cycling Through Water

Cycling Through Water”、なんと水中のサイクリングです。実際には水中ではありませんが、身体の位置は水中、目線は水面になるという珍しいサイクリングロードです。池を横切る橋なのですが、わざわざ水中に没するような形に作られています。たしかに、こんな風景は他で見たことがありません。

この珍しい“Cycling Through Water”はユニークなサイクリング体験の出来る場所として、アメリカのTIME誌が選ぶ、世界で最も素晴らしい場所トップ100の一つにも選ばれました。ベルギーには、他にも美しい風景がたくさんありますが、ベルギーで選ばれたのはここだけです。

Cycling Through Water

Cycling Through Water

Cycling Through Water

このユニークな水中自転車道は、リンブルフ州の自転車観光を後押しする取り組みの一環で、2016年4月に完成しました。この州、この地域全体にサイクリングルートがあり、その総延長は2千キロにも及びます。この場所は、そのサイクリングルートを接続する自転車専用の道路の一つなのです。

もちろん、この構造が話題になると思わなかったはずはないと思いますが、必ずしも奇をてらったわけではありません。ここは自然保護区なので、あえて水上に橋をかけませんでした。この形状にすることで、横から見ても橋は見えません。せいぜい通過するサイクリング客の頭が見えるだけです。

Cycling Through Water

Cycling Through Water

Cycling Through Water

つまり、普通に橋をかけて、大きな人工の構造物が出来てしまうと、周囲の自然の景観を壊すことになってしまうからなのです。池は、この道路で区切られてしまったわけではなく、道路の下を水中の生物は行き来できます。なるべく景観や自然の生態系に影響を与えない構造なのです。

この自転車道の建設は、周囲の池の自然保護プロジェクトの一環でもあります。これにより池の水質が改善され、両生類などの生息地が大幅に増加したと言います。この部分の長さは212メートル、幅は3メートル、深さは1.6メートルです。運が良ければ、白鳥や他の水鳥を間近に見ることができます。

Cycling Through Water

Cycling Through Water





この水中自転車道は、国内のみならず海外からも多くのサイクリング客をひきつけることになりました。もともと、自然にあふれたところで、地形も平坦でサイクリングロードも整備され、サイクリングにはうってつけの場所ではありますが、この構築物によって有名になり、訪問者が大きく増えました。

ちなみに、同じリンブルフ州で、ボクレイクの北、二十数キロ行った、Pijnven という場所には、林の中、木々の間を走れるサイクリングロードもあります。ただの林の中ではありません。10メートルほどの高さで木々の間を走れます。ラクに上れるように、ループ橋のような傾斜がつけられています。

Cycling through the Trees

Cycling through the Trees

Cycling through the Trees

熱帯雨林のある国などを訪れると、ジャングルの中を直接歩くのではなく、観光客用にキャノピーウォークと呼ばれる、吊り橋のような構造の観光用歩道が用意されていることがあります。それに似た感じで、林間の空中をサイクリング出来る道路です。景観に配慮された配色となっており、こちらも人気の場所です。

Cycling through the Trees

Cycling through the Trees

Cycling through the Trees

リンブルフ州の典型的なベルギーの農村の風景の中をサイクリングするのは、きっと素晴らしい経験だと思います。サイクリングロードが整備され、いわばサイクリングの楽園のようなところと言えるでしょう。しかし、それだけでは単なる田舎に過ぎず、なかなか地元の人以外で走りに来る人はいませんでした。

それが、この水中自転車道が出来たおかげで大きな関心を集め、開業以来、一日平均で800人以上、土日には5千人以上の訪問者のある、人気観光スポットとなっています。景観建築の賞をいくつか受賞するなど、各方面でも話題となり、結果として、この地域の自転車観光を大きな成功に導きました。



もちろん、環境や条件などたくさんの違いがありますから、日本で同じような自転車道をつくったからと言って、そのまま成功するとは言いません。ただ、片田舎の農村の郊外の、名もない池の橋でも、自転車道として形状を少し工夫しただけで、世界に知られるようになることがあるわけです。

既存のサイクリングロードを接続して走りやすくし、周囲の自然の景観との調和を大切にし、走りに来たくなる景観が少し加わっただけです。特に知られていなかった場所が、景観デザインの工夫一つで世界的に有名になったこの事例は、集客に悩む多くの自治体を勇気づけるのではないでしょうか。




◇ ◇ ◇

私も何度か行ったことがありますが、沖縄のシンボル首里城の火災消失のニュースには驚きました。残念です。

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