December 18, 2019

人命を守るために有効な政策

今年度の補正予算案が閣議決定されました。


経済の下振れリスクへの対応や、景気活性策などと共に盛り込まれたのは、台風19号など一連の災害からの復旧・復興です。広範囲に甚大な被害となりましたし、治水対策など、いわゆる国土強靭化に向けたインフラ整備は、国民の生命に関わる課題です。

高齢ドライバーによる交通事故を防ぐため、自動ブレーキを備えたクルマの購入に対する補助なども盛り込まれています。国民の生命を守るという意味では、交通安全も重要な課題でしょう。個人的には、自転車レーンの整備も交通安全対策として有効な事業だと思います。

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災害と違って、一度に多くの人命が失われるわけではありませんが、交通事故は年間を通して多くの死傷者を出しています。国民の生命を守るという観点からすれば、国土強靭化に劣らず重要な課題であり、優先度の高い事業なのは間違いないでしょう。

ただ、交通安全と言っても、自転車レーンの整備が人命を守る重要な事業だとは、あまり意識されていないのではないでしょうか。政治家や官僚も、自転車で走りやすくなれば利用者に喜ばれるだろうとは考えても、国民の生命を守ることに、それほど効果が高いとは思っていない人が多いような気がします。

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さて、このたびカナダで自転車レーンの効果を立証する研究が発表されました。一般的な統計データはありますが、研究として自転車レーンの効果を詳しく調べたものは、世界でも多くありません。詳しい内容は、リンク先を参照していただくとして、およそ次のようなことが明らかになりました。

簡単に要約すると、調査されたトロント地域では、自転車レーンが設置されると、サイクリストを2倍以上に増やす効果があったこと、整備後はサイクリストのクルマとの衝突、交通事故リスクが有意に減ること、そして、レーンを設置した道路周辺を含めて、サイクリストの事故の減少が見られることです。

当たり前と言えば当たり前の結果ですが、詳細に研究された検証です。自転車レーンが整備され、現地では事故の件数自体は増えたと報告されていたのですが、サイクリストが増え、自転車による交通量が増えたことが背景にあり、この増加を考慮すると、事故率では38%減少したことが明らかになりました。

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そして注目すべきなのは、自転車レーンを設置した道路だけではなく、設置されていない周囲の道路でも事故が減少したことです。レーンのある道路から、151〜550メートルの距離にある道路でも、大幅に事故率が減少しました。1本のレーンの効果は、設置された道路だけにとどまらないという結果です。

研究者はこれを「安全ハロー効果」と名付けています。ハローは、“hello”ではなく、“halo”です。“halo”は、後光とか、月などのカサのことです。つまりお釈迦様の後光のように、周辺の道路まで照らして安全にしているように見えるという意味です。

理由としては、安全な自転車レーンが設置されると、平行する道路から交通量を集めることが考えられます。多少遠回りでも、安全で走りやすい道路を通りたい人は多いでしょう。結果として、その近くの道路の事故率も減少し、エリア全体の事故率が下がるものと思われます。

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もちろん、環境や条件が変わってきますから、どこでもこの結果が当てはまるとは限りません。しかし、もし同じような効果が得られるのであれば、必ずしも全ての道路に自転車レーンを設置する必要はないことになります。一定の幅のエリアに1本あれば、もれなく整備しなくても高い安全効果が得られる可能性があります。

広くて設置しやすい道路に設置すればいいとなれば、レーン整備がしやすくなるでしょう。コストも減ります。いわば網目の大きい自転車レーン網でも、エリア全体の安全効果が得られる可能性があるわけです。もれなく、細かく網の目のように整備しなくても済むとなれば、低予算で整備が可能になります。

考えられる理由は、ほかにもあります。自転車レーンが出来たことにより、自転車に乗る人が増えるわけですが、そのこと自体が安全性の向上に貢献している可能性です。街で自転車に乗る人が増えれば、事故も比例して増えそうですが、そうではなく、減らす効果がある可能性です。

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これには根拠となる研究があります。アメリカ・ニューヨーク運輸局による調査研究です。これは、2017年に完了するまで、20年間も続けて来られた研究です。この研究も、ネットから内容を読むことが出来ますが、おおまかに言うと、次のようなことです。

ニューヨークでもサイクリスト人口が増えているわけですが、より多くのサイクリストが路上にいるほうが、サイクリストの死傷者が減るという相関関係が見られると言います。サイクリストが増えると、サイクリスト全体が安全になるという結果が出ているのです。

似た結論は、イギリスの研究からも出ています。おそらく、街で自転車に乗る人が増え、交通量が増えれば、クルマのドライバーも、より注意せざるを得ない、注意するようになるということなのでしょう。理由はともかく、結果として、おおよそ自転車の量が2倍になると事故率は1/3低くなると言います。

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自転車レーンは、自転車に乗る人を増やす効果があり、そのことでも安全性を向上させるわけです。この調査研究をもとに、ニューヨーク運輸局は、さらに一層の自転車レーンの整備や、物理的に保護されたレーンへの改良を進めること、サイクリストを増やす事業を推進していくことを決定しています。

これらの研究を見ると、自転車レーンの安全効果、国民の人命を守る効果は、予想以上に高いのではないかと思えてきます。交通安全に加え、過去に取り上げましたが、自転車に乗る人が増えれば、市民の健康増進に寄与し、医療費の低減、介護福祉費用の削減につながることも指摘されています。

自転車に乗ることで元気な高齢者が増え、長く働く人が増えるならば、人手不足の問題にも恩恵が及ぶでしょう。年金会計の改善にも寄与することになります。自転車レーンで事故が減った上に、さまざまな副次的な効果が期待出来る点を高く評価している都市は世界的に増えています。

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自転車の活用は、クルマの利用を減らす点で温暖化対策でもあります。直接クルマを使わないだけでなく、渋滞を減らすことも温暖化ガスの削減につながります。渋滞は、人々が無駄な時間を費やさざるを得ないことで莫大な経済損失を生んでいると言います。この損失も減らすことになります。

日本の場合、自転車が歩道を走行することで、歩行者との事故が起きています。これを減らす効果も見込めるはずです。歩道上に色を塗った通行帯は機能していません。世界では当たり前の、車道への自転車レーン整備を進める効果は高いはずです。もろもろを含めて、自転車レーンの費用対効果は高いと思われます。

日本は道路が狭く、自転車レーンの整備など現実的でないと言われてきました。しかし、これらの研究をみれば、日本の都市でも自転車レーン網の整備は十分可能ですし、すべきでしょう。災害と違って日常的なため、鈍感になりがちですが、もっと交通事故死者を減らすためにも、ぜひ予算化してほしいと思います。




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騒音との苦情が増えているため、除夜の鐘を大みそかの昼間に打つ寺が増えているそうです。一晩くらい...。

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