June 30, 2020

都市でのクルマ優先は非効率

道路は都市の重要なインフラです。


しかし近年、都市の道路の機能不全が顕著になっています。現代は、世界的に都市化、すなわち都市への人口集中が進む一方です。テレワークの広がりで、地方へ移住する人が増えると言う人もいますが、まだまだそれはわずかな動きに過ぎず、全体として都市圏への人口集中は止まりません。

それに伴い、道路は機能不全となっています。つまり渋滞です。世界的に都市での酷い渋滞が慢性化しており、クルマでの移動は非効率な状態が恒常化しています。人口の集中とクルマの増加で、渋滞の解消は困難です。そのため、欧米を中心に都市で自家用のクルマを使うのはやめようという考え方が一般的になってきました。

Photo by B137,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.Photo by Anna Frodesiak,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

今般のコロナ禍が、その動きを鮮明にさせています。このブログでも再三取り上げましたが、人々が感染リスクのある公共交通機関を敬遠して、移動手段として自転車を使う傾向が顕著です。欧米では、自治体が即席の自転車レーンを大々的に設置し、またそれを恒久化しようという動きになっています。

つまり、今回のロックダウンを契機に、自転車レーンを設置したぶんクルマ用の車線を減らし、都市へのクルマの流入を抑制する流れになっています。突然、クルマを忌避するようになったわけではなく、以前から、もはやクルマによる都市での移動は非効率で、渋滞の解消は困難とのコンセンサスがあるわけです。

Photo by NOMAD,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.Photo by Australian cowboy,under the GNU Free License.

渋滞によって、ヨーロッパの都市では、ディーゼル車が多いこともあって排気ガスや粒子状物質による大気汚染による健康被害が深刻となっています。加えて昨今の環境への配慮から、温暖化ガスの削減ということもあります。都市部でクルマを使うことには悪影響しかないとの考え方が一般的になりつつあります。

EVに置き換わっていけば大気汚染は解消に向かうかも知れませんが、渋滞は変わりません。クルマが自動運転になって、AIが最適の経路を選んだとしても、物理的に都市へ集中する交通量はどうしようもありません。交通の集中による渋滞は、自動運転になっても解消は見込めません。

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クルマの利用者の中には、都市からクルマを排除する傾向に不満を持つ人もいますが、渋滞で非効率という点には反論できないでしょう。なかには、せっかくクルマ用に舗装された立派な道路があるのに、使わないのは宝の持ち腐れではないか、という人もいますが、これもクルマ優先の固定観念でしかありません。

そもそも、道路が舗装されたのは、クルマのためではありませんでした。探すと、このことを指摘するサイトがたくさん見つかりますが、歴史的には、道路が舗装されたのは自転車、サイクリストのためでした。道路はクルマのために舗装され、後から自転車が侵入してきたというのは正しくありません。

1890年代から1900年代初頭にかけて、主にアメリカとヨーロッパの都市が道路を舗装するようになったのは、サイクリストが提唱したためでした。当時のサイクリングは、裕福な人たちのレジャーでしたが、実業家や有力者が少なくありませんでした。

Roads were not built for carsRoads were not built for cars

例えば当時のデトロイトで有名だったサイクリストには、ヘンリー・フォードもいました。そう、後の自動車王と呼ばれた人で、フォードモーターの創業者です。当時のサイクリストたちが、“Good Roads movement”、いい道路運動を始めたことが大きなムーブメントとなり、舗装道路が生まれたと言います。

今のような一般大衆としてのサイクリストによる運動とは趣が異なります。ロビー活動を通して、政治にも影響を与えられるような実業家や有力者による運動でした。後にクルマメーカーを興すような資本家たちも含まれていたわけですが、あくまで当時は、自転車のために舗装道路が必要だったのです。

Roads were not built for cars Henry Ford and his bicycle, 1893 ↓
Roads Were Not Built For Cars

その前の1840年代、鉄道がアメリカやイギリスで敷設され始めた時代、道路は荒廃していました。雨が降るとぬかるみになるだけでなく、乾燥して土埃が舞う、そのホコリも問題でした。つまり乾燥した馬の糞が大量に含まれており、人々の健康を害していると考えられていました。

人々の健康のためにも良い道路、すなわち舗装された道路が必要だったわけです。ですから、まだクルマが普及していなかった頃、自転車や歩行者のために道路が舗装されたのです。イギリスでは、アストンマーティン社の創始者として知られる、ライオネル・マーティンもサイクリストとして政府に働きかけていました。

Roads were not built for carsRoads were not built for cars

ヨーロッパの一部には中世からの古い石畳の道路はありましたが、荒れた土の道路が多く、まだ舗装されていませんでした。1830年代や1860年代には、蒸気で駆動する車両がつくられましたが、車輪に向いた舗装道路でなかったことが、普及しなかった一因と言われています。

逆に、サイクリストの運動によって舗装道路が出来ていたからこそ、フォードをはじめとする、現代につながるクルマが爆発的に売れるようになったのは否定できないでしょう。ちなみに、ヘンリー・フォードはクルマ会社を2度つくって失敗し、3度目の会社が今のフォードモーターにつながっています。

Roads were not built for carsRoads were not built for cars

もちろん、道路の舗装はサイクリストによるのだから、道路は自転車のものだなどと言うつもりはありません。クルマによるモータリゼーションのおかげで、私たちの暮らしが便利で豊かになり、都市が発展したのも間違いありません。ただ、都市の舗装道路が、元々はクルマのためではなかったのも確かなのです。

クルマの圧倒的な機動力は経済的にも大きな恩恵をもたらしました。でも、あまりに都市人口が増え、台数が増えたために非効率的になっています。都市部ではそろそろ抑制して、道路を歩行者や自転車のために使おうというのは、歴史的な流れからも、おかしい話ではないことになります。



日本では、まだクルマ優先、クルマが中心と考える人が大多数です。しかし、欧米や一部の新興国でも、渋滞の非効率、大気汚染、環境負荷、交通事故などさまざまな点で、もはや都市部ではクルマを無制限に使うのは無理だし、賢明とは言えないという考え方にシフトしていることは、知っておいていいと思います。








◇ ◇ ◇

最近は感染防止のため換気をしましょうとか、家庭用エアコンでは換気できないとか、盛んに喧伝されています。しかし、感染者もウイルスもいないはずの一般家庭で、冷気を逃がしてまで換気をする必要があるのでしょうか。


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この記事へのコメント
ここまで一方的な議論は、自転車乗りですら反感を覚えます。もう少し現実的に考えられませんか?そもそも日本では鉄道がある訳ですし。
Posted by 774 at July 04, 2020 09:59
774さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私の文章が拙いせいで、真意が伝わらなかったかも知れませんが、『一方的な議論』などしているつもりはありません。クルマを街から排除せよ、などと非現実的な主張をするつもりも毛頭ありません。

海外では、都市部へのクルマの流入を抑制しようという考え方の都市が増えているのは事実ですし、それが、今般のコロナ禍で、車道をつぶして即席の自転車レーンを設置し、クルマの抑制につなげようという動きの広がりにもつながっています。
日本ではあまり意識されていませんが、欧米や新興国でも、こうした動きが顕著に見られ、メディアでも多数取り上げられています。

また、『そもそも道路が舗装されるようになったのは自転車用だったというのが歴史的な事実なのに、今はあまり知られていない。』ことを指摘する専門家やジャーナリスト、サイトが最近多くなっており、探せば多数みつかります。

本文でも書いているように、私がクルマがダメと主張しているわけではありません。現代文明がクルマの恩恵を受けているのも間違いありません。ただ、都市部では抑制しようと言う人が増えているという事実を述べているだけです。

海外でのクルマ抑制の動きを伝えているだけで、その是非を主張しているわけではないことに、ご留意いただきたいと思います。
Posted by cycleroad at July 04, 2020 10:22
cycleroadさん,こんばんは.

以前にも申し上げたかと思いますが,日本では自転車は苦痛で非能率な時代遅れの役立たずという貧困な固定観念に加え,一時期,競輪にまつわるいろいろな事件が大きく社会問題化した影響もあって,自転車には差別的な傾向が強いように思います.

道路交通法では,標識で指定された歩道を自転車で通行する時は最も車道寄りを,歩行者に気遣って徐行して通行しなければならないとされております.

それならなぜ,その部分を初めから自転車専用の車道の一部分にしなかったのか.これはやはり自転車が「弱者のくせに」という差別的な設計思想の問題だと思うものです.
Posted by マイロネフ at July 05, 2020 21:21
マイロネフさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
競輪の影響や自転車に差別的かは別として、ママチャリだとわからない自転車の本来のポテンシャルが理解されておらず、言ってみれば、見くびっている人が多いのは事実でしょうね。
日本では、自転車に歩道を走らせようという考え方になってしまったため、歩道上を走らせることに意味があるのでしょう。
弱者を差別する設計思想があるのかはよくわかりませんが、歩道上では自転車が強者なのに、歩行者の間を縫うように、スピードを出して傍若無人に走っていることが問題だと思います。
Posted by cycleroad at July 06, 2020 12:16
 
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