August 11, 2020

携帯電話があれば可能になる

携帯電話は急速に普及しました。


日本や先進国だけの話ではありません。アフリカの国々でも同じです。アフリカ総人口に対する加入者数は8割を超えています。もちろん国によっても差がありますが、サブサハラの5割強の国でも平均年齢が若い、つまり子どもが多いので、大人の大多数が携帯電話を使っていると見ていいでしょう。

いわゆるリープフロッグ現象です。固定電話はインフラ整備に膨大な投資を必要とするため、アフリカでは普及が進みませんでした。しかし、携帯電話は基地局さえ設置すれば通信できるので、急速な普及が可能となりました。固定電話の普及を飛び越して、携帯電話の普及が進んだわけです。

スマートフォンは値段が高いこともありますが、特に農村部などでは充電環境が良くないため、電力消費の大きいスマホの割合はまだ低く、フィーチャーフォンが多くを占めます。それでも、明日の食べ物にも困るような貧困層も多い中で、これだけ普及が進んでいることに驚きます。

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フィーチャーフォンが多いため、スマホでネット上のさまざまな情報を取得するといった使い方ではありません。多いのは通話、それも比較的近距離の通話だと言います。近くと行っても、先進国の距離感とは違いますが、集落内も含め、近くに住む友人や親せきなどと通話する割合が高いそうです。

サブサハラの国の農村部では、交通手段が限られます。先進国に住む人のように、簡単に出かけて行って友達と会い、おしゃべりをすることは出来ません。これまで固定電話もなく、会いに行くのも簡単ではない中で、便利になったのは間違いないでしょう。

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インターネットから取得する情報でなく、知り合いとのおしゃべりで知る雑多な情報、噂話なども含めた伝聞も重要です。それによって、例えば牧畜民であったら、牧草の生育情報とか、家畜泥棒が発生したとか、牛の乳の買取値段といった口コミ情報が容易に取得できるようになったわけです。

しかし、携帯電話が急速に普及した理由は、それだけではありません。実は携帯電話を使った送金が重要なのです。アフリカでは、フィーチャーフォンのショートメール機能を使った、小口資金の送金サービスが急速に普及しました。これが、携帯電話を使う大きな理由です。

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アフリカに住む多くの人は、クレジットカードどころか銀行口座すら持っていません。銀行など金融機関も近くにありませんから、決済手段が無いのです。もちろん現金で何かを買うことは出来ますが、それ以外の決済手段を持たないことから、受けられないサービスが多いいわけです。

携帯電話による送金・決済は、貧困から抜け出すための手段としても大いに役立ちます。中国製の安い端末や、格安の通信会社のおかげで手が届くという背景もありますが、この送金・決済機能が、急速に携帯電話が普及した大きな要因と言えるでしょう。

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さて、アフリカ南部のザンビアに、ONYX Connect という会社があります。この会社は、ザンビアの農家の女性をサポートする事業を行っています。携帯電話の、USSD による課金機能を利用して、女性たちに従量課金制で自転車を提供するというサービスを展開しています。

ザンビアでは、牛などの家畜を飼い、主な現金収入源を酪農に依存している農家が少なくありません。その多くは農村地帯の小規模農家であり、貧しい生活を強いられています。こうした農家の女性に自転車という交通手段を提供することで、貧困からの脱出に手を貸したいと考えているのです。

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ザンビアの農村人口の8割以上は、舗装された道路の近くには住んでいません。ひどい悪路でも重い荷物を運べるような頑丈な自転車を、農家が牛乳を運ぶ手段として提供しているのです。農家が、この自転車という輸送手段を得ることで、画期的な結果がもたらされます。

例えば、農家の、Anick Lubinda さんは、これまで絞った牛の乳を出荷するのに、一番近い集配所まで、炎天下を2時間近く歩く必要がありました。しばしば牛乳は傷んで酸っぱくなってしまい、非常に安い値段でしか買い取ってもらえませんでした。

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しかし、自転車を得たことで、この時間が40分に短縮され、牛乳を新鮮なまま出荷できるようになりました。運べる量も増えました。おかげで、収入が大きく増えたのです。その収入で、食料や子どもの学用品も買えるようになりました。さらに、自転車が役立つのは牛乳の出荷だけではありません。

牛乳の輸送に使っていない時には、子どもが学校へ行くのに使えます。家族の具合が悪くなったとき、病院へ連れて行けるようになったことも大きな喜びです。これまで行けなかった地域の集まりなどにも行くことが出来るようになりました。もちろん、食料の買い出しなどにも使えます。

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実は昨年、Lubinda さんの集落を含む地域では、ひどい干ばつに襲われ、深刻な食料不足に陥りました。食料を手に入れるため、自転車で65キロも移動しなければなりませんでした。いいタイミングで自転車が使えるようになったおかげで食料が手に入りましたが、無かったら私たちは皆死んでいただろうと言います。

水道がないので、水の運搬も重労働でしたが、ラクになりました。これまで、学校へ行くのに1時間半かかっていた子どもが、30分で行けるようになりました。こうした時間の短縮で、勉強する時間も生まれ、子供たちの将来が大きく開けたと感じています。地域には、自転車を供給する店や修理などの雇用も生まれました。

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この、ONYX Connect は、いわゆる社会的企業(Social Enterprise)です。貧困というザンビアの社会問題の解決を目的として、収益事業に取り組む会社です。貧しい農家でも十分に支払え、モトがとれるリーズナブルな金額ですが、タダではありません。

このブログでもいくつか取り上げましたが、アフリカの貧困層に自転車を無料でプレゼントするような慈善事業をする団体もあります。しかし、このONYX Connect の自転車は、あくまで従量課金制です。貧しい農家なのだから利用料をとらずに、無料進呈してもいいのではないかという気もします。

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しかし、無料がいいとは限りません。自転車を一度プレゼントされてしまえば、毎月利用料を払わなくてすみますが、また次も手に入るとは限りません。故障したり、盗まれてしまえば、途端に逆戻りです。消耗品も手に入りにくいでしょうし、修理ができるとも限りません。

しかし、このプログラムならば、自転車は借りる形なので、そうした心配はありません。メンテナンスや修理サービスも含まれています。実際に修理サービスの拠点が展開されています。盗難や事故に対する保険に入ることも出来ます。このほうが、持続可能で安心な形態と言えるでしょう。

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事業としても、ボランティアや寄付に頼るわけではないので、安定継続してサービスが提供できます。社会的企業なので利益追求するわけではないものの、相応の利用料を徴収する必要があります。そして、その徴収の基盤となっているのが、携帯電話を使った課金なのです。

3ヶ月以上で契約する月額制ですが、料金は農家の収入から天引きされる形なので、お金がなくても始められます。いろいろと柔軟なオプションも用意され、支払えなくなるようなリスクを回避するよう考えられています。収益事業ではありますが、低所得の農家を助ける仕組みになっているのです。

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この、ONYX Connect の“CYCLES &CELLPHONES”事業は、すでに酪農家を中心に300台以上の自転車を提供していますが、まだ始まったばかりです。他の産物を栽培する農家も含めて広げていき、2030年までに100万台を超える自転車を提供するのが目標です。

より虐げられている女性の地位向上のため、女性を優先しているのも特徴です。男性も申し込めますが、女性が優先されます。農家の女性を応援する事業でもあるのです。ちなみに、電気が通っていない場所も多いため、携帯電話用にソーラー発電式の充電グッズなども貸してくれます。



アフリカでも携帯電話が普及しました。しかし、必ずしもそれだけで十分とは限りません。アフリカの貧困層の移動や輸送、通勤、通学といった問題を、現実的なコストで解決するのは自転車です。アフリカでは、まだまだ自転車の普及が十分とは言えないようです。




◇ ◇ ◇

多くの祭りなどが中止になる中、甲子園で高校野球の交流戦が始まり、少し日本の夏という感じがしますね。

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この記事へのコメント
銀行口座が無くて、携帯電話料金はどうやって払っているのだろう。
Posted by 無名 at August 15, 2020 15:37
無名さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
アフリカだけではなく、世界には銀行口座を持てない人、持っていない人が17億人もいると言われています。決して珍しいことではありません。

アフリカで決済に使われる携帯電話は、国によって仕組みは違うようですが、基本的にプリペイド、つまり前払いが多いようです。そこから電話料金だけでなく決済や送金する金額が引き落とされます。
携帯電話やSIMカードを販売したり、充電やチャージをしてくれる店もあります。農村部では、およそ日本ではありえないような粗末な小屋で、とても販売店には見えなかったりしますが..。

前払いで入金した金額以内なら送金や決済が出来るわけです。一方で、売り上げなどを振り込んでもらえます。収入が支出を上回るならば、わざわざチャージしに行く必要もありません。
つまり、携帯電話そのものを銀行口座のように使うわけです。
Posted by cycleroad at August 17, 2020 20:25
 
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