August 17, 2020

2百年間の妥協を終わらせる

自転車にはサイズがあります。


もちろん、シティサイクルや折り畳み自転車などの中にはワンサイズのものもありますし、男性用と女性用の2サイズのものもあるでしょう。あまりサイズを気にしない人が乗るタイプの自転車、あるいは問題にならないタイプの自転車がある一方で、サイズが重要となるロードバイクなどのスポーツタイプの自転車があります。

サイクリストには常識ですが、入門者も訪問されるので書いておきますと、ロードバイクなどの場合、自分の体格に合ったサイズを選び、必要に応じてパーツを交換するなどして、なるべく身体にフィットするように調整して買います。それだけ自分の身体にフィットしていることが重要だからです。

最初は違いがわからないかも知れませんが、自分が一番自然で効率的なポジションをとれるサイズのほうが、より長い距離を速く、ラクに走れて疲れも少なくなります。同じモデルであっても、自分の身体にフィットしたサイズのものと、そうでないものとを乗り比べれば、その違いに納得するでしょう。

少しのサイズの違いで、ヒザや腰などの故障につながることもあります。サドル高などで調節できる部分もありますが、フレームで決まってしまう長さや比率など、動かせない部分もあります。その辺の不満や欲求から、自分だけのサイズを求めて、オーダーメイドのフレームを注文する人もあるわけです。

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自転車のサイズに、それほどこだわる必要があるのかと思う人もいるでしょう。しかし、例えばクルマの運転席のシートの前後や角度を調整して、疲れにくくて操作しやすい姿勢に調整するのとは、わけがちがいます。乗車姿勢の調整と違って、自転車の場合、クルマで言えば全体の設計が変わるくらいの意味があります。

自転車のパワーユニットは人間の身体です。その動力を伝えるアシの長さやヒザ下との比率、稼働角度などは、一人ひとり違います。身長や手の長さによってもポジションが変わり、出せる脚力や持久力も変わってきます。体重や体格も違うので、身体の重心も変わってくるでしょう。

クルマなら、千差万別のパーツを全て同じボディに無理やり詰め込むようなものです。本来は最適な設計によるサイズであるべきなのに、全くサイズのあわないパーツを詰め込めば、無駄や無理が出るというよりナンセンスでしょう。バランスも燃費も悪く、スピードも出ないばかりか、危険なものになりかねません。

多少極端な例えですが、クルマと違って、自転車は乗る人のサイズとフィットして、はじめて効率的な乗り物となります。つまり身体も自転車の一部と考えるべきなのです。プロのレーサーでなくても、自分の身体にフィットしたバイクが欲しくなるのは当然で、むしろ自然なことと言えるでしょう。

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問題はコストです。本来は全てオーダーメイドが理想ですが、そういうわけにもいきません。また、素材によっては、溶接したりするのが難しく、職人が手作りするのに向かないものもあります。カーボンの一体成型などとなれば、工場で大型機械でつくる必要があります。

ところが、その常識を打ち破る自転車が登場しました。“Superstrata”という自転車はユニフレーム、一体成型のカーボンファイバー製ですが、なんと3Dプリンタで製造すると言うのです。3Dプリンタで一台ずつ製造するので、一人ひとりにあったサイズのカーボン・フレームをつくることが出来ます。

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3Dプリンタと言うと、粉状や溶液状の素材を吹き付けたり、流し込んだりして、光をあてて成型するイメージがあります。フィギュアやプラスチック部品ならいいですが、自転車のフレームには向きませんでした。サイズはいいとしても、素材によって強度が足りなかったり、重くなりすぎてしまうからです。

それをカーボンファイバーという素材で実現したところが画期的と言えるでしょう。シリコンバレーのベンチャー企業、AREVO, Inc.の技術です。このベンチャーは、デジタル化とオートメーション化による複合材製造で革新的なソリューションを実現したとしています。

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詳しい技術的な部分はよくわかりませんが、工場での大型機械によるカーボンファイバーの製造方法とは違い、カーボンファイバーの繊維が射出されて成型され、レーザーで熱せられて固められるということのようです。これによって3Dプリンタスタイルでの製造が可能になりました。

カーボンファイバーですから、強い強度と抜群の軽量性という特徴は変わりません。そして、一体成型のユニボディですから、継ぎ目や部品の連結部もありません。さらに、3Dプリンタによる、これまでにない成型方法のため、従来の工場製造による製品を上回る強度を実現していると言います。

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カーボンは強くて軽いですが、衝撃、特に繊維に対して横方向の衝撃に弱いという性質がありました。しかし、3Dプリンタで射出してつくるため、カーボン繊維の向きを自由に配置することが出来、これまでにない強度と耐衝撃性を実現したと言います。フレームの最大強度はスチールとの重量比で61倍、チタンの15倍です。

熱可塑性炭素繊維複合材を使用して構築され、これまでにない耐衝撃性があるため、市場に出ているほとんどのカーボンフレームよりも頑丈です。一方、フレームの重量は、わずか1.3キログラム未満という軽さです。これで、一人ひとりのオーダーに応じてサイズも自由というのですから、画期的と言わざるを得ません。



問題は価格です。先月、クラウドファンディングサイトで資金調達をかねて予約販売が開始されましたが、その価格は、なんと1299ドルからと格安です。これは先行販売中の価格で、正式販売後の価格は2799ドルになるようですが、それでもカーボンのオーダーメイドと考えれば、格安もいいところでしょう。

耐衝撃性が高いのでオフロードも大丈夫です。スポーツバイクタイプ以外に電動アシスト仕様もあり、こちらは1799ドルから、通常価格は3999ドルからです。このスペックでこの値段、初日に目標金額をはるかに超えて1億円あまりに到達、あと27日を残して、4億7千万円を超えているのも無理はありません。

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クラウドファンディングサイトでの説明には、自転車が発明されて以来228年間制約を受け続けてきた、強度と重量、汎用性と熟練度、品質と価格というトレードオフの関係を終わらせるとあります。かなりの自信ですが、たしかに画期的な製法、仕様、価格、しかもオーダーメイド、むべなるかな、です。

カーボンは、強度があって軽量、しかも振動吸収性に優れ、疲れにくいという優れた素材ですが、普通の金属フレームと比べて割高です。これがオーダーメイド、しかもリーズナブルな価格で手に入りやすくなるとなれば、多くのサイクリストにとって福音となるのではないでしょうか。

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今のところ、ベンチャーが世に問うという段階ですから、今後どうなるかはわかりません。ただ、こうした製法が広がっていくならば、自分に合ったサイズの自転車に乗りやすくなるでしょう。冒頭に述べたように、自転車にとってサイズは重要です。そのことの恩恵も広がる可能性があります。

もちろん、一方で、サイズなど気にしなくても乗れる、気にせず乗る人も多いという自由度の高さも、自転車の魅力です。価格にしても、自転車が1000ドルなんて信じられない人もいれば、1万ドルの自転車に乗る人も珍しくありません。今後も、製法も含め、自転車の多様性は広がっていくのかも知れません。




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多くの人は暑くても律儀にマスクをしていますが熱中症で死亡もありえます。勇気を持って外す時は外すですね。

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